「ほうほう…旅行ですか…準備万端ですね、アンタ」
「あはは…何があるかわかんないっすから‥今の時代」
俺たちは今、街の北門にいた。
この街は東西南北それぞれに大きな門があり、そこで街への出入りを厳重に管理されているのだが…少々きつすぎると悪い意味で評判だったりもする。
それもこれも、過去に違法的な薬物の取引がこの街であったとか…それから厳しく取り締まり、様々な書類を記入する必要が出始めた。
旅をするには許可証を発行する必要があるのだが、この許可証の発行には何ヶ月と時間がかかってしまう…もちろんだがそんなに長くは待ってられない。
今すぐ出発するために、俺だけまずは<旅行>という名目で街から出る必要があった。
「まあ‥そうだねぇ…君の住んでる家主さんからの連絡でも確認してるし…パスポートは?」
「あ、ハイ持ってます!」
ポケットから赤い手のひらサイズの手帳のようなパスポートをサッと取り出して見せる。
それを見て門番は確認し、手元にあった出入管理用紙を俺の方に荒々しく渡してサインを求めた。
付属していた黒いペンで、俺は自分の名前を丁寧に記入してまた門番に渡す。
「じゃあきみが通るのを許可するけど、問題は起こさないように」
「はい!どうも、ありがとうございます!」
なるべく低姿勢で、ササッと門を通りやり過ごす。
門を抜けてトンネルのような中をしばらく歩いてると…やがて光が見えてきた。
ほどなくしてからトンネルを抜けた、その先には街の中にはあまり見かけない自然がたくさんある。
「おぉ…緑だ」
生い茂った木々、人々の足や車のタイヤで踏み固められた土の道が街から出てきた俺を歓迎する
鼻の先についた自然の中にある独特の葉の香りが古い何かの記憶を呼び起こし、風に乗ってきた2,3枚の葉が俺の目の前で更なる上昇気流にさらわれて空に舞い上がっていった。
「…と、ファリニスを待たなきゃな」
抜けたトンネルの脇にあるベンチに腰とかばんを下ろして、次に出てくるファリニスを待つことにする。
ファリニスは普通に旅の許可証を持っており、この街に来た時もその許可証で入ってきたので時間もそんなにかからないはずだ。
やがて、カツンカツンと硬い足音が自然の音に混じって聞こえ始める…。
「お待たせしました、セグレトさん」
ベンチに座った俺の目の前にファリニスが現れた。
あたりを見渡しているうちに意外と時間が経ったなと、思いながら重たいカバンを背負って立ち上がる。
「いや、そんなに待ってないよ…というか、さっき座ったばかりに思えた」
「フフ…時間結構取られたはずですよ、ここの自然見てぼーっとしちゃってましたか?」
否定できないな、とはにかんで笑って見せる。
時計をいちいち確認してたわけじゃないから何とも言えないけど、それなりにぼーっとしてた気がするし
「それよりも、もう出発しようか?」
「そうですね、日が暮れる前にルメタルシティまで行きたいので」
そう言いながら、ファリニスは以前から持っていたカバンの中からすこし古くなった地図を取り出す。
開いてみると赤いペンでいくつかのマークがされており、見た目と相まってだいぶ使い古されているのがわかる、そして地図の中央辺りに<ルメタルシティ>と小さめの字で書かれていた。
「出発を急ぐほどではないんですが、夜道も危険ですから」
「たしかにな…なら、善は急げだ」
目の前に続いてる道の向こうを見て、まだルメタルシティは遠いことを確認する。
重たいカバンを背負いながら俺たちふたりは、急がず焦らずのゆったりとしたペースでるメタルシティまでの道のりを進むことにした。
10分後…
20分後…
30分後…
「まだか…」
「街の外壁も見えませんね…」
時たまに看板が立っており、そこにルメタルシティまでの行き方が書いてあるが変わらずに道なりまっすぐなため<ルメタルシティまではこの道まっすぐ>がテンプレのごとく、毎回おんなじ字体で書いてある。
「ふぅ…」
気がつくとファリニスの呼吸が荒くなっているのが聞こえる、ここまで30分間休憩なしで重たい荷物を背負って歩いてきたんだし、疲れてくるのも仕方ないだろうな…かくゆう俺もかなり肩や腰辺りに疲れを感じる。
「少し休憩しようか?」
「あ、いえ!だいじょうぶですよ、このまま行きましょう!」
そう言ってファリニスは元気に振舞うが、疲れているのは明白だ
ここは…
「あいたたたっ!」
大声を出してしゃがみこんでみせる
案の定、慌てふためいた様子でファリニスが心配そうな顔で覗き込む。
「えっ、えっ!?どど、どうしました!?」
「えーっとね、足くじいた!うん、超痛い!ごめんファリニス、休ませて!」
一瞬、ん?と疑問に満ちた表情を見せたあとにファリニスは俺の足を見てから…ハッとしてちょっと照れたような顔に変わって、こほんと軽い咳払いをしてから 仕方ないですね
と近くの座れるような場所まで移動していった。
「…ありがとう」
「ぷはぁ…疲れた時のお茶は美味しいなぁ…」
道端の脇にブルーシートを敷いたあとに、ファリニス自前の水筒に入れてきたお茶を一気に飲んで喉の渇きを潤していた。
案外この道を歩く人はおらず、業者関係のトラックや家族連れの自家用車が通り過ぎていく…俺たちみたいに徒歩で旅をする人も、いないようだ
「空腹や喉の渇きは、最高の調味料といいますからね~…あ、お菓子食べますか?」
「おっ、いただくよ!」
ファリニスの持っていた方のカバンから、俺の買った覚えのないファミリーパックのお菓子が出てきた。
大袋のチョコレート…か
「そういえば、チョコレートとかって遭難した時にいいエネルギーになるんだっけ?」
「そうですね~、こういうおおきなものじゃなくて板チョコとかなら小さくて手軽ですし…あっとと!」
大袋のお菓子に大きくて、カバンから出すときに一緒に中身がポロリとこぼれ落ちた。
ブルーシートのうえにカチャンと金属音を立てて、太陽光が反射して眩しい光が遠くの木々に当たっていく。
その金属製のものに、俺は見覚えがあった。
「あ…それ、あの時の?」
思念集合体に襲われて逃げてきたとき、ファリニスに託されたかばんに入ってたロケットだった。
ファリニスが何気なしに開く、中の写真は変わらずに年配の老人と幼い頃のファリニスが写っている。
「そう…なんですよね、このロケット…」
先ほどの明るい表情から一変、ファリニスの表情が曇っている。
ロケットの中の写真を見てからだ…写真を見つめて正座したまま、動かない。
「嫌なこと聞いたらごめん…ファリニス、その写真って…小さい頃の?」
「…お話しましょう」
「え?」
「私がこの、思念論の研究を始めたきっかけ…私の、祖父のことを」