有坂
前略
海を渡って2年目になるけどもそっちはどうお過ごしでしょうか。アメリカって四季あんの?
こっちはだいぶ暖かくなってきました。だからというわけじゃあないけども、毎日美知留がうるさいです。もう十五年以上の付き合いになるのにいまだに落ち着く気配がないのですが、女性ってそういうものなのでしょうか?
俺の周りの女は鉄拳制裁な母と肉体言語な姉と
旅立つ際、別れの挨拶もなく「アメリカンビーフを
あ、そうそう、高校生になりました。まぁ姉貴も卒業生だから知ってるだろうけど、ウチの学校は系属校のエスカレーター式みたいな感じで内部進学だから特にそのこと自体に苦労したとかはないんだけども、美知留が色々やらかしてな。そのことについては長くなりそうだから帰って来たときにでも話すよ。
とりあえずの近況報告でした。そういえば母さんに「早く孫が見たいから身籠ってって手紙に書いといてくれない?」と言われたので、ここに書き示しておきます。あの人、娘に「子供を身籠れ」と伝えたいがために息子にそれを書かせるって子供をなんだと思ってるんでしょうね。そもそもそんなに簡単には身籠れねーし。赤ちゃんはガチャじゃねーっつの。
正月にでも顔見せに来いよ。期待せずに待ってます。
追伸
いつまで経っても彼女ができない不甲斐ない
捨てるに捨てられず部屋に隠していたら母さんと美知留に速攻で見つかりドン引きされました。あの目が今でも忘れられません……。
本当にやめてください。よろしくお願いします。
風邪とか引くなよ。旦那さんに宜しく。
かしこ
有坂
季節は春。というか四月。
一年校舎の二階の窓辺から見下ろす風景は部活勧誘や
かくいう俺はというと、その人の群れに混ざることなく、かといって有意義に事を成していることもなく。ただただアニメ鑑賞の貫徹によって生み出された眠気と怠気に抗うこともせずに、窓枠に寄りかかり一人我関せずと過ごしていた。
「高校生って案外暇なんだな」
ぽつりと溜息のように落とし、景色を眺める。
残り僅かな桜の
中学のころと比べて、特にこれといって代わり映えのない生活に落胆することもなく、かといってこのままで良いんだろうかという不安を抱えることも特になく。俺はそんなことを思いながら薔薇色の高校生活のスタートを切っていた。
あぁ、長時間鑑賞によって
「なにそれ。手紙?」
欠伸を噛み殺していると、いつのまに隣に来たのか美知留が俺の手元を覗きながら声を掛けてきた。俺は先程まで確認のために広げて読み返していた手紙を見せる。
「姉貴に。たまにはメールじゃなくて手紙で送れって言われてな」
「へ~風流なことですね~」
「……お前、風流なんて言葉わかるのか?」
「いくらなんでもそれは馬鹿にしすぎだよ!」
眉を吊り上げ怒鳴る幼馴染はそれはもう朝からうるさいのなんの。どうか耳元で大声を出さないでほしい。ただでさえお前の馬鹿デカい声を毎朝聞いてるってのに、これでもし俺が難聴にでもなったらどうしてくれるんだ。おはよーの挨拶なんてのはな、わざわざ顔の近くで大声で言わなくていいんだよ。
適当にあしらいつつも手紙を封筒に入れてポケットにしまう。まだなにか騒いでいるみたいだがいちいち構ってなんていられない。マシンガンのような怒号を無視して話題を変えることにした。
「お前は部活とか入らねーの」とお祭り状態を指さしながら言う。それを聞いてむくれていた美知留は「ふっふっふ」という不敵な笑みを浮かべ、チャームポイントのサイドテールを揺らしなぜか仁王立ちで構える。我、話題逸らしに成功せし。
「な、なんだよ」
「しーちゃん。あたしたちはなんだと思う?」
「オタク」
「それに賛成だ! じゃなくって、あたしたちはなにになった?」
そう言いながらこれ見よがしに制服のスカートをつまむ。パンツ見えないかなー、と顔を傾けるも「しーちゃん」とジト目で催促してきた。早く答えろ、と。
「……高校生?」
「そう高校生! 薔薇色の高校生活! 華のじぇーけぇ!」
「それがなんだっていうんだよ」
「つまりあたしたちは、もう社会に羽ばたくことができるのです!」
「あぁ、バイトね」
「高校生はなにかとお金が掛かるもの。そんなあたしたちに社会はこう告げるのです。働けと! 稼げと!」
「つまるところコスプレ衣装のために制作資金をどうにか
「まあつまるところそういうことなんだよね~」
「最初から素直にそう言ってもらえません?」
わざわざ握り拳作って演説なんてしなくても。
怒って笑ってと、よくもまあこんなにも短時間でコロコロと表情が変わるもんだなぁ俺の幼馴染は。その百面相に使うエネルギーをもっと別のことに使ってほしいもんだ。
「じゃあなに、お前はバイト始めるわけ?」
「そのとおりだよワトソン君! あたしたちは労働することを……強いられているんだ!」
「わざわざキリッとドヤ顔するのやめてもらえませんか非常にウザいので……。てか、さっきも言ってて気になってたんだけども『あたしたち』ってなに? まさかとは思うが」
「そのまさかだよワトソン君!」
「まだ最後まで言い切ってねーよ! 嫌だぞ、俺は働かないからな。働かなくて済むのなら甥っ子または姪っ子に死ぬまで養ってもらおうってのが今の俺の信条なんだ」
「……確かしーちゃんの中学のときの信条って、『早めに子供を作って息子あるいは娘あわよくば孫まで巻き込んで死ぬまでずっと養ってもらう』じゃなかったっけ?」
「あぁそれな。よくよく考えたんだけども、こんなダメ人間の俺に嫁さんができるとは到底思えないからな。その時点で孫に期待するなんて夢のまた夢だろ? だから姉貴の未来の子供たちに託すことにしたんだ」
「ダメな方向にレベルアップしてるし……」
「働きたくないでござる! 絶対に働きたくないでござる!」
「労働するのは義務なんです! 労働するのは義務なんです!」
「でもお前、働かなくても楽してお金貰えるならそっちの方がよくない?」
「ぐうわかる~」
暦は四月。なんなら卯月。
そうして俺たちは二人肩を並べて窓の外を見やりながらくだらない話を続けた。やれ今期のアニメはだの、やれ前期の嫁だのと。
つまるところ俺たち幼馴染の日常なんてのものは、高校に上がろうが所詮はこんなもんなんだよね。
「しーちゃん」
「ん?」
顔を横に向ける。もう十五年は見た馴染みのある顔は、向日葵みたいな笑顔を咲かせ楽しそうに言った。
「高校生活、楽しくなるといいね!」
「せやな」
よろしくお願いします。