ドラえもん のび太と仮想世界   作:断空我

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やっと、このタイトルが出せた!


26:帰ってきたドラえもん

 

 話は五年前までさかのぼる。

 

 ドラえもんが帰らないといけない日。

 

 ジャイアンと決闘をしてボコボコになりながらものび太は勝利をもぎ取った。

 

――僕は大丈夫だよ。ドラえもん、だから、安心して未来に帰って。

 

 ボロボロになりながらドラえもんを安心させる言葉を伝えて、のび太は痛みで顔を歪めながらも笑みを浮かべていた。

 

 今は疲れて眠りについている。

 

 玉子も就寝準備をしようとしていた時。

 

「ママ」

 

 呼ばれて振り返るとドラえもんがやってくる。

 

「ドラちゃん、帰るのね?」

 

「はい、今までありがとうございました」

 

「いいえ。元の時代に帰っても元気でね」

 

「あの、これを預かっておいてください」

 

 ドラえもんは腹部の白いポケットから自分と同じ姿を模した道具を取り出す。

 

 彼のポケットは四次元ポケットといわれて、未来の道具が入っている。

 

「それは?」

 

「もし、のび太君が本当に助けを求めてきたときにこれを渡してあげてください。この中に一つだけ、のび太君の役に立つ道具が入っているから」

 

「道具?」

 

 コクリとドラえもんが頷く。

 

「のび太君がこれから頑張っていくんだろうけれど。もしかしたら何かあるかもしれない。その時に、のび太君が道具を必要として、誰かを助けたいときのためにこれを残しておきます。本当にたった一回、一回だけの道具だから」

 

「のび太へ直接、渡さないの?」

 

「多分、渡したらそれに頼っちゃうから、ママからみてのび太君が本当に必要とした時に渡してほしいんだ」

 

 ドラえもんは心の底からのび太の将来を心配してくれている。

 

 血のつながりも、人ですらないけれど、ドラえもんは本当にのび太のことが好きなのだと玉子はわかった。

 

 本当ならもっと居たいのだろう。

 

 だが、それは出来ない。

 

 やり遂げプログラムというものでドラえもんは未来に帰らないといけないのだ。

 

 本人の意思に関係なく帰らなければならない。

 

 そのことに悲しく思いながらも玉子は言葉にしない。一番、辛いのは目の前にいるドラえもんとのび太なのだから。

 

 玉子は微笑む。

 

「本当にのび太が必要と思ったときに渡すわ……安心してドラちゃんは未来へ帰って」

 

「ありがとう、ママ」

 

 ドラえもんを玉子は優しく抱きしめる。

 

「未来でも、元気でね。あなたは私の子供のようなものなんだから」

 

「ママ……」

 

 ドラえもんは涙をこぼしながら玉子を抱きしめ返す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当ならエイプリルフールで騙されて泣いていた時に渡すべきかもしれないと思っていたわ……でも、のびちゃんは和人君の手助けを借りながらも乗り越えた」

 

「ママ……」

 

「でも、今回の件はのびちゃんだけで乗り越えられそうにないのね……。だから、これを渡してあげる。ドラちゃんが残した最後の道具よ」

 

 玉子はそういってドラえもんのケースをのび太へ渡す。

 

 受け取ったのび太はそれをみて悩む。

 

 今、この道具に頼ってしまっていいのだろうか?

 

 確かに、道具の力ならユウキのことをなんとかできるのかもしれないだろう。だが、本当にそれでいいのか。

 

「頑張ってね。ママは応援しかできないから、それとご飯よ」

 

「うん。ありがとう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、松葉杖をついてのび太は桐ヶ谷家へやってきた。

 

 桐ヶ谷家は昔ながらの造りで祖父が使っていた剣道場がある。

 

「あれ、のび太君?」

 

「や、直葉ちゃん」

 

 桐ヶ谷家の玄関をノックすると、和人の妹、直葉が出迎えた。

 

「お兄ちゃんに会いに来たの?」

 

「うん、いるかな」

 

「いるよ。入って、入って!」

 

 直葉にいわれてのび太は家の中へ上がり込む。

 

「直葉ちゃんはリハビリ、終わったんだよね?」

 

「うん!お兄ちゃんたちよりSAOにいた期間は短かったからね。体も鍛えていたし」

 

「剣道部だったけ?」

 

「そう!あ、のび太君もお兄ちゃんみたいに剣道場で鍛えてみない?ビシバシ!とSAOの時みたいにできるかも!」

 

「えっと……考えておきまーす」

 

 リビングで直葉がいれてくれたお茶を飲みながら他愛のない話をしているとラフな格好をした和人がやってくる。

 

「あれ、のび太、来ていたのか?」

 

「……もしかして、寝てた?」

 

「まぁな、それより、どうしたんだ」

 

「実は相談したいことがあって」

 

「……真面目な話みたいだな」

 

 和人に頷いてのび太は持ってきていたカバンからあるものを取り出す。

 

「それって、ドラちゃん?」

 

「ドラえもんが残してくれた最後の道具なんだ」

 

 のび太はユウキのことを踏まえて道具について話をする。

 

「そっか、ユウキと会ったんだな」

 

「うん……」

 

「のび太君はその道具でユウキを救うの?」

 

「それが正しいのかわからないけれど、僕はユウキとまた一緒に居たい。でも、少し踏ん切りがつかないんだ、これを使って本当にいいのか、どうか、和人の意見が聞きたくて」

 

「……のび太が決めたことなら俺は迷わずにやればいいと思う。SAOでもそうだ。のび太は誰かを助けるためならどんな無茶もしてきた。今回のことも、ユウキを助けたいなら迷わずに動けばいいんじゃないか」

 

「お兄ちゃんの言うとおりだと思う。確かにドラちゃんが最後に残した道具だから使うかどうか悩むのはあると思うよ?でも、今使わないと、後悔するならやるべきだと私は思う」

 

「和人、直葉ちゃん」

 

「それに、忘れていないか?もう少ししたらエギルの店で打ち上げをやるんだぞ」

 

 和人の言葉にのび太は「あ!」と驚きの声を漏らす。

 

「その様子だと忘れていたみたいだな」

 

「いやぁ」

 

「お前は本当に……」

 

 少し前に和人を中心として全員と連絡を取り合い、SAOをクリアした打ち上げをエギルの店。ダイシー・カフェで行うことが決まった。

 

「そうだった」

 

「あれはSAOをクリアした全員が参加しないと意味がないんだ。必ず、ユウキを連れて来いよ」

 

「うん、絶対だ」

 

 和人と拳をぶつけ合い、のび太は桐ヶ谷家を後にする。

 

 向かう先は横浜北総合病院。

 

 木綿季の病室。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「のび太……また、来るかな?」

 

 病室で木綿季は彼のことを考えていた。

 

 リアルに復帰してすぐに総務省の役人という人がやってきてSAOの内情について色々と尋ねられた。

 

 担当医師の倉橋が止めに入るまで質問は続き、最後に彼女は質問する。

 

――野比のび太という人は元の世界に帰ってきましたか?

 

 その質問に総務省の役員が驚きの表情を浮かべながらも話してくれた。

 

 

――彼は現実に帰っているよ。居場所を教えてあげようか?

 

 

 彼の言葉に木綿季は首を横に振る。

 

 自分から進んで会いに行こうとしない。

 

 そもそも動けない自分ができることなんか限られている。

 

「(やっぱり、のび太と会うと……嬉しいんだ)」

 

 ドクドクと音を立てる自分の心臓に木綿季は驚いていた。

 

 のび太といると嬉しい、楽しい、もっと居たいという気持ちが強くなる。

 

 でも、それをもっと欲しがってはいけないのかもしれない。

 

「(のび太にはSAOにいた時のボクだけを覚えてほしい……と思っている。でも、今のボクを知ってほしいという自分もいる。どうすればいいのかなぁ)」

 

 そんなことを考えていると来客のお知らせが来る。

 

 相手が誰なのか。

 

 考える暇もなく目の前の面会室に現れたのは。

 

『のび太……』

 

「やぁ、木綿季」

 

『どうしたの?』

 

「……ユウキ、僕はこれから君へ嘘をつく」

 

『え?』

 

 困惑する木綿季。

 

 いきなり嘘をつくといわれたら当然だろう。

 

「その嘘でキミが救われると信じている……だから、僕を信じてくれない?」

 

 何を言っていいのかわからない木綿季。どのように返せばいいのかという答える暇もないまま、のび太は話し始める。

 

 木綿季を救うための嘘を――。

 

「紺野木綿季とその家族の病気は一生、治らない。幸せになれないまま終わる」

 

『何を』

 

「僕は木綿季が嫌いだ。会わなければよかったとすら思っている」

 

『え?』

 

 のび太から告げられる言葉に彼女はただ困惑するしかできない。

 

 しかし、ぶつけられている言葉は刃となって自分に突き刺さる。

 

 ずきずきと心に刺さり、木綿季の瞳から涙がこぼれた。

 

『どうして、ボクは……」

 

「もう二度と会いたくない……さようなら、木綿季」

 

 そういって、のび太は病室を出ていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで、良かったんだよね」

 

 壁にもたれてのび太は手の中の瓶をみる。

 

 ドラえもんが最後に残してくれた秘密道具『ウソ800』。

 

 赤い液体を飲めば、ウソが本当になるという力がある。

 

 これを使って、のび太はユウキを救うことにした。

 

 勿論、百パーセント救えるのかはわからない。

 

 でも、もしもという可能性があるのなら。

 

 彼女が生きていてくれるのなら、疎遠になっても構わない。

 

 

「ドラえもん……もう帰ってこないのはわかっているけれど、ありがとう」

 

 ユウキにもう会えないかもしれないと思いながらのび太は家へ戻る。

 

 どうやって家へ戻ったか覚えていない。

 

 玉子へ帰ってきたということを伝えて、二階の自室へ向かう。

 

 引き戸を開けて部屋の中に入る。

 

「やぁ、のび太君!」

 

 聞こえた声にのび太の時が止まった。

 

 彼の部屋の中。

 

 青いボディ、白い半円ポケット、黄色い鈴、丸い体をしたネコ。

 

 もう何年もみていない、会えない筈の親友。

 

「ドラえもん?ドラえもん!!」

 

 のび太はドラえもんを抱きしめる。

 

「どうして!?どうして!!」

 

「のび太君がウソ800で僕が帰ってこないっていったからだよ」

 

 微笑むドラえもんにのび太は涙をこぼしながら叫ぶ。

 

「ドラえもんなんか、大嫌いだ!もう会えなくても構わない!大嫌いだ!」

 

「うん」

 

「色々と話したくなんかない!僕は頑張らなかった!」

 

「うん!うん!」

 

「また会いたくなかった。永遠にさよならだよ!」

 

「うん……うん……うん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ソードアート・オンラインかぁ……未来でもその事件は歴史に残されていたけれど、のび太君が関わるなんて思っていなかったな」

 

 やがて、ウソ800の効き目が切れてのび太はドラえもんと向かい合う形で話し合う。

 

 ドラえもんがいなくなってからの数年間。

 

 それらを埋めるように二人は話し続ける。

 

「未来でもSAOは有名なんだね」

 

「VR技術の出発点だからね。良くも悪くも話題だよ。未来においてもアミュスフィアという技術が普及しているくらいだし」

 

「アミュスフィアって」

 

 のび太は卓上を見る。

 

 そこにはなけなしの小遣いで購入したアミュスフィアと呼ばれるナーヴギアの後継機と数日後に行う予定のVRMMORPGのソフト。

 

「のび太君。もしかして、またVRを?」

 

「うん、皆もやるんだ。ドラえもんも……って、その頭じゃ無理だよね」

 

「むむ、甘いね。未来じゃネコ型ロボットも参加できるように専用のアミュスフィアがあるのさ!」

 

 ドラえもんは四次元ポケットから大きなアミュスフィアを取り出す。

 

 かなりの大きさだから、ネコ型ロボットでもすっぽりと装着できる。

 

「それ、ALOも使えるの?」

 

「ふふふ、問題ないよ!」

 

「だったら、ドラえもんも行く?」

 

「え?」

 

 のび太が話す。

 

「明日、SAOの攻略完了をお祝いした祝賀会をするんだ。ドラえもんも行こう!みんなに紹介するよ。SAOでできた仲間や大事な友達を」

 

「……のび太君、ありがとう」

 

「ううん、こっちのセリフだよ。ありがとう、ドラえもん。本当に、ありがとう」

 

 のび太はそう言ってほほ笑む。

 




果たして、これでよかったのかと自分は悩みながらもこの話を書きました。

次の話でアフターストーリーは終わって、この世界はドラえもん時空へ一時的に突入することになります。


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