「あー、もう、うるさいなぁ」
外で鳴り響く音にドラえもんが窓から身を乗り出す。
玉子の叫び声と定期的に鳴り響いている音。
その音が何なのか。
ドラえもんはある予感に気付いて体を起こす。
「の、のび太君!」
寝ているのび太を起こして一階の中庭へ向かう。
そこでは玉子が箒を片手に走り回っている。
玉子が追いかけているのは青いボーリングのようなもの。
箒から逃げる青いボーリング。
追いかけようとして転んだ玉子から拾うようにしてのび太がボーリングを手に取る。
言い訳をしてそのまま、二階へ駆けあがる。
のび太の手の中で暴れているボーリングは定期的に信号を鳴らしている。
「これ、何か伝えたいみたいだけど」
「よし、ほんやくコンニャク」
ドラえもんは青いボーリングの上へほんやくコンニャクを叩きつける。
『つめたっ!?おい!体をどこにやった!体を返せ!!』
ピーピー鳴っていた音から声が上がる。
「お前の体は仲間と共に鏡の世界へ閉じ込めてやった!」
『なっ!?リルル!リルル~~~!』
しばらく叫ぶボールだが、静かになる。
『うぅうぅうぅぅ、応答がない……は、は、はははぁあああああああ!今、メカトピアから連絡があった!』
ボールが嬉しそうに叫び、のび太とドラえもんが首を傾げる。
『既に鉄人兵団は本星を出撃して、ワープを繰り返し、いずれ、地球にやって来るだろう』
「「えええ!?」」
『お前達に勝ち目はない。すぐに降伏するのだ!』
ドラえもんとのび太は慌てて、右へ左へ。
しばらくして、一階に降りて玉子へ話すも相手にされない。
その時に球体を縛って襖の奥に放り込んだ。
「警察もダメだ……」
「こうなりゃ、やけくそだ!警視庁!自衛隊!総理大臣!!特命係!!」
ドラえもんの叫びを聞きながらのび太は各所へ連絡を取るも……。
「誰にも相手にされない」
ショックを受けるのび太とドラえもん。頼りになりそうな特命係は存在しないと言われる始末。
ふと、のび太はあることを思いつく。
「そうだ!」
「本当、なのか?」
「うん!信じて、和人!」
のび太は頼りになる親友である桐ヶ谷和人へ持ちかけていた。
「信じるさ。のび太がこんなウソをつくような奴じゃない。それに、俺も同じような目にあったばかりだぜ?」
勿論、鏡の世界とリルル達が人類を奴隷にしようという事実を知っているので、すぐに信じてくれる。
「和人が信じてくれてよかったよぉ」
「でも、和人君が入ったとしても、僕達を入れて、三人か」
「それなら、だけど」
和人が気乗りしないような表情で二人へある提案をする。
「「鉄人兵団が攻めてくる!?」」
和人の提案はジャイアンとスネ夫へこの事態を話すということ。
恐竜の冒険をしたことで信用はできるだろうという判断だった。勿論、普段の態度は置いておくとして。
「信じてくれた!」
「まぁ、なんとなーく、不安はあったんだけど」
驚くのび太の横で和人はちょっと目を逸らす。
五人は腰を下ろして話し合いをしていた。
鉄人兵団についてどう戦うか。
ドラえもんの道具を宛にするということもあったが、もともと、子育て用のドラえもんの道具は戦争兵器というわけではない。
そこで、スネ夫がある提案をした。
「それならさ、その、ザンダなんとかっていうのを改造して仲間にしちゃうっていうのは?」
「おー!」
「それはいいかもしれない。あれはもともと、向こうのロボットだ。こちらの味方にすれば心強い」
「待ってよ!」
スネ夫の案にのび太が待ったをかける。
「いくら敵だからって、改造するなんて駄目だよ。できるなら話し合いとかできないから」
「でも!侵略ロボットだぞ!?」
「話し合ってみないとわからないじゃないか!」
スネ夫の言葉に反論するのび太。
「確かに、のび太の言うとおりだな」
うんうんと頷くジャイアン。
「敵だからって改造というのは俺も反対だ」
「ジャイアン!?」
「じゃあ、話し合いをしてみよう」
ドラえもんの言葉で全員がのび太の家へ向かう。
「よかったな」
歩いている途中、のび太へ和人が話しかける。
「うん」
「のび太は優しいな」
「だって、改造なんてよくないよ……できるなら話し合って仲良くしたい。僕はそう思うんだ」
「そうだな」
和人は小さく頷いた。
それから彼らは家へ向かう。
のび太の部屋では青い球体が天井からつるされていた。
ピポピポと鳴り響いて暴れる球体をジャイアンと和人が抑え込む。
逃げ出そうとする球体の上にドラえもんがほんやくコンニャクをのせる。
『つめた!?やい、よくも僕をこんな目に合わせたな!お前達は鉄人兵団が来れば終わりだピピ!』
コンニャクがずれて言語がただの音声へ戻る。
スネ夫がコンニャクをのせた。
『鉄人兵団は最強なんだ!お前達なんか抵抗したところで無意味だ!鉄人兵団の攻撃に人類はなすすべもなく――ピピピポポポ』
途中でコンニャクが落ちる。
和人が球体へコンニャクを叩きつけた。
『鉄人兵団に慈悲など存在はない!千切っては投げ!千切っては投げ!千切っては投げる!やがて、お前達はすべて下僕になって――ピポピピポピピポピピピ!』
「「「「「だぁあああああああああああああああ!」」」」
五人は我慢の限界を迎えて叫ぶ。
「暴れるなよ!」
「話ができないだろうが!!」
「よく考えたらこんな球体と話ができるなんて考えたのが間違いだったんだぁ!」
「ピポピポうるさい!暴れるからコンニャクがずれるだろ!!」
「仕方ない、この外観が問題なら変えてしまおう」
ドラえもんはポケットから炊飯器のような道具を取り出す。
「おはなしボックスだよ!これで外観を作り替えるんだ」
『何をする!』
暴れるボールとほんやくコンニャクを放り込み、スイッチを入れる。
しばらくして、音と共に蓋から現れたのは青い球体の被り物をつけたヒヨコのような姿をした生き物?だった。
その愛らしさにのび太達はほっこりした表情を浮かべる。
「可愛いなぁ」
「あんな球体からここまで変わるんだぁ」
「癒しだな」
「ヒヨコみたいな姿をしているのとピピポポポっていうから、ピッポっていう名前はどうかなぁ」
愛らしい顔でいうのび太の顔に球体(ピッポ)の足が直撃した。
「ダサイ名前だな。僕に似合わない。ピッポなんて名前は気に入らない。僕はジュドだ」
バカにするような表情でピッポは手をやれやれと動かす。
「人間は愚かでどうしようもないバカだ」
どれだけ人間は愚かなのかということを話し続けるピッポ。
「よくよく考えたら」
ブルブルとスネ夫が拳を作る。
「顔は可愛くても中身はアレなんだよな」
ジャイアンも我慢はしていたが苛立っている。
「この中で特にのび太はどうしようもないダメでのろまでクズだピョ~」
「酷い言い草だ」
「人間はロボットの奴隷だぴょ~」
ピッポの言葉に和人が異を唱える。
「それは違うぞ」
「?」
ピッポが不思議そうに和人を見る。
「ドラえもんはロボットだ。そして、のび太とドラえもんは友達だ。奴隷とか、そういう関係じゃない」
「そうだよ!ロボットは奴隷じゃない!僕達は友達になれるんだ!」
真剣な顔でのび太はピッポと向き合う。
ピッポはのび太の真剣そうな表情に揺れる。
今までのピッポがみてきた感情と異なっていた。
揺れていたピッポだが笑顔を浮かべて。
「僕!考えを改めるよ!」
「え?」
五人は驚いた表情でピッポを見る。
「キミ達に協力するよ!だから、僕の体のところに案内して!」
「本当か!?」
「やったぁ!」
「ザンダクロスが味方になるなら心強いよ!」
「これからよろしくね!」
「嬉しいよ!僕の気持ちが伝わったんだね!これから、僕と君は友達だ!」
嬉しそうにピッポを抱きかかえるのび太。
ピッポは表情を一瞬、歪めながら笑顔を浮かべる。
そんな二人の様子を和人はみていた。
「だからって、なんでうちのお風呂なんだよ!」
鏡の世界へ向かうために和人の家のお風呂へ来ていた。
「だって、和人の家のお風呂が僕の家のお風呂より大きいんだもん」
「だからって」
「それに、今日はおばさんいないでしょ?」
「まあ……そうだけど」
少し納得できない表情を浮かべながら和人達は鏡の世界へ入る。
時間が進んで直葉が浴室へ入ってきた。
彼女はお風呂に入るために湯船へ手を入れる。
「あれ?」
不思議そうな表情をして直葉は湯船の中へ顔を入れた。
「!?」
目を見開いた直葉は目の前の景色を見る。
そこにあったのは鏡の世界だった。
「どうしよう……もしかして、お兄ちゃんたちが……そうだ!」
直葉は浴室から出てある場所へ連絡をする。
その相手は源しずかだった。
鏡の世界へやってきたのび太達。
初めてくる鏡の世界にスネ夫とジャイアンは興味津々という表情だ。
「ここが鏡の世界!?」
「誰もいないのかよ!」
「僕の体はどこ?」
「あそこだよ」
のび太は裏山を指す。
方角を見たピッポは一目散に駆け出す。
「あれ、ピッポ?」
少しの距離が開いたところでピッポは振り返る。
彼はふりふりと尻尾を揺らしてベロンと舌をだす。
「ここまでくれば、もうお前達に用なんかないんだよ!」
「ああ!」
「裏切ったな!?」
「この場合、騙したというんじゃ」
「待てー!」
「そんな……ピッポ」
町中から裏山へ目指すピッポを追いかけるのび太達。
その中でのび太だけは心配そうにピッポを見ていた。
ピッポはひよこのような姿をしていながらとんでもない速さで商店街の中に入っていく。
かなりの距離を開けていたがジャイアン達に追いつかれてしまう。
商店街の中に入ったところで三体のロボットが降り立つ。
人型の姿をしておりながら頭部はどことなく獣の姿をしていた。
「撃たないで!僕はジュドです!」
獣のロボットの前でピッポが手を広げる。
目の前に獣のロボットは単眼でピッポを調べた。
「形状が一致しない。こいつはジュドじゃない」
ロボットの瞳から熱線が放たれる。
熱線がピッポに当たる直前、のび太が飛び込んで助けた。
標的を失った熱線は後ろにあった車を破壊した。
「な、なんだぁ!?」
「あれが鉄人兵団のロボットか?」
「空気砲!」
「のび太!」
「人間だ!捕獲しろ!」
爆炎の中和人はのび太のいる場所に向かって走る。
ドラえもんは四次元ポケットから空気砲を取り出して近づいてきたロボットに向けて撃つ。
空気の塊を受けて吹き飛ぶロボット。
「和人!早くこっちにこい!」
「のび太!急げ!」
「のび太君!和人君!」
ジャイアン達の叫びを聞きながら和人はピッポを抱えているのび太に近づく。
「のび太!ピッポ!大丈夫か?」
「和人、大丈夫……ピッポも」
「よし、すぐに」
逃げようという時、頭上から新たに獣型ロボットが現れた。
「まずい、こっちへ逃げるぞ!」
のび太の腕を引いて走る和人。
「排除しろ」
リーダー格の獣ロボットの声と共に瞳にエネルギーが集まり始める。
「やめろ!うわっ!?」
空気砲を構えようとしたドラえもんの腕に熱線が通過した。
熱線が消えると空気砲が両断されて小さな爆発を起こす。
真っ直ぐに向かう熱線がのび太と和人達のいた場所に直撃して、大爆発を起こした。
「そ、そんな……ウソでしょ!?」
「のび太!和人!この野郎!」
「そんな、のび太君」
ショックを受ける三人を獣型のロボットたちが拘束していく。