ー“カ・ディンギル跡地”ー
闇夜が支配する世界で、エルシドと翼とデジェルとクリスは唖然とし、響は自身の腕を噛み千切った“ネフェリム”を睨み、レグルスは無言に佇んでいたが・・・。
「ウフゥ・・・ッ!」
ドクターウェルはその光景を見て、口角を歪ませた笑みを浮かべる。
『グチャグチャ・・・ゴックン!』
響の腕で咀嚼する“ネフェリム”は喉を鳴らして響の腕を飲み込む。
「あ・・・」
それを見た響は膝をつくと、ドクターウェルは歪ませまくった顔を狂気の笑みで染めて吠える。
「イッタアアアアアアアアアアアア!!! バクついた!! シンフォギアを!! これでええええええええええええええぇえ!!!!」
「うっ・・・ううっ・・・!」
「・・・・・・・・・」
腕の痛みに耐える響にレグルスは無言で止血の真央点と痛みを麻痺する星命点を突く。
ーマリア達の飛行艇ー
その光景をモニターで見ていたマリア達。マリアと切歌と調はウェルの狂行に愕然とし、アルバフィカとマニゴルドとカルディア、そしてナスターシャ教授は冷静に見ていた。
「あのキテレツ! 何処まで道を踏み外しているデスかッ!!」
「ここまで狂っていると逆に清々しいぜ・・・!」
切歌はウェルの狂行に怒り壁を殴る。マニゴルドは冷徹な目線をウェルに向けていた。
「“ネフェリム”に、“聖遺物の欠片”を“餌”と与えるって、そういう・・・?」
「(あの野郎、もしかしたら調達も・・・?)」
調は戸惑い混じりにナスターシャ教授を見て、カルディアは探るようにウェルを睨む。
「・・・・・・・・・」
マリアはウェルの狂行に“無関係な少年達”を殺そうとした情景が頭をよぎる。あの時はアルバフィカが防いでくれたが、このままでは。
「・・・・・・!!」
「どこに行くつもりですか?」
「あっ・・・・・」
首を降り、部屋を出ようとするマリアにナスターシャ教授の冷たい静止の声が響く。
「貴女達に命じているのは、この場での待機です」
「あいつは!人の命を弄んでるだけ!こんな事が私達のなすべき事なんですか!?」
「・・・・・・・・・」
マリアの言葉にナスターシャ教授は目をそらす。
「・・・あたし達・・・正しい事をするんデスよね?」
「間違ってないとしたら、どうして・・・こんな気持ちになるの・・・?」
「・・・・・・その“優しさ”は、今日限りに捨ててしまいなさい! 私達には、微笑みなど必要ないのですから・・・!」
「「「(言っている本人が一番辛そうに見えるが・・・)」」」
やりきれない、苦しいと言いたげな切歌と調の言葉をナスターシャは否定するが、アルバフィカ達は冷めた目で見つめる。
「くっ・・・!」
「・・・・・・」
歯痒そうに部屋を出るマリアとその後を追って部屋を出るアルバフィカ。二人が部屋を出るのを確認したマニゴルドは口を開く。
「おい婆さんよ、そろそろ“ネフェリム”と“ソロモンの杖”。おまけのついでにクソ野郎(ウェル)に撤退を指示した方が良いぜ」
「何を言っているのですか?」
マニゴルドの言っている事が理解できないナスターシャは聞き返す。すると今度はカルディアが口を開く。
「言葉通りの意味だよ。このままじゃ、最悪“ネフェリム”を失う事になるぜ?」
「なんですって・・・?」
ナスターシャがマニゴルド達の言葉の意味を聞いている部屋の外では、部屋を出たマリアが膝から泣き崩れ、“傷だらけの聖遺物のペンダント”を握る。
「・・・・・何もかもが、崩れていく・・・このままじゃ、いつか私も壊れてしまう・・・セレナ、どうすればいいの・・・!?」
泣き崩れるマリアの後ろ姿をアルバフィカはただ見つめる事しかできずにいた。
「(こんな時にマリアに触れる事ができない我が身が情けない・・・だが望みはある)ウェルは直ぐにでも撤退しなければならないな・・・」
「えっ?・・・」
アルバフィカの言葉にマリアはどういう意味?とばかりに振り向く。
ー“カ・ディンギル”跡地ー
「(ドクン!ドクン!ドクン!ドクン!)うっ!・・・うぅっ!・・・」
「立花!」
「おいしっかりしろ!」
「・・・・・・」
激しく脈打つ自身の心臓、嫌“胸のガングニール”の鼓動に響は苦しむ。ノイズの粘着性の網をデジェルが凍結で破壊し翼とクリスが響に近づく、エルシドとデジェルは三人を守るように立つが。
「・・・・・・」
レグルスは静かに立ち上がり“ネフェリム”の方にゆっくりと歩く。そんなのお構い無しウェルの下劣の声が響く。
「完全聖遺物“ネフェリム”は、いわば自律稼働する増殖炉!」
「(完全聖遺物だと!?)」
「(あれを、あんな化け物を、神は創造したと言うのか!?)」
エルシドとデジェルはウェルの言葉から“ネフェリム”を見る。“ネフェリム”の身体が赤く発光し、身体が膨張したいった。
「他のエネルギー体を暴食し! 取り込むことで更なる出力を可能とする! さあ! 始まるぞ! 聞こえるか!? 覚醒の鼓動! この力がフロンティアを浮上させるのだ! フヘハハハハハハハヒヘハフヘハ! ヒィィハハハハハハハハハハ! イィヒヒヒヒヒヒ!!!」
不愉快な狂笑をあげていたウェルの横を“何か”が吹っ飛んできた。
「イヒ・・・??」
吹っ飛ん行った先を見るとそこには。
『グッ・・・ガ・・・ギガ・・・グガ・・・』
先ほどまで成長した筈の“ネフェリム”の手足があらぬ方向に曲がり、大口の牙はほとんどが砕かれ、ボロ雑巾のような変わり果てた姿になっていた。
「“ネフェリム”・・・? 何があった? 先ほどまであそこに・・・ヒへっ!」
狂った顔で首を傾げるウェルの目に目元に影が射した獅子座の黄金聖闘士が悠然と歩いていた。
「「・・・・・・・・・」」
翼とクリスも戸惑っていた。今さっき響から離れ、レグルスはゆっくりと“ネフェリム”に近づくと。突然“ネフェリム”が吹っ飛んでいったからだ。
「何が起こったのだ・・・?」
「あの化け物が吹っ飛んでいったように見えたが・・・?」
「あんなレグルス、初めて見るな・・・」
「あぁ、どうやらやってしまったようだ・・・」
混乱気味の翼とクリスに、エルシドとデジェルの言葉に反応して首を傾げる。
ー飛行艇・モニタールームー
「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」
モニタールームで見ていたナスターシャと切歌と調も唖然呆然とし、マニゴルドとカルディアがニヤリとした笑みを浮かべる。
「ほお、レグルスってああなるんだな」
「一瞬で“ネフェリム”に『ライトニング・プラズマ』を叩き込みやがった」
この時、レグルスを除いた黄金聖闘士達の言葉が重なる。
『ヤツ<ウェル>は踏んでしまった、“獅子の尾っぽ”をな!』
ー“カ・ディンギル”跡地ー
「イヒ? ハエ? イヒヘ!?」
ウェルは訳が分からないと言いたげに“ネフェリム”とレグルスを交互に見ていた。
「(何が起こった!? どうしたんだ!? 何故“ネフェリム”がボロ雑巾になっている!!?? あの小僧か!?)」
悠然と歩いてくるレグルスをウェルは睨む。
「(嫌そんな筈はない! “黄金の英雄”等と呼ばれているが所詮あんな餓鬼に!・・・ッ!!??)」
その時、ウェルは奇妙な感覚に襲われた、自分の頭が“獅子に噛み砕かれた”ような感覚に。
「(ッ!?・・・何だ?・・・今の感覚は・・・ッ!!)イギャアアアアァァァアアアアアアァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァアアアアアアアアアア!!!」
奇妙な感覚に捕らわれたウェルが正気に戻ると、頭部に激痛が走った!鼻から血がドクドクと流れ、口の中が切れたのか血でむせり、激しい頭痛や目まい、耳なりと吐き気に襲われ目もかすみ脳震盪を起こしていた。
「「・・・・・・・・・」」
汚ならしい悲鳴を上げるウェルを翼とクリスは唖然と見つめる。化け物<ネフェリム>とレグルスを交互に見ていたウェルが突然頭が無くなったと錯覚するほど首を後ろに反らせ頭から地面に倒れると、汚ならしい悲鳴を上げていた。
「エルシド、レグルスは一体、何をしたのだ?」
「・・・ウェルの顔を殴っただけだ」
「殴ったって・・・レグルスのヤツは、あの野郎<ウェル>から離れてるじゃねぇか・・・」
「普通に殴ったんじゃない、レグルスは拳の拳圧で“空気の塊”を飛ばしたんだ」
「「“空気の塊”?・・・」」
デジェルの言葉の意味を理解できず首を傾げる翼とクリス。
「簡単に言うと、レグルスは鍛えぬかれた腕力<かいなぢから>で空気を殴り、その時に生じた風圧がウェルを殴り飛ばしたんだ」
「レグルスのパワーで放たれるソレは、さながら岩石を叩き付けられた程の威力だ」
「「・・・・・・・・・・・・嘘?」」
あまりにも突飛な攻撃に翼とクリスも唖然となる。
ー飛行艇・モニタールームー
「「うっそ(デス)・・・・・・」」
「拳の風圧で人間一人を殴り飛ばすなど・・・そんな事あり得ません・・・!」
吹っ飛んだ“ネフェリム”とついでにウェルのするほどとマニゴルドとカルディアの解説を聞いた調と切歌も、翼とクリスと同じ唖然とし、ナスターシャに至っては信じられないと言いたげな表情を浮かべる。
「それができるから聖闘士なんだよ」
「婆さん、あんたもクソ野郎<ウェル>もマリア達も」
「「黄金聖闘士を甘く見んなよ・・・!」」
「「「っ!?」」」
マニゴルドとカルディアから放たれた威圧感にナスターシャも切歌と調も萎縮した。
ー二課・指令室ー
響の腕が喰い千切られた状況に弦十郎達も騒然となっていたが、レグルスの行動にも唖然となっていた。
「あれが・・・本気でキレたレグルス君、なんですか?」
「あんな風になるなんて、とても何時ものレグルス君からは想像できません・・・」
「ウェル博士、お前はどうやら怒らせてはならないヤツを怒らせたようだ・・・!」
いつもは明るく朗らかな陽的な少年のレグルスの雰囲気から余りにもかけ離れた姿に藤尭と友里も唖然となるが、弦十郎はこれからウェルの身に起こることに僅かな(髪の毛一本分程の)同情の念を持つ。
ー“カ・ディンギル”跡地ー
「イギガ!・・・・・ギギギ!・・・ガアァッ!」
「・・・・・・・・・」
とても人間の声とは思えない死にかけのケダモノのようなうめき声を上げるウェルの目の前にレグルスが立っていた。
「・・・・・・・・・」
「ヒギィ!な、何を・・・」
「お前、さっきから煩いよ・・・!(ギンっ!)」
「うぎぃやぁあああぁぁぁぁああああぁぁあああああッ!!!」
レグルスの瞳には“百獣の王”の威圧感があった。睨まれたウェルは喧しく悲鳴を上げる、その様はまさに『蛇に睨まれた蛙』嫌、『獅子に睨まれた小蛇』。
「ヒギ、ヒギ、ヒギイイイイイィィィィィ!!!」
人間には、“危険を察知する本能”が退化しているが残っており、ウェルはレグルスの威圧感に呑まれ尻餅を付いたまま惨めに後ずさる。
「くるな! くるな化け物オオオォォオオオ!!」
たまらず“ソロモンの杖”振り回しノイズを大量に射出するが。
「邪魔」
しかし、一瞬でノイズが全滅した。それを見ていよいよウェルの顔から余裕と狂表が消え、身体は小刻みに震え、歯はガチガチと鳴り、瞳孔は激しく揺れ、まるで追い詰められたネズミのように恐怖に染まる。
「(うう嘘だ! こんなの嘘だ! この僕が! この僕がぁッ!! こんなクソ餓鬼にィッ!! こんなクソ餓鬼に見下されるなんてェ!!!)こんなの嘘だアアアアアアァァアアアァアアアア!!!!!」
錯乱したウェルが“ソロモンの杖”をレグルスに突き刺そうとするが・・・・・・。
「だから邪魔だってば」
「ベバっ!?」
レグルスは蝿でも払うかのようにウェルの頬を裏拳で殴り(以前アルバフィカが殴ったのは左の頬で、レグルスが殴ったのは右の頬、因みに拳圧で顔面を殴った)、退かす。
「ガアァ!・・・アァッ!・・・アガギガ!!」
激しい痛みで無様に這いつくばるウェルを完全に無視し、レグルスはボロ雑巾になった“ネフェリム”に近づく。
『グガ・・・ガア・・・!!』
「おい・・・響の腕・・・返せよ!」
『グガアッ!!!!』
横に倒れる“ネフェリム”の腹をレグルスは容赦なく殴り付ける。
『クバアッ! ゴアッ! グエッ! ゲウッ! ズェアッ! ゴブルワァッ!!』
「返せって言ってるんだけど・・・!!」
“破壊の究極”とも言える黄金聖闘士の拳を容赦無く次々と腹に食らい、“ネフェリム”の口から大量の唾液が流れ、もがき苦しむ。
「や、止めろ! 止めるんだぁ!!」
這いつくばっていたウェルは“ネフェリム”を殴り続けるレグルスを止めようと叫ぶ。
「成長した“ネフェリム”は! これからの“新世界”に必要不可欠な物だ!! それを! それをオオオオオオォォオオオオオオ!!!」
ウェルは顔をかきむしりながら訴えるが、全く耳を貸さないレグルスは“ネフェリム”を更に殴ろうとする。
だが・・・。
『ううっ! うぅ! ううぅ!!・・・』
「立花・・・?」
「おいどうし・・・」
「「っ!?」」
『ううっ! ああああっ!!』
突然響が呻くと胸の傷口が光り、響の身体が黒く染まる。
「まさか!?」
「まずい!」
「「うわっ!」」
エルシドとデジェルは急かさず翼とクリスを抱き抱えて響から離れる。
「・・・・・・響?」
“ネフェリム”を殴っていたレグルスも響の異変に気づき振り向くと。
『うわああぁぁぁあああああぁああああ!!!』
「そんな・・・!」
「まさか・・・!」
「「っ!・・・・・・」」
響の身体の異変に翼とクリスは唖然とし、エルシドとデジェルの目に警戒の色が浮かび。
「イグガ・・・ギギギ・・・」
痛みで這いつくばっていたウェルも警戒の色を浮かべる。
「響・・・?」
『うああっ!・・・ううっ!・・・アアアアッ!!』
その姿はかつて“ルナアタック事変”の折り、“カ・ディンギル”の一撃を身を呈して防いだクリスを貶した“フィーネ”に見せた姿。だがレグルスは知っている。この姿を。
「(あれって確か、未来との約束を守れなくって、やけっぱちになっていた時の・・・)」
『ッ!!』
黒く染まった響はレグルスを、嫌、レグルスによってボロ雑巾になった“ネフェリム”を睨む。
ー飛行艇ー
飛行艇で事のあらましを見ていたナスターシャ達(約2名は除く)にも戦慄が走る。
「ヒュ~♪成る程、これがそうか・・・!」
「ドクターの馬鹿のお陰で面白い見せモンができたな♪」
カルディアとマニゴルドは面白がるが、ナスターシャ教授と切歌と調は違った。
「これが、“フィーネ”の観測記録にもあった、立花響の・・・」
ー二課・指令室ー
「“暴走”・・・だと!?」
響の暴走に弦十郎は焦りを浮かべる。
ー“カ・ディンギル”跡地ー
『ウグゥゥ!!ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!!』
暴走した響が噛み千切られた腕を掲げると、傷口から黒いエネルギーが溢れ、“新たな腕”が“再生”された!
「ギアのエネルギーを・・・?!」
「腕の形に固定しただと・・・?!」
「まるでアームドギアを形成するかのようにか。デジェル・・・」
「恐らくだが、立花君の暴走は“激しい感情”によって引き起こされて来た、腕を噛み千切られた事によって生まれた“恐怖”と“怒り”が暴走の引き金になったのだろう」
“腕の再生”に唖然となるデジェル達。響はゆっくりと“ネフェリム”の倒れる場所に向かう。
「(響・・・“ソレ”じゃダメだよ・・・)」
レグルスは“ネフェリム”から離れ、響と向き合う。
『ッ!!』
響は獣のように四つん這いになって“ネフェリム”に襲いかかる!
『ガアッ!』
「ダメだよ、響」
『グアァッ!』
襲いかかる響をレグルスは殴り飛ばすが。
『ググググググ!!』
地面を這いながらブレーキを掛け、再び“ネフェリム”に襲いかかるが。
「だからダメだってば・・・!」
響の首に巻いているストールを掴んで地面に叩きつける。
『ガアァッ!』
「響、それじゃダメだよ、そんな響はダメだ」
“ネフェリム”に向かおうとする響をレグルスは押さえ付ける。
『グゥア!ーーーーーーっ!』
傷だらけの“ネフェリム”は這いつくばりながら、レグルスと響から逃げるようとするが。
『ッ!!ガアアアアアアアアアアアアアアア!!!』
「うわっ!」
獲物<“ネフェリム”>を見た響は咆哮をあげると、その時生じた波動でレグルスを吹き飛ばし。
『ーーーーーッーーーーーっ』
這いながら逃げる“ネフェリム”に飛び掛かり。
『ガアアアアアアアアアアアアアアア!』
『ガアウッ!!』
けたたましく悲鳴を上げる“ネフェリム”の身体に拳を突き刺す。
「ッ!!」
それを見てウェルは驚愕し、“ネフェリム”の身体に突き刺した拳を更に食い込ませる。
『ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!』
悲鳴を上げる“ネフェリム”に構わず響は“ネフェリム”の体内から“心臓”のような“赤い発光体”を引きちぎる。
「ウウッ!! ウアアアアアアアアアアアアアアアアァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!! ウ、ウ、ウゥッ!!」
それを見たウェルはまたも喧しく悲鳴を上げる。力無く倒れる“ネフェリム”を見て響は“発光体”を投げ捨て飛び上がる。
「待て! 響!」
『アアアアアアアアッ!!』
レグルスの静止を聞かず、右腕を槍のような形状にし、“ネフェリム”に突き刺す。すると、突き刺さった箇所から赤い光が溢れ。光の大爆発が起こったーーーー。
「「「「くぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!」」」」
激しい光の奔流に吹き飛ばされないように踏ん張るエルシド達。
「響イイイィィィィィィィィィィィッ!!」
レグルスの声が響いた。
ー飛行艇・コックピット外ー
響が引き起こした爆発で飛行艇が揺れる。
「ハッ・・・アルバフィカ、今のは?」
「恐らくな・・・」
「ーーーっ!」
両膝を抱えて座っていたマリアは、アルバフィカの言葉を聞いて耳を防いで蹲った。
ー飛行艇コックピットー
「生命力の低下が、胸の聖遺物の制御不全を引き起こしましたか。いずれにしてもゴホッ!ゴホッ!」
「ッ!?」
「マム・・・?」
突然咳き込むナスターシャに近づく切歌と調。ナスターシャが口を防いだ手を見ると“血”が付着していた。
「こんな時に・・・! ゴホっ! ゴホっ! ゴホッ!」
「マム!」
「切歌、調! マリアとアルバフィカに連絡! カルディア! 婆さんを見てろ!」
「は、はいデス!」
「うん!」
「クソッ・・・!」
ー飛行艇・モニター外ー
「《マリア! ねぇマリア! 聴こえてる?!》」
「《マムの具合が・・・!》」
「マム!?」
「ッ!!」
マリアとアルバフィカは急ぎコックピットに戻る。
ー“カ・ディンギル”跡地ー
「立花・・・」
「なんだってンだ・・・」
エルシドとデジェルから降ろされながら翼とクリスは響を見る。
『ハアーっ・・・フーッ・・・ハアーっ・・・フーッ・・・!!』
「ヒイイィィィィィィッッ!!!」
暴れ足りないように息継ぎをする響を見たウェルは、這いつくばったまま無様に離れ、よろよろと立ち上がりながら“ソロモンの杖”を持って逃げようとする。
『ガアアアアアアアアアアアアアアア!!!』
「響、もう良い、もう良いだろうっ!!」
雄叫びを上げてウェルを追おうとする響をレグルスが羽交い締めしながら押さえ付けてる。
『ウウッ!! ウウッ!!』
「よせ立花! もう良いんだ!」
『ガアァッ!』
「いい加減にしろ、立花!」
『グゥアアアアアアアア!』
「お前、“黒いの”似合わないんだよ!!」
『アアアアアアアっ!! アアアアアアアっ!!』
「響君! 君の力はそんな風に使うべき物ではない筈だ!」
翼とエルシド、クリスとデジェルも響に呼び掛ける。
「ウワアアアアッ!!!! ウワアァァッッ! ヒ、ヒ、ヒ、ヒィイイイィィィイイイっ!!」
惨めに悲鳴を上げながらウェルは無様に逃げ出した。
『ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアっっ!!!!』
再び雄叫びを上げた響の身体から激しい光の奔流が溢れ、レグルス達は余りの光に目を閉じる。
「くっぅぅぅ!! 響っ!!」
「くっ・・・!!」
「この・・・バカっ!」
「むぅ・・・!」
「っ・・・!」
光が収まるとそこには、“元の状態”の響がぐったりとしていた。
「響・・・!」
「(脈を計る)・・・・・・大丈夫だ、気を失っているだけだ・・・だが・・・」
響の脈を計っていたデジェルは響の“左腕”を見る。レグルス達も響の“左腕”を見ると、“元通り”になっている左腕があった。
「(一体、響に何が・・・!)」
翼とクリスが響の元に向かい、エルシドとデジェルはコッソリ話す。
「(デジェル、ヤツ<ウェル>を追うか? まだ間に合うが・・・)」
「(嫌、これ以上の戦闘は蛇足、今は響君の方が先決だ)」
「(・・・・・・そうだな)」
エルシドが見ると響を中心にできた大きなクレーターが目に入った。
ー飛行艇・コックピットー
「マムっ!!」
「ナスターシャ教授!」
コックピットに入ったマリアの目に映ったのは口元と服を血で汚し、車椅子にぐったりしているナスターシャの姿だった。
「マムっ!しっかりしてマム!」
ナスターシャの手を取って呼び掛けるマリア。
「皆、直ぐにドクターを回収して来てくれ・・・」
「あの人を・・・・・・」
「「「・・・・・・・・・」」」
アルバフィカの指示を調は俯き、切歌は固い表情を浮かべ、マニゴルドとカルディアは露骨に嫌そうな顔になる。
「気持ちは分かる。だが、我々では応急措置しかできない。ナスターシャ教授の為だ、分かってくれ・・・!」
「・・・・・・分かったデス!」
「うん・・・!」
「しゃあねぇ、ドクターの惨めで無様な負け面でも拝んでやるか・・・」
「今回唯一の収穫はソレかよ・・・・・・(ボソッ)悪くないな」
「(ボソッ)むしろ最高だわ」
悪態付きながら、マニゴルドとカルディアも切歌と調と共にドクターの回収に向かった。
「(全ては・・・私が“フィーネ”を背負いきれてないからだ・・・っ!)」
「(マリア・・・)」
瞳を潤ませるマリアをアルバフィカは見つめる事しかできなかった。
ー二課本部ー
その頃、本部に担ぎ込まれた響はそのままストレッチャーで手術室に運ばれた。レグルスは閉まった手術室の前に立ち、その後ろに弦十郎と翼達がいた。
「響・・・・・・」
「響君・・・」
「ッ!!」
翼は壁を殴り、やりきれない怒りをぶつける事しかできなかった。クリスもまた同じ気持ちだった。
「(チラ)」
「「(コクン)」」
弦十郎はエルシドとデジェルに目配せをし、二人は頷いた。
ー二課・処置室ー
そして手術室で処置を受け、眠りに付いた響は朦朧とする意識の中で過去の記憶が夢に浮かんだ。
「(あれ?レグルス君?・・・翼さんやクリスちゃん、エルシドさんにデジェルさんは?・・・そっか・・・またあの・・・もうずっと夢に見ることも無かったのに・・・)」
それは、ツヴァイウイングでのライブ襲撃事件が起きて直ぐに起こったおぞましい出来事。生き残った響は周りのメディアや人々から迫害を受けていた。
「よく生きていられるわね、沢山人を殺しておいて・・・!」
「知らないの?ノイズに襲われたら怪我しただけでお金貰えるんだよ。特異災害保証って言ってね」
「それって、パパやママからの税金でしょう?)
「ハア、死んでも元気になるわけだわ・・・!」
「マジ税金の無駄使い」
「ねえ!」
「「キャハハハハハハハハハハハハハ!!」」
“生き残った罪”、“謂われない中傷”、“人々の悪意”、それらは、響だけではなく響の家庭にすら牙を向いた。
『人殺し』
『金どろぼう』
『お前だけ助かった』
『死ね』
家に貼られた悪意に満ちた張り紙、弱い人間に対する人々の暴力、面白がりながら浴びせる罵詈雑言、壊される日常。
それらは響と母と祖母を苦しめた。自分が生きていた嬉しいと言ってくれたのはたった一人の親友と家族だけ。
「頑張ってリハビリして・・・元気になればきっと・・・お母さんも、おばあちゃんも、喜んでくれると思っていたのに・・・!」
人々の悪意と暴力に対して、響はただ泣き崩れるしか出来なかった。
***
意識が戻った響の目に、自分に付き添うレグルスがいた。
「お! 響、起きた? この指何本に見える?」
指を3本立てるレグルスに響は問い掛ける。
「ねえレグルス君・・・」
「ん?」
「私のやってる事って、調ちゃんの言うように“偽善”なのかな?・・・私が頑張っても、誰かを傷付け、悲しませる事しか出来ないのかな・・・?」
「・・・・・・なぁ、響。俺と初めて会った時の事、覚えてる?」
「え?・・・うん覚えてる・・・」
「俺も、空に浮かんだ雲の形や星の数まで覚えてるよ」
レグルスは何時もと違った“穏やか顔”で、響に滔々と話す。
「あの時はさ、俺は“この世界”に来て間もなくて、右も左もわからなくて、ノイズと戦う事すら出来なかった。でもさ、響があの時助けようとした女の子を守ろうと頑張ってる姿を見て、あきらめるなって言ってくれたから、俺も頑張らなくちゃなって気持ちになったんだ。あの時の響の頑張る姿があったから、またこうして聖衣を纏って戦う事が出来たんだよ」
「・・・・・・」
「響が頑張ったからあの女の子を守ることが出来たじゃないか、響を認めなかった翼も響の頑張りを知って響を認めた。頑なだったクリスを響の懸命な想いで、共に手を取り合う事が出来た。響の頑張りで繋がる事が出来た“絆”は決して間違っていない」
「うっ・・・うぅ・・・」
レグルスの話を聞いている内に響の瞳に涙が流れた。
「そりゃ、戦ってれば自分の考えを否定するヤツは必ず現れる。でもここに、響が頑張ってる事を知ってるヤツがいるんだよ」
レグルスはあるカードを見せた、そこには。
『また学校に行こうね 未来』
「未来・・・うぅっ・・・」
「響が頑張っている事を未来は知ってる、翼も知ってる、エルシドも知ってる、クリスも知ってる、デジェルも知ってる、弦十郎も慎司もあおいも朔也も、響の友達の皆だって、勿論俺だって、響が頑張っている事を知ってるよ」
「レグルス君・・・」
「だからその・・・・ああごめん、上手く説明できないけどさ、響の頑張りが、人を励ましたり、“希望”をくれた事は間違いないよ」
「うっ・・・うぅ・・・うぅっ!」
響は泣いた、嬉しかったからだ。自分の頑張りを認めてくれている、自分の頑張りが“偽善”じゃないと言ってくれる事がたまらなく嬉しかったからだ。
「・・・」
レグルスは何も言わず、ソッと響の頭を撫でた。
「・・・ありがとう・・・レグルス君・・・」
「ん、どういたしまして♪(・・・ん?何だ?)」
泣きながらお礼を言う響の患者衣の胸元から見えた素肌にくっついた“黒い塊”がレグルスの目に映ったが、今は響が泣き止むまで響の頭を撫でる事に集中した。
ー風鳴道場ー
「フッ!ハッ!タァッ!」
胴着を着た翼はやり場の無い憤りをぶつけるように、刀を振っていた。
「(あの時、立花が暴走したのは、立花一人を戦わせたからだ・・・!)」
翼の脳裏に二年前のライブ襲撃事件の際、“絶唱”を使ってその命を散らせた“片翼”の姿が、暴走した響と重なる。
「(あの時も、私は何も・・・!)・・・ハアアアァアアアッ!!」
遮二無二に振るう翼の刀を“何者”かの手刀が止める。
「ッ!? エルシド?」
「・・・」
胴着を着ていつもの仏頂面で自分の刀を防いだ相棒がそこに立つ。
「一人で鍛練もつまらんだろう、久しぶりに相手をしてやる」
「・・・そうだな、頼む」
そして二人は構え向かい合い。
「「ッ!!」」
翼の刀とエルシドの手刀がぶつかる。
一時間後
「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ・・・・・」
「(スッキリ)」
肩で息してグロッキー状態の翼とスッキリした無表情のエルシドがいた。
「どうだ翼、久しぶりにおもいっきり動いて発散できたか?」
「!・・・・・・ああ、すまんエルシド」
どこか憑き物が取れた笑顔を浮かべる翼を見て、エルシドもフッと微笑む。
「さて、鍛練の続きと行くか」
「えッ・・・・」
エルシドの言葉にサッと顔が青くなる翼。
「嫌、エルシド、明日も私は学校なのだが・・・」
「安心しろ、一勝負するだけだ、終わった頃にはグッスリと眠れるだろう」
「嫌それはただ、気絶すると言う意味では・・・!?」
いつもの仏頂面だが、目だけはキランと光らせたエルシドを見て、翼は滝のような汗を流しそして・・・。
イヤアアアアアァァァアア!!!
翼の悲鳴が夜の世界に響いた。
ーデジェルとクリスが住む部屋ー
デジェルとクリスが同棲している部屋のリビングのソファーでデジェルがレザーズボンにYシャツとラフな格好をして参考書を片手に持って読み、短パンにブカブカなTシャツを着たクリスがデジェルの膝枕で寛いでいた。
「♪~♪~♪~♪~♪~♪」
上機嫌で思わず鼻唄を唄うクリスの前髪をデジェルが空いている片手でソッと撫で、更に喉の下や耳の裏を人差し指で撫でる。
「お兄ちゃん、くすぐったいよ♪」
「ハハハ、すまない、じゃ止めるかい?」
「んーん、止めないで♪」
「ああ」
響達がいる前じゃ絶ッッッ対に見せないような甘えた姿でデジェルと桃色な雰囲気を展開するクリス。だが、
「お兄ちゃん・・・」
「ん?」
「あのバカ<響>、大丈夫かな?・・・」
ふとクリスの顔がシリアスになり、響を心配する。デジェルはクリスの頭をソッと撫で。
「心配かい?」
「・・・・・・・・・うん」
「今回、我々に出来る事は少ないかもしれない。だが、響君がもし本当にダメになってしまったら、その時は支えてあげれば良い」
「支える・・・?」
「そう、支えてあげれば良いんだ」
再びクリスの頭を撫でるデジェル。クリスは気持ち良さそうに目を細め、安らいだ表情を浮かべた。
ー???ー
「完全聖遺物“ネフェリム”・・・・・・再び暴走したガングニール<立花 響>・・・・・・対立する黄金聖闘士・・・・・・新たなる“フィーネ”と奏者達・・・・・そして・・・・・・“月の落下”か・・・・・・どうやら、そろそろ私も、傍観している訳にはいかないようだな」
事態を静観していたその男は、静かに動こうとしていた。
なんか、外道へのお仕置きが大半を絞めました。