東方夢喰録 〜 Have a sweet nightmare!! 〜   作:ODA兵士長

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第6話 人形 –– ニンギョウ ––

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はっきり言おう。

少女––––アリスは、私の相手にはならない。

アリスの戦闘力が低いわけではない。

むしろ、今まで戦ってきたユメクイの中では上位に入るほどの実力を持っているだろう。

 

––––しかし、意味がない。

私に致命傷を負わせることができない。

いや、既に何度か殺されてはいるのだが……

私の能力––––"老いることも死ぬこともない程度の能力"の前には、全ての攻撃が無意味だった。

 

 

 

 

 

「本当に……気持ち悪いわね、その能力」

 

アリスが呟いた。

 

「悪いな。私に負けは無いんだ」

「そうみたいね、本当に強いわ」

 

そう言うアリスは笑っている。

 

「でもね、強いから勝つわけじゃない。勝ったものが、本当の強者なのよ」

 

アリスは、笑っている。

 

「そして守るモノがあると、どんな強者も弱者に成り得るのよ」

「……は?」

「ふふっ、分からない?分からないなら、教えてあげるわ!」

「……ま、まさかッ!!」

 

私は勢いよく振り返る。

私の視線の先には、慧音がいる。

 

「……え?」

 

その慧音が、疑問の声を上げていた。

何が起こっているか分からない。

そんな様子だった。

 

 

 

––––慧音の右胸を、針のように細く鋭いスピアが貫いていた。

慧音の背後には、そのスピアを持ったアリスの人形がいる。

慧音は肺に穴が開いたのだろう。

呼吸もままならず、声も上げられずに、胸を押さえて倒れこんだ。

 

「慧音!!!」

「馬鹿ね。隙だらけよ」

「ッ!?」

 

片足を刈り取られた。

私は支えを失い、倒れる。

その刹那、人形たちが降り注いだ。

その手には杭のようなスピアが握られている。

 

私の体は地面に(はりつけ)にされた。

 

「これなら逃げられないし、死ねないでしょう?大人しく私の食事になってもらうわ」

「……ぁ……ぁぁぁあぁぁあぁぁああぁあ!!!」

「くっ……厄介ね、この炎は」

 

私は全身に炎を纏う。

しかし、この炎を維持することでやっとだった。

 

「じゃあ、貴女が力尽きるのを待ちながら、こっちを喰べることにするわ」

 

アリスは慧音の方へと向かう。

慧音は依然として、(うずくま)ったままだった。

 

「死んでないわよね?」

「……くはぁっ!はぁはぁッ!」

 

アリスが慧音の髪を掴み、顔を無理やり上げさせる。

慧音は苦しそうな表情で、必死に呼吸をしている。

 

「今、楽にしてあげるわ」

 

大きな口が開く。

少女のモノとは思えない、大きな口だ。

 

「いただき––––「待テよ」

 

アリスが振り返る。

そこには、身体中にスピアが刺さった私がいた。

 

「慧音をハなセ」

「な、なんで……?」

「離セってイッてンだよ!!」

 

私はアリスを慧音から引き剥がした。

 

「きゃっ……ッ!」

「慧音ダけは、ゼッ対に守ル……」

「……も、もしかして、守るモノが貴女を動かしていると言うの……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

––––不思議な感覚だった。

私の体が、私の物ではないような感覚だ。

なんだか、他人に乗り移ったような……

いや、逆だろうか?

分からないが、もう痛みを感じない。

炎を出すこともできない。

もしかしたら、今なら蘇らずに死んでしまうかもしれない。

どうでもいい。

私は、慧音さえ救えれば、どうでもいいんだ。

 

 

 

 

 

 

私は、この時の記憶が……少し曖昧だ––––

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

––––勝てない。

 

アリスは直感的にそう感じた。

そしてその瞬間に空が割れ始めた。

 

「守るモノが、ここまで人を変えてしまうというの……?」

 

アリス・マーガトロイドは、愛を知らない。

そんなもの、幻想の世界の物だと思っている。

現実の愛とは、欲望の塊。

見返りを求める恋と、ほぼ同義。

結局は自分が得をするために、人を愛するのだ。

 

 

––––そう、思っていた。

しかし、目の前の少女は違った。

彼女は、守るモノの為に命を削る覚悟で立ち上がった。

実際、今ならば彼女は蘇らずに絶命するかもしれない。

それほど、体力、精神共に危機的な状況であると思う。

 

 

 

––––でも、勝てない。いや、彼女は負けない。

 

 

 

アリスはその場から、その思考から逃げた。

自ら作り出した森をひたすら走り抜ける。

妹紅は、そんなアリスを追いかけることをしなかった。

今の妹紅の目的はアリスを殺すことではない。

慧音を守ることだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

––––アリス・マーガトロイドの夢は崩壊した––––

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「––––る、よ……?」

 

気づけば、慧音が私の体を揺すっていた。

あれ、私って確か磔にされて……

 

「どうした、妹紅?」

「いや……なんだか、凄く長い夢を見ていた気がして……」

「……夢?」

「ああ……夢だ」

「……妹紅?どうして……泣いているんだ?」

「え……?」

 

私の頰には温かいものがあった。

 

 

 

 

––––私は、慧音を救えたんだ。

 

 

 

 

「……なんでもない」

「怖い夢でも見たのか?」

「うん……そうさ。怖い夢だった」

 

私は体を起こし、慧音に抱きついた。

 

「……良かった。慧音が、ここにいる」

「寝ぼけているのか?妹紅?」

 

そう言って慧音は、微笑みながら私の頭を撫でてくれた––––

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は、いつでも1人を選択してきた。

可能な限り、1人で居ようとした。

人付き合いなど、私には煩わしいだけだった。

 

 

 

 

––––違う。

 

本当は怖いだけだ。

裏切られるのが、怖いだけだ。

 

人は皆、己の欲望を糧に生きている。

善意など、そこには存在しない。

 

自分がよく見られたい、自分が認められたい。

善意などは全て、そんな思いからくるのだ。

欲望から、善意は生まれる。

 

そしてその欲望は、いずれその身を滅ぼすのだ。

周りの人間を巻き込んで。

 

だから私は、出来るだけ人と関わらない、安全な生活を送っていた。

––––そんな私の信頼できる存在は、人形達だった。

 

 

私は外に出る際––––そもそも、あまり出ることはないのだが––––常に人形を携帯している。

周りの人間から、白い目で見られることにはもう慣れた。

所詮、私とは関係のない人間達の目だ。

 

「上海、蓬莱、行きましょう」

 

そして今日も、人形達を連れて外に出た。

 

私が外に出るときは、決まって空腹を感じたときである。

それは人間としての空腹ではない。

あの世界においての空腹だ。

今朝は、起きた直後にそれを感じた。

私は直ぐに支度をして、家を出る。

 

私の家の近くに、小さな公園がある。

そこには大きな木が一本と小さな砂場があり、その奥には滑り台がある。

砂場あたりには、小学生らしい子と高校生らしい子の2つの姿が確認できる。

そして私はそれらが見渡せるベンチに腰掛けていた。

 

私はいつも、ここで"食事"をするのだ。

 

そして今日も––––

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「––––ッ!」

 

初めてだった。

捕食に失敗したことは、今まで一度たりとも無かった。

今回で分かったことは2つ。

 

1つは、捕食が失敗しても、あの世界から戻って来られるということ。

あの世界は、私の意思で成り立っているのだろうか?

捕食を断念した途端に世界が崩壊し始め、こちらへ帰ってくることになった。

 

そしてもう1つは……

 

 

 

 

「––––愛は、存在する?」

 

あの状況下で、再び私に刃向かう力が存在するとは思わなかった。

そしてその原動力が、守るモノへの愛だなんて……

 

「私は––––間違っていた?」

 

不意に、人が恋しくなった。

誰かと話し、触れ合いたくなった。

 

そう思って、人形達を抱きしめた。

それらは外の空気に冷やされ、冷たくなっていた。

 

 

 

 

「ねぇねぇ、そのお人形さん、貴女の?」

「……え?」

 

顔を上げると、先ほどまで砂場の方にいた女の子がいた。

 

「可愛い人形だね。私にも抱かせてくれないかな?」

「こ、この子は私の……」

「ダメなの?」

 

少女は私の上海を指差し、首を傾げながら私を見る。

 

「……乱暴に扱ったらダメよ」

「もちろん!」

「はい、どうぞ」

「やったッ!」

 

上海を抱きかかえると、嬉しそうに笑った。

 

「随分と可愛らしいお人形さんですね、諏訪子様」

 

人形を抱えた少女を"諏訪子様"と呼ぶのは、先ほどこの子と一緒にいた高校生らしき少女だった。

 

「そうだね。お人形さんみたいだ」

「……?人形みたい?」

「そうだよ。貴女がね」

「わ、私が……?」

「うん。貴女は人形のような可愛さ、美しさを持ってる。精巧に作られた造形物みたいだよ」

 

少女は、年相応とは思えない口振りで私に言う。

 

「ただし、心がない。それこそ、人形みたいにね」

「……え?」

「す、諏訪子様?突然どうされたのですか?」

「なんでもないよ。返すね、この人形」

 

少女は私に人形を手渡すと、再び砂場の方へと戻っていった。

 

「本当に諏訪子様はマイペースで……ごめんなさい。迷惑でしたよね?」

「……そうね。いい迷惑だったわ」

「申し訳ないです……でも、諏訪子様の仰ることも分かる気がしますよ」

「……?」

「ああ、えっと…その……お気を悪くされたら申し訳ないですが……はっきり言って、目が死んでました」

「……私の目が?」

「そうです。まるで自殺でもしてしまうような……すみません、失礼が過ぎますね」

「別に構わないけど……そう、周りからはそう見えていたのね」

「……何かあったのですか?私でよければ聞きますよ?」

「なんで見ず知らずの貴女に相談しなきゃいけないのよ」

「それもそうですね。でも、見ず知らずの私だからこそ話せる、というのもあるのではないですか?」

「……はぁ、なにそれ。常識的に考えておかしいでしょう?」

「そうかもしれません。ですが––––」

 

目の前の少女は、私の目を真っ直ぐ見て言った。

 

「––––この世界では、常識に囚われてはいけないのですよ!」

「……なにそれ。ふふっ、面白い人ね」

「えぇ…?面白いことを言ったつもりはないのですが……やっと、笑ってくれましたね!」

「え……?あぁ、今まで忘れてたわ。人と話すのが、こんなにも楽しいなんてね」

 

私の表情筋は、笑い方を覚えていたようだ。

 

「やはり間違っていたのね、私は」

「……?」

「なんでもないわ。ありがとう。気付かせてくれて」

「いえ、私は何もしてないですよ。貴女が自分で気付いただけです」

 

少女は笑った。

 

「……私は、アリス・マーガトロイド。貴女は?」

「私は東風谷早苗と言います。そしてあちらにいらっしゃるのが、洩矢諏訪子様です」

 

早苗は、砂場にいる少女を見て言った。

 

「……あの子、何者なの?ただのお子様には思えないのだけど」

「あ、諏訪子様は私より年上ですよ」

「……は?」

「かなり童顔ですし、身長も低いですが」

「いや、童顔とかのレベルじゃないも思うけど……」

「もしかしたら、何かの病気なのかもしれませんが、困ってないので医者に見せたことがないんですよね」

「……それにしては、幼い部分もあるのね」

 

諏訪子は砂場で遊んでいる。

その様子は、見た目の年齢に合致するものだった。

 

「そうですね。よく分かりませんが、諏訪子様は砂場が好きなんです。大地を感じられるとかどうとか……」

「大地って……あんな作り物に?」

「ですから、よく分からないんです」

「……そう」

 

あはは……と、早苗は困ったように愛想笑いを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





*キャラ設定(追記あり)


○藤原妹紅

14歳になる程度の年齢(2年前)
教育に熱心な両親のもとに生まれ、彼らの期待という重圧を一身に受けていた少女。
その反動からか男勝りな口調だが、中身はしっかり女の子である。

【能力 : 老いることも死ぬこともない程度の能力】
不死身の肉体(のようなもの)を持ち、"死"に相当するダメージを負うと肉体が再構築され、完全復活する。
魂を消滅させられない限り、負けはない。

武器として炎を出現させる。
出現させた炎に限り、自在に操ることが可能。
(何かに燃え移った炎などは、操ることができない)



○上白沢慧音

24歳になる程度の年齢(2年前)
小学校教諭を目指し、見事にその夢を叶えた女性。
正義感が強く、とても頼りになる存在である。
幼い頃から知っている妹紅を妹のように想っている。



○アリス・マーガトロイド
「私はもう、目の前で人を死なせない」

18歳になる程度の年齢(2年前)
人形のような美しさを持つ美女。
冷静であることを心がけているが、予想外の出来事には若干弱い。
しかし、その予想外の出来事を楽しむことができる。
また、かなりの世話焼きで、子供が大好き。
子供を愛でるのは、人形を愛でるのと同じよう感覚……らしい。

【能力 : 魔法を扱う程度の能力】
主に支援・回復系魔法を使う。

【能力 : 人形を扱う程度の能力】
具現化した人形を武器として用いる。
その人形はまるで生きているかのように行動する。
爆弾を内蔵しているものや、武器を所持しているものなど用途により種類は様々。



○東風谷早苗
「––––この世界では、常識に囚われてはいけないのですよ!」

15歳になる程度の年齢(2年前)
霊夢、魔理沙と同じ学校に通う少女。
成績優秀で真面目且つ明朗快活な性格から、学級委員長を任されている。
しかしどこか抜けている。
あと、鼻に付くところもあり、敵を作ってしまうこともしばしば……
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