「のび太!のび太!」
SAO帰還者の学校。
荷物をまとめていたのび太を紺野木綿季が呼び止める。
「どうしたの?」
「あのね、ALOのことなんだけど、この前、行ったクエストで新しい発見があったんだ!今日、ログインできる?」
彼女が言うクエストとはレジェンダリー・ウェポン入手の話だろう。この前はクエストを達成したのだが、肝心の武器が手に入らなかった。
木綿季はそれが悔しくて情報屋のアルゴに探してもらっていたという。
「うん!この前のリベンジだね。じゃあ、スリーピングナイツのメンバーも?」
「欠席者がいるけれど、大丈夫だよ!じゃあ、帰ったらすぐにALOにログインだからね!」
「わかったよ」
ビューン!と弾丸のように彼女は去っていく。
車椅子が不要になったから余計に元気の塊のようにみえる。
「のび太君、今、木綿季が」
「あ、うん。ALOにログインするんだぁーって、急いで帰っちゃった」
入れ替わるようにやってきた明日奈が廊下から顔を出す。
傍には恋人の和人がいる。
「本当に元気だな、ユウキの奴」
「まぁ、毎日が楽しいみたいだから」
少し前まで病床生活だったからこそ、今の世界が素晴らしく思えるのだ。
「のび太も帰るんだろ?俺達と途中まで帰らないか?」
「え、いいの?二人っきりの時間を潰しちゃうけれど」
「もう!リズみたいにからかわないでよぉ!」
「大丈夫だ……ALOも一緒だからな」
「……わかったよ。リズさんがこういうのをバカップルっていうんだって」
苦笑しながらのび太は立ち上がる。
「おう!のび太!」
三人で歩いていると反対側からジャイアンがやってくる。
「あれ、ジャイアン?」
「お前ら、ALOにログインするんだろ、出木杉やみんなが今日、インできないみたいでさぁ、そっちに参加してもいいか?」
「私達は良いけれど」
「ごめん、僕はユウキ達と攻略に出るから、ユウキに聞かないといけないんだ。インした後にメッセージを送るよ」
「すまねぇな、んじゃ、後でなぁ~」
ひらひらと手を振ってジャイアンと別れる。
その後、和人と明日奈の二人とも別れてのび太は家に帰ってALOにログインした。
「遅いよぉ!ノビタニアン!」
「ごめん、ごめん」
待ち合わせ場所の空都ラインへ到着すると腕を振り回して怒るユウキの姿がそこにあった。
彼女の他にサラマンダーのジュンとウンディーネのシウネーがいる。
「あれ、ランさんは?」
「姉ちゃんは用事、他のメンバーもリアルの都合で来られないんだ」
「そうだ、ジャイトスを呼んでもいい?後、キリトやアスナさんも」
「そうだね、これから受けるクエストはアルゴからの情報だけど、かなり大変だって~」
「……なんというか、もう少し情報を集めておいても」
「もう、ユウキは」
「ごめん。ノビタニアンさん。うちの仲間が」
「いや、気にしてないから……SAOでもこんなんだったから」
ユウキの無茶ぶりは今に始まったわけではない。
ノビタニアンはジャイトス、アスナとキリトへメッセージを飛ばす。
すると、すぐに返事が届く。
どうやら、全員参加可能のようだ。
しばらくして、ジャイトス、アスナ、キリトの三人がやって来る。
「おう!来たぜ!」
「ようし!これからレジェンダリー・ウェポン獲得に行くよぉ!」
拳を突き上げて叫ぶユウキに全員が頷いた。
「それで、どうしてこうなるんだよ!?」
薄暗い洞窟の中、全力で走りながらジャイトスが叫ぶ。
「そりゃ、トラップに触れたからだろ!?」
同じように走っているキリト。
ノビタニアン達は洞窟の中を全力で走っていた。
その後ろを無数の蛇の群れが追いかけている。
「なんか、これと似たようなこと、随分、前にあったぞ!?」
「マヤナ国だよ!」
ジャイトスにノビタニアンが話す。
後ろから追いかけている蛇は真っ白で赤い瞳をしていた。
かつて、タイムホールの負荷によってマヤナ国という場所に繋がったことがあり、そこでノビタニアン、ジャイトス、キリトは白い蛇の群れに遭遇したことがある。
「魔法で倒したりしてみたけれど、キリがないよぉ~」
「どこかでやり過ごすしかないわ!」
ユウキが涙目で叫ぶ。
「みて、あそこ!」
視線の先に出口が見えてきていた。
「出口だ!」
全員が勢いよく飛び出す。
そこは川の上だった。
『え!?』
ぽかんとした表情のまま、全員は川の中に落ちていった。
事の始まりは数十分前。
前に受けた山に隠された洞窟があり、そこを攻略すればレジェンダリー・ウェポンが手に入るという。その洞窟の中でトラップに引っかかって全力で逃げていた結果。
川の中に落ちていく。
「ひ、酷い目にあったぜ」
「ジャイトス、大丈夫か?」
川から這い出たノビタニアン達は近くの岩場で休憩していた。
「山のダンジョンで、地下水が流れている……気を付けないと、永遠に迷ってしまうかもなぁ」
「そうだね。何か情報があればスムーズに行けるかもね」
「情報かぁ、ユウキ。何かアルゴさんから聞いていない?」
「ごめん。可能な限り情報を集めてもらったんだけど。ここにウェポンがあることしかわかっていないんだ」
「……そっかぁ」
「パパ!」
ぴょことキリトの服からユイが現れる。
「ユイ、どうしたんだ?」
「この先の道に強力なモンスターがいます」
怯えた様子でユイが先につながる道を指さす。
「モンスター?」
「はい、このダンジョンに生息するモンスターの中で一番の強さです」
「おお!腕が鳴るぜ!」
「暴れてやります!」
「ユウキ、どうする?」
「勿論。行こう!」
彼らは道を進む。
しばらくして、開けた空間に出る。
「ノビタニアン!あれ見ろ!」
先を歩いていたジャイトスの指の先。
そこには壁に刺さって輝く剣がある。
「あれが、レジェンダリー・ウェポンじゃねぇのか!?」
「そうかも!」
興奮してジャイトスとジュンが駆け出す。
「あ、二人とも、危ないですよ!」
シウネーが注意するも二人は飛び出して戻ってこない。
その時だ。
「パパ!何かが上から来ます!」
「みんな!気をつけろ!」
キリトが叫んだ直後、天井から黒い影が降り立つ。
「こいつ!?」
その姿を見たキリト達は驚きを隠せなかった。
なぜなら、その敵と彼らは一度、遭遇しているのだ。
「リベリオン……ナイト」
SAOで倒した叛逆の騎士。
その姿は前と少しばかり差異はあったが、間違いない。
「どうして、こいつが!」
「ユイ、どうして」
「わかりません、ですが、ALOはSAOサーバーを利用しています。もしかしたら、そのデータがこちらで再現されたのかもしれません」
「そうか、とにかく。強敵だ!みんな、油断するな!ジャイトス、ジュン、でタンクを頼む!」
「任されよ!ジュン、あのモンスターの一撃は強力だ。危なく感じたらすぐに離れろよ!」
「はい!大丈夫っす!」
「アスナとシウネーさんは後方で支援を!ユウキ!ノビタニアンはわかっているよな?」
「勿論!」
「任せて!」
「ようし、行くぞ!」
先陣を切るようにキリト、ユウキ、ノビタニアンが走る。
三人を見てリベリオンナイトは巨大な大剣を振り上げた。
「こっちだぜ!」
「俺達が相手っす!」
ジャイトスとジュンが挑発行為をする。
それに反応してリベリオンナイトが大剣を突き刺そうとした。
魔法でステータスの底上げを受けた、ユウキが攻撃の隙間を潜り抜けて、ソードスキルを繰り出す。
紫色の剣の攻撃を受けて大きく後退するリベリオンナイト。
「行くぞ!」
「オッケェエエエイ!」
二刀流のキリト、片手剣ソードスキルを放つノビタニアンの攻撃。
キリトの連続攻撃の硬直をカバーするようにノビタニアンの斬撃がリベリオンナイトを切り裂く。
しかし。
「なに!?」
「HPが減っていない!?」
「ウソだろ!?キリト達の攻撃だぞ!?」
叛逆の騎士はどういうわけか攻撃を受けているのにHPが減少していない。
「こんなことがありえるのか?」
キリトが困惑の声を漏らす。
攻撃を受けた騎士はのけ反ったと思うと拳で地面をたたいた。
「おい!なんか出てきたぞ!?」
ジャイトスの言葉通り、地面から人のようなものが現れる。
その姿を見たジャイトスは目を見開く。
羽飾りのついた兜、顔の上半分をフェイスマスクのようなもので身を包み、鍛えられた肉体をさらけだした男。手には石槍が握られている。
男の姿をジャイトスは知っていた。
「てめぇは、コアトル!」
嘗て、マヤナ国でジャイアンが戦った槍使い。
その姿にジャイトスは自身の斧を構える。
「いいぜ、またてめぇとは戦ってみたかったんだ!ジュン!てめぇは下がっていろ!こいつは俺の獲物だ!」
「は、はい!!」
驚くジュン。
ジャイトスは自身の武器を構える。
「来いよ。成長した俺の力を見せてやるぜ!」
斧を構えてジャイトスは駆け出す。
「……待てよ」
攻撃をしていたノビタニアンはふと、動きを止める。
目の前のリベリオンナイトのHPは減っていなかった。
そして、ジャイトスの前に現れたコアトル。
こちらはHPの減少は起こっている。
「なーんか、こんなことが前にもあったような?」
「ノビタニアン、どうした!?」
「……みんな!鼻をつまんで!」
「え!?」
驚いた声を上げるシウネー。
誰もがノビタニアンの言葉に戸惑う。
彼らを除いて。
「よし!」
「わかったぜ!」
「オッケー!」
「え、えっと、うん!」
キリト、ジャイトス、ユウキ、アスナは鼻をつまむ。
少しして、ジュン、シウネーも続く。
しばらく鼻をつまんでいると急に叛逆の騎士の姿が消える。
「そうか、あそこか!」
キリトの視線は洞窟の上、岩の上で隠れている術者の姿を捉えていた。
「こんな展開、前にもあったなぁ!」
コアトルの槍攻撃を受け流してジャイトスがソードスキルを放つ。
「こ、これはどういうことでしょう」
「幻術です」
後退したノビタニアンが戸惑うシウネー達に話す。
「あそこにいる術者が香りで僕達に幻影をかけていたんだ。普通ならバッドステータスにでるんだけど、体に悪影響を与えるようなものじゃないから、気付かなかったんだ」
「で、でも、どうして、初見で気づいたんだよ?」
「まぁ、体験済みだったからかな」
ノビタニアン、ジャイトスはかつてマヤナ国である術者の幻術に引っかかったことがある。
その際、鼻をつまんで回避したのだ。
丁度、キリトが術者を倒したようで目の前に存在していたリベリオンナイトが消滅する。
「って、おい!?俺様を放置か!?」
「だって、一対一でしょ?邪魔しちゃ悪いじゃん」
ユウキの言葉にジャイトスは苦笑いを浮かべながらコアトルと戦っている。
危なかったら参戦することも考えたがジャイトスの顔を見てその判断はなしにした。
悪態をつきながらジャイトスはコアトルのHPを削り取っていく。
「本当は槍のスキル取得も考えたんだがなぁ、これが俺様には丁度いいんだよぉぉぉおおおお!」
叫びと共に両手斧のソードスキル“ヴァイオレント・スパイク”を繰り出す。
コアトルは防ぐことも出来ず荒々しく振り下ろされた二連撃をその身に受けた。
HPを刈り取られ、コアトルのHPはゼロとなり消滅する。
「うし!どんなもんだい!」
両手斧を振り回し、雄叫びを上げるジャイアンにジュンやユウキが拍手を送る。
「倒したのに、終了の通知が出ないな」
キリトが周りを見渡して呟く。
「そうだね。まだ、何かあるのかな?」
「例えば、あの剣を抜かないといけないとか?」
ノビタニアンが壁に突き刺さっている剣を指さす。
「ありえるな。とにかく、行ってみるか」
キリトとノビタニアンは突き刺さっている剣に近づいた。
「凄いな、レジェンダリー・ウェポンだぞ……片手直剣、クラウ・ソラス……前に見たエクスキャリバーに匹敵するステータスだ」
驚くキリトが剣へ手を伸ばした時。
ザシュと地面に矢が刺さる。
「なに!?」
「キリト君!あそこ!」
洞窟の上から影が降り立つ。
背中に赤いマントを羽織り、兜はタカか何かを模しており、顔の部分は琥珀色の仮面のようなもので隠されている。
降りてきた相手は地面に刺さっているクラウ・ソラスを抜き取る。
「これを欲しければ、私を倒すことだ」
クラウ・ソラスを構えて相手は言う。
それと同時にHPと名前が表示される。
HPバーは一本。
相手の名前は太陽王。
「え?」
その姿にキリトは驚く。
現れた名前は少しばかり衝撃だった。
キリトが剣を構えようとした時。
「貴様」
クラウ・ソラスの剣先をノビタニアンへ向ける。
「この剣を欲しければ、インプの剣士、貴様が相手をするのだ」
「僕?」
戸惑いを隠せないノビタニアン。
太陽王は頷いた。
少し考えてノビタニアンは頷いて剣を手に取る。
「わかった、僕が相手だ」
ブンと剣を構えた。
ノビタニアンが頷くとデュエルが始まる。
「え、これはどういうこと?」
「どうやら、あのNPCが現れたことで強制デュエルが発動したみたいです。ママ」
戸惑うアスナにユイが話す。
「でも、なんで……ノビタニアン君を」
「多分、このクエストはあれをモデルにしているんだ」
「あれ?」
「なぁ、キリト。これって、マヤナ国だよな」
「あぁ、間違いない」
「キリト、ジャイトス、マヤナ国って?」
「SAOで大冒険について、話しただろ?かつて、ドラえもんの道具でマヤナ国というところに行ったことがあるんだ。そこはティオっていう王子がいたんだよ」
「とっても強い奴だったぜ」
「ねぇ、もしかして」
「あぁ、茅場はSAOのデータにノビタニアンの大冒険の記憶を設定していたといっていた。このALOにそれが反映されているとしたら、あり得ない話じゃないだろ?」
「じゃあ、あれは」
「おそらく、ティオをベースにしている敵だ」
「ノビタニアンは勝てると思うか?」
小さい時の相手とはいえ、ティオは強かった。
力と技が成長している姿と想定して、果たしてノビタニアンはどこまで。
「やれるさ」
ジャイトスにキリトは言う。
その目は絶対の自信があった。
「SAOで二年間。ALOやGGOで強くなっているのは俺達だけじゃない。いくら相手がティオだろうとノビタニアンは負けない。何より」
ニヤリとキリトは笑みを浮かべる。
「三剣士と数えられている白銀の剣士がそうそう負けるわけがないだろ?」
「そうだよ!ノビタニアンなら大丈夫だ!」
「(見える……相手の動きが!)」
太陽王の繰り出される剣の突撃を右へ左、時に剣で受け流しながらノビタニアンは戦っていた。
相手の動きがわかる。
自ずとその理由は分かっていた。
大冒険、SAOの戦い、ALOやGGOの戦いで成長を怠らなかったからこそ、得たものだろう。
しかし、長引けば自分が不利になる。
相手が使う武器は伝説級。
ランと戦った時もなんとかやりあえたが、それ以上の力があるのか、使い手の問題なのか武器の耐久値はかなり減少していた。
「(またリズさんに怒られるよぉ)」
「よそ見とはいい身分だな!!」
太陽王が繰り出したソードスキルがノビタニアンに迫る。
直撃したらHPが大幅に削られてしまうだろう。
ならば。
ノビタニアンは地面を蹴る。
額に刃がぶつかる直前、体をそらして太陽王の懐へ入り込む。
「!?」
仮面の向こうで太陽王が目を見開いている中、ノビタニアンの剣が輝く。
事前にインプの魔法、エンハンス・ダークを発動していたことによって闇色の輝きを放つ。
繰り出されるソードスキル“ノヴァ・アセンション”が太陽王の体を切り裂いた。
太陽王はくぐもった声をあげて後ろへ下がる。
「……見事だ」
体にノイズが入りながら太陽王がいう。
「強くなったな……」
「そうかな?まだまだだよ」
「だが、貴様はこの剣を受け取る資格を得た。受け取るがいい」
「……ありがとう」
太陽王が差し出したクラウ・ソラスをノビタニアンは受け取る。
「(重たい)」
両手にずっしりと感じる重み。
今の自分では使いこなせないだろうとノビタニアンは思う。
「僕は、この剣を使いこなせるような剣士になるよ。絶対」
「……頑張れ」
太陽王の体が消滅する。
同時にクエスト終了の音が鳴り響く。
「ノビタニアン!」
「う、わわ!?」
振り返るとユウキがノビタニアンに抱き着いた。
バランスを崩してしまい、しりもちをつく。
「やったね!レジェンダリー・ウェポン!」
「うん、ユウキ!やったよ!」
「おめでとう、ノビタニアン」
「やったな!」
仲間達が次々と賛辞の言葉を贈る。
ノビタニアンは素直に喜ぶ。
「それで、どんな武器なんだ?そいつは」
ジャイトスの言葉にノビタニアンは両手の中にあるクラウ・ソラスを見せる。
ステータスを見て、ジュンやジャイトスは驚きの顔を浮かべ、シウネーはにこにこと微笑んでいた。
更新遅れてしまい、申し訳ありません。
余裕があれば、明日も投稿する予定です。