ホワイト・エンゲージ   作:リファ

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第22話

<今回はグロテスクな表現を多く含みます、閲覧の際はご注意ください>

 

 

 

 

買い出しの帰り途中、不思議な水音を聞いた俺は思念集合体との何らかの関係性を探るために、その音のする方へ向かっていた。

日はすでに落ちていて周りは街灯なしでは見えないほどに暗い、明かりを何にも持たない俺は音でしか進む道を決められない。

 

 

 

 

ピチャ…

 

 

 

 

 

だが進むにつれてその音は最初の時よりもはっきりと、そして明瞭に聞こえる。

雨も降っていないので水たまりもできないだろう、この音には何かある…俺はそう思っていた

やがて音を頼りに進むと、二つのマンションの間に広い路地裏への入口があった。

 

 

 

 

「…ここから聴こえてくる」

 

 

 

 

買い物の袋を持ったまま、俺はその路地裏を恐る恐る覗いた。

 

 

 

 

ビチャ…

 

 

 

 

 

そこで聞こえてきたのは明らかな、ただの水とは違う音だった。

…俺の脳裏に嫌な予感が少しよぎる、以前遭遇した思念集合体の姿形…背筋に悪寒が走る、進んではいけない気もする、第六感が警鐘を鳴らしている気さえした。

 

 

 

 

(やっぱり、ファリニス達を呼んで─)

 

 

 

 

 

 

その時だった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の頭上から明かりが灯る、傍らにあったマンション利用者のための街灯だ。

調子が悪く壊れていて、いままで明かりを灯していなかったが…俺にとっては嫌なタイミングで、光を運んできた。

 

 

 

 

その街灯の光がマンションの路地裏を <照らしてしまった>

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

明かりの着いた先に広がって一番に目に付いたのは、<赤>だった。

俺の体が二人並んで通れるほどに広い路地裏への入口は真っ赤に染まっている、壁には投げつけられたかのようになにかの物体が張り付いていて、やはり赤く染まっている。

その赤い液体がなんであるか、俺の頭の中にこの街で起こった事件のことを思い出す前に、その答えが転がっている。

 

 

 

 

 

腕だ

 

 

 

 

 

綺麗に切り取られたその断面が網膜に焼き付く、ごろりと転がったそれには自身の体から流れたであろう血液が色ごくこびりついている。

 

 

 

 

 

「なんだ…よ、これ…」

 

 

 

 

ぐちゃ…と奇怪な音が、奥から聞こえた

明かりは付いたまま、暗闇に目もなれているこの状況なら、奥に目をやるだけで見えるはず…でも、見たくない

 

 

 

 

だが…音がするたび、俺は俺自身の中にある好奇心が疼いているのがわかった。

恐怖の根源がそこにある、この狂った景色の奥を、俺は見たがっている…そう、俺は目を奥に向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

グチャッ

 

 

 

 

 

 

 

 

「!!」

 

 

 

 

 

そこにいたのは思念集合体じゃなかった

 

 

 

 

 

 

人だ

 

 

 

 

 

 

 

 

もしかしてこの事件の被害者か?

偶然にも生き残っていた?

 

 

 

 

 

いい方向へと必死に考えた、目の前の惨状を見て俺は冷静さを欠いていたのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

「だ…大丈夫ですか!?」

 

 

 

 

 

俺は駆け寄り、声をかけながらその人の肩に手を置く。

その時に、ヌルッと嫌な感触がする…だがそんなこと気にしていられない、と俺は気持ちの悪い感覚を無視した。

 

 

 

 

その直後、その人が俺の方向に顔を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ウッ!?」

 

 

 

 

 

その顔は

 

 

 

 

 

ひどく生気のない、灰色をしている血の気の抜けたような気味の悪い顔色だった。

明かりで確認できた、その方も胴も顔も、血しぶきを体全体で受けたように真っ赤。

直視するのもできないほどにグロテスクな存在に、俺は思わず反応して2、3歩身を引く

…つもりだったが、力がうまく入らずに尻餅をついてしまう。

 

 

 

 

 

「…ウフフ」

 

 

 

 

 

こんな暗闇なのに

 

 

 

 

 

 

 

その人が笑っているのがわかった

 

 

 

 

 

 

 

 

だがその笑顔は、赤くて黒くて

 

 

 

 

 

 

 

この世のものとは思えないほどの狂気に溢れている、そんな禍々しい笑顔

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃のルゼフィアの部屋

 

 

 

 

 

「ん~…お腹すいたぁ」

 

 

 

 

「我慢だよ、セグレトさんもうすぐ帰ってくるから」

 

 

 

 

「ファリニスお菓子とかない?ちょっとだけちょっとだけぇ…」

 

 

 

 

 

「え?うーん…カバンの中にあるかも」

 

 

 

 

 

 

「ほんと!?よっしゃ探すぞー!」

 

 

 

 

 

バラバラとカバンの中身をぶちまける

 

 

 

 

 

「ふんふーん…お?」

 

 

 

 

 

「どう?まだなにか残ってたかな?」

ルゼフィアの方を見ずにレポート書きに集中

 

 

 

 

 

「ねえ、この瓶に入ってるのって、さっき話してた思念集合体のかけら?」

 

 

 

 

 

「うん、そのかけら動いてるけどあんまり気にしないでね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう?なんかすっごい暴れてるけど」

 

 

 

 

 

 

 

 

「…え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、路地裏

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ニタニタしたままそいつが近寄ってくる、灰色の体と赤い血の色が俺の恐怖心をさらに増長させる。

そしていままで気がつかなかったが、その片手には大きな鎌が…まるで死神の持っているような大きな鎌が、いつのまにか握られていた。

 

 

 

 

 

 

「嬉しいわぁ…また、増えた…」

 

 

 

 

 

その鎌も赤く染まっている、刃になにかの物体がついていたがあまり深く考えていられない…なによりも俺の目線は、その人の…彼女の顔から離れなかった。

 

 

 

 

 

「う…あ、あんたが…?あんたが、やったのかよ‥?」

 

 

 

 

 

 

「…?あぁ、この子達のことかしらぁ…」

 

 

 

 

 

足元に転がっていた肉片を鎌でなでるように触れる、その動きは愛おしさのような…まるで子供がおもちゃに触れるように、遊ぶように

そして鎌でその肉片を潰す、グチュリとおかしな音がしてその肉片が弾けてあたりに新しい血を撒き散らす、その血が俺の体に飛んで服に染み付く。

 

 

 

 

 

「あぁ……可愛い…ウフフ、ヒ‥」

 

 

 

 

「く、狂ってる…」

 

 

 

 

 

逃げたい、この状況はまずい!

直接的に目の前にやばい奴がいる、殺されるかもしれない、俺はすぐにでも立ち上がって逃げたかった。

しかしこれまでの惨状を見たせいか足腰に力が入らない、まるで足をなにか見えないものに掴まれているように下半身が地面から離れない

 

 

 

 

 

 

 

「あなたも、あの子達の仲間にしてあげる…より一層、可愛く…フフ」

 

 

 

 

 

体と同じほどの大きさの鎌を片手で高く振り上げながら、彼女はそう言った。

間違いなく殺す気だ、俺のことを周りのこいつらみたいに…跡形もなく

 

 

 

 

 

「うわぁぁぁぁぁあっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バチッ!

 

 

 

 

 

 

 

「アッ!?」

 

 

 

 

 

一瞬の激しい音と共に、目の前に立っていた彼女が光のような物体をくらって後ろに倒れ込む。

俺は何が起こったのか分からずにその光景を見たまま硬直していた、そしてその直後に後ろから誰かの駆け寄る音が聞こえる。

 

 

 

 

 

 

「セグレト!あんた無事!?」

 

 

 

 

 

足音の次に声が、ルゼフィアの慌てたような声だった。

血にまみれたこの場所を見ながら少しうろたえているようだが、まっすぐ俺の方に向かってくる…その背中にファリニスの姿も見えた。

 

 

 

 

 

「これは…ひどい、ですね」

 

 

 

 

 

「ルゼフィアにファリニスも…どうして、ここに…」

 

 

 

 

 

 

 

ファリニスが瓶の中で思念集合体が凄まじく反応していたこと、それを見てから嫌な予感がして俺を探しに来たことを話した。

ルゼフィアの住んでる場所からここがそう遠くなく、駆けつけるのに時間はかからなかったらしい…

そして俺から、この路地裏の入口に来てから起こったことを事細かく話す。

 

 

 

 

 

「ってことは、あいつが犯人か!あたしの求めてた!」

 

 

 

 

 

「多分、いや…間違いないと思う、すぐに捕まえたほうがいい」

 

 

 

 

 

「…セグレトさん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その人、どこにいるんですか?」

 

 

 

 

 

 

 

「え?」

 

 

 

 

 

俺はすぐに後ろを振り返った

 

 

 

 

 

いない

 

 

 

 

 

 

 

 

さっき倒れたばかりの彼女がいなくなっていた、体程の大きさもあった鎌も消えている。

そんなばかなと、俺は辺りを見渡してみてもあたりには血だまりしかない…

 

 

 

 

消えたのか、本当に?

 

 

 

 

 

 

 

そのとき、壊れても一時的についていた街灯の明かりがふっと…消えた

 

 

 

 

あたりに光源がなく、街灯の光を見ていた俺たちは急に訪れた暗闇に困惑してしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「また増えた…」

 

 

 

 

 

 

「!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

悪魔のような声が、ひっそりと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺たちの背後から聞こえた


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