SAOの映画をみてしまった影響なのだ!
アニメの流れを汲んでいますが途中からゲームプラスオリジナル展開が起こります。
これはもしもの話。
機械いじりが好きだった少年と、ドジでまぬけで取り柄がない少年が出会ったら。
親友となったネコ型ロボットが役目を終えて未来へ帰ったとき、本来なら見つかるはずだった贈り物を少年が知らなかったら。
親友が帰ってきたと嘘を吐かれて傷つけられた少年が、もう一人の親友と必死に努力して自分を変えようとしていたら。
これは、そんなもしもが積み重なって起こったお話。愛と勇気、友情が詰まった大冒険の数々。
野比のび太は電話をしていた。
「今日の一時だね?」
『あぁ、ぴったりだからな。時間を間違えるなよ』
「大丈夫、昔ならともかく、今日は楽しませてもらうよ」
『大げさだな。とにかく、ログインの名前は前に打ち合わせしたとおりだからな?』
「わかっているよ。じゃあ、一時に」
電話の相手は桐ヶ谷和人。野比のび太の数少ない親友といえる相手。
彼と共に抽選で当てたゲームの正式サービスが今日からはじまるのだ。
ソードアート・オンライン。
世界初といわれるVRMMORPG。
ネットゲームを少ししか知らないのび太も、このゲームにだけはのめりこんだ。
親友の和人もこのゲームに嵌っていて。正式サービスを楽しみにしていた。
二階の自室へ上がる前に、洗面所に立ち寄って顔を洗ったのび太は鏡を見る。
特徴のない丸眼鏡と少し伸びた前髪、それ以外は特徴のない少年、それが野比のび太だ。
それ以外は特徴のない少年。
野比のび太だ。
そんな彼は短い期間、未来からやってきたという猫型ロボットと幸せな時間を紡ぐ。
猫型ロボットのドラえもんは、のび太のダメダメな未来を変えるためにやってきた。彼らは、いろいろな冒険や日常を通して未来を変えることに成功する。
未来を変えたことで役目を果たしたドラえもんは元の時代へ帰ってしまい、のび太は一人となった。
――一人でも頑張る。
その約束を守りながら、のび太は今日も頑張っている。
「ドラえもん、キミが今の僕を見たら、どう思うかな? ダメっていうかなぁ」
ここにいない嘗ての親友の姿を思い出しながら、のび太は二階へ上がる。
のび太の母親は買い物で夕方まで帰ってこない。
とにかく、のんびりとプレイできるだろう。
そう考えて自室のパソコンと繋いであるヘルメットを手に取る。
ナーヴギア、仮想空間のフルダイブを確立させた道具であり、ソードアート・オンラインを行うための機械だ。
仮想空間のフルダイブを確立させた道具であり、ソードアート・オンラインを行うための機械だ。
のび太は、ヘルメットのようなナーヴギアで頭をすっぽりと覆う。ソードアート・オンラインを遊ぶために必要な情報はすでにインプットされている。
現在時刻は12:56分。
手続きをしている間に時間は過ぎるだろう。
「リンク・スタート」
静かに呟いたのび太の意識は闇の中へ消える。
眩い光の後、のび太はソードアート・オンラインの世界にある浮遊城塞、アインクラッドへ来ていた。
ちらりと周りを見て、自分の体を見る。
ゲーム中に設定した自分のアバターがそこにあった。
手を動かして周りを見る。
レンガ造りの建物や水が流れている噴水など。
正式サービスが開始されたようで他のプレイヤーの姿がちらほらとある。
のび太、いや、この世界ではノビタニヤンという名前にした彼は待ち人を探す。
先に来ているはずなのだが、
「あ、ノビタニアン」
「キリト、早かったね」
長身で黒髪の爽やかなイケメン。
おそらくベータテスターのアバターのようだが、間違いない。親友のキリトだ。
彼はのび太の名前を見て笑う。
「どうしたの?」
「いや、お前、名前を打ち間違えているぞ?これじゃあ、ノビタニアンだ」
「え!?わぁ、やっちゃった!」
慌てるノビタニヤン改め、ノビタニアンは慌てた。
「リアルとあまり変化ないな」
「そうかなぁ?キリトはイケメンだね」
「まぁ、MMOのだいご味だろ」
目の前にいる男性はリアルの彼よりも長身で勇者のようなイケメンだ。
「そうなのかな。それよりどうする?アイテムを整えて狩りに行こっか?」
「そうだな。行くか」
「うん」
二人で道を歩きだす。
商人の姿をしている人、NPCを見ていたり街を眺めているプレイヤー達の間をすり抜けて、目的の場所へ向かおうとした時。
「なぁ、兄ちゃんたち!!」
振り返るとバンダナをした青年がこちらへやってくる。
「なぁ、アンタたち、ベータテスターだろ?」
「え、あぁ」
「そうだけど?」
「俺にレクチャーしてくれないか?今日初めてなんだよ」
「どうする?」
「いいんじゃないかな?僕達も試してみたいし……」
二人は頷いて青年を見る。
「いいですよ。えっと」
「あぁ、俺の名前はクライン!よろしくな!」
「俺の名前はキリト」
「僕はノビタニアンだよ」
自己紹介をした三人はアイテムを購入してフィールドの外へ出る。
外には青いイノシシのモンスターがいた。
「どふぁお!?」
イノシシの攻撃を受けたクラインは派手に吹き飛ぶ。
彼の手の中には曲刀があるけれど、それを手放して腹を抑えている。
「衝撃はあるけれど、痛みはないでしょ?」
「いや、わ、わかっているけれど!?でも、さ!」
SAOで痛みを感じることはない。だが、それと同じくらいの衝撃をプレイヤーは感じるようになっていた。
「クライン、さっきキリトが教えたとおりにソードスキルを使えばすぐに倒せるよ」
「わ、わかっているけれど!くそぉ」
そう言いながら曲刀を構える。
ぶつぶつとキリトが伝えた言葉の内容を復唱している。
握りしめている曲刀がライトエフェクトを放つ。
繰り出された一撃で目の前の青いイノシシは輝きを放って消滅する。
「うぉっしゃあああああああ!」
「初勝利おめでとう!」
「でもさ、あのイノシシはスライムレベルなんだ」
「うぇ!?マジかよ!?てっきり中ボスかなんかだと」
「「それはない」」
「二人ともひでぇ!?」
クラインはキリトとノビタニアンへ叫ぶ。
三人はしばらく大笑いする。
笑い終えた後はひたすらわき続けるイノシシを狩り続けた。
その間に三人のレベルが上がり、クラインに至ってはソードスキルを完全に使いこなせるほどになっていた。
夕焼け空を見ながら三人は草原の上に寝転がっている。
「綺麗だね」
「あぁ」
「しかし、こうして見渡すと信じられねぇな。ここがゲームの中なんてよ。SAOを創った茅場晶彦は天才だぜ。すげぇな。マジ、この時代に生きててよかったぜ」
「大げさだと思うよ?」
ノビタニアンが苦笑しながら言う。
しかし、キリトは内心、同意していた。
「ここは剣一本でどこまでもいける」
「お前、相当のめりこんでいるな?」
にやけるクラインにキリトは苦笑する。
「それで、どうするこの後?」
「このまま狩りを……って言いたいところだけどよ。一度、落ちるわ。これからに備えてアツアツのピザとジンジャーエールを用意しているんだよ」
「やりこむ気満々だね」
「おうよ!そうだ。もう一度、ログインしたら前までやっていたゲームの仲間と落ち合うんだけどよ。お前達もよかったら会ってみないか?」
「俺は……」
クラインの提案にキリトは言葉を詰まらせる。
あまり人と触れ合うことを得意としていないキリトは悩んでいるようだ。
「今回は遠慮しておくよ。また今度でいい?」
それを察したノビタニアンが横から尋ねる。
「おう!それでもかまわないぜ!そうだ、フレンド登録しておこうぜ」
「うん」
三人は互いにフレンド登録をした。
クラインはログアウトしようとメニュー画面を開く。
そこで異変に気付く。
「あれ、ログアウトボタンがねぇ」
「は?」
「え?」
二人はぽかんとした表情を浮かべる。
「もう一度、確認してみろよ。メニューの一番下にあるだろ?」
「やっぱりどこにもねぇよ。お前らも見てみろよ」
クラインに促されて二人もメニューウィンドウを開く。
無かった。
本来ならメニューの一番下にあったはずのログアウトボタンが綺麗になくなっていた。
「ねぇだろ?」
「うん」
「ない、な」
「おいおい、トラブルかぁ?しっかりしてくれよぉ、運営」
「そうだね」
「とにかく、お前のピザは残念だったな」
キリトの指摘にクラインは注文したピザとジュースの種類を叫ぶ。
そこまでショックだったのかと。
「とりあえず、GMコールしてみたら?システム側で何かしてくれるんじゃない?」
「試したけれど、反応がねぇんだよ。あぁっ!?くそっ、他に方法ってなかったっけ?」
「……いや、ない」
キリトの中でむくむくと嫌な予感という考えが浮き上がる。
その直後、
世界に鐘の音が鳴り響く。
音の出所を探る暇もないまま。
三人は青い光に包まれて転移させられた。
「って、どこだここ!?」
「始まりの街?」
「中央広場だ」
キリトの言葉でノビタニアンが周りを見る。
間違いない。始まりの街にあった中央広場だ。
なぜ、ここに?
その疑問を考えようとした時、周りに次々と人が転移されてくる。
誰もが今の状況に理解できておらず困惑している。
「どうなっているの!?」
「ログアウトできるのか?」
「早く出せよ!」
「ママ~~~!」
次第に苛立ちの声が広がり始める。
そんな時だ。
「おい!上を見ろ!」
反射的に上空を見上げる。
そこでは異様なものが出現していた。
深紅の市松模様に染め上げられ〈Warning!〉〈System Announcement〉の文字。
やがて、その文字から赤い液体がどろどろと流れ出し、それは人の形を形成していく。
出来上がったそれは身の丈が二メートルはあろうという巨大なローブを纏い、深く引き下げられたフードの下は暗闇で確認できない。
呆然としていた彼の前に声が降りかかる。
「プレイヤーの諸君、私の世界へようこそ」
誰もがその言葉の意味を理解できなかった。
ローブの話は続く。
「私の名前は茅場晶彦、今やこの世界をコントロールできる唯一の人間だ」
その名前を聞いたキリトは衝撃を受ける。
茅場晶彦。
若き天才ゲームデザイナーにして量子物理学者。
彼のファンであり何度も雑誌や映像を見てきたキリトはわかる。
この男の声はSAOの開発ディレクターにして、ナーヴギア基礎設計者本人だと。
「プレイヤーの諸君は既にメインメニューからログアウトボタンが消滅していることに気付いていると思う。しかし、それは不具合ではない。繰り返す。それは不具合ではなく、ソードアート・オンライン“本来の仕様”である」
「し、仕様、だと」
クラインが割れた声で呟く。
「諸君は今後、この城の頂を極めるまでゲームから自発的にログアウトすることはできない……また、外部の人間によってナーヴギアの停止、解除もありえない。もし、それを試みた場合……」
やめろ、とキリトは心の中で漏らす。
それ以上はダメだと。
「高出力マイクロウェーブが諸君らの脳を破壊して生命活動を停止させる」
クラインが乾いた笑いを漏らす。
「ハハッ、何言ってんだ。アイツ?おかしいんじゃねぇか?できるわけねぇよ。これは、ナーヴギアはただのゲーム機じゃねぇか、脳を破壊するなんて」
「そ、そうだよね」
彼に同意するようにノビタニアンが頷く。
しかし、キリトは知っていた。
「原理的にありえなくはない」
「だからって!」
頭上では茅場によって具体的な情報が伝えられているがクラインやノビタニアンは頭の中に入っていない。
いや、入ってはいるが処理が追い付かないのだろう。
残酷な事実が茅場から伝えられる。
「残念ながらプレイヤーの家族友人などが警告を無視してナーヴギアの強制解除を試みた例は少なくない。その結果、既に二百十三名のプレイヤーがアインクラッド及び、現実世界から永久退場している」
その言葉が事実通りなら二百人以上がゲームによって命を落としたと言える。
ありえるのか?
信じられない。
「信じない、俺は信じねぇぞ!」
クラインが叫ぶ。しかし、あまりに弱弱しいそれは誰の耳にも届かない。
「諸君が向こう側へ置いてきた肉体を心配する必要はない。現在、あらゆるテレビ、ラジオ、ネットメディアが大勢の死者が出ていることを含め、繰り返し報道している」
目の前に映像が表示される。
そのニュースはすべて茅場の事実通りの内容だ。
尚、茅場の話によれば、プレイヤーの体は病院に搬送され、厳重な看護体制のもとに置かれるらしい。
「しかし、十分に留意してもらいたい。諸君にとってソードアート・オンラインは既にゲームではない。もう一つの現実というべき存在だ。今後、ゲームにおいて、あらゆる蘇生手段は機能しない。ヒットポイントがゼロになった瞬間、諸君のアバターは永久消滅し、同時に諸君らの脳はナーヴギアによって破壊される」
その瞬間、キリト達は恐怖に押しつぶされそうになった。
咄嗟にキリトは隣を見た。
起こした行動は正解だった。
彼の隣にいたノビタニアンは泣くことも、悲しむ様子もない。
むしろ、強い瞳で赤いローブを見ていた。
「諸君がこのゲームから解放される条件はたった一つ、先に述べた通り、アインクラッド最上部、第百層までたどり着き、そこに待つボスを倒してゲームをクリアすればよい。その瞬間、生き残ったプレイヤー全員を安全にログアウトすることを保証しよう」
クラインが喚き、ガバッと立ち上がる。
「で、できるわきゃねぇだろうが!?ベータじゃ!碌に上がれなかっただろうが!?」
その言葉は事実だ。
二か月のベータテスト期間中にクリアされた層は九層。
正式サービスには一万人以上のプレイヤーがいるが、この人数を総動員しても百層をクリアするのに、どのくらいかかるのかわからない。
攻略にも己の命を懸けるのだ。
「それでは最後に、諸君にとってこの世界が現実であるという証明を見せよう。諸君のアイテムストレージへ私からのプレゼントが用意してある。確認してくれたまえ」
それを聞いて、プレイヤー全員がメインメニューからアイテム欄のタブを叩き、それを見つける。
アイテム名、手鏡。
名前をタップして実体化させる。
何の変哲もない鏡。
そこに写されているものを見た時。
全員が青い光に包まれる。
「うわっ!?」
「クライン!?……え?」
「ノビタニアン!?……わっ!」
しばらくして光が消える。
「だ、大丈夫か?」
光が消えて隣を見たキリトは言葉を失う。
そこにいたのはイケメンの少年ではなく。
「……のび太?」
目の前にいたのは現実世界における親友。
その顔だった。
「え、和人?」
向こうもこちらに気付いて本名を漏らす。
「お前ら、誰だ!?」
「お前こそ……って」
「もしかして、クライン?」
「どうなってんだよ!?」
「まるでスキャンを掛けたみたいな……待てよ。そうか、ナーヴギアは高密度の信号素子で頭から顔全体すっぽりと覆っている。脳だけじゃなくて顔も形も精細に把握できたんだ」
「でも、身長とか体格は?」
「待てよ。確か、初回に装着したときの……キャリブレーション?とかっていうので自分の体をあっちこっち触っただろ、それか?」
「成程、そういうことか」
キリトは納得した。
なぜ、こんなことをしたのか。
「これは現実だとアイツは言った。それを認識させるために顔や体などを再現させたんだ」
周りでも動揺を隠せていない。
何より先ほどまでの男女比が大きく変わっていた。
「でもよぉ、なんで、こんなことを」
「多分、すぐに教えてくれると思う」
ノビタニアンが空を見上げる。
「諸君は今、なぜ?と思っているだろう。なぜ私が、SAO及びナーヴギア開発者の茅場晶彦がこんなことをしたのかと。私の目的はどちらもでもない。それどころか、今の私はすでに一切の目的も理由も持たない。観賞するため、私はナーヴギアを、SAOを創り、今、全ては達成せしめられた」
短い間をおいて、ゲームマスターは告げる。
「以上で“ソードアート・オンライン”正式サービスチュートリアルを終了する。プレイヤー諸君の健闘を祈る」
そう言い、僅かな残響を残して、深紅のローブ姿が上昇していく。
同時にフードの先端からどろどろしたものが流れ出し、最後に波紋を残して消え去っていき、ゲーム本来の色が世界に戻っていく。
「ウソだろ!?」
「ふざけるな!出せ!ここから出せよ!」
「ママ~~~~!」
「母ちゃん!!」
「嫌ぁあ!帰して!帰してよぉぉぉぉおお!」
はじまりの街に様々な感情が渦巻く。
その中でキリトとノビタニアンは非情にも理解してしまう。
これは現実だ。
茅場晶彦の語った内容は全て真実。
自分たちは当分の間、数か月、あるいはそれ以上、現実世界に帰ることができない。そればかりか、母親や妹の顔を見ることも、会話をすることも永遠に来ないかもしれない。
――もし、この世界で死んでしまったら
キリトの頭に浮かぶ。
青いイノシシのタックルを受けてHPが0になった時。
自分の体がはじけ飛ぶ姿を。
ぽたりと今朝、雑誌で指を切った箇所から血が流れていく……ことはない。
目の前のキリトの指から血は流れていなかった。
息を吐いたキリトは二人に来るように促す。
頷いたノビタニアンも後に続こうとした時。
――本当に偶然だった。
小さな手がノビタニアンの腕を掴む。
「え?」
驚いた顔をしてノビタニアンが見る。
長い髪を地面につけてぺたんと座り込んでいる少女がいた。
「よく聞け、この世界で生き残るためにはひたすら自分を強化しなきゃならない。MMORPGっていうのはプレイヤー間のリソース奪い合いなんだ。システムが供給する限られた金とアイテム、経験値をより多く獲得した奴だけが強くなれる。この街は同じことを考える連中に狩りつくされて、すぐに枯渇してしまう。おそらくモンスターのリポップをひたすら探し回る嵌めになる。今のうちに次の村へ拠点を移した方がいい。俺は道も危険なポイントも全部知っているから今のレベルでも安全にたどり着ける。すぐに次の場所に行く。お前も一緒に来い」
ノビタニアンがいないことに気付かないまま、キリトは狭い通路でクラインと話をしていた。
「でも、でもよ。言ったろ。俺は他のゲームでダチだった奴らと徹夜で並んでソフトを買ったんだ。そいつらもログインしてさっきの広場にいるはずだ。置いて、行けねぇ」
クラインという男は陽気で、人懐っこく、面倒見もいいんだろう。
彼はその友達全員を一緒に連れて行きたいと思っている。
キリトは頷くことができなかった。
ノビタニアンを含め、あと一人ならなんとかできる。
しかし、あと一人、もっと増えたら危うい。
もし、大勢を連れて死者が出てしまった場合、茅場の言葉通りHP0が現実の死というのだとしたら。
死んだ人の責任を背負うのはキリトだ。
人の命を背負えるのだろうか?
ぶるぶると吐き出しそうになる感情を必死に抑え込む。
そんな考えを察したクラインが笑みを浮かべる。
「お前にこれ以上、世話になるわけにはいかないな。俺だって前のゲームじゃギルドの頭を張っていたんだしよ!大丈夫。今まで教わったテクでなんとかしてやるって!それに……これが全部悪趣味なイベントで、ログアウトできる可能性だってまだあるしな。だから、おめぇは気にしねぇで、次の村へ行ってくれ。俺がいうのも変だけど。お前とノビタニアンがいればなんとかなるかもしれない。そんな気が……する」
「……そうだな、アイツがいれば、なんとかなると思う」
キリトの表情が柔らかくなる。
「また会おうぜ!」
「あぁ、何かあったらメッセージをくれ」
そういってキリトはクラインと別れて走り出す。
「おい、キリト!」
呼ばれてキリトは振り返る。
「お前、かわいい顔してやがんな!結構、好みだぜ!」
「お前も、その野武士面の方が十倍、似合っているよ!」
二人は別れる。
ちらりとキリトは振り返った。
既にクラインの姿はない。広場へ仲間を探しに戻ったのだろう。
誰もいない狭い路地裏を見て、キリトの中で棘のように罪悪感が突き刺さった。
「キリト」
呼ばれて前を見る。
そこにいたのは特徴もない、丸眼鏡をした少年。
何の特徴もない。どこにでもいそうな。普通よりもドジで間抜けな子供。
だが、キリトは知っている。
どんな状況でも一人だけ諦めず、丸くて愛嬌のあるロボットと一緒に色々な大冒険をしてきた友達。
誰よりも優しくて、一番、心の強い親友。
彼がいれば、自分の心は折れない。
どこまでもいけるだろう。
そう感じさせる頼りになる相棒。
「行こう」
微笑む親友の姿にキリトは頷く。
「あぁ、行こう!そして、俺達は生きる」
こうして、ソードアート・オンラインはデスゲームとして開始された。