小鳥遊ひかりと語りたい   作:まむれ

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今回と次のお話は時系列的には前話後半より前になります(つまりプール前)
また、アニメとは違う展開なのでご注意ください


日下部春明の想像

 日下部雪という少女がA組にはいる。ちょっとした悩みで自身が雪女の亜人(デミ)であることを隠していた、春明のクラスメイト。後に理由を聞いてみれば「お風呂の時に氷が浮かんできて、それで他の人を傷つけちゃうんじゃないかと思って」隠していたらしい。

 とにかく、隠し事をしていた彼女が雪女であると発覚したのが四月のとある日、体育の授業だった。

 四月にしては気温が高く、陽射しの強い日にグラウンドでの体育は誰もがしんどそうな表情で早く終われと願うくらいで、暑さに弱い雪女が耐えられる訳もなく、見事に気を失ってしまった。

 

 つまり何が言いたいかと言うと――

 

 

――――

 

 

「あーうー」

「もうまじ無理ぃ……」

 

 あれから三か月、暑さも陽射しも強力になった今の天気に、雪女と、ついでに吸血鬼もやられっぱなしだった。

 

 授業の終わりまであと少し。A組とB組の合同授業で行ったサッカーは、男子はA組、女子はB組が勝利しての閉幕。

 A組には佐竹と、その遊びに中学から付き合わされていた春明がいるので地力が違う。太田も、最近佐竹に付き合ってちょくちょくサッカーをするので他の人よりは動ける。B組にはそんな生徒がいなかったため、余裕の勝利だった。

 それはさておき、残った時間は休んでいいぞと体育教師の有難い号令に、二クラス分の生徒は各々友人と駄弁ったり水道で身体を冷やしたり、はたまた人を集めてボールを蹴りだしたりと自由に過ごしていた。

 春明も佐竹に来いと言われたが、そこは「見に行きたい奴いるから」で振り払う。この合同体育がB組以外とだったなら、二つ返事で混ざっていただろう。

 

「これ生きてるの? 溶けてない? 灰になってない?」

「あ、あはは……」

 

 校庭の片隅、大きな木の日陰でぐったりしている二人を元気なデュラハンと見守る。

 この様子ではまともに会話もできまい。佐竹の方に混じった方が良かったかなあと思いつつもこれはこれで見るのが面白いから有りだった。

 それに、ちょっと言いたい事もあった。ただしそれは町の方に。

 

「クラスの女子から聞いたけど、町さん大活躍だったって? 凄いね」

「ありがとう。それほどだったかな?」

「いやいや、デュラハンの強みを生かしてるなーって思ったよ」

 

 女子は地力の違いがほぼなかった。故に、強力な司令塔がいたB組がA組女子を下した。

 戦場で動く胴体部分と、ちょっと離れたところから全体の動きを見る頭の部分。距離があるため、届かせようと声を張り上げる彼女の姿は正しく隊長だった……とはそのクラスメイトの談。

 

「でもちょっと喉が疲れちゃった」

「ああ、相当に大きな声だったもんね、男子の方も聞こえてたし」

「地面に置く用のクッションはあるんですけど、ボール飛んできた時に避けられんだろって先生がわざわざ」

 

 ああ確かに。他の人ならば身体を捩るなりでボールを避けるのは簡単だが、町はその避けようとする身体がコートの中。パスミスやカットでごろごろ転がってくれば顔面直撃を避けられない。教師としては、そんな事故避けたかったのだろう。

 

「でも私には役割があるんですって言って先生の言ったところよりは前に置いてもらいました!」

「ぐいぐい行くね」

「野球やバスケで指示を出すのって中学生の時もやってたから譲れないんです」

 

 かっこいいな、と思った。首がないことを逆に長所にするのは素晴らしい。

 

「でも、他の人に身体で視線遮られたらきつくない?」

「そうしたらその分他の人のマークが薄くなるので、その人にボールを回せるから……」

 

 それに、一人だけじゃ全部遮るのは難しくて、案外見えるんですよ、と不敵な笑み。なるほど、勝てない訳だ。

 指揮官と言うか部隊長というか、これで馬に跨っていたらさぞ絵になることだろう。

 

「うーん昔のデュラハンもそうやって人を率いてたのだろうか……」

「昔?」

 

 春明が町の顔を見ながら漏れる呟きを、耳ざとく拾ったそれに反応が来るとは思わず、顎に置いていた手を降ろして説明する。

 

「あ、いやね。デュラハンって馬に乗ってる騎士、みたいなイメージがあるじゃん?」

「うん、絵やお話とか大体はそう描かれてるぐらいだから」

「大昔、デュラハンの誰かが部隊を指揮して大きな戦果を挙げた。今ですら三人しかいないんだから、昔も似たようなものだろうし、ある意味印象に残ったんじゃないかな、良くも悪くも」

「へー……面白い考えですね」

「そ、そう?」

 

 他ならぬデュラハン本人に面白い、と言われてしまっては得意げになってしまうのも無理はない。暑い中、セミと一緒にうめき声の合唱を披露する二人をBGMにして言葉を続ける。

 

「デュラハンについて少し調べたけど、どんなに逃げても必ず先回りするってあって、それは相手の行動を予測する戦術眼みたいなものを持ってたんじゃないかとか」

「な、なるほど」

「あと、一部でアンデッドとして描かれてるのは、きっとそのデュラハンを敵から見た図なんだろうなって」

「頭が繋がってなくてそこから火が出てる……って」

「敵にそんなのが居たら、生きてるかどうかを疑うんじゃないかな」

 

 以上、おしまい。苦笑いで自分の考えた説を締めくくる。実は吸血鬼よりも先に真面目に起源を考えてみたり。

 こうして本物に話すのは勇気が必要だったが、町の様子を見る限りでは悪くは思われていないのだろう。

 

「他の人のこういう話聞くの、楽しいですね!」

「お、そう?」

「はい! そんな話をする人は中学の時にいなかったから、新鮮かな。今も高橋先生ぐらいだけど……日下部さん、似てきてる?」

「え゛っ」

 

 春明の動きが止まる。ついでに授業の終了を知らせる鐘が鳴り、無事昼休みへと突入したが、それどころではない。

 まさか、そんな、いやいやと首を振り、「ぜってー違う」と両断。

 

「いやほら、その、あれだ。そこで灰になりかけてる奴がな」

「ひかりちゃんですね」

「あー、その、好きなんだけど」

「皆知ってます」

「うぐっ……まあとにかく、それで、あれこれと伝承や御伽話から想像するのが、ちょっと楽しくなっちゃって」

 

 大元はそこだった。例えばひかりのあの部分と吸血鬼のあの話は似てるなーとか。そんなことを考えて考えて、考え過ぎた。

 そうしたら今度は近くにデュラハンと雪女がいるではないか。検索をかけてはあれこれと類似点やこじつけを浮かべるのが最近の暇つぶしだった。

 ただ、だからと言ってあの亜人(デミ)好き教師に似てきていると言われると……おっさんみたいだと言われたようでなんとも言えない気持ちになる。

 

「じゃあ、ひかりちゃんはもちろん雪ちゃんのことも考えてたり?」

「あー、まあ少しは……」

 

「面白い話をしてるじゃないか」

 

「あ、先生」

「げぇっ」

 

 後ろからにゅっと現れたのは件のおっさん……ではなく高橋先生。亜人(デミ)の話をするところに彼は在り、妖怪亜人(デミ)好き教師である。

 

「体育だったのか」

「はい、A組との合同体育でした」

「ということはひかりも一緒……さぞご迷惑をかけたことだろう」

「いや、その……」

「テツせんせー、あれ見ても同じこと言える?」

 

 くいっと春明が親指を向けた先には変わらず日陰で死んでいる二人の亜人(デミ)。「あつい」か言葉にならないうめき声しか出さないゾンビに高橋先生も流石に言葉を失っていた。

 

「……ま、それはともかく、だ。中々面白い話じゃないか日下部」

「えっと」

亜人(デミ)に関する話、だよ。ところで吸血鬼は鏡に映らないなんて話も……」

「もちろん知ってますよ? ひかりは映るみたいですけど」

「お前はどう考えた?」

 

 あ、これ少年の目だ。春明はなんとなくそう思った。キラキラしているというかなんというか。

 

「あー、その……」

「おう」

「ひかりと同じだったんじゃないかと」

「ひかりと?」

 

 訝し気な視線が刺さる。しかしこれは中々面白いんじゃないかと春明も思っていた。

 

「要するに、映りはするんですけどそれを活かせないというか。鏡を使って身だしなみを整えられなかったんじゃないかって」

「は?」

「あー、その話の元になった吸血鬼には付き人がいて、毎日毎日朝の用意に付き合わされた人がうんざりして流した噂がそのまま根付いた」

 

 私のご主人は一人で身だしなみを整えられない、鏡に自分の姿が映っていないんじゃないかと疑うぐらいだ、が尾鰭ついちゃった、とかもあるかもしれない。

 

「はは、そりゃ面白い!」

「丁度それが悪魔は魂の結びつきが云々と重なって真実味を帯びた……帯びてしまったなんて」

「なるほど、そういう考え方もあるのか」

 

 やけに関心したような先生の表情が、春明にはとても意外だった。

 

「オレはどうしても生物学とかそっちの面から見ちゃうからなァ……元となった存在の性格が、とかで考えたりするのはあんまりなくてな」

「へー……」

「あとはやっぱりオレ以外の人から亜人(デミ)関係の話の由来を聞くのが新鮮ってのもあるな。オレが学生の頃は色々難しい時期だったよ」

 

 その理由、さっき誰かから聞いたばかりのものだった。春明は町の方を見ながらにやりと笑みを浮かべて、

 

「……先生に似てるって言うなら、町さんの方が似てるんじゃねぇか?」

「へ、へ!?」

「どうした急に」

 

 急に話を振られて奇声をあげた町の様子がおかしく、更に愉快な気持ちになる。思い当たったのか、なんとか春明を黙らせようとさせるが、片手が塞がっている状態ではどう頑張っても出来ない。

 

「ついさっき町さんにもデュラハンについて話してて、先生とほとんど同じ理由で俺の話を楽しんでくれたんです」

「ほほう、そうなのか? 町」

「は、はい!」

「なるほど、じゃあ日下部のその話、今度聞かせてくれ。すぐ聞きたいが……流石に休み時間がなくなってしまうからな」

 

 確かに少々話し過ぎた気がしなくもない。先生が来るちょっと前にチャイムが鳴って、それからしばらく経っている。ご飯も食べなければいけないし、これが切り上げ時なのだろう。

 

「それで、そこの死にかけの二人だが、昼休みの残り時間くらいは理科室来るかー、冷房ガンガンだぞ」

 

 それは正しく神のお告げだったのだろう。高橋先生の言葉を聞いた途端、吸血鬼も雪女も揃って立ち上がった。ゾンビのようなさっきまでとはがらりと変わり、元気の塊のようにはしゃぐのはひかりで、その後ろを幽鬼のように付いていくのが日下部雪。

 

「……っ、い、いくー! エアコン! 天国!」

「冷気……冷気が私を求めてる……」

「ああもう二人とも待ってよー!」

「日下部は来ないのか?」

「今日は佐竹達と飯食おうかなって」

 

 灰になりかけた吸血鬼もハイになる。エアコンは文化の極みなのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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