東方夢喰録 〜 Have a sweet nightmare!! 〜 作:ODA兵士長
––––コンコンッ
扉を叩く音がする。
––––八雲紫様、院長がお呼びです。
外から女の声がした。
「今行きますわ」
私は扉を開け、部屋を出る。
「それじゃあ、また後でね、霊夢」
また後でって…………いつになるのかしら?
––––私はふと、そんなことを考えていた。
私は今日、霊夢と共に病院に来ていた。
つい先ほどまで、魔理沙の病室にいた。
……既に魔理沙は冷たくなっていたが。
魔理沙のことは、幼い頃からよく知っている。
正直あまりいい印象は無いのだが……彼女といるときの霊夢は、笑顔で溢れ、とても輝いていた。
魔理沙には、"霊夢の親"として、非常に感謝していた。
そんな彼女の死に、流石の私もショックを隠しきれなかったが、霊夢が居てくれたお陰で正気を保つことができた。
霊夢に弱いところを見せるわけにはいかない。
そして今、私は1人のナースに連れられて院長室へと向かっていた。
この病院の間取りは既に頭の中に入れていたし、この子の案内が無くとも院長室くらいなら辿り着けたが、私は黙って付いて行った。
少しして、院長室前へと辿り着いた。
では、失礼します……と、付き添いのナースは退いた。
私は1人になり、扉を叩く。
––––返事はなかった。
呼び出しておいて、どんな神経してるんだ?
……と一瞬思ったが、よくよく考えれば、アポ無しで突撃している私の方が非常識であることは明らかなので黙って待つ事にした。
5分……いや、10分だろうか?
少しして、八意永琳が現れた。
部屋から出てきたのではなく、何処からか廊下を歩いて現れた。
「貴女が八雲紫さんかしら?」
「ええ、そうよ。八意永琳先生?」
「ごめんなさいね。少し立て込んでしまっていて……もう少し待っていてくださるかしら?」
……はぁ?
この医者、舐めすぎじゃないかしら?
そんなことを思いつつも、口にはしない。当然だが。
「ええ、構いませんわ」
「ありがとう。こんなところで立っているのは疲れるでしょう?中に入って、座ってて構わないわよ」
微妙な上から目線。
正直、少し……いや、かなりムカついた。
「別に外でも構いませんわ。なにせ、まだ若いので」
「ふふっ、面白い冗談ね」
あぁ?
口には出さないが、もしかしたらほんの少しだけ表情に出てしまっていたかもしれない。
「ごめんなさい、気を悪くさせるつもりはないのよ。どうぞ、座って待っていて下さるかしら?」
「……ええ、分かったわ。それじゃあ、お言葉に甘えて」
八意永琳が扉を開ける。
鍵はかかっていなかった。
もしかしたら、彼女は私が無断で部屋に入るか否かを確かめていたのかもしれない。
……流石に考えすぎか。
それに、私は無断で部屋に入るなんて非常識なことは絶対にしない。
…………霊夢の家は別よ。アレは娘の家なんだから。
私は院長室に入ると、無駄に座り心地のいいソファに腰掛けた。
「じゃあ、少ししたら戻って来るわ。本当に、ごめんなさいね」
「いえ。忙しいところにお邪魔したのは、こちらだもの」
「そう言ってくれると助かるわ」
八意永琳は扉を閉めた。
私は院長室に1人になった。
時計のカチカチ…という音だけが響いていた。
私は部屋全体を見渡した。
その部屋にある多くの棚には鍵穴が見受けられた。
おそらく患者のプライバシーを守るために、厳重に保管されているのだろう。
しかし私には、彼女の秘め事を守るための壁にしか見えなかった。
40分が経った。
私は苛立ちから、破壊衝動に襲われていた。
今すぐにこのソファを引き裂いて、机を投げ、ガラスを殴り割り、棚のものを外へと放り出してやりたい。
まあ、絶対にそんなことはしないが。
半分冗談でそんなことを思っていた。
当然、半分冗談ということは、残りの半分は––––
––––ガチャ
そんなことを考えていると、部屋の扉が開いた。
「お待たせしちゃって申し訳ないわ」
八意永琳が現れた。
「……そうね、随分と待たせてもらったわ」
嫌味っぽく、私は続ける。
「貴女ほど有名な医者にもなれば、さぞかし忙しいんでしょう?」
「ええ、そうね。医者が忙しくて良いことなんて無いけれど」
「全くですわ」
私は作り笑顔を浮かべる。
作り笑顔とは、実に便利なものだ。
自分の本心を隠すのに、これほど有効な手段はない。
「……それで、貴女は何故私と会いたかったのかしら?」
「霊夢と魔理沙がお世話になったみたいだから、そのお礼にね」
当然これは建前である。
「……霧雨魔理沙を救うことは出来なかったわ。流石の私も、死者蘇生をすることは出来ないもの。だから、感謝されるようなことは何もしていないわよ」
「でも、お世話になっているのは確かでしょう。だって普通なら、遺体を病室に安置しておくなんてあり得ないわ。ベッドの回転率を上げる為にも、魔理沙には早く退いて貰いたいというのが病院側の本音でしょう?」
「……この病院の責任者としての本音は、確かにそうかもしれないけれど」
「なのに貴女は、霊夢や魔理沙の現状を考えて、退室を猶予してくれているわ。それだけでも感謝に値すると思うわよ」
「なら……その気持ち、ありがたく受け取っておくわ」
八意永琳も私に笑顔を向ける。
しかし、すぐに一変した。
「……でも、それは貴女の本当の目的ではないでしょう?」
鋭い目つきで、私を睨みつける。
「ねぇ?警察とも繋がりの深い、名探偵の八雲紫さん?」
「なっ……」
「営業スマイルが崩れてるわよ?」
「……どうして、私のことを?」
「貴女、射命丸文とも繋がっているでしょう?」
「……知っていたの?」
「いえ、知らなかったわ。私の憶測よ」
「ま、まさか……カマをかけたというの!?」
「ふふっ、名探偵が聞いて呆れるわね」
八意永琳は笑っている。
それは幾分、見下した笑みだった。
「おかしいとは思っていたのよ。あんなに若い記者が、私の薬と"窒息死"の関係を調べ上げてるなんてね。だから元々、裏で誰かと繋がっていることは想像していたし、調べていたわ。そうして調べている中で、貴女の名前が挙がっていたのは事実よ」
「でも、十分な確証が無かったから、私にカマをかけた……ということ?」
「ええ。まさかこうして、本人と話す機会が訪れるとは思ってなかったけれど」
「……はぁ、調子狂うわ」
「貴女が名探偵であるように、私は天才医師なのよ。一般人相手と同じ調子で話していたら、狂うのは当たり前」
「私自身、自意識過剰な面があると自覚しているけど……貴女ほどではないわね」
「自意識"過剰"ではないわ。事実だもの」
「……あら、そう」
「ところで––––」
八意永琳は、再び表情を変えた。
「––––貴女はどうして、私が"窒息死"に関係すると考えるようになったのかしら?」
「それは……"窒息死"を調べていたら、貴女に行き着いたからよ?」
「……本当に、それだけかしら?私に行き着くほどの情報があるとは思えないのだけど?」
その通りだ。
窒息死の発生時期、発生範囲を調べることくらいなら誰にでもできる。
しかし、それらとこの病院を繋げる事など普通は思いつかない。
況してや、八意永琳の薬と結びつけようと思う者は尚更いないだろう。
いくら突飛な発想力を持つ私と言えども、厳しいものがある。
では、何故私はこの発想に至ったのか?
それは––––
「––––10年以上前に、私は貴女と会っているわ」
「……10年以上前?」
「ええ。貴女は、博麗操夢を憶えているかしら?」
「……」
八意永琳は私から視線を外し、考えているような素振りを見せる。
「普通は覚えていないわよね?10年以上も前の患者のことなんて」
「……」
「でも、貴女が"憶えていない"と言えないのは何故かしら?」
「……考えていただけよ」
「なるほど……では少なくとも、聞いたことあるかもしれないと思える程度には、貴女の頭の中に入っているのね?」
「……」
「でもどうして何千人……いや、何万人と患者を診てきたであろう貴女が、たった1人の患者––––それも、10年以上も昔の患者を憶えているのかしら?」
「……さぁね」
その八意永琳の返事に、私は笑みを零す。
面白くって堪らないわ。
「ふふっ、"憶えている"こと自体は否定しないのね」
「ッ……!」
「確かに私は今、"窒息死"事件を追っているわ。でもそれ以前に私は––––10年前からずっと––––博麗操夢の行方を追っているのよ」
「……」
「あの時の私は、大切な人を失ったせいで、正確な判断力や認識力がなかったのでしょうね。精神的に壊れる寸前だったのかもしれないわ。私が彼女の––––操夢の遺体が消えていることに気がつかないなんてね」
「……」
「これまでの会話で、貴女が操夢の件に関係していることも、"窒息死"の件に関係していることも明らかよ」
「……」
「もしかして、操夢と"窒息死"にも関係性があるのかしら?」
「……」
「そろそろ何か話してくれない?」
「……はぁ、やはり私もまだまだね。簡単に主導権を奪われてしまったわ」
八意永琳が私を待たせたのは、自らが主導権を握るためだったのだろう。
彼女に待たされた私は、少なからず苛立ち、冷静な判断力を失っていた。
だからこそ、始めにまんまと主導権を握られてしまったのだ。
しかし私は、それを見抜いてしまった。
「貴女が天才医師であるように、私も名探偵なのよ」
「ふふっ、貴女も邪魔な人間ね」
「……私のことも、射命丸文と同じような目に合わせるつもり?」
「どういうことかしら?」
「そう、とぼけるのね」
「……え?いや……なんのことかしら?」
「まさか……シラを切っているわけではないの?」
「射命丸文が、どんな目にあったというの?」
「……なんですって?」
「確かに、あれから一年。また取材に来ると言った癖に来ないから、おかしいと思っていたのだけど……」
「ちょっと待ちなさい。事故のことすら知らないの?」
「事故?」
「この病院の目の前で、ダンプカーが人に接触する事故があったって……」
「知らないわよ?そんな事故」
「……え?どういうこと?射命丸文の診断書には貴女の名前もあったわよ?」
「私には彼女を診察、もしくは治療した記憶はないわ。流石に彼女なら、印象強くて忘れないと思うし……」
「じゃあ、彼女を診断したのは一体––––」
––––––––––ザワッ––––––––––
「––––誰な……きゃっ!?」
ドスッという音と共に、私は尻餅をついた。
「いたたた……な、なにこれ?」
私は地面に手を着く。
そこには草の感触があった。
先ほどまでのソファや机が……いや、そんなレベルじゃない。
病院そのものが……いや、もっとだ。
世界が全て消え去って––––そこは大草原と化していた。
そしてそこに、八意永琳の姿はない。
「何処よ……ここ?」
私の呼びかけに答えるものなど––––
「あややっ!?」
突然声がした。
私の真後ろからだった。
でも、何故?
そんなところに人の気配はしなかったのに……
「……射命丸、文……?」
振り返るとそこには、射命丸文が立っていた。
しかし、彼女の足は––––
「どうもお久しぶりです。昨日振りですね」
「ええ、そうね」
「いやはや、世の中偶然や奇跡って起こるんですねぇ」
「……はぁ?」
「消したいと思っていた貴女が、まさか迷い込んで来るなんて!!!」
「……どういうこと?貴女は一体、何をするつもりかしら?」
「ふふっ、いいでしょう。世に蔓延る"窒息死"の正体を教えて差し上げましょう!!」
少女は口を開く。
少女のものとは思えない、大きな、本当に大きな口を。
「是非、身をもって体験してください!」
––––私には、今何が起きているのか、考える暇もなかった。
*キャラ設定
○八意永琳
「また、やり直しましょう。私にはそれを手伝い、見届ける責任がある」
37歳になる程度の年齢。
若くして名声を獲得した医師。
色んな薬を作っている(らしい)。
彼女の人柄に惹かれて病院を訪れる者も多い。
【能力 : あらゆる薬を作る程度の能力】
簡単な材料から不思議な薬を作ることが可能。
○射命丸文
「誰も私に追いつけない」
25歳になる程度の年齢。
元大手新聞社の記者。
諸事情により、現在は別の大手企業で事務職をしている。
年功序列の考えを強く持ち、調子に乗った年下を最も嫌う。
目下の者にも敬語を使うことが多々あるが、それは決して相手を敬っているわけではない。
【 能力 : 風を操る程度の能力 】
風を自由自在に操ることができる。
風の速さや範囲、密度を操ることで、鋭い刃のような風や厚い壁のような風など、ありとあらゆる風を生み出すことができる。
○八雲紫
「当然よ。私は常人じゃないもの」
国家機密になる程度の年齢。
知る人ぞ知る名探偵。
洞察力、思考力に長けるが故に何を考えているか分からない。
その上、笑顔で隠そうとするから本当にタチが悪い。
霊夢のことを気にかけているが、それが霊夢の為なのかは不明。
彼女に年齢ネタは禁句です。