レース会場では観客が不満の表情を浮かべていた。
「何にもみえないもん!」
「今回のレースは色々と問題だらけだなぁ」
観客席でドラミが不満を漏らし、傍にいるキッドがつまらなそうな顔をしていた。
「お兄ちゃんたち、大丈夫かなぁ?」
「乗っているマシンはともかく、あいつらはSAOサバイバーだからな、命がけの危険があったとしても、なんとか潜り抜けられるだろう」
「だとしても!もう、お兄ちゃんたら、こんなに心配させてぇ!」
「落ち着けって、ほら、メロンパン」
「あむ!」
キッドが差し出したメロンパンをドラミは頬張る。
「のび太、大丈夫?」
後部座席に腰かけているのび太にユウキが尋ねる。
「まだ痛むけれど、大丈夫!」
ユウキを安心させるためにのび太は微笑む。
前でペダルを漕いでいる和人達は衛星空間から未開拓惑星へやってくる。
「薄暗いなぁ~」
「こりゃ、何がでてきたとしてもおかしくはないな」
太陽の光が深い森に閉ざされていて、日が差し込まない。
傍を巨大なダンゴムシのようなものが過ぎていく。
「SAOでも、巨大な昆虫が闊歩していたエリアがあったよね?」
「あったな、カマキリとか、蜂とか」
「気のせいか、後ろでミミズみたいなでかいのがいるんだけど」
「ルールによると最後の惑星は今年のレースで新たに取り入れられたらしいから、何が起こるかわからないっていう話だけど……」
「まさか、巨大昆虫の惑星とはなぁ。明日奈、大丈夫かなぁ?」
「いやぁあああああああああああああああ!」
「明日奈さん!気持ちはわかるけれど、落ち着いてぇえええ」
後ろから追いかけてくる巨大なダンゴムシの姿に明日奈と直葉は顔を真っ青にして逃げていた。
女性たるもの虫は苦手である。
その時、二人の乗っている車のモニターにベンガルが映る。
「あ、ベンガルさん!」
『今!ネコ型ロボットに襲われている!』
「えぇ!?」
「直ぐに行きます。場所を」
『いや、キミ達には相手のデータを送る!これを委員会に届けてほしいんだ!そして、犯人を捕まえて……あああああ!?』
派手な音と共にベンガルとの交信が途切れる。
「明日奈さん、どうしょう?」
「キリト君と合流しましょう……」
何か気になることがあるのか明日奈は和人達と合流することにした。
その頃。
「うぉぉぉぉぉ、わしの車がバラバラじゃあああ!」
「酷いアル!」
他の参加者の車が解体されているという不思議な事態に和人達は遭遇していた。
「これは、どういうことだ?」
「多分、分解ドライバーだ」
「何それ?」
「レースで相手の車を解体して優勝を狙うレーサーさ」
「妨害か……ここまでして勝ちたいということか…。気持ちはわからないでもないが、やりすぎだ」
「犯人はどこにいったの?」
「あっち!」
教えられてのび太達は犯人を捜すべく走らせようとした時。
「みんな!後ろ!」
ユウキの悲鳴に振り返ろうとした時。
巨大な“口”が目の前に現れた。
反応する暇もなく、彼らは飲み込まれてしまう。
レース会場は苛立ちに包まれていた。
先ほどから目の前にスクリーンに何も映らないどころか、レーサーの行方すら明らかになっていない。
「こりゃ、とんでもないことになっているかもしれないなぁ」
「お兄ちゃん」
不安そうにドラミは目の前のスクリーンを見続けていた。
体を揺らされてのび太は目を覚ます。
そこでは心配そうにこちらをみている木綿季の顔があった。
「あれ、ここは」
「虫の中、かなぁ」
「虫、そうだ!?」
のび太は思い出す。
レース中に巨大な芋虫のようなものに飲み込まれたということを。
「なんちゅう奴だ!」
聞こえてきた声にのび太は体を起こす。
木綿季の手助けを借りて騒ぎの方へ向かうとデポンを囲むようにレーサーたちがいる。
彼らは全員、怒っていた。
「どういうこと?」
「のび太君、大丈夫?」
のび太に気付いた直葉がやってくる。
「これは?」
「このレースの妨害をしている人がデポンだって、わかって」
「俺は何もしていない!」
「ウソつけ!」
「お前がやったという証拠はでているアルよ!」
「証拠、って?」
「違う!」
デポンがやったという証拠があることに戸惑うのび太。
そんな中、ドラえもんが大きな声を上げる。
全員の視線が集まる中で強い瞳でドラえもんは訴える。
「デポンは嫌な奴だ。偉そうで、誰の手も借りようとしない頑固……でも、レースにおいて、こいつは卑怯なことは絶対にしない!そんな奴がこんなことをするわけがないよ!」
「でも……ベンガルさんが襲われた証拠があるって」
「だったら、それを調べてみるべきだな……明日奈、そのデータはどこに?」
「あっちの車に」
「その必要はないよ」
聞こえてきた声に全員が身構える。
暗闇の中、明日奈が指さした方向から人影が現れた。
それは猫耳のような被り物をしたベンガルだ。
「ベンガルさん!?」
「どうして……」
「悪いね、私はなんとしてもレースで優勝しなければならなかった。そのために、キミ達を利用したんだがねぇ……まさか、ここまで思い通りにいかなくなるなんて、本当に困ったものだ」
苛立ちを隠さずにベンガルは言う。
彼はそのまま色々なことを話す。
今回のレースの最後の惑星。
最後のエリアはベンガルが私有している惑星で、全ての生き物は彼の言うことをしたがうように設定されているという。
「じゃあ、半年くらいこの中に入っていたまえ」
ベンガルがそういうと外に出ていく。
残されたメンバーが後を追いかけようとしたが、その口は閉ざされてしまう。
「どうにかして、外に出ないと!」
「でも!あの口、全然あかないし……車も」
「大丈夫!僕達にはアヒル号がある!」
「そうだよ!外に出れば、ボク達のアヒル号でなんとかできる!でも、瓦礫に挟まっていて動けなくて」
「そんなことははよいわんかーい!」
「行くあるよ!」
のび太を担いでアヒル号の場所へ向かう。
その途中、のび太のポケットから一枚のパンフレットが落ちる。
ドラえもんが拾って中を見ると猫耳の絵が描かれていた。
「これは……」
「ドラえもんさんにプレゼントするためにのび太君はレースに参加したみたいだよ?」
後ろから明日奈が教える。
「のび太君……」
涙目になりながらドラえもんが前を行くのび太を見つめた。
「でも、どうやって脱出するの!?」
思い出したように直葉が叫ぶ。
「大丈夫、僕に考えがある。ドラえもん、アベコンベとジーンマイクを出して」
「え、うん」
ドラえもんはポケットからアベコンベとジーンマイクを取り出す。
ジーンマイクにアベコンベをぶつける。
それをみて、木綿季は顔をしかめて、明日奈は苦笑した。
「じゃあ、明日奈さんか直葉ちゃん、歌って」
「え?どうして?」
「ジーンマイクは人を感動させることができるんだけど、アベコンベを使ったから……ジャイアンの歌を再現できると思うんだ」
「……うわぁ」
それを想像して和人は顔をしかめる。
「よくわからないけれど、任せて!」
明日奈はマイクを握り締めて歌い始める。
本来なら誰もが涙する歌だっただろう。しかし、アベコンベによって逆転したジーンマイクで聞いた大型芋虫はうめき声をあげて中のものを吐き出す。
メンバー全員が吐き出されながらのび太、和人、木綿季、ドラえもんをのせたアヒル号が走り出した。
「おい!」
走り出すアヒル号にデポンが声をかける。
ドラえもんが振り返ると、デポンが親指を立てた。
「ネコ型ロボットの意地をみせてやれ!」
「うん!」
「カレン!もうすぐだ!優勝すれば、私たちの結婚を認めてもらえる!」
『ベンガル……』
ゴールまであとわずか、長距離のホールの中を走りながらベンガルは最愛の人、カレンと通信していた。
全ては愛する人と自分が結ばれるため。
そのために卑怯な手を使ってまでレースで優勝する。
画面越しでキスをしようとした時。
『おーっと!後ろからものすごい追い上げをしているのはアヒル号だぁああ!』
レースのアナウンスを務めている男性からの声にベンガルは振り返る。
そこには全力でペダルを漕いでいる和人達の姿があった。彼らは道具を使って速度を上げていた。
やがて、ベンガルの頭上にアヒル号が追いつく。
「や、やぁ、キミ達!ここはお金で解決しないかい?キミ達の好きなもの、何でも買ってあげるから、ここはおじさんに優勝を譲ってくれないかなぁ?」
笑顔を浮かべて勧誘してくるベンガル。
「「「「ニコッ」」」」
それに対して、四人は微笑むと。
「「「「アッカンベー!」」」」
同時に舌を出す。
「悪いけれど、レースとか、競争で負けるつもりはないんだ」
「お金なんかで買えるようなものじゃないから、遠慮するよー!」
「おじさんなんかに負けないよ!」
彼らの言葉にベンガルは顔を引きつらせてアヒル号に体当たりしようとした。
「教育的指導!」
「くらうかよ!」
ハンドルを握っている和人がアヒル号を先に走らせる。
「逃がさん!」
ベンガルは車を操作する。
すると、後部から大量の光弾が放たれてアヒル号に迫る。
「のび太!」
「任せて!」
ひらりマントを手にもってのび太は迫る光弾をすべて躱していく。
「行くよ、キリト!」
「おう!」
その間に木綿季と和人が全力でペダルを漕ぐ。
ホールを抜けて、地上に到達する。
このまま走り抜けば自分達が優勝だ。
そう思ったとき、大量の花火が降り注いでい来る。
「なに!?」
「多すぎるよ!」
「ここまで妨害してくるなんて」
「駄目だ、ひらりマントで躱しきれないよ!」
突如、ベンガルの車がアヒル号へ体当たりしてくる。
「くっ、何……」
隣を見た和人は目を見開く。
ベンガルは錯乱していた。
何か大事なものが失われたような顔をして、わけのわからない言葉を口走り、光弾を放っている。
のび太達は知らないことだが、レースの妨害をしていたカレンが実の父親でレース運営をしていた理事長に悪事がばれて、捕まった。
そのため、ベンガルは乱心してしまう。
派手な音を立てて爆発が起こる。
クラッシュしたベンガルの車と前輪が取れたアヒル号。
のび太とドラえもんが必死に横転しないようにアヒル号のバランスを整えていた。
「まずい!」
あと少しというところでバランスが崩れてアヒル号が横転した。
前のめりになって吹き飛ばされるドラえもん。
体が丸まり、ゴールに向かって転がっていく。
「ドラえもん!」
「「「行け~~~!」」」
三人が叫び、ドラえもんは目を丸くしながらゴールのテープを切る。
そして、優勝はアヒル号となった。
優勝者は好きなものが手に入る。
司会者に聞かれてドラえもんが選んだこと、それは。
「この会場の皆にどら焼きをプレゼント!」
ドラえもんの言葉と共に空から大量のどら焼きが降り注ぐ。
「でも、良かったのか?」
和人がドラえもんに尋ねる。
「のび太の奴、ドラえもんに耳をプレゼントするつもりだったのに」
「うふふ、僕はいいんだ。耳なんかよりももっと素晴らしいものをもらっているから」
微笑むドラえもんに和人はそれ以上、いうことはなかった。
ドラえもんが気にしないのならそれでいい。
どら焼きをおいしそうに食べている彼らの姿を見て、ドラえもんと和人も続く。
次回から行う長編は鉄人兵団にしました。
ちなみに新旧を混ぜ合わせたものになるかと思います。ちなみにこれの主役はSAOキャラになるかと思います。
次回も楽しみにしていてください。