東方夢喰録 〜 Have a sweet nightmare!! 〜   作:ODA兵士長

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〜 プロローグ 〜









「いい子を演じるのは、もうやめだ」
「悪いな。その程度じゃ死ねないんだ」

不死のユメクイ––––藤原妹紅は、何を思い何を考えユメクイになったのか?











「さて、どう遊ぼうかしら?」
「私はもう、目の前で人を死なせない」

魔法や人形を器用に操るユメクイ––––アリス・マーガトロイドは、何故ユメクイを殺す決意をしたのか?











「––––飛べるようになったから、いいのよ」
「やはり"夢を操る"とは言っても、私には追いつけないようですね」

風を操るユメクイ––––射命丸文は、物語の鍵を握る。彼女は果たして敵か?それとも……?











「そういえば貴女はどうして––––すぐに否定してくれなかったのかしら?」
「ま、まさか……カマをかけたというの!?」

賢い頭脳を持った"ただの"人間––––八雲紫は、ユメクイに非ずしてどのように物語に深く関わるのか?











「私は、誰も守れない––––何も出来ないッ」
「私の勘が言ってるわ。私が母さんを止めないといけないって……」

出来損ないのユメクイ––––博麗霊夢は、如何にして母と戦う意思(ゆめ)を生んだのか?













繰り返される霊夢の夢の中で戦い続けた少女達。
そんな彼女達の、語られることのなかった"現実の"物語––––





















「––––おやすみなさい、お母さん」



















東方夢喰録 EXTRA
第1話 夢 –– ユメ ––


 

 

 

 

 

 

 

––––うるさい。

 

 

 

––––うるさい。

 

 

 

––––うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!!

 

 

 

 

 

 

私は、"初めて"親に抵抗した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すごいじゃない、妹紅!」

「お前は俺たちの自慢の娘だ、妹紅」

「ご近所でも鼻が高いわ、妹紅」

「お前は本当に出来る子だな、妹紅」

「信じてるわ、妹紅」

「期待しているぞ、妹紅」

 

 

 

 

––––私には全て重圧だった。

 

 

小さな頃から、親は私に期待を寄せていた。

私も初めのうちは、それが嬉しくて必死に努力した。

 

 

 

 

 

 

「どうして出来なかったの、妹紅」

「お前なら受かって当然だろ、妹紅」

「向かいのお子さんはT大学を出たんですって、妹紅」

「お前の学力じゃ無理だろうな、妹紅」

「信じていたのに––––」

「期待を裏切るのか––––」

 

「「––––妹紅?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっせーな!クソがッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は中学受験に失敗した。

そんな私に親のかける言葉は慰めの類ではなかった。

 

 

私はもう、疲れた。

 

 

そして私は、部屋に篭った。

幸い、私の部屋には鍵がついていた。

その鍵を初めて使った。

 

当然親達は、そんな私のことを心配した。

 

 

 

––––いや、違う。

 

 

 

"引きこもりの親"のレッテルを貼られることを心配したのだ。

自分たちの面子のために、私を心配しているだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

「いい子を演じるのは、もうやめだ」

 

 

 

 

 

 

 

私はいつも敬語だった。

両親をお父様お母様と呼び、友達––––お互いにそう思っていないだろうが––––には苗字に"さん付け"をする。

そして徹底的に口調を矯正されていた。

 

その反動だろうか?

1人でいるときの私の口調は、男が使うそれに近いものになっていった。

その口調が、どうにも心地よかったのだ。

しかし、両親の前でも友人の前でも、その口調は使わない。

私は独り言の量が増え、次第に矯正された口調が息苦しく感じられるようになった。

 

 

 

 

 

 

「私は、もう我慢しない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

––––久しぶりだな、妹紅。

 

 

ある時、部屋の外から声がした。

 

こうして部屋の外から話しかけられることは度々あった。

しかし、それらは全て両親のものだった。

食事を持ってきて、上辺だけの心配の言葉をかけ––––時折、罵声も浴びせられたが––––私はそれに聞く耳を持たない。

ただ、それだけだった。

 

今回は違った。

だがそれは、聞いたことがある気がした。

あまりよく、覚えていなかったが––––

 

 

––––上白沢慧音だ。覚えてないか?

 

 

「……慧音?」

 

私の向かいに住む上白沢慧音は、私の幼馴染……というものなのだろうか?

小学校低学年の頃までは、よく遊んでもらった記憶がある。

慧音は私が敬語を使わない、数少ない相手だった。

……いや、訂正しよう。唯一の相手だった。

 

 

––––私と少し話をしないか?

 

 

「……」

 

 

––––どうか、開けてほしい。

 

 

「……親は?」

 

 

––––ここにはいない。私だけだ。

 

 

「本当に?」

 

 

––––こんなことで嘘をついても仕方ないだろう?

 

 

「……分かったよ」

 

鍵を開ける。

すぐに扉が開いた。

 

「失礼するよ」

「さっさと閉めな。鍵もね」

「ああ、分かった」

 

慧音は扉が閉め、鍵をかける。

 

「……で?なんで来たんだ?」

「なんでって……妹紅が最近部屋から出ないと聞いたからな」

「それで、心配になったってか?」

「まあ、そんなところだ」

 

慧音は恥ずかしそうにするわけでもなく、私のことをじっと見つめていた。

 

「……なんで、長い間、碌に会ってなかった奴の心配なんかするんだよ」

「別に会いたくなくて会わなかったわけじゃないんだぞ?」

「知ってるよ。受験で忙しくなって、その後も大学が忙しかったんだろ?」

「ああ。ついこの間卒業して、無事に就職出来たよ」

「そうかそうか、秀才は違うな」

「そんなことはない。私には夢があるだけだ」

「夢……?」

「ああ。私は小学校の先生になるのが夢だったんだ」

「……慧音、まさか就職って?」

「もちろん、小学校教諭だ」

 

 

慧音は少し誇らしげだった。

私とは違う人種だ、と思った。

自分が惨めに思えた。

私だって––––

 

 

 

 

なんだよ?

私だって……なんだよ?

 

私だってやれば出来る……と言うつもりだったのか?

ふざけんなよ。

 

出来てないから、こんなにも惨めなんじゃないか––––

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「妹紅、大丈夫か?」

 

気づけば、慧音は私の肩に手を置き、俯く私の顔を覗き込んでいた。

 

「座って、少し話そう」

 

慧音は笑いながら言った。

私は頷き、座り込んだ。

正面に慧音が座る。

慧音は真っ直ぐ私を見ているが、私はそれを直視出来ず、俯いたり目をそらしたりしていた。

 

––––話って言っても、何をするつもりだ?

 

お互いに座ってから、少し時間が経ったと思う。

いや、本当は短い時間だったのかもしれないが、私には長く感じられた。

沈黙が続いている。

 

 

 

 

「……慧音。お前、何しに来たんだ?」

 

私は痺れを切らし、慧音に尋ねる。

慧音はまだ私を見ている。

 

「何もしないつもりか?だったら帰ってくれ」

 

慧音は笑った私を見ている。

 

「……いい加減、邪魔なん「妹紅」

 

慧音が口を開いた。

私は言葉を止め、聞き入る。

 

「少し部屋を綺麗にしたらどうだ?」

「……は?」

「少し散らかっているようだからな。私も手伝うぞ」

「いや、いいって」

「部屋の乱れは心の乱れだ。よく言うだろう?」

「……それを言うなら、部屋じゃなくて服装の乱れじゃないか?」

「細かいことはどうでもいいんだ。身の回りがキチンと整理されれば、気持ちも整理されるはずだ」

「……そうかい。分かったよ」

 

私たちは何故か、部屋の掃除をすることになった。

 

 

確かに私の部屋は汚れていた。

ゴミが溜まるなどの汚さではないが、物が乱雑に置かれ、とても人を呼べるような空間ではなかった。

こんな空間に慧音を入れてしまったことを、今更ながらに後悔した。

 

 

慧音の指導のもと、整理が進められた。

もともと私は、物を捨てられないといった性格ではない為、また、慧音もスパッと決断することが出来る人間だった為、作業はスムーズだった。

 

では、何故ここまで散らかっていたのだろうか?

 

慧音を部屋に入れた時点では、本棚に入っていた教科書や参考書等は床に散らばっていた。

衣服も脱ぎ捨てられており、自分でも覚えのないものがたくさん存在した。

しかし、あんなに散らかっていたのに、やってみると短時間で片付いた。

 

 

 

「––––ふぅ、こんなものだな」

「見違えるようだね。まあ、元々部屋にあるものが少なかっただけなのかもしれないけど」

 

私の部屋に、玩具の類はない。

 

「どうだ。スッキリしただろう?」

 

確かに、慧音の言う通り、気持ちも整理されたかもしれない。

短時間ではあったが、この単純作業の間に色々と考えることができた。

 

「……まあ、少しは」

「妹紅。お前は私のことをどう思っている?」

「な、なんだよいきなり?」

「私は、妹紅から見たらどんな人間だ?」

「……凄いやつ」

「どう、凄いんだ?」

「……」

 

私は少し考え、それから言った。

 

「私には出来なかったことを成功した人間。私とは違う人種。そんな慧音に憧れもあるし、妬みもあるが、秀才と呼ばれるだけの器と能力がある……凄い人間だよ」

 

私は慧音に思っていることを、ありのままに語った。

言った後で少し恥ずかしくなったが、慧音はやはり私を真っ直ぐ見ている。

 

「そうか……だが妹紅、それは違うんだ。そんなものは私ではない」

「どういうことだ?」

「所詮私も、学歴が人生を左右すると言う周りに流され、言われるがままに勉強をしてきた。操り人形みたいな人間だ…………そう、妹紅と同じなんだ」

 

慧音は少し悲しそうな目だ。

 

「でも、結果を出してるじゃないか」

「そうだな。そしてそれこそが、妹紅と私の違いだ」

「……嫌味か?」

「そうじゃない。そもそも妹紅はまだ……まあいい。では何故、私と妹紅に違いがあると思う?」

「そんなの、元の能力の違いで…」

「そうじゃない。私も妹紅も、才能に大差はない。むしろ、私に才能など皆無だ」

「嫌味にしか聞こえないぞ。怒っていいか?」

「話は最後まで聞くんだ。私にあって、妹紅に無いものが1つだけある。それは何だと思う?」

「私に無くて、慧音にあるもの……?」

「……既に答えは言っているんだ。少し前だが」

「既に言ってる?」

「分からないか?」

 

慧音曰く、私と同じように言われるがままに勉強をしてきたそうだ。

しかし、慧音には結果が付いてきた。

私はこのザマだ。

能力の差でないとしたら、何が違う?

 

私だって、一生懸命勉強した。

努力家の慧音にだって、負けないほどに。

私だって、頑張ったんだ––––

 

 

 

––––何の為に?

 

 

 

私は、一体、何の為に––––?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……慧音には、夢がある」

 

私は呟いた。

慧音はずっと私を見ている。

 

「慧音の努力には、意味があった。それに比べて、私の努力は……何の為の努力なのか、分からない……」

「……そうだ。それこそが、私と妹紅の違いだ」

 

俯く私に、慧音は続ける。

 

「私も妹紅くらいの頃は、何の為に勉強をしているのか分からなかった。そして"何の為なのか分からないまま勉強している"という事にすら気付いていなかったんだ。だから私は、周りの大人たちの言う通りに勉強をしていたよ」

「……」

「あれは、中学に上がった頃だったか……私はそのことに(ようや)く気が付いた。そして……絶望したんだ。今の妹紅と同じようにな」

「……」

「絶望すると同時に、私の中に強い思いが生まれた。それが私の夢––––小学校の先生になることだ。私のような思いをする子供が少しでも減ればいいと、そう思って私は今、教師になったんだ」

「その夢があったからこそ、慧音は勉強を続けられたってこと?」

「綺麗事かもしれないが、つまりはそういうことになるな。私は誰の為でもなく、自分の為に勉強出来たんだ。そう思えるようになってからは、辛いとは思わなくなったな」

「……夢、か。そして慧音は、夢が叶ったんだな」

「いや、まだだ」

「え?」

 

慧音が力強く私を見る。

その真意を私は理解できない。

 

「私の夢は、先生になって終わりではない。先生になって、少しでも子供達が希望を持てるような指導がしたい。それが、私の夢の終着点なんだ」

 

慧音は私の頭に軽く手を乗せた。

 

「そして今、私が救いたいと思っていた者が、目の前にいるんだよ」

 

慧音は笑っている。

 

「妹紅には、夢があるのか?」

「……ないよ、そんなもの」

「うむ。ならば、これから見つけていこう」

「夢が見つかれば、私も慧音みたいになれるのか?」

「私みたいになんて、ならなくていい。妹紅は妹紅だろう?」

「……ああ、そうだね。よし……見つけてやるよ、私の––––私だけの夢を!」

 

私は立ち上がり、言った。

 

「……だけど、何したらいいんだ?」

 

慧音は苦笑いを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





*キャラ設定


○藤原妹紅

12歳になる程度の年齢(4年前)
教育に熱心な両親のもとに生まれ、彼らの期待という重圧を一身に受けていた少女。
その反動からか男勝りな口調だが、中身はしっかり女の子である。



○上白沢慧音

22歳になる程度の年齢(4年前)
小学校教諭を目指し、見事にその夢を叶えた女性。
正義感が強く、とても頼りになる存在である。
幼い頃から知っている妹紅を妹のように想っている。
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