俺の幼馴染が超絶ポジティブな件について   作:タジ

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どうしてこんなに可愛いんだ?

 そろそろ六月にさしかかるなんてことない休日の昼中。

 休日を利用し、録り溜めていたアニメを朝方まで観賞し意識が飛ぶようにして寝入っていた俺は、一つ大きなあくびをし着替えを済ませてから熱の帯びる部屋から退室する。もうこの時期のお昼時は真夏日なのかと勘違いしてしまうほど射す陽の輝きは強く、寝起きにキンキンに冷えたジュースでも飲まなきゃ倦怠感(けんたいかん)でやってられない。

 ちょうど階段を下りきると居間から出てきた母さんと目が合う。俺を見るなり困ったように眉根を上げわざとらしく溜息を吐いた。

 

「おはっす~」

「もぅ、この子ったら。おはようじゃありません、もうお昼ですよ。どれだけ寝れば気が済むのだらしない」

「いや~、次の日が休みだと思うとついついアニメ鑑賞が捗っちゃって。サーセン」

「まったく。ご飯にするから早く顔洗ってらっしゃい」

「えっ、あっ、はい……」

 

 あまりにも軽い注意を俺に寄こし自室へと向かう三十八歳。プリキュアを鼻歌交じりに。

 おかしい。いつもだったら小言の一つや二つじゃ収まらないのに、なんか拍子抜けだ。なんか良いことでもあったのか?

 まっ、どうでもいいのですぐに頭の隅に置き去り、言われたとおり洗面台で顔を洗う。出掛ける用事もあるので、ついでに身嗜(みだしな)みを整えていると。

 ガチャリ。

 インターホンもなく玄関の方からドアが開かれる音がする。これって実は結構な緊急事態で、許可もしてないのに他人が玄関を跨ぐというのは犯罪だったりする。そしてなによりも、ウチの母さんは変質者や犯罪者には容赦がない。

 母から犯罪者を守らなければ!

 普通に考えたらおかしな思考回路だが我が家ではこれが常識。前に女性物のパンツを頭に被り、明らかにコートの下になにも着てなさそうなおっさんが入って来たときには、母さんの拳による秒殺顔面劇的ビフォアフターによって、なんということでしょうな驚愕する変形を遂げ、とっさに俺と姉貴と父さんの三人掛かりで止めに入らなければ危うく一大事になっていたほど。

 またあんなことになっちゃたまらない、なにせ今この家には俺と母さんしか住んでいないのだから。俺がなんとかしなければ。

 焦燥から急いで洗面所から出るも、目前には俺よりも早く母さんが玄関に小走りしていた。

 

「母上様お待ちになって! ジャストモーメント!」

 

 叫びあとを追うとふと気付く。廊下に漂う微かで爽やかな香水の香り。いつもよりもニコニコと笑う母の顔はよく見ると薄く化粧までされている。

 普段化粧なんてせず香水なんて嗜まないあの母親がお洒落をし、そんな顔で無警戒に見上げる相手なんてのは一人だけ。

 

「おかえりなさい、理人さん」

「ただいま、雫さん」

 

 なるほどと一人頷く。

 そこには、切れ長の目に整った鼻、シャギーカットに老い知らずの端整な顔をしたメンズ雑誌に出ていても違和感が仕事しない長身のイケメン、俺の実父こと有坂(ありさか)理人(りひと)が荷物を抱え微笑んでいた。

 すぐ近くで視認できる距離に俺がいるにも(かかわ)らず、父さんと母さんは見つめ合い二人だけの世界を作り出している。なんとなくあの辺だけ背景がピンク色な気がするな。

 この夫婦、こんな歳になってもお互いを名前で呼び合うくらいには夫婦仲は良好だ。おかげ様で息子としては、見ていていろいろと複雑な心境である。リア充爆発しねぇかな。

 こんな美男美女から生まれてきたフツメンの俺。そういえば昔、あんまりにも似てないもんだから姉貴に「志恩、あんた実は橋の下から拾ってきた捨て子なのよ。本名は橋下(はしのした)拾人(ひろと)なの」って馬鹿にされたっけ。まだ汚れ知らずのころの俺が泣きながら母さんに抗議したら流石に激怒して姉貴に説教してたっけ。懐かしいなぁ。

 現実逃避はさておいて。

 あのイチャラブ空間に足を踏み入れるのはいささか気が引けるが、久々に会ったわけだし、とりあえず挨拶だけでもしておくかな。

 片手をあげ、

 

「よっ、父さん。おかえり~」

 

 と声を掛ける。やっと俺の存在に気付いたのか顔をこちらに向け破顔一笑。

 

「やぁ志恩くん、ただいま」

「おう。ゴールデンウィーク中に来ないから、まとまった休みが取れなくて帰れないんだと思ってたよ」

「思いの(ほか)忙しくてゴールデンウィークは全部出勤してたよ。やっとお休みが取れたから五日間ほどゆっくりできそうだ」

 

 そう困ったように笑う姿も絵になるもんだから腹が立つ。俺って、この人の遺伝子をちゃんと受け継いでるんだよね? そこんとこどうなんですかね神様。

 

「ふーん。事前に言ってくれれば駅まで迎えにくらい言ってやったのに」

「なに言ってるの志恩さん、昨日の夜伝えたでしょう?」

「え? いや、聞いてないけど」

「言ったわよ。言ったのに貴方ろくに聞きもせずに『冴えない彼女が俺を待ってるからまたあとでね』なんて言って、そのあと部屋から出てこなかったじゃない」

「あー思い出したわ。そういえばそんなこと言ってたわ俺」

「僕の存在ってゲームやアニメよりも優先度が低いのかな……」

 

 引き笑いですら絵になるんだから腹が立……いや、もう止めよう。実の親相手に嫉妬するだなんて情けない。

 しょうがない、父さんが抱えている荷物のことについてでも触れてやるか。

 

「んで、その大量の紙袋はなんなわけ?」

「もちろんお土産だよ! なんにするか悩んだんだけど、悩むくらいならと全部買ってきたのさ」

「宅配で送ればいいものを」

「驚かせたかったのさ、雫さんが喜んでくれると思って!」

「だよね。そうだとは思ってたよ」

 

 なにに対しても母さんが基準だからなこの人。もはや病気かもしれない。

 俺が目を細め呆れていると、隣で嬉しそうに父さんの荷物を受け取りながら母さんの声がはしゃぐ。

 

「まぁ、わざわざありがとうございます。こんなに買わなくても良かったのに」

「迷惑だったかい?」

「そんなこないわ。でも、私にとって一番のお土産は理人さんが無事に帰ってきてくれたことです」

「雫さん……」

「理人さん……」

 

 やってらんねっすよ、マジで。

 

「岡山はどうですか? 不自由してないですか?」

「大丈夫だよ。周りの人たちも良い人ばっかりでさ。そうだ雫さん、僕も初めて知ったんだけども岡山って桃太郎のゆかりの地とされる場所なんだって! 知ってたかい?」

「そうなんですかぁ、そうなんですねぇ」

「いやーなんかそれを聞いたら嬉しくなっちゃってさ! お店で探してみたら本当にあったんだよ、きびだんごが!」

「そうなんですかぁ、そうなんですねぇ」

「それに、岡山城もなかなかのものだったなぁ~。あれぞ歴史という感じがしてね」

「まぁそうなんですかぁ、そうなんですねぇ」

 

 この惚気(のろけ)はいつまで続くんだろうか。

 あと父さんよく見ろ、その人話聞いてねぇから。楽しそうに語る父さんの表情を覗いて笑ってるだけだから。

 俺は咳払いをし、二人に促す。

 

「とりあえずさ、早く家に上がれば? いつまで玄関でそうしてんだよ」

「「あっ」」

 

 二人は声を漏らし、お互いを見ては恥ずかしそうに頬を染め笑い合う。いい加減イラっとしてきたなこの光景。

 

「ごめんなさい気付かなくって。荷物を置いてきますね」

「僕の方こそごめんね。そういえば二人はお昼御飯は食べたのかい? まだなら皆で食べにでも行こうよ」

「飯なら今」

「お昼でしたらもう準備できてますよ。志恩さんはいらないって言ってたけど」

「え!?」

「そうなのかい志恩くん?」

「い、いや、俺は」

「なんだか外に食べに行きたいらしのよ、一人で。たまにはゆっくりしないな~って言ってたわよ、一人で」

「そうなの?」

「そうよね志恩さん」

 

 んなわけあるかこのダメ親がぁ! 嘘こけ、顔には「二人きりになりたいから早くどっか行きなさい、空気読め」って書いてあるくせに。言外にそう言ってるくせに。

 そうかいそうかい、そっちがそう言うなら一言物申してやる。よーく聞いとけよこの色ボケ夫婦が。

 

「……俺は外に食べに行こうかなって思ってたところだよ、一人で。たまにはゆっくりしないな~って思ってたんだよ、一人で」

 

 まぁ俺はちゃんと空気読むんですけどね。父さんはともかく、母さんは敵にまわしたくないし。

 

「そうなんだね。そしたらお昼は僕と雫さんの二人きりだね」

「えぇ、二人きりですね理人さん」

 

 計画どおりに事が進んだのが嬉しいのか、それとも他の要因か。いったん荷物を置いた母さんは少女のような若々しい笑みで財布から千円札を取り出し俺に渡してくる。

 

「はい志恩さん、これで食べてきなさいね。お釣りは返さなくていいから」

「……これで手を打て、そういうことだな?」

「お母さんね、志恩さんのそういう理解のあるところ本当に好き。やっぱり貴方は私の血を引いてますね」

「あのですね……わかりましたよ……」

「よろしい」

「? 二人ともなんの話だい?」

「いいえ、なんにも。ねぇ志恩さん」

「なんでもないですよ、はい」

「?」

 

 首を傾げる父さんを余所(よそ)に、母さんは居間に荷物を置きに、俺はいそいそとお金を自分の財布にしまう。

 まぁ夫婦水入らずって言うしな。久々に会ったわけだしたまにはいいだろう。

 靴を脱ぎ家に上がると「そうだ」となにかを思い出したかのように父さんが声を上げる。

 

「志恩くん専用のお土産もあるんだよ」

「へぇ~。さっきの袋の中に入ってるの?」

「いや、ちゃちゃっと買ったやつだからポケットに入ってるんだよ」

「それさ、完全に俺のこと忘れてたよね? 忘れてたから駅構内でとりあえず買ったっていうしょぼいやつだよね?」

「……ち、違うよ? えっと……違うよ?」

「頑張れよ、今時小学生でも上手に嘘吐けるぞ」

 

 乾いた笑声を出し、汗を垂らし申し訳なさそうにしながらスーツのポケットを漁りだす。しかし思ってたところになかったのか、身体をまさぐり最終的には上着を脱ぎバサバサと(はた)いていた。

 

「あれ~おかしいな~」

「いや、ないんならないで別にいいよ。ちなみにそれってどんなやつなの?」

「ネズミっぽいやつかな? いろいろあったんだよ、なんかね『岡山県ゆるキャラ』って書いてあってね」

「うんそれ違いますね、ご当地のやつですね」

「二人してなにしてるの?」

 

 振り向くと、来ない俺たちを見兼ねてか母さんが不思議そうな顔で父さんを見ている。めんどくさいけども経緯を説明すると、おかしそうに口許を隠して笑う。

 

「理人さんらしいわね、おっちょこちょいで」

「それでしょうもないもの渡される俺の身にもなってくれよ」

「しょ、しょうもないって。自分の気に入ったものじゃないからってそんな言い方しなくてもいいじゃないか志恩くん……」

 

 悲し気な雰囲気で父さんが訴えかけていると。

 

 ポトリ。

 

「ん?」

「あら?」

「おや?」

 

 なにかの落ちる音がして視線が下に集まる。おそらくお土産が入っているであろう小さな包みと、それとくっついて出てきた名刺のような紙。それを取るため母さんが手を伸ばす。

 このとき、めんどくさがらずに俺が動きこれを手にしていれば、あんなことにはならなかったというのに。

 拾い上げた母さんは名刺を見て固まる。隣にいる俺も視界に入ってしまい息が止まった。

 

 

 その名刺には『スナック イッチャッテ』と書かれていた。

 

 

 ズオンと。

 実際にそういう音がしたわけではない。でもそんな音がしたような錯覚に(おちい)るほど空気が一変し氷点下に達する。というか変えられた、俺の隣にいる死神によって。

 母さんの周囲に氣が蔓延(まんえん)する。あまりにも濃厚な氣なのか目視で視認できてしまうそれは、明らかなる殺意。

 多分母さんは覇王色の覇気を出せるんだと思う。だって俺今チビりそうなのに気絶しそうだもん。股間がキュウゥゥってなってるもん。父さんに至ってはこの世の終わりみたいな顔をして動けずにいる。

 ふぅ、と一度息を吐いてから母さんが名刺を裏返すと。

 

 

『また会いに来てくださいね。いっぱいサービスしちゃいます! みやこ』

 

 

 ぐしゃり。

 名刺を握り潰すという戦いのゴングが鳴ったとき、殺戮(ものがたり)は始まる。

 

「離婚よおおおおおおぉぉぉ!」

「ちょま、雫さんゲバァ!」

 

 殴ることに特化され固められた母さんの拳は、目にも止まらぬ速さで寸分の狂いもなく父さんの顔に吸い込まれる。嫌な音がし倒れもがいている父さんに馬乗りし、追撃に両の鉄拳が交互に火を吹く。

 

「このっ! このっ! このっ! 死ねぇ!」

「ちょっ! まっ! しずくっ! さん!」

「私のっ! 気持ちもっ! 知らないっ! でぇ!」

「あっ! 駄目っ! 意識っ! ガハッ!」

 

 一方的過ぎる攻防戦はちょっとした一般家庭の夫婦喧嘩なんていう可愛いものではなく、子供が見たら確実にトラウマに、大人が見ても一部の人には失神ものの悪影響を及ぼすレベルの虐殺が繰り広げられる。

 いやていうかマジで見てられない誰か助けてあげて!

 ヤベェ修羅場じゃん……。恐怖から身動き取れずに傍観しそんな感想を抱いていると、すでに勝負は着き母さんは音もなくスッと立ち上がる。あれだけ叫び殴っておきながら息も切らさずに静かに(たた)ずみ拳にポタリポタリと血を(したた)らせながら。これで終いだとゴミでも見るような目で父さんを見下し、プッとその顔に唾を叩きつけた。

 これが人間のやることかよぉ!

 龍之介さん、今ならアンタの気持ちがよくわかるよ。これは人間のやることじゃない。

 英語の教科書に『Q.これはどんな場面ですか?』『A.これが正しい殺人現場です』とか載っちゃっても納得できますよコレ。

 

「志恩さん、家を出ますよ。荷物をまとめなさい」

 

 何事もなかったかのように振り返り告げる殺人鬼。

 

「待って雫さん本当に誤解なんだぁ!」

 

 血だるまになりながらも起き上がる死体。いやあんた生きてんのかよ。

 あの人、あれで死んでないんだからスゲェよな。

 

「大丈夫ですよこの浮気者。志恩さんは精神に問題があるところもありますが、それでも私の大切な息子。私がちゃんと責任を持って育てます。貴方は一人で生きてください」

「確かに志恩くんは本当に僕らの子供なのか首を傾げることもあるけども、志恩くんをもっと信じてあげて!」

「まぁ! 信じてるからこそ、いまだに捨てずに愛を注いで育てているというのになんですかその言い分は! 私が違う人の子を産んだと言いたいんですか!? 貴方以外の人に抱かれたことなんてないのにホント最低です信じられない死ねっ!」

「ぶべらっ! ち、違うんだ、今のは言葉の綾で雫さんを疑ったわけじゃ……。志恩くんは、志恩くんは頭のネジが一本どころじゃないくらい抜けてて不安になることもあるけど、それでも僕らの愛の結晶だ、そうだろ?」

「アンタらさ、喧嘩するついでに俺をディスるのやめてもらえません? うっかり舌噛んで自殺しちゃうところだったよ」

「そんな繊細な心を持ち合わせてないことくらい、お母さんもこの赤の他人もちゃんとわかってます」

「赤の他人!? 違うよ、志恩くんの父親でキミを愛してやまないたった一人の旦那さ!」

「今三行半(みくだりはん)を突きつけてやりますからここで待ってなさい」

「雫さぁん!」

 

 自室にでも離婚届が置いてあるのか、そこに向かおうとする母さんを行かせまいと引き()られながらも捕まる父さんと、邪魔されながらも時折殴りながら前へ前へと進む母さん。

 信じられますぅ? この夫婦、数分前までイチャコラしてたんですよ?

 修羅場を目にし息子としてどうするべきか真剣に考える。そして、

 

「遊びいってきま~す」

 

 そう言い、その場から退散することにした。

 俺は考えるのを止めた。

 もうどうにでもな~れ。

 

 

 街で昼食を済ませた俺は、人と会うために神社へと続く長い階段を上っていた。

 聖櫻学園高等部の敷地の近くにあるこの神社から見下ろす街はそれなりに壮観なもので、今よりも小さいときから何度も見ているというのに見飽きることがない。まぁ何度もと言っても頻繁に見ているわけではなく、お祭りがあるときくらいにしか見てないから飽きなくて当然なんだけど。

 上りきり鳥居をくぐる。隅々まで掃除が行き届いてるのか境内(けいだい)は綺麗で、なんとなくだが荘厳(そうごん)で神聖なる雰囲気を感じた。

 えーっと、こういうのってお賽銭入れた方が良いのかな?

 作法なんてわかるはずがなく、とりあえずで五円玉を投げ入れ奉納し鈴を鳴らして拝礼した。

 

「え?」

「ん?」

 

 鈴の音を聞きつけて来たのか、巫女服姿の美少女が神社の奥から姿を現す。

 長い髪を二つに分け結び前に垂らし、頭には可愛らしい華の髪飾りを付けた知り合いの少女、森園(もりぞの)芽以(めい)ちゃんが笑顔で俺に駆け寄ってきた。

 

「お兄さん!」

「オッス森園ちゃん、久しぶり」

 

 パッツン前髪を揺らし、つぶらな垂れ目の愛くるしい笑顔で見上げてくる。以前ひょうんなことから森園ちゃんと知り合い、以降は気に入ってくれたのかわからないが俺のことを『お兄さん』と呼んでくるようになった。

 こんなにも妹という存在が似合う子なんてそうそういないだろう。そう思ってしまうほど彼女は無邪気な姿を俺に見せてきた。

 

「お久しぶりです! 三、四ヶ月ぶりくらいでしょうか?」

「そんくらいじゃないかな~。元気そうで良かったよ」

「お兄さんもお変わりなく」

「森園ちゃんはちょっと変わったかな」

「えっ、変わりましたか?」

「うん、前よりももっと可愛くなった」

「え、えぇ~!? も、もうお兄さんったら、恥ずかしいです」

 

 実際恥ずかしそうに箒を振り回す森園ちゃんの可愛さといったら。

 

「はぁ~~~~~~天使かよ」

「え!? て、天使って」

「神様ありがとう、こんな可愛い天使を地上に降臨させてくれて」

「あ、あの、うちは仏教なので神はいても天使はいないかと。でも、そう言われると……なんだかちょっと、照れちゃいますね。えへへへ」

 

 どこかズレたツッコミをし耳まで赤く染め上げる美少女。

 はい百点満点! これこれ、美少女ってつまりこういうこと!

 この前の正岡先輩といい森園ちゃんといい、世の中には意外にも天使が潜んでるんだなぁ~。はぁ~眼福眼福。

 

「そういえばどうしたんですか? なにかうちに用事でも?」

「用事ってほどじゃないよ、ただ単に挨拶に来ただけ。高校に上がってから顔見せてないな~ってこの前気付いてさ」

「気付くのが遅いですよぉ。お兄さんが来なくて寂しかったんですから、もう」

「…………えちょっと待って可愛いもう一回言ってもう一回今のセリフとポーズして今スマホで動画録るから」

「動画!? お兄さんどうしたんですか? ちょっと……目が怖いです」

「大丈夫大丈夫お兄さん全然普通だからさーいってみようか本当に俺の妹になった感じでそんでもってあわよくば俺のことを『お兄さん』じゃなくて『お兄ちゃん』って呼んでお金なら出す!」

「なんというか……。なんだか危ない発言にも聞こえるね……相変わらずだね君は」

 

 突如後ろから声がし(きびす)を返す。

 そこには当初の目的である重藤(しげとう)秋穂(あきほ)さんが切れ長の釣り目を歪ませ呆れたような顔で俺を見ていた。

 

「あっ、秋穂お姉ちゃん!」

 

 あー! 天使が離れていく!

 従姉妹で仲良しなだけはあり、森園ちゃんは遠慮というのをどこかに置き忘れたのだろう、勢いよく重藤さんに抱き付く。

 

「おっと。危ないよ芽以、転んだらどうするんだ」

「えへへ、ごめんなさい秋穂お姉ちゃん」

 

 顔を見合わせ美しくも咲き誇る美少女たちの華。

 先生……妹が……欲しいです。

 

「……それで、そこで私たちを撮っている有坂はなにを考えているのかな?」

「これはこれでおいしいなと思いまして」

「ちょっとそのスマホを貸してくれないか?」

「え、嫌ですよ。どうせぶっ壊す気でしょう? 大丈夫ですよネットになんて上げません、これは俺の宝物として保存して毎夜寝る前に観ようと思います」

「その行動がとても気持ち悪いという考えには帰結しないのかな?」

「え? 誰だって可愛いものはずっと見ていたいものでしょう? なに言ってるんすか重藤さん、馬鹿なんすか?」

「これは話し合いが必要なようだね……」

 

 頭に手を置きやれやれといったふうに首を振るう。そんな重藤さんから離れ、森園ちゃんが神社の方へと歩を早足に進める。

 

「今お菓子と飲み物を用意するね! お兄さんも良かったらご一緒してください」

「え? いや俺は軽く挨拶に来ただけだからそんな気にしなくていいよ?」

「いいからいいから、神社に座って待っててくださいね!」

 

 そう叫び巫女服をはためかせ走っていった。

 えーっと、いいのかな……?

 確認の意味も込めて重藤さんに振り向くも、困ったような顔をして返されてしまう。

 

「芽以にも困ったものだね。すまない、悪く思わないでくれ」

「俺が森園ちゃんを悪く思うことなんてないですよ。ただ、俺なんかが良いのかなと思って」

「それこそ良いに決まってるさ。久々に君に会えて嬉しいんだろう、だから少し強引なことをしてでも留めておきたかったんだと思う。勝手に帰ったらきっとあれは怒るぞ? 私も君に久々に会えて話がしたいし、どうかな?」

「あー……。じゃあすみません、お世話になりますね」

「うん、では行こう」

 

 成り行きとはいえお世話になることが決まり、神社の裏手側へと向かう。流石に表の人が見えるところでのんびりするわけにもいかないので、重藤さんが進むがままに俺は後ろについていった。

 

「ここで待っているとしよう。ここなら裏手出入り口に近いから芽以もすぐに気付く」

 

 そう言い、日が当たり風通しもいい場所へと到着する。さてどう座ろうかと悩んでいると、先に座っていた重藤さんが、ポンポンと隣を手で示してきた。座らなかったら座らなかったでなんか言われそうだし素直に従うことにしよう。

 

「それで、挨拶が遅れた後輩君は今日ここに一体どんな用事で来たのかな?」

 

 座るなりすぐに訊いてくる。そのちょっと悪戯っぽく笑う顔はまるで「どう虐めてやろうかなぁ」と考えてるみたいだ。

 

「いやその~、すっかり忘れてまして」

「忘れてたのか。そうかそうか、私たちなんてすぐに忘れちゃうようなそんな存在なのか」

「い、いやいや違いますよ? ほら俺馬鹿じゃないですか、すぐ忘れちゃうんですよ、馬鹿だから」

「芽以のことは妹のように、私のことは姉のように思っていると言っていたのに。馬鹿は忘れちゃうのか~。所詮は口だけか」

「あーの……ですね? その~……ですね?」

「……くっ」

 

 冷めきった目が一転、顔を俺から背けるなり耐えられないとばかりに肩を震わせ始める。

 こ、コイツ~~~。

 

「……おい」

「ふふっ。いやぁ悪いね。でもたまには痛い目に遭ってもらわなきゃ反省しないだろう? 特に君はね」

「やめてくださいよ~。途中本気で怒ってると思ってヒヤヒヤしましたよ」

「これに懲りたら時々で良いから連絡を寄こすことだね。私は君に恩があるし、それを抜きにしたって私も芽以も君を気に入っているんだから」

 

 俺が中学生だったころ。ちょっとした事件があり、それに巻き込まれたこの従姉妹を俺が勝手に善意を押し売りした。たったそれだけのことでなんだか恩を感じてしまったらしく、この人の中で俺の評価がとてつもないことになっている。身の丈に合わない評価を貰っている俺としては、なんともいたたまれない気分だ。

 

「恩とか……別に俺はそんなつもりで」

「わかっているよ。だからそれを抜きにしてもって言ったんじゃないか。君はとても良い子だよ」

「……お、おす」

「なんだい、照れているのかな? 可愛いところもあるじゃないか」

「からかわないでくださいよぉ……」

 

 く、くっそー! 美人で清楚だからって上目遣いで大人の色気を出しながら褒め称えたって志恩さんがそんなことでほだされると思ったら大正解なんだから!

 俺にもこんな綺麗で可愛い姉と妹が欲しかった……。今からでも遅くないんでウチの姉とチェンジできませんかねぇ神様。

 そよ風が吹く。心地の良いそれは重藤さんの艶やかなポニーテールを揺らすには十分(じゅうぶん)で、そのワンシーンはまるで女神と評されてもおかしくないほど艶麗(えんれい)であった。

 

「ん? どうしたんだい有坂、顔が赤いよ?」

「え!? い、いえ別に」

「そういうわけにもいかないさ。ちょっとおでこを出してくれ」

「いえ大丈夫ですから! ホント全然大丈夫ですから!」

「あー!」

 

 森園ちゃんの声がして二人して振り向くと案の定その人で、着替えまでしてきた彼女は、洋菓子とお茶を乗せたお盆を持ち俺と重藤さんの間に割って入ってきた。

 

「も、森園ちゃん?」

「あの、わたし、ここが良いです!」

「そ、そう? 別に俺は構わないけど」

「私も構わないよ。ふふっ」

「お、お姉ちゃん!」

「芽以が気にするようなことはしてないから大丈夫だよ」

「き、気にしてなんか全然ないよ!? 全然ないから!」

「はいはい」

「秋穂お姉ちゃん!」

「んふふ。……ところで君はまたなにをしているのかな?」

「お構いなく」

「お構うね。その動画、消す気にはならないのかい?」

「あっ、良いですね、もうちょっと二人近付いてください。まるで愛し合う禁断の姉妹愛のように!」

「さっき懲らしめたと思ったのにどうやら反省が足りないようだね。これはもういっそのこと、うちの弓道場の的になってもらうしか……」

「なにとんでもないこと言っちゃってんの!? それどう考えても犯罪でしょうが!」

「ははっ、もちろん冗談だとも。半分ね」

「半分本気の恐ろしさ! ある日突然俺のところに矢が飛んできたら真っ先に疑ってやるからな!」

「なるほど、一撃必中ということか。腕が鳴るね」

「おいおいおいおい、そんなこと言うなら俺も本気出しちゃうよ? 俺の本気マジ凄いよ? とくと見るがいいほら見ろよ、すみませんでしたあああぁぁぁ!」

「君の土下座は本当に安いなぁ……」

 

 かくして、なんてないはずの日常は俺にとって大切な日と化し、森園ちゃんも交えて雑談を楽しむこととなった。

 学校がそれなりに楽しいこと。幼馴染との馬鹿な日常が変わらないこと。森園ちゃんが来年の受験のために重藤さんに勉強を見てもらっていること。相変わらず有坂家はうるさいこと。重藤さんがもしかしたら部長になるかもとのこと。

 そうして話が盛りに盛り上がり太陽が少し落ちたところで、森園ちゃんが衝撃的ことを口にし始めた。

 

「あ、あの、お兄さん」

「ほいほい、なに?」

「あのですね……良かったらですが、わたしのこと名前で呼んでくれませんか?」

「え?」

「そ、そのぅ、お兄さんはわたしにとって本当にお兄さんみたいだから、だからほら、名前で呼んでくれた方がもっと親しくなれるかなって!」

「お、おう」

 

 手を振り一気にまくし立てる森園ちゃんの顔は収穫期に入ったリンゴのように。こういう仕草がいちいち可愛くて本当に仕方がないったらありゃしない。

 でも名前呼びか。ちょっとそれは恥ずかしいな……。

 思い悩んでいると奥の方から声が掛かる。

 

「芽以が勇気を出して言ったことなんだ。良かったら汲み取ってくれないかな?」

「お、お姉ちゃん……」

 

 ……なるほど。

 この状況で、年上の男に向かって、そんなことを言うのはそりゃあ勇気がいるよな。

 うん、よし。

 

「わかったよ、それじゃあこれからは芽以ちゃんて呼ぶことにするね」

「はい! 改めてよろしくお願いしますね!」

「おう! でもなんだか、呼んでみるとあっさり呼べるものだなぁ。やっぱり女性ってよりも妹のように思ってるからかな!」

「……うぅ」

「大丈夫だよ芽以。少しずつ、コツコツやっていけば良いのさ」

「うん、頑張る」

「?」

 

 なんの話だ?

 

「そしたら、私のことも名前で呼んでくれて良いんだよ」

「え、なに言ってんですか、無理に決まってるでしょう」

「……私のときだけずいぶんキッパリ断ってくれるね。そんなに嫌なのかい?」

「嫌じゃないですけど、年上の女性にそんなことできませんよ」

「お姉ちゃんのことは女性って意識してるんだ……」

「……えっと、芽以ちゃん?」

「ほら見ろ、芽以がいじけちゃったじゃないか。良いのかい『お兄さん』?」

「……いや、でもですね」

「そうかそうか、やっぱり君にとって私は忘れちゃうような存在だからね、姉のように思ってるなんてあれは口からでまかせなのか」

「どんだけ気にしてんだよ! わかったよわかりましたよ、呼べばいいんでしょ呼べば!」

「あぁ。さぁどうぞ」

 

 恨めし気に睨むも飄々と躱されてしまう。いつか覚えてろよ……。

 深呼吸をしさっきからバクバクと血液を流す心臓を落ち着かせる。緊張するなぁもぅ。声がどもらなきゃいいけど。

 

「あ、あき……秋穂さん」

「なんだい、有坂」

「……先輩は普通に名字呼びなんですね」

「名前呼びだなんて恥ずかしいじゃないか」

「おいコラ」

「ふふっ」

 

 く、くそ~~~! こちとら恥を忍んで言ったてのに!

 そんな俺をひとしきり笑ってから「さて」と言い秋穂さんは立ち上がる。

 

「それじゃあ私はそろそろ行こうと思う」

「どこにです?」

「ちょっと街に用があってね。ここに来たのも、街に行くついでで顔を出しただけなんだ」

「はぁ、なるほど」

「お姉ちゃん一人で大丈夫?」

「心配しなくたって大丈夫だよ。前に友達とも行ったからね」

「……ちなみに街のある方角はわかります?」

「わかっているとも。あっちの方だろう?」

「あっちにはなにもないですね」

「あー間違えた、あっちの方かな?」

「あっちは学校の方だよお姉ちゃん」

「そ、そうなのかい? まぁ大丈夫さ、歩いていればそのうち着く」

「「……」」

 

 俺と芽以ちゃんの気持ちが重なったのか、視線を合わせ頷き合う。

 

「秋穂さん、俺で良ければ一緒に行きますよ」

「お姉ちゃん、わたしも一緒に行くね」

「心配しなくても大丈夫だよ。二人ともここでゆっくりしてるといいさ」

「あーもう秋穂さんと一緒に街に行きたいなー! あーもう超行きてぇー! 秋穂さんと街に(おもむ)くとか超ラッキーなんですけど! この機会逃しちゃったらもう俺死ぬしかねぇわー!」

「土下座しながら頼み込むとか大袈裟だな君は! わかった、そこまで言うなら一緒に行こう」

「あざーす!」

「つくづく安いな君の土下座は……」

 

 ついついしたり顔でニヤついてしまう。鍛えに鍛え抜いた我が奥義(どげざ)、そう簡単にはやぶれまいよ。

 秋穂さんを負かせたからか気分が良くなり一人先に鳥居の下で待っていると、後方にいる二人がなにやら俺の方を見ながら耳打ちし合っている。

 なにを話しているんだろうか。良からぬことじゃなければいいけど。

 秋穂さんが先に合流し俺に近付いてくる。

 

「有坂」

「はい? なんでおわっ!」

 

 俺の返答を待たずして、秋穂さんが俺の腕にしがみついてくる。してやった、そう言いたげなニヤニヤ顔で。

 

「ちゃんとエスコートしてくれよ?」

「ちょ、ちょっとなに言って」

「お兄さん」

「え? ちょー!」

 

 振り向くと、今度は芽以ちゃんが反対の腕を取り、秋穂さんより強くきつくしがみついてくる。

 

「お兄さんが転ばないようにこっちは支えてあげますね!」

「いやいやいやいや! なに言ってんの!? なに言っちゃってんのこの二人!?」

「頼むよ有坂」

「頼りにしてますお兄さん」

「こういうのは勘弁してくれえええぇぇぇ!」

 

 俺の情けない悲鳴が境内に響く。知ったことかと言ってるかのように、神社の鈴がカランとなった。

 神様、ウチの姉とチェンジしてとお願いしましたが、やっぱそれなしで。こんな姉と妹に囲まれて甘やかされたら、俺は今よりもっとダメ人間になっちゃいそうです。

 二人にさんざん虐められた俺は、またしても奥義を繰り出すことでこの場をなんとかまとめることに成功したのであった。

 

 

 さて。

 これで何事もなく綺麗に終われば、素晴らしい一日として未来永劫に脳内メモリーに保存されるところなんだが。

 時刻は十七時。それなりに暗くなった景色に変わり、現在俺は家の玄関口のドアの前で突っ立ってる。なにせ今我が家には修羅場中の男と女がいるからな。これを無視して一日を終えることはできない。さてどうしたものか……。

 静かに、しかし中が見えるようにそれなりにドアを開き、されど悟られないよう気配を消して中を覗くと、

 

「ごめんね雫さん、僕のせいで悲しい気持ちにさせてしまったね」

「違うの理人さん、こんな小さなことで騒ぎ立てちゃった私が悪いの。本当にごめんなさい、痛かったでしょう?」

「大丈夫だよ。このくらいのかすり傷、キミから受けたものだと思うとむしろ愛おしいくらいさ」

「理人さん……」

「雫さん……」

 

 そこには仲睦まじく抱き合う夫婦の姿。

 はいはい超展開おつ。

 なんなんだよこの口から砂糖が出そうな甘々な空気は。今時バカップルでもこんなこと言わねぇだろ。甘々なのは稲妻だけにしろ。

 あと父さんはちゃんと死ね、人間を辞めるな。そのうち母さんに殴られながら「貧弱! 貧弱ゥ!」とか言い出すんじゃねぇだろうなあの人。

 なんにせよ仲直りしたならいいだろう。家庭崩壊の危機かと思ったが、そうならなくて良かった。

 

「本当にごめんね雫さん。僕が側にいないから寂しい思いをさせてしまっているね」

「良いんです、お仕事なんだから仕方ないです。それに志恩さんはいますから」

「志恩くんは男の子だから、雫さんと一緒に家のことをやったりはしてくれないんじゃないかな?」

「そうねぇ~。凛音さんも今はアメリカにいますからね」

「そうだね。女の子が……志恩くんに妹でもいれば寂しい思いをさせずに済んだのかも」

 

 そうして辛気臭く抱きしめ合いながらも顔を伏せる夫婦。

 入り辛いな~~~も~~~。

 いっそ何食わぬ顔して強行突破しようと手に力を籠め、

 

「そうだ! いっそ作っちゃいましょうか、妹」

 

 ピタリと動きを止める。父さんもシンクロしたのか動かずにいる。

 

「……雫さん、早まった考えはやめよう」

「大丈夫よ。だって志恩さんったらこの前『母さん、今日は良い天気だね妹が欲しい』とか話になんの脈略もないのにそんなこと言ってきて、もう本当に頭がおかしくなっちゃったのかと思って目眩がしたくらいなんだから」

「ごめんね雫さん。今の話のなにが大丈夫なのか全然理解できない僕を許してほしい」

「きっと妹ができれば志恩さんも今よりずっと落ち着きを持つはずです」

「いや~~~むしろ溺愛してうるさくなるんじゃないかなぁ」

「それはそれで面倒を見てくれそうで助かりますね。さぁ、行きましょう、ね?」

「あっ、あっ待って引き摺らないで! 部屋に連れ込もうとしないで!」

「懐かしいわぁ~。なんだか高校生のときを思い出すわね。貴方はいつもこんなふうに私についてきてくれて」

「そうだね。キミはいつも僕をこんなふうに引き摺り回してってそんな話は今はいいから! 僕たちもうアラフォーなんだから! それに、ここここんなところ志恩くんにでも見られたら」

「大丈夫よ。志恩さんは私の血を受け継いでるのでちゃんと空気を読んでくれます。きっと今日は帰らないでしょう。帰ってきても、きっとどっか行きます」

「あっ、ちょっ、雫さんおち」

 

 そこで俺は何事もなかったかのようにドアを閉めた。

 俺は空気の読める子だからね、うん。まぁ俺子供だから二人がなにをする気なのかさっぱりわからないけどね、うん。

 ポケットからスマホを取り出し、十五年の付き合いがある幼馴染へと電話を掛けた。

 

「よー美知留、俺だけど。うん。うん? いやオレオレ詐欺じゃねぇよ俺だよ俺。うん。うんそう。いやだから俺だって、そうそうそうそう。うん。だから俺だって言ってんだろうがしばかれてぇのかお前は! あっウソウソ、しばきません、ちょっと話を聞いてくれませんか? あのさ、今日そっちに泊めてくんねぇ? うん。うんわかったよ、衣装でもなんでも手伝ってやるからさ今日だけ泊めてくれよ。ありがとよ、じゃあ今そっち行くから。よろしくね~。はい、はい、はーいはい、はい。切るぞー。はーい」

 

 

 翌朝。有坂家の食卓にて。

 朝方戻ってきた俺は、生気の抜かれたような顔をして腰を叩いている父さんと、ツヤツヤした顔で甲斐甲斐しくも父さんの世話を焼く母さんを完全にスルーし、朝飯をかっこんでさっさと学校へと行ったのであった。

 




二人からの好感度は意外に高めです。過去話はまたいつか。


5月16日追記
予約投稿しました。お待たせしましたすみません。
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