ドラえもん のび太と仮想世界   作:断空我

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23:決戦前夜

「なんで、温泉!?」

 

 九十二層、ユミルメ。

 

 そこにある竜の温泉でキリトが叫ぶ。

 

 目の前にはタオルを巻いているアスナやリズベット達がいる。

 

「だって、明日には百層を攻略するんでしょ?どうせだし、楽しい思い出を残そうってことよ」

 

 

「明日ですべてが終わるかもしれないと思うと、楽しい思い出は必要だと思うんです!」

 

 リズベットの言葉にシリカが頷く。

 

「変なことをしたら射るわ。アンタ達」

 

「怖いよ!?」

 

 さらりと怖いことを言うシノンにノビタニアンは叫ぶ。

 

「大丈夫だよ。何かあってもボクがノビタニアンをしばくから」

 

「ユウキ!?しばくこと確定!!」

 

「さ、行くよ!」

 

「あ、放して、僕!装備を外してがぁばああああああああ!」

 

 二人に引っ張られてノビタニアンは温泉へ落ちる。

 

 最初はただの湯だったのだが、竜を倒してからお湯が緑色に代わり、ステータスを一時的に上げる機能などがあった。

 

「ノビタニアン君やユウキ達が楽しんでいるんだから、私達も今日くらいはゆっくりしましょう。ここにはモンスターも出ないんだから」

 

「はい!パパもママと一緒に入りましよう!」

 

 タオル姿のユイに促されてキリトも装備を解除する。

 

 少し暴れていたノビタニアンも装備を外していた。

 

「明日で、SAOも最後……か」

 

 湯船の中でキリトは小さく呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんなところにいたんだ」

 

 第七十六層、アークソフィア。

 

 夜の街中。

 

 そこにあるベンチで夜空をみていたノビタニアンへユウキが声をかける。

 

「あ、ユウキ」

 

「もう遅い時間。エギルの宿に戻ろうよ。心配するよ」

 

「あぁ、ごめん、ごめん」

 

 苦笑しながらノビタニアンは体を伸ばす。

 

「何か考え事?」

 

「うん……ストレアのこと」

 

 九十八層から姿を消して、彼女の行方は分からない。

 

 九十九層においても姿を見せないことからおそらく、百層で待ち構えているのではないかと仲間たちは予想している。

 

「ノビタニアンはストレアのこと……好きだったの?」

 

 ユウキが尋ねてくる。

 

 その目は何かを探るようなものがあった。

 

 ノビタニアンはそれに気づかないまま、答える。

 

「大事な親友だよ。僕は、ストレアを助けたいと思っている」

 

「相手が人じゃなくても?」

 

「そんなの、助けない理由にならないよ」

 

 小さく、けれど力強くノビタニアンは答える。

 

「僕はドラえもんやキリトといろんな冒険をしてきた……ただ、人じゃないからって助けないのはおかしいと思うんだ」

 

 思い出すのはピッポとリリルのこと。

 

 彼らは人ではなくロボット。

 

 遠い星、メカトピアからやってきた彼らは先遣隊として侵略部隊、鉄人兵団を誘導するための基地を作ろうとしていた。

 

 そんな二人とノビタニアン達は触れ合い、侵略を間違いと考え、共に戦ってくれた大切な友達。

 

 もう会えないけれど――。

 

「僕は助けるよ。放っておけないもの……」

 

 ノビタニアンの言葉にユウキは小さく頷いた。

 

「そっか、なら、ボクは戦うノビタニアンを守るよ」

 

「え?」

 

「だってぇ、ノビタニアンはキリトと同じくらい無茶をするんだもん」

 

「それなら、僕よりもキリトの方が」

 

「キリトはアスナがいるじゃん。ノビタニアンは…………(鈍感だから)」

 

「そこは手厳しいね」

 

 後半の言葉をユウキは飲み込む。

 

 ノビタニアンは気づいていないがキリトと同じくらい異性にもてるのだ。

 

 彼が望めば、支えようとする者は現れるだろう。

 

 最近、シノンが妙に距離を詰めているのが良い例だ。

 

「(ボクはずっとノビタニアンといることはできないけれど)」

 

 自身の手を胸元に当ててユウキはノビタニアンを見る。

 

 首を傾げている彼を見ていると不思議と温かい気持ちになってくる。

 

「どうしたの?」

 

「別に!ほら、宿へ戻ろうよ!みんな、待っている!」

 

「わ、引っ張らないでよ!わかったから!」

 

「ノビタニアン!ボクはキミの相棒だからね!」

 

「いきなり何さ。そんなの当たり前じゃないか!」

 

「そういってくれると嬉しいよ!」

 

「だから、手を放して、わ、転ぶ!ちょっと、止めて、できたら速度をぉぉおぉ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……お前、少しは手加減というものを覚えたらどうだ?」

 

 出迎えたエギルは目の前の光景を見てぽつりと漏らす。

 

「いやぁ、早く帰らないといけないと考えたら、つい」

 

 てへへと微笑むユウキの前でボロボロになっているノビタニアン。

 

 もし、圏外だったらHPが少しばかり減っていただろう。

 

「それよりも飯だろ?アスナが準備してくれているからそれを食べな」

 

「ありがとう!さ、行くよ!」

 

「お前も大変だな。ノビタニアン」

 

「あははは、もう慣れました」

 

 苦笑しながらノビタニアンはテーブルに着く。

 

「ノビタニアンさん、お帰りなさい」

 

「きゅるる!」

 

「やぁ、シリカちゃん、ピナも」

 

「どこに行っていたんですか?」

 

「散歩……ほら、終わりが近いから色々と考え事をしたくて」

 

「そうですね……もう、終わるんですね」

 

 シリカももう終わると考えると何か感じるのか少し暗い。

 

「もう終わりだけど、僕達がもう会えないっていうわけじゃないよ?」

 

「え、あ、そうですね……でも、また会えるでしょうか?」

 

「会えるよ。多分、みんな、同じ病院に搬送されているはずなんだから」

 

「ノビタニアンの言うとおりよ。安心なさい。元の世界へ戻ったらアンタを探してあげるから」

 

「リズさん……ありがとうございます」

 

 ぺこりとシリカは頭を下げる。

 

「ノビタニアンこそ、ちゃんとアタシたちを探すのよ?」

 

「うん、絶対さ」

 

 シリカとリズベットの三人と話をしているとユウキが割り込んでくる。

 

「ノビタニアン、まだ食べているの?遅いなぁ~」

 

「からかわないでよ」

 

 そういいながら食事を終えてノビタニアンは部屋へ向かうことにした。

 

「あれ、ユウキもついてくるの?」

 

「うん!ノビタニアンと話をしたいからね」

 

「もう~、すぐ寝るつもりだったのにぃ」

 

「そういうと思ったよ」

 

「楽しそうね」

 

 目の前の扉が開いてシノンが顔をのぞかせる。

 

「明日で終わりかもしれないんだから、早く休みなさいよ?」

 

「そうだ!シノンとも話をしようよ!」

 

「え?」

 

「おじゃましまーす!」

 

「ちょっと!?」

 

「僕もお邪魔します~」

 

 二人はシノンの部屋へ入る。

 

「全く。少しは遠慮することを覚えなさいよ」

 

「ごめんなさい~」

 

「ごめんね、シノン」

 

「まぁいいわ……ねぇ、ユウキ、ノビタニアン」

 

 シノンは真っすぐに二人を見る。

 

「明日ですべてが終わるかもしれないのよね」

 

「そうだね」

 

「うん、でも、最後まで気を抜かないよ!」

 

「いつでも、ユウキは元気ね」

 

 苦笑しながらシノンは二人を見る。

 

「明日、絶対に生きて帰りましょう」

 

「うん、約束だよ!」

 

「絶対!」

 

 三人はそういって拳をぶつけ合う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ユウキと別れてノビタニアンは部屋へ入ろうとする。

 

「よっ」

 

 反対側の通路から姿を見せるのはキリトだ。

 

「キリト」

 

「これから寝るところか?」

 

「そのつもり……キリトも?」

 

「そのつもりだったんだが、最後となると、なんでか、ノビタニアンと話しておこうと思ってさ」

 

「……うん、僕もそんな気分だった」

 

 二人して笑い出す。

 

「こんなところまで息が合うのかよ」

 

「それは、付き合いが誰よりも長いからでしょ?」

 

「そうだな、さて、立ち話もなんだ、中へ入るか」

 

「うん……って、僕の部屋だから」

 

「違いない」

 

 そういって部屋へ入る。

 

 二人は眠くなるまで話しつくした。

 

 百層の攻略について。

 

 ストレアのこと。

 

 現実世界へ戻ってからのこと。

 

 色々なことを話し合い、彼らは当日を迎える。

 

 

 SAO第百層、紅玉宮の攻略が――。


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