アリシアとフェイトの此度の事件における事情聴取はアースラ艦内の一室で行われた。
そこではアースラ艦長リンディと執務官であるクノロそして執務官補佐であるエイミィが主となり行った。
事件の主な流れ。
第九十七管理外世界『地球』で行われた戦闘内容。
プレシアがフェイトに命じた内容。
そう言った内容をフェイトとアリシアに聞き取ってアースラが所有する記録と齟齬がないかなどを確かめた。
フェイトはややたどたどしいながらも覚えている内容を懸命に話した。
話がプレシアとのことについて及んだ時は少し体を強張らせたけれども、その度に隣に座っていたアリシアがフェイトの手を握り落ち着かせ随時フェローを行った。
そのおかげでフェイトは母であるプレシアとのことについても覚えている内容を話すことが出来た。
よって事件の事情聴取も順調に行われ結果最初に想定していたよりも短い時間で終えることが出来た。
そうして一度休憩を挟んだ後に今度は話はアリシア・テスタロッサのことについてとなった。
「それでね、アリシアさん。貴方の体のことについてなんだけど」
何枚かの資料を捲りながらリンディがアリシアに向けて話しかける。
「はい……」
事件の調書の時は落ちついた様子であったアリシアも自身の体のことに話題が言ったときは流石に顔から不安の色を取ることが出来なかった、隣に居るフェイトのほうが心配そうな顔でアリシアのほうを見つめていた。
「身体検査の結果……貴方の体には一切異常はないそうよ」
けれどリンディは拍子抜けするような勢いでそれだけを言ったのだった。
それを聞いてフェイトは心配そうな顔を一転嬉しそうな顔をしてアリシアを見つめるのだけれど、そのアイシア自身は安心したというよりも驚愕している顔でリンディを見つめ返した。
「お姉ちゃん……?」
「アリシアさん……どうしたの?」
そしてそんな様子のアリシアをフェイトとリンディが心配そうな顔でアリシアの名前をよぶ。
「あ……いえ……その……この体に一切異常が無いと言うことに驚いたというか、異常が無いと言うことが異常な気がしたと言うか……きっと体のどこかには問題がでるのではと思っていたので」
アリシアはやや言いずらそうに二人から顔をそむけながらそう言った。
正直に言えばアリシアは自身は体の何処かに必ず以上が出ると思って居た。
そもそも即死級のケガを負って魂と肉体が分離したのだ。
いくら母の手によって見た目上は綺麗な形を保っていたと言え。
魂が再びこの体に戻ったことで蘇ったとは言え、体の何処かには必ず異常が出ると思っていた。
いや……最悪の場合は余命数日という結果さえ出るかもしれないという不安もあったのだ。
だからアリシアは一切の以上が無いという結果に驚きを隠し切れなかった。
「そうねぇ……確かに貴方の体と貴方自身に何が起こっているのかは私たちも全て把握しているわけではないわ。そして貴方自身も何が起きているのかは分かって居ないのでしょう? だからそのことについて不安を覚えるのは当然だわ……でもね、アリシアさん――今は貴方の体に異常が無いことを素直に喜びなさい。貴方の体は確かに健康で今もしっかり其処に生きているのだから。それは確かな真実なのですよ」
リンディはゆっくりと言い聞かせるようにアリシアにそう伝える。
アリシアの態度を見て初めて彼女が不安を覚えていると言うことに気が付いた。
子供とは決して見えない態度でフェイトのことを慰め支えているアリシアを見てついそのことを失念していたのだ。
だから少しでもアリシアの不安を取り除けるように。
しっかりとそれでいて優しくアリシアに話しかけたのだった。
「そう……ですね……必要以上に不安に思っていても仕方のないことですね。今は自分が生きているという事実を素直に受け取ることにしたほうが確かに良さそうですね……」
そしてアリシアもリンディの言葉を受け、現状を受けいれるように呟いた。
その顔は先ほどまでの不安を覚えている顔ではなくて普段通りの柔かい表情をしているアリシアであった。
そしてそんなアリシアの様子を見てリンディも自身の言葉が受け入れたのに安心を覚えた。
「そうですよ。それにもしも少しでも不安を覚えたことがあったのならいつでも私に言ってきなさい。少しでも貴方が安心を覚えられるよう相談に乗るわ。そうでないとねアリシアさん――」
そこで一度リンディは目線を先ほどから一言も話さず姉の姿を見つめ続けているフェイトに向けてから続きを話す。
「貴方が不安のそうな顔をしていると隣にいるフェイトさんが泣いてしまうわよ?」
「え……? あ……」
そう言われて初めてアリシアは顔をリンディからフェイトに向ける。
そしてフェイトがこちらを不安そうな顔で見つめているのに気が付いたのだった。
その顔にはまだ涙は浮かんでいないけれど今にも泣きだしてしまいそうな雰囲気でフェイトはアリシアを見つめ続けていた。
そんなフェイトの表情を見たアリシアは慌ててフェイトを抱きしめながら謝罪の言葉を口にするのだった。
「ごめんねフェイト。私のせいで不安な思いをさせてしまった」
「ううん……大丈夫だよ…………でも……ねお姉ちゃんの体に異常があるかもなんて全然考えもしなかったの。だからね……もしかしたらどこかに異常があったのかもしれないなんて言われて……急に怖くなったの……お姉ちゃんがね……母さんみたいにね……また……居なくなっちゃうかもしれないって思ったら……私……わたし……うぅ……うぅぅ……おねえちゃんっ……おねえ……ちゃんっ……」
始めは何とか普通に話そうとしていたのだけれど、話すうちにどんどんと涙声となり遂にフェイトは涙を抑えることが出来なくなり泣き声を出してしまった。
話すうちにどんどんと姉がいなくなるかもしれないと言う恐怖が強くなり遂には母親が目の前で虚数空間へと落ちて行った瞬間まで思い出されてしまい軽いパニック状態となってしまったのだ。
「大丈夫。大丈夫だよフェイト。私は何処かに行ったりしない。ずっと貴方のそばに居るわ。だから安心してフェイト」
そしてそんな妹をアリシアはしっかりと抱きしめて少しでも安心させるように声をかえる。
「うん……うんっ……おねえちゃん……何処かに行っちゃいやだよぉ……ずっと……お姉ちゃんと一緒に居たいよ」
「ええずっと貴方と一緒に居るわ。離れたりなんかしない。約束するわフェイト」
泣き続けるフェイトにアリシアは何度も何度も話しかける。
ずっとそばに居ると。
離れたりしないと約束する。
フェイトが少しでも安心できるようにと。
そしてそれはアリシア自身の願いでもあるのだから。
そんな姉妹のやり取りをフェイトが落ち着くまでリンディとクロノとエイミィは見守ったのだった。
そしてそれから数分が経ちやっとフェイトが泣き止んで落ち着きを取り戻したので二人の姉妹はお互いの席に戻ったのだった。
それでも手だけは繋いだままだったのだが。
「落ち着いたかしらフェイトさん?」
そしてそんな様子の二人に確かめるようにリンディが問い掛ける。
「はい……ごめんなさい。リンディ艦長」
「あら……何も悪いことはないのよ。泣けるときに泣いておくのも大切なことよ」
申し訳なさそうに謝るフェイトにリンディは優しく言い聞かせることでフェイトも恥ずかしそうにはするけれど素直に頷くのだった。
そしてちょうど話が一段落ついたのも見計らってそれまでリンディの後ろに控えていたクロノがフェイトに声をかけた。
「フェイト。アースラはこれから君の裁判のために時空管理局本局があるグレナガンに向かうことになる。そうするとしばらくは此処の地球に来れなくなるだろう。だから、その前に一度君が地球に行ける許可を出せるようにするつもりだ。おそらくは三日後ぐらいになるだろうが大丈夫か?」
「あ……! うん! 大丈夫だよ。ありがとうクロノ」
そしてそれを聞いたフェイトはすぐに嬉しそうな顔をした。
地球にはフェイトがもう一度会いたい少女がいるのだ。
そして彼女に会ってフェイトは言いたいのだ。
あの子の友達になりたいと。
それをどうしてもフェイトは言いたいのだった。
だから、クロノからまたもう一度地球に、なのはのところに行けると聞けてフェイトは素直に喜んだ。
けれどその隣でアリシアはやや驚いた顔をしてクロノを見ていた。
そしてそれにクロノが気が付きアリシアに問いかける。
「どうした?」
「あ……いえ……その、執務管ってもっと厳格な方ばかりだと思っていたのでそういった配慮をして貰えるなんて思っていなかったので」
問われたアリシアは、初めは誤魔化そうかと思い言葉をつまらせたのだが結局はそう素直に思っていることを言ったのだった。
そしてそれを聞いたクロノはやや憮然とした顔をした。
「確かに……僕たちは法の番人だ。守るべきところは守る。けれど何も全てを杓子定規にしようとは思っていない。特に今回のフェイトのことに関しては僕にだって思うところはある。だから僕に出来ることはするつもりだよ」
そうはっきりとクロハは言う。
ちなみにクロノは彼なりにフェイトのことをかなり気遣っていたのだ。
事件の調書作りや裁判に関する根回しなどをリンディに言われることなく精力的に行っている。
そしてそれは全てフェイトの為である。
勿論それは彼なりの正義に基づいてではあるのだが。
それでもクロノがフェイトのことを凄く気遣っているのは事実である。
そしてそれを言葉の端に感じ取ったアリシアは一度驚いたような顔をした後にクロノに向け笑みを浮かべてお礼を言うのだった。
「そう……ですか……。フェイトの為に色々しくださってありがとうございます。優しいんですね……クロノさんは」
それは見るものが見惚れる笑顔だ。
まさに美少女と言って構わないアリシアが心から浮かべる笑顔。
それを真正面からクロノは受けてしまった。
慌てて顔をそらしたけれど、耳まで赤面するのは止められない。
本人は必至で憮然として顔を浮かべようとしていたけれどそれを横から見守っていたリンディとエイミィに笑われることとなってしまった。