ドラえもん のび太と仮想世界   作:断空我

2 / 57
01:ビーター

 ソードアート・オンラインの正式サービスから一か月が経過した。

 

 はじまりの街を抜け出したキリトとノビタニアン、そして街で出会った一人の少女。

 

「ねぇ、ノビタニアン、キリト、これからどうするの?」

 

 長い髪を揺らして尋ねる少女の名前はユウキ。

 

 はじまりの街でノビタニアンにヘルプを求めてから一緒に行動している片手剣使い。

 

「今日はこの街の広場へ行くんだよ」

 

「広場?」

 

 首を傾げるユウキにノビタニアンが苦笑する。

 

 このメンバーにおいてSAOの戦闘経験が豊富なキリトに続いてユウキは初心者にしてはベテランに匹敵する実力を有していた。

 

 片手剣を使っているノビタニアンは二人と違って盾を装備している。

 

 敵の攻撃を防いで二人が攻め込む。

 

 そんな戦闘スタイルが確立していた。

 

 三人は一カ月の間に様々な村を移り歩き、クエストをこなしている。

 

 最初のころと比べて三人の装備は色々と変わっている。似ているところがあるとすれば所持している剣くらいだろう。

 

 

 

――アニールブレード。

 

 

 第一層のクエストで手に入る武器だが、なかなかの強さを持っており他の階層においても使えるというらしい。

 

 ベータテスター経験者のキリトの言葉を信じて強化をしているが中々のものだ。

 

 ノビタニアンも一応はベータテスターなのだが、家の手伝い、補習などで熱心にプレイはできていない。

 

 だが、ソードスキルや危険なモンスターなどの知識は頭に入っている。

 

「どうして、そんなところに行くの?」

 

「第一層のボス部屋が見つかったからその会議をするんだよ」

 

 キリトの言葉にユウキが目を丸くする。

 

「あ!やっと見つかったんだ」

 

 ユウキの言葉にキリトは何とも言えない表情を浮かべる。

 

「ま、まぁ、一カ月、掛かっていることは仕方ないんじゃない?みんな、慎重なんだからさ」

 

 ノビタニアンの言葉でそんなものかとユウキは納得していた。

 

「さ、行こうぜ」

 

 キリトの言葉に二人は頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ソードアート・オンラインの正式サービススタートから一か月。

 

 プレイヤーは二種類に分かれた。

 

 一つははじまりの街に閉じこもり救助が来ることを望む人たち。

 

 もう一つが自ら街を抜け出して攻略のために奮闘する者達。後者においてはキリトを含めたベータテスターのほとんどが行動を起こしているという。

 

 しかし、既に死者が出ている。

 

 最初の死人はモンスターによるHP0ではなかった。

 

 自殺だった。

 

 情報でしか知らないが、とち狂った人間が外につながる淵へ飛び降りて自分の理論を実証するために飛び降りた。

 

 それを皮切りにというわけではないが、多くの人がトラップやモンスターによって命を落としている。

 

 一人、三人の前で命を落としたプレイヤーがいた。

 

 アニールブレードを取得するクエストにおいてキリト達を見捨てたソロプレイヤー。

 

 実際に人が死ぬ光景を見た時は三人ともショックが抜けなかった。

 

 思考で沈んでいたノビタニアンはある声で顔を上げる。

 

「はーい!それじゃ、そろそろ始めさせてもらいます!みんな、もうちょっと前に!そこ……あと、三歩ほどこっち来ようか!」

 

 場所は迷宮区最寄りのトールバーナの街、そこで第一層のフロアボス攻略会議が開かれようとしていた。

 

 周りをノビタニアンは見る。

 

 

――四十七人。

 

 

 司会を担当している青年を含めたメンバー。

 

 それを見て、キリトは心の中で「少ないな」と思う。

 

 SAOでは一パーティーが最大八人までであり、計四十八の連結パーティーを作成することができる。

 

「今日は俺の呼びかけに応じてくれてありがとう!知っている人もいると思うけれど、自己紹介しとくな!俺の名前は“ディアベル”。職業は気持ち的にナイトやっています!」

 

 間延びしたような挨拶に会場がどっと沸き、口笛や拍手に混じって「本当は勇者って言いたいんだろー?」というヤジが飛ぶ。

 

 今のヤジはおそらくディアベルのパーティーメンバーだろう。

 

 ディアベルは右手を掲げて場を制して、話し始める。

 

「こうして最前線で活動しているトッププレイヤーのみんなに集まってもらった理由はもう言わなくてもわかると思うけれど、今日、俺達のパーティーが第一層のボス部屋を発見した!」

 

 会場内がざわめく。

 

「そこのボスを倒して俺達はみんなに伝えなきゃいけない。このゲームは必ず攻略できるって!それがここにいるトッププレイヤーの義務だ。そうだろう?みんな!」

 

「そうだ!やってやろうぜ!」

 

「俺達ならやれる!」

 

 ディアベルの言葉に誰もがやる気に溢れていた。

 

 そんな空気に水を差すものがいる。

 

「ちょぉ待ってんか!ナイトはん」

 

 人垣が半分に割れてずかずかと前に出てきたのは、小柄ながらがっちりとした体格の男。

 

「ぷふ、なに?あの頭」

 

「ちょっと、ユウキ、聞こえちゃうよ」

 

「そういうノビタニアンも笑いこらえているでしょ?」

 

「ま、まぁ、あんな髪型を見ればねぇ」

 

 彼らの視線は乱入してきた男の頭。

 

 トゲトゲしているも〇っ〇ボールみたいな頭。それを見て笑いをこらえているのだ。

 

「こいつだけは言わせてもらわんと!仲間ごっこはできへんからな!」

 

「こいつっていうのは何かな?でも、発言するなら名乗ってもらいたいな」

 

「ワイはキバオウってもんや!こん中に詫びを入れなあかん奴らがおるはずや!」

 

「……詫び?誰にだい?もしかして、元ベータテスター経験者のことかな?」

 

 キバオウは吐き捨てる。

 

「はっ!決まっとるやろ!?ベータ上がりどもはこのクソゲームが始まった日にはじまりの街から消えよった。右も左もわからん九千人のニュービーを見捨てよった。その代わりにうまい狩場やクエストを独り占めしてジブンらだけぼんぼん強くなって。そのあともずぅっと知らんぷりや。この中にもおるはずやで!ベータ上がりっちゅうことを隠している奴が!そいつらに土下座さして、ため込んだ金やアイテムをこのボス戦のために吐き出してもらわな。パーティーメンバーとして命は預けられへんし、預かれんとワイはそう言うとるんや!!」

 

 キリトは顔をしかめる。

 

 元ベータテスターである自身も思うところがあるのだろう。

 

 だが、これを良しとしない“者達”がいた。

 

「ちょっと待ってよ!」

 

 手を上げたのはノビタニアン。

 

 彼は壇上へ向かう。

 

 その後ろへ続くのはユウキだ。

 

「お、おい」

 

 キリトの制止を聞かずに彼らはキバオウの前に立つ。

 

「発言いいかな?」

 

「い、いいよ」

 

「僕はノビタニアン、このゲームは初心者だよ。キバオウさんだよね?貴方はこのゲームで死んだ人数についてどのくらい知っていますか?」

 

「な、なんや、二千人や!それがどないした!」

 

「その中にベータテスターが何人含まれているか知っている?」

 

 続く形でユウキが尋ねる。

 

「……し、知らん」

 

「少なくとも三百人は含まれている。これはネズミからの情報だから間違いはないよ」

 

「な、なんやと!?」

 

「キバオウさん、貴方は見捨てたベータを許せないみたいだけど、全てのベータテスターが悪人というわけじゃないと思うんだ。初心者の僕をベータテスターの一人は見捨てずに助けて、いろいろと教えてくれた。そんな人もいるのにすべてが悪だって糾弾するのは間違っていると思うんだ」

 

「ぐっ」

 

「ボクもそう思うよ。あ、ユウキ。片手剣使いだよ~」

 

 のんびりとした口調のユウキが続き。

 

「ノビタニアンの話を付け加えると、ベータテスターだから命を落としたという可能性もあると思うんだ」

 

「ど、どうゆうこっちゃ!?」

 

「ベータテスターの人って、このゲームについて経験があるんでしょ?何も知らない人と違って経験があるから、死ぬかもしれないという線を読み間違えたんじゃないかな?少し前にあったこの剣を取得するクエストだって、ベータテスターの人によると内容に変更が入っている。だから、ベータの人がすべて悪いというのは間違いだと思う」

 

「俺も発言いいか?」

 

 二人に続いて屈強な肉体をした男が手を上げる。

 

「俺の名前はエギル。キバオウさん、アンタはこのガイドブックを知っているよな?」

 

 エギルが取り出したのはあるマークが記されているガイドブック。

 

 ノビタニアンやキリトが少しばかりの金を支払って作成されている。

 

「これは各町の道具屋で無料配布されているものだ」

 

「「((無料配布だと!?))」」

 

 キリトとノビタニアンは目を丸くする。

 

「これの作成に協力してくれたのはベータテスターだという。情報はあっちこっちにあったんだ。それなのに死んだ者がいたのは自分の中にいた情報を過信していたかもしれないということだ」

 

 そこでディアベルが話をまとめる。

 

「キバオウさん、キミの言うことは理解できる。俺だって右も左も判らないフィールドで何度も死にそうになりながらここまでたどり着いたわけだ。でも、今は前を見るべき時だ。元ベータテスターだって、いや、元ベータテスターだからこそ、ボス攻略のために必要な人材なんだ。彼らを排除して、結果、ボス討伐が失敗したら何の意味もないじゃないか」

 

「……ええわ、ここは引いといたる。でもな!ボス戦が終わったらきっちり白黒つけたるからなぁ!」

 

 そういってキバオウは席に戻る。

 

 ユウキとノビタニアンもキリトの方へ向かう。

 

「あぁ、疲れたよ」

 

「こっちは心臓が止まるかと思ったよ。びっくりさせるなよなぁ」

 

「だって!我慢できなかったんだよ!あんな悪口……といってもノビタニアンがほとんど言っちゃったんだけど」

 

 たははと苦笑する。

 

「じゃあ、攻略会議を再開したいと思う。まずは仲間や近くにいる人とパーティーを組んでくれ」

 

 ディアベルの言葉でキリトは青ざめるが。

 

「大丈夫、僕達と組もう」

 

「そうそう!あ、あの人、あぶれちゃったのかな?」

 

 ユウキは隅っこで動かないフードを深くかぶっている人物に気付いた。

 

「ボクが行ってくるよ」

 

「俺も行くよ」

 

 ユウキとキリトがフードの人物に近づいた。

 

「アンタ、あぶれたのか?」

 

「違うわ、周りが親しい人ばかりなだけよ」

 

「もしよかったらだけど、ボク達とパーティー組まない?」

 

「いいの?」

 

「うん!」

 

「僕も問題ないよ。自己紹介するね。僕はノビタニアン、こっちはユウキだよ」

 

「よろしくね!」

 

「えぇ、よろしく」

 

 二人はフードの少女を連れてキリトの元へ向かう。

 

 そのまま会議を続けようとした時、新たな攻略本が道具屋に並んだということで一時中断されて、全員がガイドブックを読み漁っていた。

 

 ボスの情報、武器について打ち合わせがなされて会議は解散する。

 

 ちなみにキリト、フードの少女、ユウキ、ノビタニアンのメンバーはE隊のおまけに振り分けられる。いわば、ボスの取り巻きコボルトを狩るというわき役。

 

 キバオウが去り際に悪態をついていった。

 

 どうやらノビタニアン達は先ほどの行動で目をつけられてしまったようだ。

 

「ボス討伐についていろいろと教えて」

 

 解散しようとした時、キリトへ少女が話しかける。

 

 それからが大変だった。

 

 少女はボス討伐を含め、SAOのゲーム知識がほとんどといっていいほどなく、キリトが付きっ切りで指導することとなった。

 

「あ、それならノビタニアン――」

 

「あぁいいよ。僕も」

 

「お腹すいたからノビタニアン、ごはん、食べに行こう!」

 

 有無を言わせずノビタニアンはユウキに連行された。

 

「マジかよ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜。

 

 少女と別れてキリトが宿へ戻るとそこには先客がいた。

 

「ヨー、キー坊、お邪魔しているゾ」

 

 フードをかぶり、髭のようなものをペイントされた人物、情報屋アルゴがいた。

 

「よぉ、アルゴ……寛いでいるな」

 

「まぁナ。ノンビがおいしいパンを用意してくれるからな」

 

「おいおい」

 

 キリトがげんなりした表情でベッドの上で寛いでいるノビタニアンを見る。

 

 彼は既に寝ていた。

 

「いつも思うけれど、ノンビはオレっち達と別ベクトルの意味で天才だと思うナ~」

 

「それは否定しない」

 

 キリトが苦笑する。

 

 デスゲームと化した世界の中でマイペースで行動できる人間はすごいと純粋にキリトは思う。

 

「あれ、ユウキは?」

 

「見えていないのカ?」

 

 アルゴに言われてよく見るとノビタニアンの背中へくっつくように寝ている。

 

「兄妹……に見えるな」

 

「そうだな、これは何コルで売れるかな」

 

「やめろ」

 

 親友の名誉のため、キリトはアルゴに釘を刺す。

 

 情報屋アルゴ。

 

 彼女は金になる情報なら何でも商売にする。

 

 プライベートの情報から剣の売買まで“ネズミと話していると何万コルも払わされるぞ”という言葉まである。

 

 キリトとしては頼りになる情報屋とみていた。

 

「さテ、商売を始めるか」

 

 アルゴの言葉にキリトはため息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何度も攻略会議を重ねた。

 

 ボスの情報から討伐の流れまで。

 

 多くの会議を重ねた本日。

 

 ボス討伐のために迷宮区へ向かっていた。

 

 今のところボス部屋まで行くには迷宮区を通ってボス部屋を目指さないといけない。

 

 道中、湧き出すモンスターを倒しながらキリト達は後方で話をしていた。

 

「どうして、こんな団体行動をしないといけないの?」

 

「ボス部屋までに行く手段が足しかないからね。転移用のアイテムがあれば別なんだけどね」

 

 ノビタニアンが肩をすくめた。

 

 あれから少女はキリトの指導によって装備を変え、スキルもより洗練されたものとなりコボルト相手なら余裕で戦える。

 

 いや、それ以上の実力者になるだろう。

 

「キリトの目がゲーマーになっているよ!?」

 

「よくあることだから」

 

 キリトと付き合いの長いノビタニアンは気にする様子を見せなかった。

 

「ええか、今日はずっと後ろに引っ込んでおれよ!ジブンらはワイのパーティーのサブ役でしかないんやからな。大人しく、狩り漏らしたコボルトの相手しとけや!」

 

 列から外れてキバオウが釘をさしてくる。

 

 その姿にユウキは嫌そうに顔を歪め。ノビタニアンは小さく頷いた。

 

 キリトは何かを探るようにキバオウの顔を見ている。

 

「どうしたの?」

 

 気づいたノビタニアンがキリトへ尋ねる。

 

「いや……何でもない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 迷宮区を通ってボス部屋の前にたどり着く。

 

 ボス部屋。

 

 この中にいるボスを倒せば一層は攻略できる。

 

 まもなくボスと戦うという事に緊張していた。

 

「みんな」

 

 部屋の前でディアベルが振り返る。

 

 その目は決意で満ちていた。

 

「勝とうぜ!」

 

 一言に込められた言葉に誰もが大きく頷く。

 

 扉が開かれる。

 

「最終確認だ。今日の戦闘で俺達が相手をする“ルインコボルト・センチネル”はボスの取り巻きの雑魚扱いだけど十分に強敵だ。ざっと説明したけど、頭と胴体の大部分が金属鎧でがっちり守られているからまずはノビタニアンが奴の長柄斧を防ぎ、ソードスキルで跳ね上げさせるから、スイッチして残りのメンバーで畳みかけるんだ。絶対に集中力を切らすなよ?ボス戦では致命的になるからな」

 

「うん!」

 

「任せて」

 

「わかった」

 

 手順を確認したところで上空からモンスターが降り立つ。

 

 狼を思わせる顎を限界まで開き、吠える。

 

 ボスの名前が目の前に現れた。

 

 “インフィング・ザ・コボルトロード”。

 

 二メートルを超えるたくましい体躯。

 

 血に飢え、らんらんと輝く隻眼。

 

 右手に骨を削って作ったような斧を構え、左手にはバックラーを構え、腰には二メートル半ほどの長物がある。

 

「よし!ボスの武装は情報通りだ!これならいけるぞ!」

 

 ディアベルの指揮により各隊が突進していく。

 

 キバオウが率いるE隊と支援するG隊が取り巻きのルインコボルト・センチネルに飛び掛かりタゲをとる。

 

 だが、その中から一体が抜けて、こちらへ突進してくる。

 

「じゃ、行くね」

 

 迫ってくるルインコボルト・センチネルに盾を構えたノビタニアンが対応する。

 

 彼の剣が輝き、ソードスキル〈ソニックリープ〉を繰り出す。

 

 攻撃を受けてルインコボルト・センチネルの長柄斧が弾かれた。

 

「スイッチ!」

 

 入れ替わるように飛び出したのはフードの少女。

 

 彼女は手の中にある細剣を繰り出す。

 

 ソードスキル〈リニアー〉が。

 

 ユウキのソードスキル〈ホリゾンタル〉がルインコボルト・センチネルの命を奪っていく。

 

 止めとばかりにキリトがソードスキル〈スラント〉で止めを刺す。

 

 これによってセンチネルのHPを全損してその体を散らす。

 

「やったね」

 

「うん!」

 

「はじめてにしては良い連携だった」

 

 パン、パンとユウキ、ノビタニアン、キリトがハイタッチする。

 

 続いて、キリトが少女へ手を出す。

 

 ぽかんとしていたが彼の手とハイタッチする。

 

「次も行こう」

 

 四人は狩り漏れたルインコボルト・センチネルへ走り出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ボスであるコボルトの討伐は順調に進んでいた。

 

 取り巻きのセンチネルもオマケといえる四人で処理していたのでキバオウの部隊もコボルト王の増援へ向かっている。

 

 取り巻きのコボルトを討伐したキリトへキバオウがそっと話しかける。

 

「アテが外れたやろ?ええ気味や」

 

「……は?」

 

 いきなりのことで意味が分からず、振り向きざまに声を上げる。

 

 残り一体もノビタニアンが屠っていたのでしばらく出現するのに少しばかり時間がかかるだろう。

 

「何が言いたいんだ?」

 

「ヘタな芝居をすんな。こっちはもう知っとるんや、ジブンがこのボス攻略にもぐりこんだ動機という奴をな」

 

「動機だと?ボスを倒す以外に理由があるのか?」

 

「何や開き直ったのか?ワイは知っているんや、ちゃんと聞かされたんやで?アンタが昔汚い立ち回りでボスのLAを取りまくっていたことをなぁ!」

 

 LA、ラストアタック。

 

 キリトはベータテスト時代に数多くのボス戦で敵のHPゲージ残量を測りつつ最大威力のソードスキルを叩き込み、ラストアタックボーナスを狙うことを得意としていた。

 

 しかし、それはあくまでベータテスト時代において。

 

 キバオウはキリトが元ベータテスターだったころはおろか、当時のプレイスタイルまで知っているような口ぶりだった。

 

「(待てよ)」

 

 目の前の男は“聞いた”といった。

 

 それはつまるところ伝言情報ということだ。

 

 キリトはアルゴから自身の使用しているアニールブレードを売買している相手がキバオウだと聞いている。

 

 もしかしたらキバオウも元ベータテスターなのかと考えたが、この話からキリトは推察した。

 

 キバオウもある人物の代理人として動いていたのではないだろうか。

 

 黒幕はキバオウへベータ時代の情報を与えた。そうすることで元ベータテスターへの敵意を煽って操ることにした。

 

 ソイツの狙いはアニールブレードを奪い、自身の攻撃力をあげるためではなく、キリトの攻撃力を削ぎ、弱体化させて嘗て得意としていたLAボーナスの取得を妨げること。

 

「キバオウ……アンタにその話をした奴はどうやってベータテスト時代の情報を入手したんだ?」

 

「決まっとるやろ。えろう大金積んで、ネズミからベータ時代のネタを買ったいうとったわ」

 

――これは嘘だ。

 

 アルゴは自分のステータスを売ってもベータテスト関連の情報は絶対に売らない。

 

 その時、前線の方で動きがあった。

 

 ボスの四段あったHPゲージが遂に最後の一本へ突入したのだ。

 

 三本目のゲージを削った部隊が後退して代わりに回復を終えた部隊がボスへ突進していく。

 

 

 その際にディアベルは此方へ振り向き、不敵な笑みを浮かべる。

 

 コボルト王が猛々しい雄叫びを放つと壁の穴からセンチネルが湧き出す。

 

「雑魚こぼ、くれたるわ。案の定LA取りや」

 

 キバオウは自身の部隊へ戻っていく。

 

 彼とすれ違うようにノビタニアンが近づいてきた。

 

「何を話していたの?」

 

「……大丈夫だ、まずは敵を倒そう」

 

「あとで、話してね?」

 

「……あぁ」

 

 湧き出たセンチネルを倒すために二人は駆けだす。

 

 ノビタニアンが突っ込んでいく姿を見て、不意にキリトの頭にあることが浮かぶ。

 

 黒幕の正体。

 

 考えていることはLAを奪うこと。

 

 そんなことができる人物は誰か?

 

 キリトの頭の中の電気を誰かが付けた。

 

「キリト!」

 

 ノビタニアンの言葉で意識を戻して目の前のボスへソードスキルを放つ。

 

 センチネルを倒したところでボスの方も終わりが見えていた。

 

 コボルト王は雄叫びを上げて自身の武器を放り投げて、腰に下げている武器を取り出す。

 

「下がれ、俺が倒す!」

 

 ディアベルが指示を出しながら前へ飛び出す。

 

 剣が輝いている。

 

 LAを狙っているのだ。

 

 遠くからではっきりできないが湾刀にしては細すぎる。武器の輝きが違う。

 

 キリトは目を見開く。あれは湾刀じゃない。あれは上階のモンスターが使っていた。モンスター専用のカテゴリの野太刀。

 

「だ、ダメだ!」

 

「キリト!?」

 

 キリトは限界を超える勢いで叫ぶ。

 

「だ、ダメだ!下がれ!!全力で後ろに跳べ!」

 

 しかし、コボルト王の攻撃がディアベルを貫く。

 

 彼は目を見開き、宙を舞う。

 

 その動きでソードスキルもキャンセルされてしまう。

 

 刀専用ソードスキル、重範囲攻撃『旋車』

 

 攻撃によって部隊のHPが大幅に削られて行動不能状態となる。

 

「ノビタニアン!」

 

 咄嗟にキリトは叫ぶ。

 

 彼の名前を呼んだのは偶然だった。

 

 だが、相手は自分の考えを読んだ。

 

「行こう!」

 

 駆け出して道を阻もうとするセンチネルをノビタニアンが露払いして、キリトは走る。

 

 しかし、コボルト王が続いてソードスキル“浮舟”が放たれた。

 

 標的はディアベル。

 

 動けない彼はソードスキルを繰り出すこともできず。次撃の攻撃をその身に受けた。

 

 ソードスキル“緋扇”が彼を捉えた。

 

 遠くまで吹き飛ばされたディアベルにキリトが駆け寄る。

 

「おい!しっかりしろ……なんで」

 

「ベータテスターならわかるだろ?」

 

「……LAボーナス」

 

 やはり黒幕はディアベルだった。

 

 回復アイテムを取り出しているキリトの手を掴んでディアベルは訴える。

 

「すまない、キリトさん、あとは頼む。ボスを倒してくれ」

 

 そういって騎士ディアベルはその体を弾け散らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リーダーディアベルの死は戦っているメンバー全員に大ダメージを与えた。

 

 誰もが困惑して、悲鳴が上がる。

 

 死ぬという状況が想定外すぎて、誰もがどう行動に移せばいいのかわからくなっていた。

 

「なんで……なんでや、ディアベルはん。リーダーのアンタがなんで最初に」

 

 項垂れているキバオウへキリトが近づく。

 

 無理やり引っ張り上げて叫ぶ。

 

「へたっている場合じゃないだろ!!」

 

「な……なんやと?」

 

「E隊リーダーのアンタが腑抜けていたら仲間が死ぬぞ!いいか、センチネルは湧き出る。そいつらはアンタ達が対処するんだ!」

 

「……なら、ジブンはどうすんねん、一人とっとと逃げようちゅうんか?」

 

「そんなわけあるか……決まっているだろ?ボスのLAを取りに行くのさ」

 

 キリトはそういってアニールブレードを構える。

 

 騎士ディアベルは皆を逃がせ、ではなく、ボスを倒せといった。

 

 ディアベルの意思をキリトは継ぐことにした。

 

 これから行われるのは決戦、いや血戦だ。

 

 キリトの隣にノビタニアンが立つ。

 

 おそらく、これからやろうとしていることに気付いているのだろう。

 

「行くよ、キリト」

 

「すまない」

 

「違うでしょ?」

 

 苦笑しながらノビタニアンは言う。

 

「悪い、手伝ってくれ。ノビタニアン」

 

「うん!」

 

 頷いてキリトは後ろの二人を見る。

 

 キリトは「前線が崩壊したら即座に離脱しろ」というつもりだったが、それよりも早く少女とユウキが近づく。

 

「二人だけで行かせないよ。ボクも一緒に行く」

 

「私も行く。このまま逃げるなんてできない。私は戦う!」

 

「おいおい」

 

「大丈夫だよ」

 

 ポンとノビタニアンがキリトの肩を叩く。

 

「一たす一は二。二は一より強い!だよ!」

 

「懐かしいな。その言葉、マヤナ国だっけ?」

 

「うん」

 

 あの日の出来事を思い出してキリトは苦笑する。

 

「行くぞ!ボスを倒す!」

 

「おう!」

 

「「うん!」」

 

 走り出したとき、キリトの隣にいた少女がはためくフードを邪魔そうに掴み、一気に体からひきはがす。

 

 栗色の長髪をなびかせ、疾駆する少女の姿は一筋の流星のようなものだった。

 

 その姿に誰もが言葉を失う。

 

 生まれた静寂を逃さずにキリトは叫ぶ。

 

「全員!出口方向に下がれ!ボスを囲まなければ、範囲攻撃は来ない!」

 

 キリトの叫びと共に彼らは下がっていく。

 

「それでそれで!どうやってあれと戦うの?センチネルと同じ?」

 

「ああ、手順はセンチネルと同じ。ただ、かなり厄介だからな。気を付けろよ」

 

「うん!」

 

 地面を蹴り、ノビタニアンが駆けだす。

 

 コボルト王が両手で握っていた野太刀から左手を離し、左腰側へ構えようとしている。

 

 ノビタニアンのアニールブレードが輝き始めた。

 

 ”ソニックリープ”を繰り出す。

 

 ボスが構えていた太刀が緑色に輝き“辻風”が放たれる。

 

「ぐっ……くあっ!」

 

 交差した剣の衝撃でコボルト王とノビタニアンは二メートルほど後ろへ下がる。

 

 その後ろから少女のリニアーが、ユウキとキリトが繰り出したスラントがコボルト王を貫く。

 

 この攻撃でコボルト王のHPが減少するが、センチネルと比べてHPバーが多い相手だ。戦いはまだまだ続くことはわかっていた。

 

 入れ替わるように前へやってきたノビタニアンの一撃がコボルト王に突き刺さる。

 

 交代を繰り返してコボルト王へダメージを与えていく。

 

 このままいけばなんとかなるのではないだろうか?

 

 誰もがそう思い始めるが現実は甘くない。

 

 

「しまった!」

 

 ノビタニアンがソードスキルをキャンセルしようとして失敗する。

 

 そこをコボルト王の“幻月”が襲い掛かる。同じモーションから上下ランダムに発動するため、対応が遅れて咄嗟に盾を構えるも衝撃が強すぎて盾ごとノビタニアンの体を切り裂く。

 

 間に割って入ったユウキも敵の技を受けてしまう。

 

 “幻月”は技後硬直が短い。

 

 続いて繰り出されようとしているのはディアベルを殺した“緋扇”だ。

 

 させるわけにいかない!とキリトが前へ踏み出したとき。

 

「うぉおおおおおおおおお!」

 

 後ろから野太い声と共に重たい一撃が突き刺さる。

 

「わっ!?」

 

 頭上を通過した攻撃にユウキが驚きの声を漏らす。

 

 攻撃をしたのは重武装の集団で構成されているリーダーを務めているエギルだ。

 

「あんたらがPOT飲み終えるまで、俺達が支える。ダメージディーラーにいつまでもタンクやられちゃ、立場ないからな」

 

 気づけば、エギルだけでなく、彼の仲間であるB隊のメンバーが集まってきていた。

 

 キリトの指示を受けながら戦いだすB隊メンバー。

 

 残されたキリト達四人はポーションを飲んで回復を待つ。

 

「キリト、倒しきれるかな?」

 

 その質問にキリトは冷静に考察する。

 

「行ける、いや、行くんだ」

 

 その言葉にノビタニアンは頷いた。

 

 回復を終えたメンバーは走り出す。

 

 その時、コボルト王がスキルを放つ。

 

 狙いは。

 

「“アスナ”避けろ!!」

 

 キリトの叫びに、細剣使いの少女、アスナはギリギリのところで攻撃を躱そうとする。

 

「させない!」

 

 振り下ろされようとしていた攻撃に片手剣ソードスキル“ソニックリープ”を放つユウキが踏み込む。

 

 ソードスキルが旋車を発動させようとしているコボルト王の左腰に突き刺さる。

 

 瞬間、コボルト王の巨体は空中で傾き、床へ叩きつけられた。

 

 起き上がろうと手足をばたつかせる。

 

「これは、転倒状態……」

 

 キリトは叫ぶ。

 

「全員、フルアタック!囲んでもいい!」

 

 エギルら、守りに専念していた部隊が鬱憤を晴らすように次々と攻撃を叩き込んでいく。

 

 賭けだ。

 

 これでコボルト王を倒しきればこちらの勝利。

 

 転倒から脱しられたら刀のソードスキルが炸裂してさらに不利な状況に持ち込まれてしまう。

 

 起き上がろうとするコボルト。

 

「終わらせるぞ!」

 

「うん!」

 

「わかった!」

 

「えぇ!」

 

 倒れているコボルト王へ四人は剣を構えて攻撃を仕掛ける。

 

 アスナのリニアーがコボルトの脇腹を。宙を舞うように跳ぶユウキのバーチカルがコボルトの肩へ。ノビタニアンのソニックリープが腹部へ。

 

 止めとばかりにキリトのバーチカル・アークを放った。

 

 コボルト王の巨躯が力を失い、後方へよろめき、体にひびが入り、その体が消滅する。

 

【Congraatulations!】の文字が現れる。

 

 誰もが言葉を失っていた。

 

 戦いを終えたメンバーはボスを倒したという事実を理解するのに少しばかり時間を有している。

 

 

 

 

しばらくして。

 

 

 

 

「やったあ!」

 

「やった!勝った!勝ったぞ!」

 

 両手を突き上げて叫ぶ者、仲間と抱き合う者、様々な喜びが沸き起こる。

 

 座り込んでいるキリト達へゆっくりと近づく大きな人影があった。

 

「見事な指揮だったぞ。それ以上に見事な剣技だった。コングラチュレーション、この勝利はあんたのもんだ」

 

「いや、これは俺のだけの力じゃ成し遂げられなかったよ」

 

「エギルさん、だよね?さっきは助かりました、ありがとう!」

 

 ユウキがエギルへ体を向けてぺこりと頭を下げる。

 

「おう、良いってことよ!」

 

「僕からもお礼をさせてください。ありがとうございます」

 

「ありがとう」

 

 ノビタニアン、アスナからお辞儀をされてエギルは困惑した表情を浮かべる。

 

「当然のことをしただけだ、気にしなくていい」

 

 アスナがキリトへ近づき右手を差し伸べてくる。

 

「立てる?」

 

「ああ」

 

 右手をゆっくりとひっぱりあげられ、立ち上がった時だ。

 

「なんでだよ!!」

 

 そんな叫び声があがった。

 

 半ば裏返った、泣き叫んでいるかのような響きだ。

 

「なんで、ディアベルさんを見殺しにしたんだよ!」

 

 叫びの主はディアベルと共にいたメンバーの一人だ。

 

 キリトは言葉の意味がわからなかった。

 

「見殺し?」

 

「だって、そうだろ!?アンタはボスの使う技を知っていた!最初からあの情報をディアベルさんに伝えていれば、ディアベルさんは死ななかった!!」

 

 彼の言葉に黙っていなかったものがいた。

 

「ちょっと、待ってよ」

 

 ぶるぶると手を振るわせてノビタニアンが彼の前に立つ。

 

「キリトが見殺しにしたなんて言葉を取り消してよ」

 

「な、なんだと!?」

 

「僕達はこのボスを攻略するために集まっていたんだよ!それなのに誰かを見殺しにして何の意味があるの!?ないでしょ!?仲間の死を認められないからってその罪を押し付けようとしないでよ!!」

 

「ノビタニアン、やめろ」

 

 尚も詰め寄ろうとするノビタニアンをユウキとエギルが止める。

 

 ノビタニアンは涙を零しながら目の前の相手を睨んでいた。

 

 この場の空気がそれで止まろうとした時。

 

「オレ……オレ知っている!こいつは、元ベータテスターなんだ!ボスの攻撃パターンとかうまいクエスト、狩場とか、全部知っているんだ!知ってて隠していたんだ!」

 

 ユウキ達は黙っていなかった。

 

「攻略知識ならボク達も持っているはずだよ」

 

「そうだよ!」

 

「キミの言っていることは勝手な憶測だよ!」

 

「お、お前ら、こいつの肩を持つということは元ベータテスターってことなんじゃないのか!?」

 

 この空気は危ない。

 

 キリトは剣呑な空気にどうすればいいか考える。

 

 そして、

 

「あはははははは!冗談きついぜ、そいつらはニュービーだよ」

 

 笑いながらキリトは前に出る。

 

「だ、だけど、会議の時、お前を庇っていたじゃないか!」

 

「そ、そうだ!」

 

「お前らはわかっていないな。俺が指示を出したんだよ。俺がそいつらを利用しただけだ」

 

 キリトの言葉にアスナ、ユウキ、エギルら周りのプレイヤーも唖然としていた。

 

 ただ、ノビタニアンは目を丸くしつつも真っすぐにキリトの横顔を見ている。

 

「さっきのボス戦もそうだ。こいつらは俺の指示に従っているだけに過ぎない。全く、俺をそこらのベータテスターと一緒にしないでもらいたいな」

 

「な、なんだと!?」

 

「いいか、思い出せよ。SAOのCBTはとんでもない倍率の抽選だったんだぜ?当選した連中の中でどのくらいのMMOプレイヤー経験者がいたと思う?ほとんどがレベリングのやり方も知らない初心者だったよ。今のアンタらの方が何倍もマシだ。その中で俺はベータテスト中に他の誰も到達できなかった階層まで登った。ボスの刀スキルは上層で散々Mobとやり合ったから知っていた。他にも知っているぜ?色々なことをなぁ。情報屋のネズミなんか問題にならないくらいになぁ」

 

「……なんだよ、それ、そんなのベータテスターじゃない、チートだ。チーターだろ!そんなの!」

 

 周囲からチーター、ベータ―の言葉が飛び交い。やがてビーターという響きの単語が生まれる。

 

「“ビーター”、いい呼び方だな、それ」

 

 キリトは周りを見渡す。

 

 そして、LAアタックボーナスで手に入れたアイテム。“コートオブミッドナイト”を装着する。

 

「俺は“ビーター”だ。これからは元テスター如きと一緒にしないでくれ」

 

 

――これでいい。

 

 

 今回の騒動は瞬く間に広まり素人上がりの単なるベータテスターと情報を独占する汚いビーターとで新たに分けられる。

 

 仮に元ベータテスターだと露見してもすぐに目の敵にはされないだろう。

 

「どうせだから二層をアクティベートしておいてやるよ。ついてきたかったら勝手にしろよ。命の保証はできないけどな」

 

 キリトの言葉でついてくるものはいないだろう。

 

 螺旋階段をあがっていたキリトは振り返る。

 

「来たのか」

 

「当然だよ」

 

 後ろからあがってきたのはノビタニアン。

 

 彼なら自分のやることを理解してしまうだろうと予感していた。

 

 周りからドジやバカといわれているが人の心に機敏な彼は――。

 

「僕はキリトを見捨てない。大切な友達だから」

 

 嘗て彼の心を救ったように自分の心を救おうというのだろう。

 

「あ、見つけた、見つけた!」

 

「待って」

 

 続けてやってきたのはユウキとアスナの二人。

 

 

「来るなって言っただろ?」

 

「命の保証はできないと言っていただけよ」

 

「ボク達を置いていこうというなんて酷いよ~」

 

「今すぐ戻れば――」

 

「僕達を舐めないでよ。一緒にパーティーを組んだんだ」

 

「そうそう!ノビタニアンはわかっている~」

 

「ねぇ」

 

 アスナがキリトへ近づく。

 

「どうして、私の名前を知っていたの?」

 

「え、あぁ……パーティーを組んだだろ?このあたりに名前が載っているんだよ」

 

 キリトに言われてアスナは名前をつぶやく。

 

「キ……リ……ト……そう、ここにみんなの名前があったのね」

 

 キリト、ノビタニアン、ユウキとアスナは皆の名前を言う。

 

「アスナ、キミはもっと強くなる。もし、ギルドに誘われることがあったら断るなよ」

 

「……そう」

 

 そういってキリト達は階段を上がっていく。

 

 次の二層攻略に向けて。

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。