次回からアフターストーリーになります。
「キリト、ユイちゃんを連れてきて大丈夫だったの?」
「ユイがどうしても行きたいっていっているんだ」
第百層攻略を迎えた今日。
仲間たちと共に百層、紅玉宮へやってきたノビタニアンとキリト。
キリトの傍にはユイがいる。
彼女は戦闘能力がないため、本来なら第七十六層アークソフィアで待っているはずだった。
「大丈夫です。パパたちの戦闘の邪魔はしません」
「なにより、ユイは俺が守るからな」
キリトがユイの頭をなでる。
「そうだね。キリトパパは大丈夫だよね~」
「ユウキ、茶化すなよ」
「全くもう。気を緩めないでね。もうすぐ紅玉宮の入り口なんだから」
アスナの言葉に三人は「はーい」と手を上げる。
「これで最後だっていうのに呑気ね。アンタ達は」
「でも、ガチガチで固まっているより、いいかと思います」
「そうだね。私たちもリラックスできるもん」
「本当に最後なのね」
「絶対に現実へ帰ろうね!」
リーファ達が話をしている中。
「腕が鳴るぜ!」
「少し、怖いわ」
「大丈夫だよ。シズカール君。みんな強いんだから」
ギルド、ジャイアンズのメンバーもやる気を見せている。
尚、スネミスはアルベルヒが行った実験の後遺症なのか、体調不良のため参加できていない。
しばらく進んでいた攻略組の前に分厚い扉が現れた。
これを開ければ、最後のボスとの戦いが待っている。
「みんな」
キリトは周りを見る。
まずはシノン。
途中からSAOに参加しながらも射撃スキルや冷静な判断で攻略組になった一人。
フィリア。
ホロウエリアで出会い、PoHに騙されていた少女だが、今は自分を信じて、戦うトレジャーハンター。
シリカ。
ノビタニアンが迷いの森で出会い、ピナを生き返らせるために出会い、第七十六層へ来てしまったことからレベルを上げて攻略へ参加するようになった少女。
リズベット。
鍛冶屋、リズベット武具店の店長。七十六層の騒動でスキルの一部を失いながらも失われたダークリパルサーに代わるリメインズハートを作ってくれた最高の鍛冶師。
リーファ。
リアルのキリトの妹でSAOへ来るためにナーヴギアを使った。リアルの剣道を使いながら一人の剣士として戦ってきた。SAOの中で昔のような関係へ戻れたと思っている。
アスナ。
自分の妻であり最愛の人。色々なところで自分を助けてくれた強い人だ。現実世界へ戻ってもずっと一緒にいたいと思っている。
ユイ。
正体はAIだが、キリトにとっては大事な一人娘。
ユウキ。
はじまりの街から共にしてきた剣士。キリト以上の瞬発力を持つ、おそらく、ノビタニアンと出会っていなかったら二刀流はユウキが取得していただろう。
ノビタニアン。
彼のことは多くを語る必要はないだろう。
あの日、自分と出会ったことで関係は始まった。
ずっと一緒にいてくれてありがとうとキリトは心の中で呟くと相棒であるノビタニアンが真っすぐにこちらを見る。
――行こう!
相棒の言葉にキリトは頷く。
「行くぞ!!」
ボスとの闘いは今までのものを凌ぐ激戦だった。
ストレアを模したモンスターと巨大なストレアのようなボスモンスター。
彼女を助けるためといいながら剣を振るい、戦いを行う。
キリトが二刀流を振るい。
モンスターの攻撃をノビタニアンが盾で防ぎ、
アスナの細剣とユウキの片手剣が煌めき、
仲間を守るためにリーファとフィリアがソードスキルを繰り出す。
ピナと共にシリカがフィールドを駆け巡る。
リズベットがメイスでモンスターの頭をフルスイングし、全体を援護するようにシノンが射撃を行う。
ジャイトスの武器が牽制を行い、シズカール、ヒデヴィルがモンスターと戦う。
クラインと彼の仲間がそれぞれの武器を振るい、
エギルがタンクとして奮闘する。
長い時間を経て、ボスは倒された。
本来なら消滅するはずだったストレアもユイの手によってキリトのナーヴギアへデータが送られる。
これですべてが終わるのだ。
誰もがそう考えていた時。
紅玉宮の室内で拍手が響く。
とても小さなもののはずなのに全員がその音を聞いて動きを止める。
紅玉宮の玉座のような場所。
そこから現れたのは深紅の甲冑を纏い、白い盾を持つ男。
神聖剣を扱う最強の男、ヒースクリフだった。
「おめでとう、実に見事な勝利だったね」
「!?」
「そ、そんな……」
「嘘だ」
「ラストバトル、見させてもらったよ」
「ヒースクリフ……生きていたのか」
現れた男、ヒースクリフにキリトは息をのむ。
「身構えないでくれたまえ、君たちにお詫びをしに来たんだ」
「詫び?」
「ここまで何の説明もしないでいたこと。本当に申し訳なく思っている。なぜ、そんなことになったのか、そして、なぜ私が生きているのかを君たちに説明しなければならないだろう」
ヒースクリフは語る。
第七十五層のキリトとノビタニアン参加によるヒースクリフとの決闘。
その途中で起こったシステム障害がすべての発端だという。
「あの時、この世界を制御しているカーディナルシステムに予想外の負荷がかかってしまった。負荷の要因はプレイヤーの負の感情によって引き起こされたエラーの蓄積、キミ達がよく知っているであろうメンタルヘルス・カウンセリングプログラム……MHCP試作二号コードネーム“ストレア”。彼女はこの世界のプレイヤーたちが抱える負の感情に対処できず、次々とエラーを蓄積していき、やがて抑えきれなくなった膨大な量のエラーがカーディナルシステムのコアプログラムに流れ込んできてしまった。そして負荷の要因のもう一つが須郷君達による外部からの干渉だ……外部干渉という例外的状況の対応にカーディナルシステムの処理能力の多くを割かなくてはいけなくなった」
この二つが想定外の負荷を引き起こし、カーディナルシステムの一部が暴走するという事態になってしまい、ヒースクリフは強制的に管理者モードへ切り替わり、決闘の途中にあの場から姿を消すことになったという。
「一刻も早く、このことを伝えたかったのだが、そのあとも対応に追われてしまったね。こうしてキミ達の前に姿を現すことが遅れてしまったというわけさ」
「つまり、あの時、勝負はついていなかった」
「そういうことになる」
「……」
キリトは小さく拳を握り締める。
あの時、自分は勝利したと思っていた。しかし、それは間違いだとヒースクリフに言われたのだ。
「それにしても、キミ達には本当に驚かされた」
感心するようにヒースクリフは言う。
「須郷君の予想外の動きに対しても見事に対応し、カウンセリングプログラムのユイとストレアのことも、どちらもカーディナルシステムのセキュリティプログラムによって消去されるはずが、それを救って見せた。やはりゲームの運営には想定外の事態がつきまとう……いや、やはりあのネコ型ロボットと行動を共にしていたからこうなるのは当然だったといえるんだろう」
「これだけ人間が深くかかわる世界だ。すべてが思い通りになると思うなよ!」
「もちろん、その通りだ。しかし、私の思い通りになることもある。たとえば、ゲームクリアの可否」
「なっ!?」
「この期に及んでクリアさせないっていうつもりじゃ」
「それはない。これでもフェアプレイを心掛けているつもりなんでね。キミ達は間違いなく百層のボスを倒した。本来の想定とは違う。イレギュラーなボスではあったがね」
勿論とヒースクリフは続ける。
「イレギュラーだからといって君たちの勝利を取り消すつもりはない。そもそも、最後のボス戦に遅れたのは私の方なのだから」
――改めて、賞賛を送ろう、クリアおめでとう、勇敢なる者たちよ。
ヒースクリフの言葉を素直にキリトは受け取れなかった。
「気に入らないな」
「数々の非礼を詫びよう、約束を違えたのはこちらの責任だ」
「そうじゃない、あんたはさっき、百層のボスをイレギュラーだったといったよな?」
「百層のボスは私が受け持とうとしていたからな」
七十五層の決闘前にもヒースクリフは語っていた。
そのことをノビタニアンは思い出す。
だから、キリトの言いたいことを理解できた。
「俺達はこのゲームを……SAOを、二年以上プレイし続けてきた。文字通り、命をかけてな……そのゲームのラスボスがイレギュラーな存在だった、だと?それはプレイヤーに対する裏切りってもんなんじゃないのか?」
「つまり君は、無謀にもこう言おうというのか?本来のボスと決着をつけさせろ」
「……いま、俺が心の中で思っていることを言えといわれたらそうなるな。とはいえ、もちろん、みんなを巻き込むつもりはない……百層のボスを倒したことは間違いないんだ。俺以外の全員をログアウトさせてくれ。そのあと、俺と勝負してほしい」
「キリトだけじゃないよ」
彼の傍にノビタニアンは立つ。
「イレギュラーなボスで終わりなんて、今までの二年間を無駄にするようなものだよ!僕達はちゃんとボスと戦って勝利して現実世界へ帰るんだ。僕も一緒だよ」
「ちょ、ちょっとお兄ちゃん!何を言っているの!?クリアできたんだから、一緒に現実世界に帰ろうよ!ノビタニアンさんも!」
「スグ……すまない、けど、これは、俺の……俺達なりのけじめのつけ方なんだ。今ここでヒースクリフを倒さずにゲームをクリアしてしまったら、きっと、俺は現実世界に戻っても、きっと、SAOに縛られたままだろう。心をアインクラッドに残したまま、現実世界に帰っても空しいだけだ」
止めようとするリーファにキリトは言う。
「そんな!ノビタニアン君!」
「ごめんね、リーファちゃん。でも、大丈夫。リーファちゃんより、ほんの少し帰るのが遅くなるだけだから」
「先に帰って、夕飯でも作って待っててくれよ」
キリトが呑気にいう。
「…………イヤ」
「スグ?」
「お兄ちゃんとまた離れ離れになるなんてぜったいにいや!お兄ちゃんが残って戦うならあたしだってそうする!!」
「何言ってんだ!?」
「俺も乗るぜ、キリ公!ノビ坊!本当のラスボス倒して、アインクラッドにケリつけよーや!!」
「クライン、さん」
「私も乗るわ。この決着。ケリをつけなきゃならないのは私も同じだもの」
「クライン、シノン!みんなの命まで危険にさらす必要はない」
「アタシだって、このゲームにはアンタと同じだけのプレイ時間を費やしてきたんだからね。ここでしっかり終わらせないと費やした時間が無駄になる気がする。一緒にケリつけようよ」
「あ、あたしも残ります!ノビタニアンさんやキリトさん達だけを残して現実世界に帰るなんて嫌です!ノビタニアンさんと一緒に現実に帰るんです!」
「リズ……」
「シリカちゃん」
「私も一緒に戦うよ。他の人と比べて、キリトと過ごした月日は短いかもしれないけれど……私はキリトからいろんなことを学んだの。その中でも一番大切なことが、困難に立ち向かうための強い心なんだから!」
「フィリア……」
「大丈夫だよ、キリト君だって、負けるつもりないんでしょ?」
「それはそうだけど」
「みんなが一緒なんだから、絶対に負けないよ!ボク達は最高のパーティーメンバーだ!」
「アスナ……ユウキ」
「やれやれ、保護者として俺も付き合う必要がありそうだな」
「俺様も付き合うぜ!」
「私も!このまま終わるなんてできないわよ!」
「僕も同じだよ。この二年間をきちんと終わらせよう!」
「エギル……みんな、いいのか?」
「うん、決意は固まっている。キリト君についていくよ」
アスナの言葉にキリトは頷いて。
「ふ……人の意思というものは本当に面白い。私はこの光景が見たくて、SAOを作り上げたのかもしれないな」
「アンタの作ったこの世界を、今ここで俺達が終わらせる!」
「これが最後の戦いだよ!」
「よろしい、かかってきたまえ、正真正銘のラストバトルをはじめるとしよう」
ヒースクリフの言葉と共にキリトは駆け出す。
彼の繰り出す二刀流をヒースクリフは愛剣で受け止める。
「やはり、前よりも速度は増しているか」
「当然!何より」
気付いたヒースクリフが後ろへ下がる。
彼のいた場所へノビタニアンのリベリオンクラレントがソードスキルを纏い、さく裂した。
「驚いたな。キミが盾をすてるとは」
「キリト!」
「おう!」
ヒースクリフが反撃に移る前に二人の猛攻が始まる。
第七十五層の時と違い、二人の速度は前よりも上昇している。ヒースクリフも余裕の態度を浮かべておらず、本気で相手の動きを見極めようとしていた。
「だからこそ!」
ノビタニアンのリベリオンクラレントが輝く。
「それは!」
ヒースクリフが驚きの表情を浮かべるが間に合わない。
ホロウエリアでノビタニアンが実装エレメント調査で入手した片手剣ソードスキル、カーネージ・アライアンスがヒースクリフの体を切り裂く。
「ホロウエリアで、そのスキルを」
「当然、俺も!」
ノビタニアンとスィッチしてキリトが二刀流ソードスキル“ブラックハウリング・アサルト”が放たれた。
体勢を崩していたヒースクリフは盾を構える暇もないまま、二刀流の嵐に飲まれる。
「このまま終わると思わないことだ」
二人の反撃の隙間を見つけた彼のソードスキルがキリトへ狙いを定めようとしていた時。
「駄目だ!」
先回りしたノビタニアンがリベリオンクラレントで受け止める。
剣で受け止めていることでソードスキルが繰り出されず、ノビタニアンのHPはあっという間にグリーンからイエローに変わる。
「うぉおおおおおおおおおお!」
横からキリトがエリュシデータでヒースクリフの剣をはじく。
ヒースクリフのHPもイエロー。
「これで」
――終わらせる!!
互いの感情が交差して剣がぶつかる。
「見事だ、キリト君」
「ヒースクリフ」
戦いに勝利したのはキリトとノビタニアン。
「これほどまでに鮮やかに勝利をおさめるとは、私の想定以上だ」
「ヒースクリフさん、教えてください。どうして、貴方はドラえもんのことを知っているんですか!?」
ノビタニアンがヒースクリフへ聞きたかったことを尋ねる。
「そういえば、まだ話をしていなかったな。教えよう。なぜ、私がドラえもん君のことを知っているのか、実をいうとノビタニアン君、いや、野比のび太君。私はキミと会っていたのだよ。ただし、別世界のキミとだ」
「……それは、どういう」
「魔法世界の野比のび太君とドラえもん君と私は会っているのだよ」
「え?」
「魔法世界って、もしかして、俺達がもしもボックスで行った世界?」
「キミ達は知らないだろうが、数年前、地球に未知の衛星が迫っていてね。それの対処で国が秘密裏に動いていた。私も協力者としてプロジェクトに参加していた。その中で野比のび太とドラえもんと出会った。彼らはもしも箱という魔法道具とやらで、科学の世界へやってきたという。彼らから色々な冒険の話を聞かせてもらったのだよ。今回の九十層以降でその冒険内容を反映させてもらった」
「だから、ユミルメや魔界みたいなエリアがあったのか」
「まさか、この世界のノビタニアン君と出会うことになるとは思わなかったがね、何が起こるかわからないものだ……さぁ、アインクラッドの最後のボスは倒された。キミ達が勝利者だ。これから順に君たち全員が元の世界に戻っていく」
「ヒースクリフ、アンタは?」
「私は戦いに敗れたのだよ。今は創造者の権限でこうしてキミ達と話をしているが、ここでSAOのルールを自ら破っては私にとって唯一の現実であるこの世界を否定することになってしまう」
「そんな……」
「ここでお別れだ。キミ達がこの世界に来てくれて、本当に良かったと思っているよ。私の夢想の中でキミ達は真剣に生きてくれた」
「確かに……ここはゲームの中の世界だ。それでも俺はここも一つの現実だったと思っている」
「僕も……嫌なことや辛いこともたくさんあったけれど、楽しいこと、嬉しかったこと……出会いもあった……ここはもう一つの現実だよ」
ノビタニアンはそういってユウキをみる。
ユウキもこくりと頷く。
「そう、思ってくれるのか……ありがとう、キリト君。ノビタニアン君」
ヒースクリフの姿が消える。
それと同時に巨大な鐘の音色が流れ出す。
『ただいまよりプレイヤーの皆様に緊急のお知らせを行います。現在、ゲームは強制管理モードで稼働しております。すべてのモンスター及び、アイテムスパンは停止します。ゲームはクリアされました』
「ゲームクリア。これで本当に私達、きゃっ!」
アスナが喜びを露わにしようとした時、地面が揺れだす。
「これって、浮遊城全体が壊れ始めているんじゃ?」
「シリカちゃん、光ってる!光っている!」
「光っているって、え?あ、なんか、景色がぼんやりしてき」
最後までいう前にシリカが消えてしまう。
「き、消えちゃった」
「だ、大丈夫なのかよ、オイ」
「強制転移させられたみたいだけど」
「おそらく、現実世界への転送が始まっているんだ」
「じゃあ、長かったSAOでの日々もこれでもう終わりなんだね」
「でも、本当にこれでクリアなのかしら、いまいち実感がわかないっていうか」
「ボスにはてこずらされたが、それでも幕切れとしてはあっけないもんだったな……」
「そうね、この世界がなくなっちゃうなんて、やっぱり、なんだか寂しいわね」
「うん、自分でも気づかないうちにアインクラッドでの日々を楽しんでたんだなぁーって、思う」
「あぁ、俺も同じ気持ちだ」
「キリト君、本当、いろんなことがあったね。キリト君と一緒に戦って、泣いて笑って、ゲームの中なのにここで過ごした時間が一番長く感じた」
アスナの言葉にキリトは頷く。
「俺もそうだよ、本当に色々なことがあった」
「ねぇ、私達、現実に帰っても変わらないよね?この世界でキミと作った絆は本物だって信じているから」
「当然だよ。現実に戻ったとしても君への気持ちが変わらない。俺は変わらずアスナが大好きだ」
「ありがとう、キリト君。わたしも、好き……愛しています」
「現実に戻ったら、真っ先に会いに行くよ」
「待ってる。ずっと待っている。でも、あんまり遅かったら、私から会いに行っちゃうかも。あ、うふふ」
「どうしたんだ?」
笑い出したアスナへキリトは尋ねる。
「ううん、よく考えてみたら。私、キリト君の本当の名前を知らなくて。それなのに、こんなに好きで愛してて、ネットゲームっておかしいなって」
キリトは苦笑する。
「ああ、確かに。現実とは色々と順番が違うからな」
「教えてほしいな。現実世界で呼び合えるように」
「俺は桐ヶ谷和人、あ、年齢は十六歳だと思う」
「きりがや……かずと君」
小さく、アスナは彼のリアルの名前を呼ぶ。
そして。
「私は結城明日奈、十七歳です。キミと過ごしたこのかけがえのない時間は絶対に忘れない」
「現実に戻ってからも二人の思い出を作り続けよう、明日奈」
「うん!」
和人の視界も真っ白に染まる。
「ノビタニアン……えっと」
「ユウキ、そういえば、僕の本当の名前、教えていなかったよね」
「あ、そうだね」
「僕の名前は野比のび太……向こうだと十六歳になっていると思う」
「ボクの、ボクの名前は……紺野……紺野木綿季だよ」
「……木綿季」
小さくノビタニアンは繰り返す。
「ねぇ、のび太。現実に帰るまで……その、手をつないでいてくれないかな」
「手を?」
「駄目?」
「ううん、良いよ」
二人は互いの手を握る。
「暖かいね。のび太」
「木綿季の手も暖かいよ……僕は絶対に会いに行くからね。待っていて」
「……うん、そうだね。待っているよ」
儚げにほほ笑む木綿季の手を最後まで握り続ける。
そういってのび太の視界が真っ白に染まる。
こうして、多くの死者を出したソードアート・オンラインはクリアされる。
クリアに費やしたのは二年と数か月だった。