東方夢喰録 〜 Have a sweet nightmare!! 〜   作:ODA兵士長

4 / 52
本文中に出てくる医療器具の使い方なんて知りません()


第4話 撒き夢 –– マキユメ ––

 

「急患よ!医者を出しなさい!!!」

 

私は受付で叫んでいた。

私が抱える魔理沙の状態は一目でわかるほど顔が青ざめ、私の発言に信憑性を持たせる。

 

「わ、分かりました!はやく!八意先生を呼んで!!!」

 

受付のナースはすぐさま指示を出す。

しかし、こうなることがわかっていたかのように、"八意先生"とやらは直ちに現れた。

 

「騒がしいわね、何事?」

「や、八意先生!!」

 

彼女はすらっとした長身に、後ろで揺れる銀髪が大人の雰囲気を醸し出していた。

そんなこと、今の私にはどうでもいいが。

 

「あんた医者なの!?なんでもいいわ!魔理沙を診なさい!!」

「そんなに騒がなくていいわ………ッ!!」

 

彼女の目の色が変わった。

 

「人工呼吸器の用意!とりあえず、NPPV持って来なさい!」

「了解ですッ!」

「とにかく時間がないわ、その子預かるわよ」

「え!?」

 

彼女は私から、魔理沙を奪い取った。

私は抵抗こそしなかったが、驚きが隠せなかった。

 

「奥の104号室を使うわ!DIVの準備と、サチュレーションメーター持ってきて!」

「はいッ!!」

 

流れるような連携で魔理沙を病室へと運び、様々なわけのわからない器具を取り付け、適切な––––私は正確に判断することはできないが、おそらく適切な––––処置を施していた。

 

 

 

 

 

 

 

少しして、魔理沙の口は何らかの器具に覆われていた。

とりあえず、酸素を送り込むことが出来ているようだ。

 

「……よし、一応血液中の酸素量が安定したわ」

「よかった……」

 

意識的に止めることのできない心臓や肺の活動は、そのまま継続されているようだ。

人工的に肺の中の空気を換気することで、魔理沙の生命活動は保たれていた。

 

「でもこれは応急処置にしか過ぎない。もっと確実にするには気管を少し切開したいのだけど……」

「もしかして、声が出せなくなるの?」

「いえ、一時的に切開するだけだよ。自分で呼吸ができるようになってから、気管を繋ぎ直せば声を出すことは出来るわ」

「他に何か問題でも?」

「貴女、保護者じゃないわよね?」

「……私が保護者みたいなものよ。魔理沙に家族なんていないから」

「それは……ごめんなさい。配慮が足りなかったわね」

「いいえ、気にしないわ。私も魔理沙も」

「ならいいのだけど。では、貴女の意見を聞くわ。切開してもいいかしら?一生残る傷がついてしまうけど」

「死ぬよりはマシよ。お願いするわ」

「分かったわ。執刀医は私でよろしくて?」

「ええ、さっきまでの貴女の動きを見て入れば分かる。貴女は、かなり腕の立つ医者みたいね」

「ありがとう。自分でもそう思っているわ」

「大した自信ね」

「ふふっ……私は()(ごころ)永琳(えいりん)。この病院の院長をしているわ」

「私は博麗霊夢。こっちは霧雨魔理沙よ。よろしく頼むわ」

「霊夢に魔理沙ね。分かったわ。こちらこそよろしくね。

––––ところで、この子の……魔理沙の容態を見る限り、息が止まってから2分も経っていないようだったけど……家はこの近くなの?」

「私は駅の向こう側にあるマンションに住んでるわ。小さな部屋だけど、少し背の高いマンションよ」

「もしかして、あの一際目立ってるマンションかしら?」

「おそらくそれよ。周りの建物より高いわ」

「……そこから来たの?」

「もちろん。そうだけど?」

「そう……どうやって?」

「どうやってって……普通に……」

 

 

私は魔理沙を抱えて……

 

それから………

 

えー…っと………

 

あ……あれ?

 

 

「どうやって来たんだっけ……?」

「覚えてないの?」

「無我夢中だったから。多分、走って来たわ」

「まあ、普通ならそうでしょうね。でもそれだと……どんなに早くても、10分は掛かるわよ?」

「………?」

「まあいいわ。とにかく魔理沙は助かったんだし、結果が良ければ良いわよね」

「ええ、そうね。あ、でも––––」

 

私は言葉を切った。

 

「でも……何?」

 

永琳が問う。

 

「––––部屋の鍵、掛けたかしら?」

 

永琳が、呆れたように笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「魔理沙……」

 

魔理沙は目を閉じている。

しかしこれは、魔理沙が自分で閉じたわけではない。

家を出る前に、私が目を閉じさせたのだ。

本当に……"何もしようとしない"。

でも––––

 

「––––生きてる」

 

私は魔理沙の手を握る。

その手は温かい。

私の目には少し……ほんの僅かだが、涙が浮かんでいた。

 

 

––––コンコンッ

 

 

扉を叩く音がした。

私は振り返る。

 

 

––––博麗霊夢さん、御食事を持ってまいりましたわ。

 

 

そういえば、ここに来てから何も食べていない。

外では既に、日が沈み、月が出て、星が輝いていた。

そういえば、夜に食事を持ってくると永琳が言っていた気がする。

どうせ遅くまで、ここにいるんでしょう?と。

なかなかの気配りである。良いお母さん的な。

だが、扉の向こうから聞こえる声は永琳のものではなかった。

でもまあ、永琳の使いだろうし、警戒する必要はないと思うけど……

 

けど––––なんだろう、この感じは?

私の勘が騒いでいる。

しかし、警戒しろというわけではない。

なんとなく、知っているような––––

 

「入って良いわ」

 

彼女の呼びかけから少し間が空いてしまったが、その間に私は、僅かに浮かんだ涙を乾かすことができた。

 

「失礼致しますわ」

 

でも、きっと私の目は赤い。

魔理沙にも見せたくないが、知らない人に見せるのはもっと嫌だった。

私は、彼女の方を向かずに応答する。

 

「その辺に置いといてくれる?」

「かしこまりました。30分から40分ほどで取りに伺いますわ」

「ええ、ありがとう」

 

彼女の足音が聞こえない。

その場にとどまっているようだ。

少し間をおいて、彼女が言う。

 

「……私で良ければ、少しばかり、お話しませんか?」

「え?」

「分かりますわ。今の貴女は、私に目を合わせてくれない。おそらく涙を浮かべていらした……そうでしょう?」

「なっ……」

「恥ずかしがらなくていいんですよ。時に涙は、心の傷を癒してくれます。辛かったら、どうぞ我慢せずに袖を濡らしてください」

「……うるさいわ。消えなさい」

「声が震えていらっしゃる」

 

クスッと笑う声がする。

なんて失礼な奴なんだろう。

そう思いつつも、ほんの少しだけ、楽になった。

私が傷心であることを見抜き、敢えてそれを突くことで、私を立ち直らせようとしている……気がする。

実際、そんな彼女に悪態を吐くことで、少しだけ立ち直った。

もしかして彼女は、私が実は負けず嫌いであるということを見抜いた上でこうした態度を取っているのだろうか?

さすがは永琳の使い……と言ったところか?

なんともまあ、できる女だ。

 

「その患者さんも、例の窒息なんですよね?」

「……ええ、そうよ?」

「怖い世の中ですわ。人がいきなり、呼吸をやめてしまうなんて」

「……」

「貴女はこの原因、何だと思われますか?」

 

いきなりズカズカと聞いてくる。

非常識だ。

末期癌の患者に、『癌は怖いですね』と言っているようなものだ。

私は先ほどまでの彼女への認識を改めた。

コイツはただ、興味本位に私に質問しているだけだったのだ。

純粋に怒りが湧いて来た。

 

「あんたさっきから何なの?食事を持って来ただけでしょう?」

 

私はそこで、彼女の方へ振り返った。

 

「用が済んだならさっさと––––ッ!!!」

 

私は目を疑った。

目を丸くしているだろう私を見て、彼女は微かに笑みを浮かべた。

 

「……あら、やっぱり覚えているのね」

 

そこには、十六夜咲夜が居た。

 

「咲夜……何でここに?」

「何でって、私はここでナースをしているんだもの」

「ナース……?」

「そうよ」

 

私は、意味がわからないといった表情で咲夜を見る。

 

「あら……私、何かおかしな事でも言ったかしら?」

「何で、ユメクイが人間に紛れて生活してんのよ」

「私だって、元は人間よ。それに、この現実世界では人と変わりないわ」

 

咲夜は少しだけ悲しそうに言っている、気がした。

 

「それにしても、夢での記憶が残ってるなんて……貴女、本当はユメクイなんじゃないの?」

「……どういうこと?」

「本来、人間は夢の中での記憶は消えるのよ。おそらく魔理沙も、もし意識が戻るようなことがあれば、夢での記憶はないでしょうね。私みたいにユメクイにならない限り、思い出せないわ」

「本当に?」

「ええ。でなければ、ユメクイの話はもっと世間に知れ渡っているはずよ。どっかの馬鹿なユメクイが情報をインターネットに漏らしてるようだけど」

「確かにそうね……じゃあ、私は何で記憶が残ってるのよ?私はユメクイじゃない。それは夢に巻き込まれた時点で証明されてるでしょ?」

「そう。貴女はユメクイじゃない。だけどただの人間でもない」

「じゃあ、なんだっていうのよ?」

 

咲夜は真剣な眼差しを私に向けた。

 

「貴女は––––"撒き夢"よ」

「……マキユメ?」

「ユメクイにとっての、餌そのものみたいな人間のことよ。今まで夢に巻き込まれたことがないことから察するに、今回の出来事で撒き夢になった可能性が高いと私は思ってるけど、あるいは今まで奇跡的に巻き込まれたことがなかっただけかもしれないわ。まあ……前例が少なすぎて、確かなことは言えないのよ」

「なによ……それ……」

「ただ1つだけ、確実に言えること。それは––––」

 

咲夜の目つきが一段と鋭くなる。

私は固唾を飲んだ。

 

「––––貴女はこれから幾度もユメクイに集められ、その度に今回のような経験をすることになるわ」

「なんですって……?」

 

愕然とした。

もちろん、これから巻き込まれる事に対してもだが、それ以上に––––

 

「もしかして……今回、魔理沙を巻き込んだのは……私ってこと?」

「おそらく撒き夢である貴女と、なにかしらの接触をしていたからでしょうね。今まで知り合い同士で夢に巻き込まれたのはそのケースだもの。ほとんどカップルや親子だったわ」

 

私が魔理沙を巻き込んで、そして魔理沙は––––

 

「私のせいで……」

「それは違うわ、霊夢」

「え?」

 

咲夜は微笑んでいた。

 

「貴女がそう言ってしまったら、せっかく助けてくれた魔理沙の気持ちを踏みにじることになる」

「!」

「魔理沙は自分のことより貴女のことを優先したのよ。魔理沙の気持ちを考えるなら、『私のせいで』なんて考えているよりも、やるべきことがあるわ」

「……やるべきこと?」

「ええ。貴女––––ユメクイにならない?」

「え……?」

 

咲夜は私の目をまっすぐ見据えていた。

冗談で言っているとは思えなかった。

 

「言ったでしょう?私、元は人間だって」

「つまり、人間をユメクイにすることができるの?」

「そうよ。もともとユメクイは、ある薬の副作用で生まれてしまったの。そして今ここに、その薬を"改悪"したもの、つまり副作用のみに特化した『ユメクイ化の薬』があるわ」

 

咲夜はポケットから、袋に入った薬のようなものを取り出した。

 

「それを飲めば私がユメクイになるのね」

「そういうこと」

「でも、なんで私がユメクイにならなきゃいけないのよ?」

「貴女は撒き夢。この先幾度となく巻き込まれることが確定している」

 

咲夜は淡々と続ける。

 

「ならばそれに対抗する手段として、夢を見られなくする薬––––ユメクイ化の薬––––を飲むことを提案しているの」

「巻き込まれる原因である夢を消してしまうということ?」

「ええ。でも、それだけではないわ。ただのユメクイであることは許されない。もしユメクイになるならば、私たちと共に闘う"ユメクイを喰らうユメクイ"になってもらうわ」

「なるほどね……ん?ちょっと待って?私"たち"って…あんたみたいな"ユメクイを喰らうユメクイ"ってのは他にもたくさんいるの?」

「これ以上は機密事項よ。貴女がこの計画に同意しないと、教えてあげられないわ」

 

咲夜は厳しい目つきで私を見る。

もともと整った容姿の咲夜だからだろうか?

その視線には力がある。

 

「……少し、考えさせて」

「いいけど、こうしてるうちに、また巻き込まれるかもしれないのよ?」

「そうだけど……」

 

私は、魔理沙を見た。

もし私がユメクイになったら、魔理沙はどう思うだろうか?

 

「貴女、ユメクイが憎くないの?」

「え?」

「魔理沙をこうしたのは、他の何者でもないユメクイなのよ。恨んで当然だと思うのだけれど」

「ユメクイが……魔理沙を……」

 

私は咲夜に言われるまで、自分の責任だと考えていた。

ユメクイのせいだ、なんて発想はなかった。

でも……確かにそうだ。

ユメクイさえいなければ、魔理沙はこんな状態にならなかったのだ。

そう、ユメクイさえいなければ。

 

「ユメクイさえ、いなければ……」

「そうよ。ユメクイなんて、全て殺してしまいなさい」

「ユメクイを、殺す……」

 

私は魔理沙を再び見つめる。

そういえば、私は魔理沙の手を、ずっと握ったままだった。

魔理沙の表情は、変わらない。

 

「……分かった。その薬、私に頂戴」

「決めたのね。ありがたいわ」

 

咲夜は袋に入ったままの薬を、夕飯のトレーに乗せる。

 

「まだ温かそうだけど少し冷めちゃったわね、温めなおす?」

「そのままでいいわ」

「じゃあここに置いておくから、飲んでおいてね」

「ええ」

「…………私のようなユメクイは、多くないのよ」

 

咲夜は呟いた。

 

「ユメクイになってユメクイと戦うなんてリスクの大きいこと、やりたがる人は少ないわ。それに、無闇に情報を漏らしたくないから、表立った勧誘もできないし……」

 

咲夜は私に視線を移す。

 

「だから……本当に嬉しいわ。決意してくれてありがとう」

「別に、あんたのためじゃないわ」

「ふふっ、そうね」

 

私は魔理沙のために、ユメクイになるのだ。

 

––––いや、違う。

 

私は、私のためにユメクイになるんだ。

私が憎悪の対象をユメクイにするために。

 

自己嫌悪に陥らないために、ユメクイになるんだ––––

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

––––––––––ザワッ––––––––––

 

 

 

 

「!!」

 

気づけば、そこには日が差していた。

雑木林…と言うのだろうか?

周りには木々が多い茂っていた。

 

「また……巻き込まれたみたいね」

 

咲夜が呟く。

 

「さっさと飲んでいれば、貴女も戦えたのに」

「悪いわね。けど、私は戦力にならないし、邪魔にならないようにしているわ」

「そうして頂戴」

 

 

 

 

––––そのときだった。

 

声がしたのだ。

 

もちろん私ではない。

 

そして、咲夜でもなかった。

 

 

 

 

「おーい、霊夢。ここはどこなんだ?」

 

 

 

 

この口調、雰囲気、そして何よりも声が––––

 

「………ぇ…?」

 

私は耳を、そして目を疑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




*キャラ設定(追記あり)

○博麗霊夢
「私は勘で動いただけよ」

17歳になる程度の年齢。
他人に無関心なところもあるが、人との関わりを避けているわけではない。
楽しいことも美味しいものも普通に好き。
勘が鋭く、自分でも驚くほどの的中率を誇る。



○霧雨魔理沙
「おっす霊夢、迎えに来たぜ」

17歳になる程度の年齢。
好奇心旺盛、明朗快活。
男勝りな口調は意識してる。
内面はただの乙女。
霊夢の古くからの友人であり、一番の理解者。



○十六夜咲夜
「まあ、1番早いのは、私がユメクイを殺すことでしょうね」

19歳になる程度の年齢。
冷静沈着、才色兼備………を装っている。
実力、容姿共に十分だが、自意識過剰。
しかし結構他人想いで、世話焼きな面もある。
また家事全般を余裕でこなせる為、嫁にしたい女子No. 1である。(作者調べ)

【能力 : 時を操る程度の能力】
時間を加速、減速、停止させることができる能力。
巻き戻すことや、なかったことにする事はできない。

武器としてナイフを具現化させる。
その数に制限はない。



○射命丸文
「誰も私に追いつけない」

25歳になる程度の年齢。
元大手新聞社の記者。
諸事情により、現在は別の大手企業で事務職をしている。
年功序列の考えを強く持ち、調子に乗った年下を最も嫌う。
目下の者にも敬語を使うことが多々あるが、それは決して相手を敬っているわけではない。

【 能力 : 風を操る程度の能力 】

風を自由自在に操ることができる。
風の速さや範囲、密度を操ることで、鋭い刃のような風や厚い壁のような風など、ありとあらゆる風を生み出すことができる。



○八意永琳
「また、やり直しましょう。私にはそれを手伝い、見届ける責任がある」

37歳になる程度の年齢。
若くして名声を獲得した医師。
色んな薬を作っている(らしい)。
彼女の人柄に惹かれて病院を訪れる者も多い。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。