ドラえもん のび太と仮想世界   作:断空我

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31:妖界大決戦(後編)

「待たせたでーある!」

 

「大丈夫か!?親友!」

 

 入り口から現れたのはドラメッド、マタドーラ、王ドラ、ドラニコフ、ドラリーニョと

 

 キッドたちを行かせるために先へ進ませた親友たちだった。

 

「どきやがれ!」

 

「ガルル!」

 

 両面スクナや韋駄天を蹴散らしてマタドーラやドラニコフ、仲間たちが駆け寄ってくる。

 

「みんな!無事だったんだね!」

 

「みんなで戦えば百人力だ!百目王なんざ、怖くないぜ!!」

 

 キッドがサトリに向かって空気大砲を撃つ。

 

 しかし、ひらりとサトリは砲撃を躱す。

 

 標的を外した砲撃はボコボコと泡立つ黒い泉へ直撃。

 

 爆発のような音を立てて黒い水しぶきが王ドラへ迫る。

 

「王ドラさん!危ない!」

 

「わっ!?」

 

 水しぶきが王ドラの袖に当たった途端、服が溶ける。

 

「気を付けて!それは触れただけで相手の命を奪う、死の泉よ」

 

「……そうか!」

 

 王ドラの頭にある考えが浮かぶ。

 

「キッド!死の泉へもう一度、撃って!」

 

「水しぶきを百目王にかけるのか!?」

 

「でも、そんなことしても癒しの泉の力でもとに……」

 

「大丈夫です!」

 

 アスナの疑問に王ドラは大丈夫と返し、仲間のマタドーラとドラメッドと呼ぶ。

 

 円陣するように並び、王ドラは合図する。

 

 キッドが空気大砲を撃つ。

 

 大量の水しぶきがマタドーラに迫る。

 

 

 瞬間。

 

 

「ヒラリマントぉぉぉお!」

 

 牛のマークを模したヒラリマントですべての水を躱す。

 

「水しぶきよ!カチンコチンに固まるであーる!」

 

 ドラメッドの呪文により水しぶきが鋭い針へ変わっていき、百目王の体へ突き刺さっていく。

 

「よし、いいぜ!」

 

 キッドが次々と空気大砲を撃っていく。

 

 百目王の最後の目玉に針が突き刺さる。

 

 断末魔のような声を上げて百目王が消滅していく。

 

「や、やった!」

 

「おい!」

 

「そうだった、のび太君!」

 

 ドラえもん達が残っているいやしの泉へのび太を沈ませる。

 

 しばらくしてのび太の顔から牙が消えて、人間の顔へ戻っていく。

 

「のび太、か?」

 

「……親友の顔を見間違えないでよ」

 

 苦笑しながらのび太がキリトの肩を叩く。

 

「のび太君!」

 

 ドラえもんが泣きながらのび太を抱きしめる。

 

「よかったね!キリト君」

 

「あぁ、アスナも、サンキューな」

 

 誰もが喜びの声を上げていた時、城内が大きく揺れだす。

 

 同時に二つの泉も消えていく。

 

『ワハハハハハ!』

 

「この笑い声」

 

「百目王の声よ!?」

 

 アスナが驚き周りを見ていると周囲の岩で覆われていた城内が変化していく。

 

 周囲が音を立てて動いていた。

 

 まるで体内の臓器が活動を始めているかのように。

 

『お前達が倒したのは体の一部に過ぎない』

 

「もしや……」

 

 周りを見て王ドラが言葉を漏らす。

 

「どうやら、我々は百目王の体内にいるようですね」

 

「これが百目王の中だっていうのかよ!?」

 

 マタドーラが驚いているとどこからか手が飛んでくる。

 

「危ない!」

 

 アスナが細剣で座敷童を捕まえようとしていた手をソードスキルで弾き飛ばす。

 

「外に逃げるんだ!」

 

 キリトの言葉で全員が外へ走り出す。

 

「ドラえもん、名刀電光丸を貸して!」

 

「あ、うん!」

 

 のび太はドラえもんから名刀電光丸を借りるとアスナやキリトと並ぶ。

 

「おいおい、生身なのに大丈夫か?」

 

「病み上がりだけど、なんとかなるよ」

 

「無茶はしないでね」

 

「のび太君!?和人君!明日奈さん!」

 

「みんなが外に出るまで僕達が時間を稼ぐよ!」

 

「一人不在だけど、SAOパーティー結成だね」

 

「みんな、急いでくれ!」

 

 のびてくる手に三人はそれぞれの武器で応戦する。

 

 後退しながら出口へ向かう。

 

「よ、ようやく、出口だ」

 

「お、おい、何だよ、これ!?」

 

 振り返ったキッドの声に全員が顔を上げる。

 

 そこにあったのは巨大な山。

 

 山と思っていたのだが百を超える無数の目玉が彼らを見下ろしていた。

 

「で、でかすぎるだろ!?」

 

 キリトが驚きの声を上げるほど、存在している百目王はでかすぎた。

 

「くそう!お前なんかに人間界を支配されてたまるか!」

 

『何を言う』

 

 キッドの叫びに百目王はバカにするように答える。

 

『私をここまで成長させたのは人間界にうずまく憎しみと悲しみなのだぞ?』

 

 人間界で戦争や自然破壊が起こるたびに百目王の体に邪悪な目が一つ、また一つと増えていき。今の巨大な体に成長させた。

 

「あの目の数は、人間の罪の数だっていうのかよ!!」

 

 キリトが剣を握り締めて叫ぶ。

 

「来るぞ!逃げろ!」

 

 ウゾロウゾロと近づいてくる百目王に逃げ出す。

 

 走り出す際に座敷童はバランスを崩した。

 

 その際に彼女の袖口から魔鏡が転がり落ちる。

 

 王ドラは落ちた魔鏡を拾う。

 

「この裏の文字は?」

 

「古代妖界語で書かれていて、読めないの」

 

「ドラえもん、ほんやくコンニャク!」

 

「はい、ほんやくコンニャク」

 

 のび太がコンニャクを口に含む。

 

「ちょっと、こんな時にコンニャクなんて」

 

「アスナ、大丈夫だ」

 

「えっと、魔鏡は邪を映し、魔封剣は憎しみを絶ち、龍玉はすべてを浄化する。魔鏡、魔封剣、龍玉の三種の神器が一つになる時、降魔の剣となり、全ての悪を切り裂くであろう」

 

「そっか、この三つをくっつければよかったのか」

 

「借りるぞ!」

 

 キリトが剣を掴み、三つの神器を重ねる。

 

 すると魔鏡が剣の中へ入り、龍玉が剣の下部分へ。

 

 一体化した剣が輝きを放つ。

 

 

「凄い」

 

「これが降魔の剣か!」

 

「あ、龍神様だ!!」

 

 天邪鬼の言葉通り、上空から龍神が現れる。

 

「降魔の剣に選ばれた勇者よ!我が背中に乗るのだ!」

 

 タケコプターを使って全員が龍神へ乗り込む。

 

 百目王は目玉から無数の蛇を生み出す。

 

「うわっ!?」

 

「剣に念を込めよ!みんなの念を集めて切り払え!されば、悪は必ず倒される!」

 

「剣を見て強く勝利を願うんですね!」

 

 王ドラの言葉と共に全員が意識を集中させる。

 

 しかし、何も起きない。

 

「こんな高いところで集中できるかぁ!俺は高所恐怖症なんだぞぉ!?」

 

「来る!」

 

「わかってるよ!」

 

 キリトの叫びにキッドがやけくそ気味に念じていた時。

 

 剣が眩い輝きを放つ。

 

「今よ!」

 

「うぉぉおおおおおおおおおおおおおお!」

 

 キリトが剣を振るう。

 

 眩い光と共に放たれた斬撃は周囲の山と百目王の体を両断する。

 

「や、やった」

 

「凄い!凄いよ!キリト君!」

 

「ね、ねぇ、あの黒いの何かな?」

 

 のび太は両断された百目王の体から噴き出している黒い靄に気付いた。

 

「あれは、罪じゃ!百目王が人間界に背負っていた罪が消滅と共に噴き出したようじゃ」

 

 龍神は目を見開く。

 

「いかん!一刻も早く人間界へ戻らなければ!」

 

「ど、どうゆうことだよ!?」

 

「噴き出した暗黒の罪が人間界へ戻ろうとしているのだ。このままでは二つの世界のバランスが崩れて、大崩壊を起こしてしまう!」

 

 龍神がゲートを開けて人間界へ戻ろうとする。

 

「駄目だ」

 

 キリトが龍神から飛び降りる。

 

「手遅れだ……ゲートの中まで罪が広がっている」

 

「みんなは先に戻ってくれ」

 

 降魔の剣を構えてキリトは罪の方へ走りだす。

 

「キリト!」

 

「お、おい!戻れ!」

 

「キリト君!駄目だよ!すぐに戻って!」

 

「駄目だ、ここで罪を何とかしないとみんなに危険が及ぶ。みんなのためにも、俺がなんとかする!」

 

「そんなこというなら僕も!」

 

「駄目だ!お前ら仲間を守るために」

 

「(……仲間のため……)」

 

 奥へ走っていくキリトは荒い息を吐きながら剣を振り下ろそうとした時。

 

 後ろから誰かが自分を突き飛ばす。

 

 バランスを崩した際に剣を落としてしまう。

 

 落とした剣を天邪鬼が拾った。

 

「ヘヘ……オイラには大事な仲間とか友達とかいない、独りぼっちなんだ。でも、お前には大事な仲間がいるんだ。だから、オイラに、任せな!」

 

 天邪鬼はそういうと一人、罪の中へ突撃していく。

 

「よせ!」

 

 キリトが後を追いかけようとするがアスナやみんなに羽交い絞めされてしまう。

やがて、ゲートが閉じる。

 

 ゲートが閉じるとともに彼らは人間界へ戻ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 龍神の持っていた玉から妖界の様子がみえた。

 

 今までの薄暗い不気味な雰囲気と異なり、大自然に囲まれて鳥が空を羽ばたいている。

 

 草原が広がる空間の中心、そこに天邪鬼が倒れていた。

 

 彼の傍には降魔の剣が落ちている。

 

「でも、天邪鬼が」

 

「アイツ、気が弱かったけど、良い奴だったな」

 

「なんとかしてやりたいけど」

 

「降魔の剣にある龍玉は魂を浄化し再生する能力があるのじゃ。天邪鬼に会いたいと心の底から願う友達がいれば、天邪鬼は生き返るだろう」

 

「……俺は願う」

 

 和人は玉を握る。

 

「アイツは良い奴だ。友達だ。だから、もう一度、会いたい」

 

「僕も」

 

「私も」

 

「アミーゴ……」

 

「ガウ!」

 

 全員が天邪鬼と再会することを願う。

 

 その時、まばゆい光と共に天邪鬼が目の前に現れた。

 

「え、オイラ、どうなって?」

 

「そこにいる人たちがあなたと再会することを願ったの……あなたのことを友達だって」

 

 茫然としている天邪鬼に座敷童がほほ笑みながら答える。

 

「お前は友達だぜ」

 

 和人の言葉に天邪鬼は涙をこぼした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんというか、こんなことをキリト君やノビタニアン君は体験してきたんだね。終わったのにまだドキドキしているよ」

 

「まぁな」

 

「でも、他にもいろいろあったんだ」

 

「ずるいなぁ!」

 

 SAOの帰還者が集められた学校、

 

 その裏手にある山の一本杉があるベストプレイスに明日奈、和人、のび太、そして転校してきた木綿季の姿があった。

 

 彼女に妖界の出来事を話していたのだ。

 

 自分が知らない間に仲間が体験していたことに彼女は頬を膨らませる。

 

「そういえば、なし崩しとはいえ、私、キリト君とのび太君がちゃんとデュエルしたところみたことないなぁ」

 

「ん……?」

 

「クリスマスの時にしていたけれど、有耶無耶なっていたから、ちゃんとした決着はついていないな」

 

「そういえば、ALOに闘技場が設営されたよね?あれでデュエルしてみたら?」

 

 木綿季の言葉に和人とのび太の二人は「え?」という声を漏らす。

 

「ちょっと、見てみたいかも」

 

「そうだね!」

 

「まぁ……機会があれば、だな」

 

「そうかもね」

 

 のび太と和人、

 

 白銀の剣士ノビタニアンと黒の剣士キリト。

 

 二人が決闘する場面を想像して木綿季は心を躍らせていた。

 

 対して。

 

「勘弁してよぉ」

 

「俺も」

 

 二人はどこか辟易とした表情だった。

 

 

 


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