ドラえもん のび太と仮想世界   作:断空我

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心の温度の話をするつもりでしたが、ただなぞるだけでは意味がないし、オリジナル要素を加えました。

感想ありがとうございます。作者の励みとなります。



05:鍛冶師が消えた!

 

 第四十八層リンダース。

 

 巨大な水車が緩やかに回るプレイヤーホーム。

 

 その室内で規則正しい金属をたたく音が響いた。

 

 彼女の手の中にあるレイピアの整備が完了する。

 

「よし、整備完了よ!」

 

 桃色の髪をした鍛冶師リズベットは親友の剣を返す。

 

「これでメンテ完了よ!」

 

「ありがとう、リズ!」

 

 レイピアを受け取ったアスナは嬉しそうに目を輝かせる。

 

 親友の喜ぶ顔を見ていたリズはアスナの耳元につけられていたイヤリングに気付く。

 

「アスナ、それは?」

 

「あ、あぁ、これは」

 

 リズベットに問われて顔を赤くしながらアスナは考える。

 

 少しして、リズベットはにやりと笑う。

 

「ほー、噂の閃光様に思い人ができたのかしらぁ?」

 

「ちょ、ちょっとリズ!?」

 

「アンタがこれだけ素敵な顔を浮かべるなんてその相手は幸せね。ユウキはそういう相手はいないわけ?」

 

 リズベッドは傍でぼんやりとやり取りを見ていたユウキへ尋ねる。

 

「え?ボク?ないかなぁ、そういうことは興味ないし」

 

「まったく閃光様がこうなっているのに紫の剣士はこんなのって……」

 

「でも、ユウキはノビタニアン君と親しくしているじゃない?」

 

「そういう親しい相手がいるのね!さ、吐きなさい。どんな相手よ!」

 

 問い詰めるリズベッドにユウキは少しのけ反りながら考える。

 

「ノビタニアンのこと?えっと、ドジであわてんぼう、昼寝が大好き」

 

「それだけ聞いているとすごいダメダメに聞こえるんだけど」

 

「でも、誰よりも人を助けるために奮闘して、僕達を守るために盾でモンスターとぶつかりあってくれる、大事な仲間だよ!」

 

 ユウキの言葉にアスナは目を丸くして。

 

 リズベットは頬を指でかく。

 

「全く、無自覚でこんなのろけを言うなんて油断できないわね」

 

「へ?」

 

 首を傾げるユウキ。

 

 その姿が可愛いからこそ、隠れた人気があるのだろう。

 

 ユウキやアスナは自覚をしていないだろうが、とてつもない人気を持っているのだ。

 

 攻略の最前線で戦う少女二人。

 

 閃光と呼ばれる細剣使いのアスナ。

 

 攻略の鬼とまでいわれるが最近は笑顔が多く密かな人気がある。

 

 紫の剣士、ユウキ。

 

 片手剣使いで黒の剣士、白銀の剣士と呼ばれるプレイヤーとパーティーを組む。

 

 とても明るく、誰もが魅了されるような純真な笑顔。

 

 閃光と同じくらい男性プレイヤーから人気が高い。

 

「アンタと一緒にいる男性プレイヤーが嫉妬で狙われないか心配ね」

 

「うん?」

 

 首を傾げるユウキをみてリズベットはため息を漏らす。

 

 余談だが、彼女と一緒にいるノビタニアンに嫉妬する男性プレイヤー達が一度、ノビタニアンにデュエルを申し込んだ。

 

 傍からみれば、ドジで間抜けな相手だから余裕だろうと踏んだ様子だった。

 

 しかし、ノビタニアンはドジだろうと攻略組。

 

 最前線で戦い慣れている彼によって倒された彼らは、信じられないという表情になったことをリズベットは知らない。

 

 久しぶりの親友同士の会話を楽しんだのち、リズベットは接客のために店へ出た。

 

「いらっしゃいませ!リズベット武具店へようこそ!」

 

 そこに待っていたのは黒一色の剣士だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、ノビタニアン君!丁度いいところに!」

 

 昼寝をしようとベンチへ寝転がろうとしていたノビタニアンにアスナが声をかける。

 

「やぁ、アスナさん、どうしたの?」

 

「私の友達がいなくなったの!」

 

「え?」

 

「お願い!助けてほしいの!ついてきて!」

 

 有無を言わさずに手を引かれてノビタニアンは転移門を通って第四十八層へやってくる。

 

 説明もないままリズベット武具店と書かれている店へ到着した。

 

「えっと、どうしたの?」

 

「ここで私の友達が鍛冶職人をやっているんだけど、少し前からメッセが届かないの」

 

「フレンドなら居場所を特定できるんじゃ?」

 

「表示されないの!!」

 

「……え?」

 

 流石のノビタニアンも困惑する。

 

 SAOのシステムにおいて居場所が特定できないとされる理由としては。

 

 最悪の事態を同じようにアスナも考えたのだろう。

 

 だから、これだけ慌てているのだ。

 

「どうしょっか。そうだ、キリトに相談でも」

 

 ガチャと音を立てて武具店の扉が開かれる。

 

「ただいま……アスナ!?」

 

 扉を開けたのは桃色の髪をした女性プレイヤー。

 

「リズ!?心配したよぉ!」

 

 ぽろぽろと涙をこぼしながらアスナはリズベットを抱きしめる。

 

 突然のことに驚いているリズベッドの傍。そこには黒の剣士ことキリトの姿があった。

 

「ノビタニアン?どうしてここに」

 

「いやぁ、アスナさんに連れてこられて……昼寝をしようとしたんだけどね」

 

「それはなんか、すまないな」

 

「もしかして、リズベットさんとやらがいなくなっていた理由ってキリトが原因?」

 

「えっと、大まかにいえば、俺が原因かな」

 

 キリトが苦笑する。

 

 しばらくして彼が話した内容はノビタニアンですら呆れるものだった。

 

 アスナから教えてもらった武具店で片手剣を購入しようと考えていたキリトは、店で紹介された片手剣を自身の持つ剣と打ち合わせして、へし折ってしまったという。

 

 リズベット武具店の武器を。

 

「何をしているのさ」

 

「いや、試しでつい……」

 

「キリトの剣は魔剣クラスなんだよ?それと打ち合って折れない剣って、まず見つけるのが大変だってことを理解しないと」

 

「うん、今はすっごい後悔しているから」

 

 そのあと、リズベットと共に雪山のエリアへ向かい鉱石を取りに行った際に、雪穴へ落ちて一晩過ごしたという。

 

 索敵に気付かれない場所にいたことでアスナはリズベットを見つけられなかった。

 

「とにかく、これからはそういうことがないように気を付けてね」

 

「うん」

 

「アスナはともかく、そこの人は誰?」

 

 抱きつかれていたアスナを引きはがしたリズベットがノビタニアンを指す。

 

「えっと、自己紹介していなかったね。僕はノビタニアンだよ」

 

「ノビタニアン……あぁ!アンタが」

 

「へ?」

 

 突然のことにノビタニアンは混乱する。

 

「へぇ~、噂の白銀の剣士がこれだけ平々凡々って、そこの黒の剣士共々、噂だけを鵜呑みにするわけにはいかないってことね」

 

「……僕、どんな噂をされているの?」

 

 ある程度、悪意ある噂が流れたことを知っていたが、リズベットの態度からどんな噂をされているのか想像できなかった。

 

「はいはい、気にしないで、ごめんね。アスナの慌てぶりからして巻き込まれたみたいね」

 

「まぁーうん」

 

「ごめんね。お礼に武器のメンテしてあげるわ!」

 

「お、それはいいな」

 

「アンタね」

 

 リズベットが半眼でキリトを見る。

 

「じゃあ、キリトの剣が終わった後で」

 

「任せて」

 

 アスナ、ノビタニアン、キリトが見ている前でリズベットは手に入れた鉱石で剣を作る。

 

 しばらくして緑色の剣が出来上がる。

 

 

――ダークリパルサー。

 

 

 キリトの使用している魔剣、エリュシデータに匹敵する剣だ。

 

「凄いね」

 

「うん」

 

 手に入れた剣を振り回す。

 

「うん、凄い出来だ。ありがとう、リズ」

 

「最高傑作よ!大事に使ってね」

 

 ほほ笑むリズベット。

 

 それからノビタニアンの剣のメンテナンスを行う。

 

 終えた後、キリトは尋ねる。

 

「なぁ、ノビタニアン、ユウキは?」

 

「あ、ユウキは」

 

 答えようとしていたノビタニアンにメッセージが届く。

 

「あ、呼び出しみたいだ」

 

「へ?」

 

「行くよ」

 

 困惑するキリトの手を引いてノビタニアンは転移門へ向かう。

 

 転移した先は第二十二層。

 

 自然に囲まれたエリア。

 

 そのエリアに進んだノビタニアンはやがて木造建築の家へやってくる。

 

「あ、キリト~~、ノビタニアン~~、こっちだよ!」

 

 家の前、手を振っているのはユウキだ。

 

「お、おい、どうしたんだ、これ?」

 

「これから僕達の帰る家だよ」

 

「家!?」

 

「そうそう!ずっと宿とかで活動するのもどうかという話になってさ。ノビタニアンと話をして家を買うことにしたんだ」

 

「高かったんじゃないか?」

 

「まー、そこそこね。でも、ボク達で分割すればなんとかなったよ!」

 

 にっこりと微笑むユウキを見て、キリトはノビタニアンを見た。

 

「いいのか?俺がいても」

 

「当然だよ!」

 

「僕達三人で仲間なんだから……こういう帰る場所を持っていてもいいんだよ」

 

 にこりと微笑むノビタニアンの言葉にキリトは少し考えて頷いた。

 

「ありがとう、俺なんかを」

 

 苦笑するキリトの左右の手を、ユウキとノビタニアンが掴んで家の中へ招き入れる。

 

 


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