マリア・カデンツァヴナ・イヴが世界に向けて宣戦布告をしてから一週間、fine<フィーネ>は海上に浮かぶ廃れた病院をアジトに暗躍をしていた。
暗い部屋でマリア達に指示を送っていた“ナスターシャ教授”は“絶唱”を行った奏者達のデータを解析していた。
「(他者の“絶唱”と響き合う事で、その威力を増幅するばかりか、生体と聖遺物の間に生じる不可をも軽減せしめる。“櫻井理論”によると、手にしたアームドギアの延長に“絶唱”の特性があると言うが、誰かと手を繋ぐ事に特化したこの性質こそ、正しく立花響の“絶唱”。“絶唱”の三重奏ならばこそ計測される爆発的なフォニックゲイン。それを持ってして”ネフェリム”を・・・天より落ちたる巨人を目覚めさせた)」
響が映るモニターから“異形の胎児”が成長した“異形”が檻に閉じ込められた姿がモニターに映る。
「覚醒と行動・・・・・・」
ナスターシャ教授は檻に閉じ込めた“異形”をモニターから見つめていた。
そしてここは廃病院のエントランス。大きな病院なだけはあって、当然エントランスも広く“キャンピングカー”が入る程だ。そのキャンピングカーのキッチンで“一人の男”が料理を作っていた。車のドアが開きそこから切歌が顔を出す。
「マニゴルド!テーブルと椅子の用意終わったデス!ご飯まだデスか?」
「うるせぇな、もうちょい待ってろ。この卵焼きを等分に切ったら終わるから」
マニゴルド!?が黒いエプロンに三角巾を着けて料理を行っていた。切歌がそっと出来上がった卵焼きをつまみ食いしようとするが。
「(ビシッ)何つまみ食いしようとしてんだ?」
マニゴルドに手をチョップされバツの悪そうに目を泳がせる切歌。
「嫌~、そのデスね・・・・・・」
「ハァ、飯とスープは出来てっから持ってけよ」
「(パアッ!)了解デース!」
「切ちゃん、どうしたの?」
ひょこっと今度は調がやって来た。
「あぁ、調!ちょうど良かったデス!ご飯を持ってくから手伝ってデス!」
「(コクン)」
切歌と調はご飯とスープと出来上がった他のオカズを持って食卓に向かった。それを見ながらマニゴルドはやれやれと言わんばかりに首を振る。
「たくっこの蟹座<キャンサー>のマニゴルド様が料理をするだなんてな、お師匠とジジイが知ったら何て言うかね・・・・・・」
今は亡き“師達”に想いを馳せながらマニゴルドは人数分に焼いた卵焼きを盛った皿を持って食卓に向かった。
ー2課指令室ー
その頃、レグルス達と弦十郎達はマリア・カデンツァヴナ・イヴ達『fine<フィーネ>』の行方を調査していた。
「ライブ会場での宣戦布告からもう一週間ですね」
「あぁ何も無いまま過ぎた一週間だったな」
「嫌々弦十郎、俺とエルシドにとっちゃ驚きの一週間だよ。まさか2課や響達の学校がもう再建されていたなんてな」
「たった3ヶ月で良く立ち直った物だ」
「フッお前らがいない間デジェルにも手伝ってもらっていたからな」
「まぁでも一番驚いたのは“アレ”だよな・・・」
「確かに“アレ”が一番驚いたな・・・」
「アハハハハハ・・・・・・」
レグルスとエルシドの言葉にデジェルは苦笑いを浮かべた。弦十郎も苦笑いを浮かべるも話を変える。
「それでレグルス君、“シジフォス”の捜索は?」
“シジフォス”とは、レグルスの叔父にしてエルシド達の盟友、弦十郎達にとっても大切な仲間でもある、『射手座の黄金聖闘士 サジタリアスのシジフォス』の事である。そのシジフォスの捜索がレグルスの極秘任務であった。レグルスはシジフォスが日本海で行方不明になった当時の海流の流れからシジフォスがヨーロッパ方面に流れている可能性があると知りフランスに立ち寄っていたのだ。
「ダメだった。都会の大病院から小さな町の診療所のベッドの下まで探したけど見つからなかったよ」
「そうか・・・すまない、俺達の方でも米国やらが監禁してないか調査はしているが、まるでヒットしなかった」
デジェルがエルシドの報告を聞こうとする。
「エルシド、お前の方は?」
「武者修行の合間に記憶を頼りに捜索と調査をしてみたが、“聖域<サンクチュアリ>”どころかロドニオ村すら見つからなかった」
そうエルシドはただ武者修行の旅に出ていたわけではなく、“聖闘士の総本山 聖域<サンクチュアリ>の調査”を行っていた。
“シンフォギア世界”にはかつて地上の平和を守る女神アテナとアテナを守護する聖闘士が存在していた。ならば聖域<サンクチュアリ>もこの世界の何処かにと考え、エルシドは武者修行と平行して聖域<サンクチュアリ>の調査をしていたのだ。
「やはり数千年前に起こった“神々の大戦<グレートウォー>”で聖域<サンクチュアリ>も消滅したのかも知れないな・・・・・・」
「そう・・・なるよな・・・やっぱ・・・」
「・・・・・・」
聖闘士達は表情を曇らせた。“別世界”とは言え聖域<サンクチュアリ>は聖闘士達にとって“心の故郷”と言っても良いほどに“大切な場所”である。そこが無くなったと考えると聖闘士達の心境は計り知れない。
弦十郎達も聖闘士達の心境を察して顔を曇らせる。友里が話を変えてマリア・カデンツァヴナ・イヴ達の動向を報告する。
「政府筋からの情報では、その後fine<フィーネ>と名乗るテロ組織による一切の支援行動や、各国との交渉も確認されていないとの事ですが」
「つまり、連中の狙いがまるで見えてきやしないって事か」
「傍目には派手なパフォーマンスで自分達の存在を知らしめたぐらいです。お陰で我々2課も即応出来たのですが・・・」
「でも明らかに俺達後手に回っているよな」
「しかも向こうにはマニゴルド達がいる」
「そろそろ動きを見せてもいいと思うが」
「いずれにせよ、事を企む輩には似つかわしくないやり方だ。案外狙いはその辺りだろうが・・・」
緒川から通信が入る。
「《風鳴指令》」
「緒川か、そっちはどうなっている?」
「《ライブ会場付近に乗り捨てられていたトレーラーの入手経路から遡っているのですが、「この野郎!(バキッ!ドカッ!)」たどり着いた、とある時計屋さんの出納帳に架空の企業から大型医療機器や医薬品、計測器等が大量発注された痕跡を発見しまして》」
緒川は現在、架空の企業と書いて暴力団のアジトにいるが弦十郎達は普段通りの態度であり、通信先からの暴力団員の悲鳴から緒川が大立ち回りをしている事が分かる。
「(慎司って以外とやるんだな?)」
「(あぁ見えて緒川殿も武闘派だからな)」
「(確か、忍の家の出身と言っていたな)」
「(Oh、JapaneseNINJA!って奴か?)」
「「(いきなり分かりやすい外国人化するな)」」
聖闘士組がひそひそ言っているがバッチリ聞こえた弦十郎は苦笑いを浮かべたが直ぐに顔を引き締める。
「医療機器がか?」
「《日付はほぼ2ヶ月前ですね。反社会的なこちらの方々は、資金洗浄に体よく使っていたようですが、この記録気になりませんか?》」
「・・・・・・追いかけてみる価値はありそうだな」
「「「(こういうやり方は奏者達には出来ないな)」」」
反社会的な暴力団にカチコミ入れて情報収集。お人好し属性の権化の響は勿論、根っこは優しい翼とクリスにも出来ない事だ。
「所でレグルス、立花の様子はどうだ?」
「今朝未来に連絡して聞いて見たら一週間前からずっと上の空だってさ」
「余程、“綺麗事”と言われた事が効いたのだろう」
「響って結構脆いからな、図太く見えて実は奏者達の中で一番傷つきやすいし」
「弦十郎殿、このままでは立花を戦力から外さねばならないかもしれん」
「そこまで危険なのか、蟹座と蠍座と魚座は?」
「少なくとも、“心に迷い”がある奴に手心を加えてくれるほどマニゴルド達は甘くはないよ」
ー新設リディアン音楽院ー
その頃響は再建されて新設された学校リディアンにいた。洋風の学校の教室で授業を受けながらも空を眺めていた。
「(ガングニールのシンフォギアが2つあるんだ、だったら“戦う理由”がそれぞれにあっても不思議じゃない・・・)」
そう考えてはいるが響の脳裏にはあの時の少女<調>に言われた事が頭から離れない。
『「それこそが“偽善”・・・!」』
「(私が“戦う理由”、自分の胸に嘘なんて付いてないのに・・・)」
「(ひそひそ)響、響ったら」
「立花さん、何か悩み事でもあるのかしら?」
「はい・・・とっても大事な・・・」
担任の先生からの質問に上の空で答えるが隣の未来はあっちゃーと言った態度で。
「アキレスものね、立花さんにだって色々思うところがあるんでしょう。例えば私の授業よりも大事な(ひくひく)」
「え?あれ!?」
顔を上げた響の目にこめかみをピクピクさせた先生がいた。
「新校舎に移転して、三日後に学祭も控えて、誰もみな新しい環境で新しい生活を送ってると言うのに!貴女と来たら相も変わらずいつもいつも・・・いつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつも!!!!」
アワアワとなった響は立ち上がり。
「で、でも先生!こんな私ですが、変わらないでいてほしいと言ってくれる心強い友達も、案外いてくれたりして・・・」
「立花さーーーーんッッッ!!!!」
「ひいいぃぃ!」
言い訳にもならない弁解をくっちゃべる響についに先生が噴火した。それを顔を赤らめながら未来はボソッと。
「バカ・・・」
と呟くのであった。
ーfine<フィーネ>の潜伏場所ー
その頃。切歌と調はマニゴルドの作った朝食の後に軽めの訓練を終えてシャワーを浴びていた。
「嫌~、最近マニゴルドの料理の腕上がったと思わないデスか?今朝食べた卵焼きなんてフワッとした食感と優しい舌触りと程よい甘さと美味しさが見事にマッチしていてもう最高デス♪これもマムの指示のお陰デス♪」
ナスターシャ教授は研究、マリアはアーティスト活動で忙しい。カルディアは“体質上”の理由で温度が上がる所に長くいられない。アルバフィカも“体質上”で料理をする訳にはいかない。
そこで白羽の矢が立ったのがマニゴルド。
最初はブーブーグチグチ言って拒否したが、ナスターシャ教授から“報酬”の事を言われ、渋々料理を勉強し、以外と器用だったのか直ぐに料理をマスターして、今ではfine<フィーネ>の料理番を任された。
因みにマニゴルドの調理姿をカルディアは腹を抱えて爆笑しながら転げ回り、アルバフィカも全身を震わせながら必死に笑いを堪えていた。それを見たマニゴルドが「黄泉路に送ったろうか?」と本気で構え切歌と調とマリアが必死に抑えたのは割愛する。
「シャワー上がりにアイスでも、ん?」
しかし、いつもなら相づちを打つ調が無言でシャワーを浴びながら響の言った言葉を思い返した。
『「話せば解り合える筈だよ!」』
調は苛立たしげに目を鋭くする。
「何にも背負ってないアイツが、“黄金の英雄達”に認められているなんて、私は認めたくない・・・!」
「うん・・・本当にやらなきゃならない事があるなら、例え悪いと分かっていても背負わなきゃいけないんデスよね」
「ッ!!」
調は怒りをぶつけるように壁を殴る。
「“困っている人達を助ける”と言うのなら!どうして!・・・」
調の気持ちが分かる切歌はソッと殴った調の手をとり握る。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
調と切歌はお互いの手を優しく包み合う。そんな二人の隣でマリアがシャワーを浴びる。芸術品のように完璧なプロポーションを惜しげなく晒しながらマリアは二人に語る。
「それでも、私達は、私達の正義とヨロシクやって行くしかない。迷って振り返ってしまう時間なんてもう、残されていないのだから・・・」
「マリア・・・」
フォー!フォー!フォー!フォー!フォー!フォー!フォー!
「「「ッ!?」」」
突然の警報に三人は顔を引き締める。隔壁が次々と閉まり潜伏場所の基地が閉鎖される。
ー聖闘士sideー
料理本を読んでいたマニゴルドと林檎をかじっていたカルディアと二人から少し離れた位置でウォークマンで自然音を聴いていたアルバフィカも警報を聞いて顔を上げる。
「“アレ”が暴れたか?」
「たく、うっとおしいぜ」
「行くぞ」
そう言って三人はナスターシャ教授の元へ向かう。
ーナスターシャsideー
ナスターシャ教授は、“異形”が暴れた出した事により発生した警報をストップさせ一息ついた。
「(あれこそ伝承にも描かれし、“共食い”すら厭わぬ衝動・・・やはり“ネフェリム”とは人の身に過ぎた・・・)」
「人の身に過ぎた、先史分明記の遺産、とかなんとか思わないでくださいよ」
ナスターシャ教授の後ろの暗がりから行方不明になっていた、灰色の髪に白衣を着た“ジョン・ウェイン・ウェルキンゲトリクス”が現れた。
「ウェル博士・・・」
「例え人の身に過ぎていても、“英雄”たる者の身の丈に合っていれば、それで良いじゃないですか?」
ニッコリと胡散臭い笑みを浮かべるウェル博士。するとナスターシャ教授の部屋のドアが開き、ガウンを羽織ったマリアと下着姿の切歌と調が、アルバフィカとマニゴルドとカルディアはバスタオルをマリア達に羽織らせる。
「マム!さっきの警報・・・!」
マリアはナスターシャ教授の側にいるウェル博士に目を向ける。
「次の花は、未だ蕾故大切に扱いたいものです」
「心配してくれたのね、でも大丈夫。“ネフェリム”が少し暴れただけ、隔壁を下ろして食事を与えているから直に収まる筈」
ドカァァァァァァァァンッ!!
『ッ!』
“ネフェリム”の暴れた振動が部屋を襲う。
「マム」
「対応措置は済んでいるので大丈夫です」
「それよりもそろそろ視察の時間では?」
「“フロンティア”は計画遂行のもう一つの要。起動に先だってその視察を怠るわけにはいきませんが・・・」
「こちらの心配は無用。留守番がてらに“ネフェリム”の“食料”調達の算段でもしておきますよ」
ナスターシャ教授の鋭い目線をウェル博士は穏やかな笑みで答えるがマリア達もアルバフィカ達も不審そうにウェル博士を見る。
「では調と切歌、マニゴルドとカルディアを護衛に付けましょう」
「こちらに荒事の予定は無いので平気です、寧ろそちらの戦力を集中させるべきでは?何しろ向こうには“黄金の英雄”が三人もいるのですから、何か事があったらアルバフィカさん一人では危険ですし」
ナスターシャ教授は探るように目を細め。
「解りました、予定時刻には帰還します。後はお願いします」
ナスターシャ教授はマリア達とアルバフィカ達を連れて部屋から退室しようとするが、ウェル博士はアルバフィカ達に話しかける。
「ところで黄金聖闘士の皆さんにお聞きしたい事があるのですが?皆さんは今どんな気持ちですか?かつての盟友達と拳を交えなければならない今の状況に対して」
「あ?」
「ん?」
「・・・」
ウェル博士の突然の質問にマニゴルド達は立ち止まる。ウェル博士は仰々しくかつ神経に障るような声色で語り出す。
「遥か神話の伝説から現代に蘇った星座の闘士達!何者をも寄せ付けない圧倒的な力を持つ人間を越えた戦士!正に皆様は“英雄”と呼ばれて差し支えない“存在”と言っても良いと私は考えています!それが今や聖戦を駆け抜け背中を預けた同志とお互い命を奪い合う関係とはなんたる悲劇!そんな悲劇的な運命を皆さんはどうフグッッ!?」
ウェル博士は言葉を止めた。マニゴルドの手が顔を掴みカルディアの爪が喉元に突きつけられアルバフィカは鋭く切られた薔薇の茎を目の前に向けられたからだ。
「オイウェル博士よぅ、あんま神経に障るような事くっちゃべらないでくれるか?」
「どうにもお前の声聞いてるとムカムカしてくんだよなぁ」
「私達とレグルス達は曾ての同志だか、“ソレはソレ、コレはコレ”だ。我々の“目的”の為にもマリア達に協力する。余計な詮索はしない方が良い」
底冷えするほどの冷徹な殺気を滲ませた三人に睨まれウェル博士が怯み、マリア達もゾクッとする。
「ふぉ、ふぉうでふくぁ、ふぉれはたいふぇんふつれいふぉ・・・(そ、そうですか、それは大変失礼を・・・)」
三人はウェル博士を離すとマリア達と一緒に外に出る。しばらく歩くと切歌が。
「まあ確かにマニゴルドが“英雄”だなんて全然似合わないデスね、どっちかっつうと“ゴロツキ”や“チンピラ”って言った方がしっくりくるムギュっ!」
切歌の両頬を掌で挟みタコ口にするマニゴルド。
「言ってくれるじゃねえかこのアホ切歌、一丁前に下着姿で彷徨きやがって」
「なにするデスか!?離すデス!てゆーかレディの下着姿を見るなデス!!」
「なーにがレディだ!俺にレディ扱いされたきゃな!せめてマリア位に胸やらくびれやら尻が成長してからほざきやがれ!」
「あっ!それセクハラッ!セクハラデスッ!このセクハラ蟹ッ!!」
「切ちゃん、クチュンっ!」
「オラ調、身体拭いてやっからジッとしてろ。風邪ひくぞ」
「うん・・・」
ギャイギャイ言い合いしながら喧嘩するマニゴルドと切歌、なんやかんや言いながらも調の面倒を見るカルディアをナスターシャ教授とマリア、アルバフィカは呆れながらも微笑ましそうな笑みを浮かべていた。
だが、そんな和気藹々な雰囲気を繰り広げているナスターシャ教授達と違い、先程まで教授達がいた部屋ではウェル博士がマニゴルド達に掴まれていた顔を擦りながら憎々しげにマニゴルド達が去った扉を睨む。
「(クッ!カビ臭い“骨董品”共がッ!まぁ良いでしょう。エサは蒔いた、後は獲物がかかるだけですね・・・!)」
ウェル博士の顔は先程までの穏やかな笑みではなく“悪意”と“狂気”に満ちた笑みを浮かべていた。
今回はここまで、マニゴルドの料理人化はどうでしたか?