俺の幼馴染が超絶ポジティブな件について   作:タジ

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少しだけ卑猥な表現が出てきます。問題ない方だけお読みください。



そういう小説は駄目なのか?

 (こよみ)が変わり、学校の雰囲気が入学当初より落ち着き始めた五月。

 時はすでに下校時刻。窓の向こうにはザーザーと降り止まない雨が落ち、傘を忘れた俺は雨が落ち着くまで避難しようとある所へと足を運んでいた。

 こういうときに限って美知留はバイトに行っちゃうし、ゲーム仲間の姫島と東雲は俺を置いて帰りやがるしで散々だ。帰宅部所属の俺には友達なんて数人しかいない。他に頼る相手もいないので早々に諦め、自分の運命を呪うのであった。

 聖櫻学園はそれはそれはとんでもなく大きい学園だ。係属高なので初等部・中等部・大学院と学校が区別化されている。なので今俺が学び舎として通学してる此処は高等部オンリーの敷地なのだ。のはずなのに、校庭と運動用グラウンドが別に用意されてあるくらいにはこの学園はデカい。なにもかもがデカい。

 つまりなにが言いたいかというと。

 

「でけー」

 

 図書室のドアを開ける。やはりというかなんというか、図書室もそれはそれは大きいもので、入り口から背伸びしても奥が見えそうにない。話によると貴重な蔵書なども沢山保管されてるとか。

 物珍しさに歩を進め辺りを見回していると、共同テーブルに顔を突っ伏している見吉の姿を発見する。後ろ姿しか見えないものの直ぐに見吉だとわかるそのけしからなくも素晴らしいスタイルは、超高校級のボデーなだけはある。

 具合が悪いのかな、と思い顔を覗いてみるも案の定寝ていた。起こすのも忍びないのでほっとくことにする。よくよく考えたら、具合が悪かったらわざわざ図書館には来ないよな。というかコイツ、ちゃんと起きられるのか?

 まぁ最終下刻の予鈴がなる少し前まではいるつもりだ。その時にでも起こしてやるのも(やぶさ)かじゃあない。

 

「おっ」

 

 マンガコーナーを求め歩いていると、ある一画にあるテーブルに数少ない友達の少女の後ろ姿を発見する。見るとノートパソコンに凄い速さでタイピングしている。小説を書いているであろうその背中に折角だし脅かしてやろうという衝動にかられ、音と気配を消して近付いていった。

 

「……の……たたり……れる」

 

 うわっ、アイツまた小説内容を口に出しちゃってるよ。アイツの周りに誰も座ってないから良いものの、気を付けろってこの前言ったのに。

 

「『駄目よこんな所で……っ!』。口では拒絶するものの身体は(あらが)うことができず、次第に彼女は身を(ゆだ)ねていく」

 

 ……。

 

「彼の指先が身体を()う。まるで甘美な果実を(むさぼ)り尽くさんかの如く、彼は一心不乱に彼女の熟れた身体に(あと)を刻んでいく。ハァハァ……!」

「……えーっと」

 

 真後ろまで来ちゃったけども、集中しているのか気付かれる様子はない。どう考えても十八歳未満はお断りの薄い本顔負けな内容を、鼻息を荒め狂ったようにキーボードを叩いている少女に、若干引き気味になりながらも声を掛けた。

 

「火照る身体に(したた)り落ちる潤滑油(じゅんかつゆ)。彼女の蜜が溢れる箇所に、ついに彼の剛直な」

「なぁ夏目。なにを書いてるんだ?」

「うわあああああぁぁぁぁ!?」

 

 バンッ、と勢いよくノーパソが閉じられ悲鳴を上げる友人の夏目。俺に声を掛けられた夏目は真っ赤になった顔で振り返るも、視界に俺を入れてしまったのが不服だったのか不愉快そうに眉を曲げ睨みつけてくる。それだけじゃ飽きたらず、よほど気に入らなかったのか荷物を手に取り別のテーブルへと移動した。

 

「……おい」

 

 すぐさま俺も移動し声を掛けるも、なおも無視を決め込む夏目の対面の席にわざわざ回り込み陣取る俺。

 

「おい。お前だよお前。この前道行くおじいさんに男の子に勘違いされた夏目(なつめ)真尋(まひろ)ちゃんよー。そういえば風の噂で聞いたんだが、成長期に入ってるのに中々育たなくて逆に胸がヘコんでるって聞いたんですけども大丈夫ですか~?」

「そんなわけないでしょうが! よくも堂々と周囲の人たちにも聞こえるほどの声で嘘が言えるわねこの極悪人!」

「そうだよな。お前は女の子に見せかけたとてつもなく可愛い男の娘だもんな」

「そっちじゃないわよ、そっちは合ってるわよ! ヘコんでる方よヘコんでる方!」

 

 ダンッ、と顔を赤くして握り拳でテーブルを叩く少女改め夏目。どうやら御立腹のようである。

 

「そうカッカすんなよ。お前たぶんあれだよ、カルシウム不足ってやつだよ。胸を育てると思って今日から毎日牛乳を飲み続けようぜ? なんなら俺が手伝ってやってもいいぞ、揉みまくって」

「そろそろ本気でセクハラで訴えてやろうかしらこのゴミ虫」

「おっとー、夏目選手必殺の『ゴミを見る目』を繰り出すも、常日頃からそんな目で見られているため有坂選手は慣れてしまっている模様! その攻撃は効果はイマイチのようだ!」

「一度死ねばいいんじゃないかなぁあなたは」

「おいおいおい、ゴミは自覚してるけども、そういうのは口にしないで思うだけでとどめておいてくれよ。俺にだって泣きたくなるときはあるんだぜ?」

「自覚はしてるんだね良かったよ。私も燃えるゴミの日に、ゴミとしての自覚がないあなたみたいなゴミを処理しなくちゃならない業者さんを想って泣くような思いをしなくて本当に良かった」

 

 あなたみたいなゴミの部分を強調して辛辣なことを言い放ってくる。

 こ、コイツぅ……好き勝手言いやがって。

 夏目もエスカレーター組であり、小学のときからの付き合いなだけあってお互いに遠慮の欠片もない。むしろ夏目の口撃は美知留のなんかが可愛く思えるくらいの殺傷能力だ。用法用量を誤れば殺されかねないのでご注意ください。

 

「で、なにか用? なにもないんなら、黙るか消えるかそこの窓から飛び降りてくれない?」

「今最後に聞いちゃいけないものを聞いた気がする」

「そこの窓から死ねばいいのに」

「お、おい、言い間違えるなよ。それじゃあ変な文になっちまうだろ? ちゃんと『そこの窓から飛び降りてくれない?』って言い直さなきゃ。じゃあもう一回いくぞ? せーの、さんはい!」

「死ねばいいのに」

「言い間違えてない!?」

 

 高校に入ってからというものクラスが違い選択授業もかぶらず、中々顔を合わせる機会がなかったため会うのが段々と気恥ずかしくなっていたのだが、いざ会って話してみるとまるで昨日ぶりのように会話が弾む。これも長い年月をかけて(つちか)ってきた友情の成しうる(わざ)ってやつかな。まさに相思相愛!

 

「……ねぇ。なに考えてるかわからないけども、その顔止めてくれない? 鳥肌が立つんだけど」

「嬉しくて?」

「気持ち悪くて」

「わかってるわかってるよ。君はそういうフレンズなんだね」

「はぁ? 馬鹿じゃないの」

「ツンデレ、いただきました」

「ツンデレってないから! 全然ツンデレってないから!」

「あ、あのぅ……」

 

 久々の会話にヒートアップし騒ぐ俺たちに第三者が呼び掛けてくる。視線を横に向けると、胸まである緩く編んだおさげが可愛らしい一見おとなしそうな顔の女性がそこにはいた。赤いスカートってことは二年生か。

 

「……ここは図書室ですよ? 周りの人に迷惑にならないよう、静かに利用してくださいね?」

「「す、すみません……」」

 

 異口同音の謝罪。それだけ言うと二年の先輩は入り口付近にある受付口へと戻っていった。図書委員の人か?

 なんだろう、美人なんだけども近寄りがたい雰囲気の人だなぁ。

 

「む、村上先輩に怒られてしまった……」

 

 そう言い夏目が肩を落とし溜息を吐く。心なしかトレードマークのアホ毛も垂れているような気がする。

 

「知り合いなのか?」

「はい? あなた知らないの? 中高両方のミス聖櫻コンテストで常に上位をキープしてる人で学園の有名人よ。一度くらいは顔を見たことあるでしょ?」

「俺、大体そういう行事はサボってゲームやってたからなぁ」

「あなたらしい回答ね」

 

 そういえば中学のとき、美知留もそれなりの順位だったとかで騒いでたな。全然興味なかったから今の今まで忘れてたけど。

 先程よりも声のボリュームを落とし俺たちは会話を続けた。

 

「確かに美人だったな~あの人。なんか怖そうだったけど」

「先輩に失礼でしょ。それにそんなことないわよ。私なんかと違って、優しくて丁寧で話してみると案外可愛らしい人なんだから」

「いやいや、お前だって十分可愛いだろ」

「……な、なによいきなり。別に、そんなこと……ないけど」

「いや可愛いって。たとえばその控えめで慎ましくて自己主張の少ない胸とか待って! カッターは取り出さないでそれはシャレにならないから!」

「チッ」

 

 舌打ちをしながらもチキチキとゆっくりと刃をしまう夏目。瞳にハイライトをなくし、据わった目でこう宣言する。

 

「次言ったらあなたの皮を剥いで人皮装丁(にんぴそうてい)本を作るから」

 

 ヤベーよこの人、目がマジなんですけど……。

 震える俺に満足したのか、怒気を抑え投げ掛けてくる。

 

「それで本当になんの用なわけ? 私は今忙しいんだけど。用がないなら早く消えてよね」

「そんなこと言うなよ。傘持ってくんの忘れて帰るに帰れないから、雨脚が弱まるまで暇なんだよ。なんか話そうぜ?」

「さっき怒られたばっかりなのにお喋りなんてできるわけないでしょ」

「このくらいの声量なら大丈夫だって。頼むよ夏目~」

「うーん……」

 

 両手を合わせて懇願する。俺の殊勝な態度に、夏目は少しだけ考えるように首を傾けてから返答した。

 

「まぁ……少しだけなら……小説を書いてる合間で良いなら」

「ありがとう! 心の友よ!」

「あなたと友達になったことは私にとって人生の汚点なんだけどね」

 

 暴言を吐く割には照れくさそうに顔を逸らす。

 こんなフリをしただけで簡単に引っ掛かっちゃうなんて流石は夏目、なんてチョロい女!

 

「……ねぇ。今絶対失礼なこと思ったでしょ」

「思ってないよ」

「思ったでしょ」

「思ってないよ。よしじゃあなんのことから話そうかな~。最近読んだ本のこととかでどうだ?」

「……それでいいけど」

 

 夏目のジト目もなんのその。気付かないフリをして話を(うなが)すことにする。

 

「そんで夏目は最近どんな本読んだんだ? エロ同人誌? 薄い本? それとも……コミケ長蛇の列確定の大手サークル本?」

「一緒にしないでくれない? 私はまぁ、その、変わらず恋愛小説とかだけど……。というか、有坂君が本を読むイメージが湧かないんだけど」

「確かにお前ほどじゃないけど読んでたりするんだぜ。最近じゃあ異世界ハーレム系や現代ハーレム系、あとはポルノとポルノに、んーっと……あっ、ポルノとか! これでもお前と一緒でなんでもイケる口なんだぜ?」

「うん、一緒にしないでくれない?」

「……いや、でもお前さっき『彼女の蜜が溢れる箇所に、ついに彼の剛直な』って」

「それは忘れてくださいお願いします……!」

 

 それから一時間はお喋りに花を咲かす。雨はまだ止みそうになく、大きな図書室という空間に小さなテーブルを挟んで語り合う俺たちは、降り注ぐ雨を理由にそれなりに楽しい時間を過ごせていた。そう思うと傘を忘れた自分の運命を呪わなくて良さそうだ。

 さっきは冗談めかしに言ってしまったが、些細なことで呆れたり怒ったり、そして笑ってくれる夏目を俺は本当に可愛いと思っている。いつか自分に自信を持ってくれることを切に願いながら、この日この瞬間夏目と会えたことを俺は神に感謝した。

 

「ね、ねぇ有坂君」

「なに?」

「あの、そのぅ、えっと、ね」

 

 ぶっきらぼうだが、言いたいことはちゃんと言う夏目の歯切れが悪い。どうしたのかと眉を(ひそ)め待っているとノーパソを俺の方へと向けてきた。

 

「そ、そのぉ……。私今文芸部に入ってて、それで今、どんなお題でも良いから小説を一つ書くことってのを部内でやることになったの。書き上げたはいいけど、ちょっと自信がないというかなんというか……。だからその……良かったらなんだけどまた読んでくれない? 読んで感想を聞かせてほしいかなって」

 

 また読んで、というのはこれは今に始まったことではないからだ。小学生のときから小説を書いていた夏目は、ひょんなことから俺にその小説を見られてしまいちょっとした騒動が起きたものの、それからというもの小説を書き合い読み合いっこをする仲となった。

 文才なんてなくすぐに挫折した俺はともかく、当時から異才を発揮していた夏目の小説はそれはそれは面白く、小説なんて読まずゲームばっかりやっていた俺でさえ夢中になって目を走らせたものだ。思えばあれがきっかけで小説を読むようになったのかもしれない。

 

「なに言ってんだよ。俺はお前のファン一号なんだぜ? 先生の作品が読めるんならどんなときでも駆けつけてやるわ」

「そういうのって、もっとこう、カッコいいシチュエーションのときに使うんじゃないかなぁ……もぅ」

 

 照れ笑いする彼女の笑顔が眩しい。その笑顔を視界に収めながらノーパソの操作をする。

 

「お題は『可愛いもの』ね。これを読めばいいんだな。……ちなみに後ろに隠れてるのはさっき書い」

「わかってると思うけど、そっちの読んじゃいけない方読んだら殺すから」

「お、おう……」

 

 目が怖いんですが……。

 ノーパソを自分の方に寄せ本格的に読み始める。夏目は体をもじもじとさせながらも、そのままの状態で待っているのは忍びないのかバックから文庫を取り出し読み出した。

 それなりの時間を使ってゆっくり読み進めていく。久々に読む夏目の文体や物語は、最後に読んだ中学のころと比べると明らかに違う。ずっと読み続けてきた俺だからこそわかる。夏目は進化している、と。

 じっくりじっくりと読み進め、集中し、文字の世界に身を落としていく。そして、

 

「ふぅ……」

 

 息を吐く。

 余韻だ。余韻が訪れる。

 この読了感。久方振りに味わう一種の快楽は活字好きの奴なら知っているはず。これだよこれ、もうサイコーだたまらない。

 すべてを許せるような面持ちで、万感の思いを籠めながら俺は夏目に告げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これはマジフルボッキものですわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あなた読んじゃいけない方読んだでしょ!? ちょっ、ねぇ! なにやってるの!?」

「あっ立ち上がってもらってなんだけど悪い。俺今立てないんですわ違う方がタってるから」

「そんな情報いらないからぁ!」

「今まで知らなくてごめん。お前がこんなにもエロい……凄い小説を書くなんて。俺、やっぱりお前のファンだわ。一生ついていくから官能小説家としてデビューして、これから官能小説界を共に盛り上げていこう!」

「ああああああああああぁぁぁぁ!」

 

 夏目は我を忘れ髪をグシャグシャにし頭を振り回したと思えば、獰猛(どうもう)なライオンよろしく、息を荒げ襲い掛かってきた。

 

「あなたを殺して私も死ぬ! 死んでやる~!」

「あっ、ちょっ、やめ、やめて! 掴み掛かってこないで今立てないから! 違う方がタってて立てないから! 俺今バキバキ状態での賢者モードだから!」

「さっきの『ふぅ……』ってそういうこと!? 信じられない殺す殺してやる~!」

「ああ駄目! 手が、手が変な方向に、やめ、華奢で貧弱なくせにどこからそんな力が……! ああイク、駄目、駄目なのおおぉ、イっちゃううううぅぅ!」

「あのぉ!」

 

 戦いの終止符を打つ救いの声が掛かる。誰かと思い見上げると、それは先程よりも困ってるような怒ってるような表情を浮かべ俺たちを睨む村上先輩で、彼女は図書委員としての責めを果たすためこう言うのである。

 

「図書館では静かにしてくださいね?」

「「す、すみません……」」

 




ちなみに、見吉はちゃんと起こしました。
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