のび太はドラえもんに尋ねる。
「ねぇ、ドラえもんはどんな誕生日プレゼントが欲しい?」
ある日の夜。のび太は近づいているドラえもんの誕生日のことで話し合っていた。本来は2112年なのだが、のび太達はドラえもんの生まれた日で祝うことにしていた。
「僕は気持ちがこもっているならどんなものでも嬉しいんだ」
「そっかぁ……ねぇ、ワックス塗りすぎじゃない?」
ドラえもんは全身がテカテカするほどにワックスを塗りたくっていた。
全身がてかてか輝いていて少し派手じゃないかと思っていた。
「明日は同窓会だからね!これぐらいの方がいいのさ」
「そっか、楽しみだね」
のび太の一言にビクン!とドラえもんが反応する。
「あれ、楽しくないの?」
「そんなことないさ!さ、おやすみ!」
そういってドラえもんは自室へ入っていく。
電気を消して部屋の中を覗き込む。
気落ちした様子のドラえもんが鏡を見て息を吐いていた。
不思議とその様子がのび太は気になった。
「ノビタニアン、何をしているの?」
ALOの中、海岸の傍で佇んでいるノビタニアンの姿を見つけてユウキが声をかける。
「うん?あぁ、ユウキか。少し考え事」
「考え事?」
「うん、そろそろドラモンの誕生日が近いからプレゼントをどうしようか考えていたんだ」
「ドラモンの誕生日かぁ、どら焼き五十個じゃダメかな?」
「前にそれと似たようなことをしたからね、他のことをしてあげたいなって」
「……そういえば、少し気になっていたんだけど」
ユウキは前から気になっていたことを尋ねることにした。
「どうして、ドラモンって、リアルだと耳がないの?」
「あぁ、それ?ドラモンが昔、鼠に耳をかじられちゃったんだ」
「耳を?体が黄色いことは知っていたけれど、そんなこともあったんだね」
「うーん、そうだ」
ポン、とノビタニアンは手を叩く。
「ドラえもんに耳をプレゼントしよう!」
これが新たな騒動のはじまりになると彼らは知らなかった。
近づいてくるドラえもんの誕生日に向けてのび太、和人、直葉、明日奈、ユウキで打ち合わせをするためにのび太の家へ来ていた。
「あれ、ドラえもん、同窓会だったんじゃないのか?」
中へ入るとドラえもんが蹲っていた。
「ドラちゃん?」
「や、やぁ、お帰り」
「何、その頭につけているおにぎりみたいなの?」
「!?」
のび太の言葉にドラえもんの目が開かれる。
「何かの仮装でもするのか?」
「もしかして、同窓会で芸でもするとか」
「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああ」
泣き声を上げてドラえもんは家を飛び出していった。
「な、何だったんだ?」
「びっくりしたぁ」
「あ!ドラえもんの同窓会の写真かな?」
ユウキが机に置かれている写真を見る。
「ドラちゃん、一人だけ青いなぁ……ドラえもんズはいないのかな?」
「他は黄色いんだね。もしかして、ずっと前にいっていた、特別クラス編入前の同窓会なんじゃないかなぁ?」
直葉とユウキが話をしている中、のび太は落ちているパンフレットを拾う。
そこには猫耳を付けたモデルたちの姿があった。
「そうかぁ!?」
のび太は気づく。
ドラえもんは耳がない。
同窓会でも自分だけ色が違うことなど、色々と気になっているものがあるのかもしれない。さっきのおそらく自分に耳をつけようとしていたのだ。
「何か、悪いことしちゃったかも」
明日奈の言葉にのび太達が俯いていると引き出しが音を立てて開く。
「おめでとうございまーす!ドラえもんさんに!ギャラクシーレースの参加資格が当たりましたぁああああ!」
「へ?」
「ギャラクシーレース?」
「何、それ?」
現れた女性に困惑するのび太達。
その女性は簡単にギャラクシーレースについて話す。
銀河をまたにかけたレースで優勝すればどんなものでも手に入るという。
「どんなものでも?」
「はい、野球場、星、どんなものでも手に入ります」
どんなものでも、と聞いてのび太は手の中にあるパンフレットを見る。
ドラえもんに耳がプレゼントできるかもしれない。
そう考えたのび太は。
「僕、参加する!」
「え!?」
「のび太?これはドラえもんが」
「参加者は多い方がにぎやかになりまーす!」
「じゃあ、ボクも!」
「ちょっと、ユウキ!」
「私も少し、興味あるかも」
それぞれがボードに名前を書き込んでいく。
現れた女性、カレンがタイムホールを開いて、みんなを連れていく。
「あ、のび太君?」
「さ、行こう、ドラえもん」
「え、どこに?」
「ギャラクシーカーレースさ!」
現れたドラえもんにのび太が話す。
「えぇ、レースなんて、僕、知らないよ!?」
「またまたぁ」
「ドラえもんがいないと二十二世紀から人がくるわけがないだろ?」
驚くドラえもんにのび太と和人が言う。
「そろそろ到着します」
カレンが言った直後、座っていた椅子が跳ね上がり、投げ飛ばされる。
のび太達が地面につくと大量のスポットライトが当たった。
『最後に特別枠として二十世紀の少年レーサーたちの登場です!』
「キミ達への拍手だよ、答えたら」
困惑しているのび太の前に白いタキシードを着た男性が促す。
「うわぁ、嬉しいな!どうも、ありがとう!」
戸惑いながらみんなは拍手に答える。
「なんか、恥ずかしいね」
「そうだな」
明日奈と和人は戸惑っている中、直葉は威嚇するようにドラえもんがネコのロボットを見ていることに気付く。
ギャラクシーレース。
それは星を超空間でつないで行われるレース。
危険な星もあって、中には負傷者もいたという。
ドラミからその話を聞かされて和人は驚いていた。
「そんな危険なレースにドラえもんが招待されたのか?」
「だから、僕は知らないって」
「どういうこと、かしら?」
「タヌキや子供が参加するには危険なレースだ、やめておきな」
困惑する明日奈達に声をかけたのはデポン。
「僕はタヌキじゃ!」
「ドラえもんはタヌキじゃない!ネコ型ロボットだ!それにレースはやる前に勝負がつくわけじゃないでしょ」
「成程、それは確かに一理あるな。ほら、ご褒美」
白いネコ型ロボット、デポンは皿をのび太へ渡す。
「何それ?」
「パンの耳……」
「耳?むかぁ!!」
ドラえもんが顔をしかめる。
「とにかく、レースに参加する!」
「参加するにしても車が必要よ?私やお兄ちゃんの使う道具はデパートのものだから、こういうレース向きじゃないの」
「え!?」
「車がないんじゃ、参加できないなぁ」
和人の言葉にのび太は考える。
「車を貸してもらえるように探してくる!!」
「あ、ボクも行くよ!!」
「……俺も行くか」
駆け出したのび太とユウキ。その後を和人は追いかけることにした。
「ねぇ、なんでのび太はレースに出ようとしているの?」
「ドラえもんに耳をプレゼントしたいんだ」
「耳?」
「そっか、ドラえもんはもともと、耳があったな」
のび太の言葉で和人は思い出す。
思い出してユウキも納得する。
「だから、レースに勝ってドラえもんに耳をプレゼントしたいんだね」
「そう、だからレースに勝ちたい……そのために」
「車が欲しいのか、よし、俺達も手伝うぜ!」
和人の言葉にのび太は涙を浮かべて二人の手を取る。
レース当日。
「何か、私達も参加できたね」
明日奈はベンガルという人から運よく?車を借りることができた。
助手席に直葉の姿がある。
「それにしても、キリト君やのび太君達は大丈夫かなぁ?」
「あ、いたよ!……ぇ?」
直葉が身を乗り出す。
先を見て目を丸くする。
「……すっごい、恥ずかしい」
「言わないで、まさか僕もこんなものだなんて」
「おっかしいなぁ、ボクの設計図通りに頼んだのに」
黄色いアヒルの乗り物?に和人、のび太、ユウキ、ドラえもんが乗っていた。
「何か、これで安心したよ」
ユウキの持っている設計図を見てドラえもんが安堵の声を漏らす。そこには不死鳥みたいな落書き?が描かれている。
「キリト君!」
「アスナ!?その車は?」
「ベンガルさんに借りたの。でも、みんな、それは……」
「まぁ、色々ありまして」
あの後、自転車屋ゴンスケの一漕ぎ三百メートルのアシスト自転車を車に変えてもらったのだが。まさかのアヒルさんに三人は言葉を失ってしまう。
「まさに醜いアヒルの子だな」
デポンの言葉に四人は顔をしかめる。
「見てろ!?絶対に優勝してやるからなぁ!」
デポンに対抗心を持つドラえもんが憤慨していた。
レースは四つの惑星を超空間で通って行われる。
彼らの周りには様々なレーサーの姿があった。
「何か、緊張してきた」
「うぅ、ボクもだよ」
「頑張るよ!」
開始のブザーが鳴りだしても彼らは動けなかった。
「お、おい!?」
気付いた和人に言われて慌ててのび太とドラえもんがペダルをこぐ。
その瞬間、ものすごい速度で他の車たちを追い抜いていた。
「すっごい!?」
「あの爺さんの自転車、案外、バカにできないな」
ユウキと和人が驚愕している中、あっという間にデポンと並走する。
「そんな急いでいて問題ないのかぁ?レースは始まったばかりだぞ」
「うるさい!」
「だ、大丈夫!僕達は負けないから!」
息の荒いのび太。
そうして、目の前にある超次元扉を潜り抜けた。
瞬間、岩の棘のようなものが視界に広がる。
「わぁああああ!?」
「和人、スィッチ!」
「よし来た!」
のび太と入れ替わって和人が運転席へ変わる。
「ドラえもん、ボクに任せて」
「うん!」
二人は入れ替わり、指示を飛ばしあいながら岩の道を躱していく。
しかし、道が平面でないことから進むことが難しい。
「よし、コエカタマリン!」
ドラえもんがポケットから道具を取り出す。
薬品を飲んでのび太が声を出した。
すると声が固まり突起物を破壊していく。
しかし、平面でないことから色々な車に抜かれていた。次の超空間ゲートに移動する際、ビリの場合、脱落してしまう。
『スイッチを押せ!』
その時、アヒル号に設置されているスクリーンからゴンスケが指示を飛ばす。
「スイッチ、これだね!」
ユウキがスイッチを押した途端、アヒルの顔が伸びた。
あっという間に顔がゲートを突破する。
「あれ、アリなのか?」
『アリです!』
和人の呟きに司会者が応答した。
続いて、彼らがやってきたのは灼熱の惑星。
マグマが川のように流れている。
ドライバーたちは設置されているテキオー灯によって活動は出来ていた。
「活動はできるといっても」
「暑いよぉ、服を脱ぎそうになるよぉ」
交代して後ろにいるユウキが服をペラペラとめくる。
「ドラえもん、なんとかしてよぉ」
ペダルを漕いでいるのび太の言葉でドラえもんがポケットを探り、取り出したのは。
「アベコベクリーム!」
「クリーム?」
「これを塗るとすべて、アベコベになるんだ」
「何だろう、少しトラウマを刺激されたような」
アベコベクリームを見て、ユウキはブルリと体を震わせながら体にクリームを塗る。
すると、先ほどまで暑かったはずなのに涼しく感じるようになった。
「あ、あれは」
少し先。
デポンがマシンの機械を弄っていた。
のび太はアベコベクリームをデポンへ差し出す。
「これ、使ってよ」
「結構だ」
デポンは差し出したクリームをはじく。
「なんてことするんだ!」
ドラえもんがデポンに怒る。
「俺は誰も助けないし、助けられない。そういう主義だ」
「成程、根っからのソロプレイヤーか」
去っていくデポンのマシンを見ながら和人は呟く。
落ちたクリームを拾ってユウキがノビタニアンへ近づいた。
「レースはまだ続いているよ。頑張ろう!のび太!」
「そうだね、ユウキ!」
道具を受け取って彼らは次のエリアに向かう。
次のエリアは放棄された無人の衛星。
ところどころ道が破壊されており、かなりのレーサーが足止めを受けていた。
「どっちに行けばいいんだろう?」
「こればっかりは慎重に行動しないといけないな。なんかマップもあてにできないし」
「それなら、これがある!」
ドラえもんは杖のような道具を取り出す。
「ミチサキステッキ!これで行く先がわかるんだ」
「便利だな」
ステッキを倒して表示された矢印の方へアヒル号を進ませる。
「ところで、これ、いつからアヒル号になったの?」
「さぁ?おじさんが呼んでいたからかな?」
ユウキの言葉にのび太が答える。
その時、すぐ近くで誰かの泣いている声が聞こえた。
アヒル号を止めて近くを見ると落ちてクラッシュした一台のレースカーがあった。
「うわぁ、これはひどい」
「俺達も気を付けないといけないな」
「違うぶひぃ!後ろから追突されたんだぶひー!猫耳を付けた奴だったぶひぃ!」
「猫耳?」
「追突とは穏やかじゃないな」
「とにかく、気を付けよう」
ドラえもん達をのせてアヒル号は走り出す。
やがて、大きな空間に出てくる。
狭い道を走っていると後ろからデポンの乗るレースカーがやってきた。
目の前の道が左右に別れる。
ドラえもんがミチサキステッキを取り出す。
倒れた先は左。
「よし、こっちだ」
「待て!」
左へ進もうとしたドラえもん達にデポンが声をかける。
「そっちは嫌な音がする。やめるんだ」
「うるさい!お前みたいな卑怯なことをする奴の言うことなんか聞くか!」
「何を言っている!」
「行くよ!」
「え、いいの?」
戸惑うのび太はデポンを見ながらも左へ進む。
デポンは舌打ちしながらその後ろを追う。
その時、のび太達が進む数メートル先の道。
裏側に設置されている爆弾が起動する。
「チッ!」
音に気付いたデポンがアクセル全開にして後ろからアヒル号にぶつかり加速する。
二台が走り抜けた直後、道が爆発を起こす。
アヒル号は転倒してのび太達は倒れる。
起き上がったドラえもんが駆け寄ってくるデポンに叫ぶ。
「一体、何の真似だ!こんなことをして!」
「あれをみろ」
デポンが後ろを指すと破壊された地面があった。
「これは」
「お前はお手伝いロボットだろ!」
茫然としているデポンの胸倉をつかむ。
「待って!」
和人に肩を借りてのび太がやってきた。
彼は足を押さえている。
「のび太君!?けがをしたの?」
「大丈夫、それより助けてくれてありがとう」
のび太が感謝の言葉を伝えるがデポンは何も言わずにレースカーに飛び乗る。
「気をつけろ、このレースは何かおかしい」