「なるほど、あなたたちの言う通りきっとその人たちは死んだ記憶の持つ人間ね。私服の類がほとんどないこの世界でそんな格好してる人なんていないもの。」
けれど不思議ね。この世界にきた人はみんな前世に所持していた物を持ってくることなんて不可能なのに。緑色のジャージなんて購買に売っていたかしら。
「あぁ、それに女の方はなんたら教の女神とかいってたぜ。わけがわかんなくて俺も大山も思わずひいちまったかぜ。」
「うん、びっくりしたよ。」
と校長室ーーもとい自分たちの作戦で奪い、いいように改装した作戦本部で藤巻と大山は先ほどのことを目の前の少女に話す。彼女の後ろに設置された大型スクリーンには3つのSのついたエンブレムが目立っている。
「女神⁉︎それを先に言いなさいよ!そんな格好してるやつといっしょにいてそんなことを言っているのなら十分可能性があるわ。私たちの追い求める存在、神である可能性がね!」
「まじかよ!ゆりっぺ⁉︎」
彼女の隣にいた青髪の男子生徒がその言葉に大きな反応を示した。この作戦本部には彼以外にも何人かの生徒が集まっている。彼らもまた彼女と目的を共有した者たちであり青髪の青年同様に驚きの声をあげる。
「そうは見えなかったけどなぁ。でもあの人たちたぶん天使に連れていかれちゃったよ?」
「くそっ!やられたわ!みんないますぐその人たちを探すわよ‼︎」
彼女の言葉ともにそこにいた全員はすぐさま行動を開始した。
物騒な連中には出くわしたが結果的にはこんなかわいい子に助けてもらったんだし、ギャルゲーイベントでも起こったんじゃないか?ふざけんなとは思ったけどこの世界悪くないな。
俺はそう考え事をしていると目の前の少女が校舎よりはやや小さめの建造物の前で立ち止まった。
「ついたわ。」
「ここは?」
「学生寮よ。右が男子寮で左が女子寮。あなたたち名前はなんて言うの?」
アクアが口を開けた瞬間に俺はその口もとを手で塞ぐ。また女神だとか言ってこの子に変な目で見られたらたまったもんじゃない。
「俺は佐藤カズマ、こっちはアクア。」
「そう、少しここで待っていて。」
少女はそう言って建物のなかにはいっていくのを確認して抑えていた手を離す。俺が手を離した途端、アクアは振り返り抗議してくる。
「ちょっと!何するのよあんた、この美しくも儚い女神の口もとを抑えるなんて。」
「さっきの反応みただろ。お前のいうなんとか教はこの世界には存在しないんだよ。こっちまで頭のおかしい子だと思われるから自分を女神っていうのはやめろ。」
また何か文句を言っているようだが面倒くさいので聞こえないふりでもしておこう。
何分かしてあの子が何か手に持って出てきた。だがその表情はやや曇っているように見える。
「あなたの制服よ。」
「おお、ありがとう。…どうしたんだ?」
「寮にあなたたちの部屋がないの。それに学校の名簿に2人の名前がなかったわ。こんなこと一度もなかったのに…」
まぁ、そうだよな。転校なんてさっきでっちあげた嘘だからな。
「それなら誰かにお金でも借りてネットカフェやら漫画喫茶でも探すよ。駅はどっちの方にあるんだ?」
「そんなものないわ。」
「え?」
「ここは死後の世界だから。この学校の敷地の外には出られない。というより外には何もないもの。」
「……………えっと、その…それはどういう……?」
何かに気づいた様子の少女は俺の質問に答えることはしなかった。
「ガードスキル、ハンドソニック。」
そう呟いた彼女の腕が変化する。
「腕から剣が…嘘だろ?」
ありえない。腕から剣が生えた?
彼女が振り向いた視線の先には7、8人の生徒たち。その手には拳銃や小刀などを持ち全員が武装していて、さっき出会った3人もいた。その中から1人の女子生徒が一歩前に出てきた。
「見つけたわ!その子たちを渡しなさい!」
一斉に自らが持つ武器を構える。何かの間違いであると思いたいがしっかりとその銃口はこちらを向いていた。
なにが起きているのか理解が追いつかない。リーダーらしき少女が言ったその子たちとは自分たちのことなのか?
「カズマさんこれどういう展開なのかしら?ひょっとして私たち狙われてるのかしら?まさか撃たれたりしないわよね?」
当然だ。こいつはなにバカなこと言ってんだ?そんなことあるわけない。そんなこと…
「目標は天使!あの2人には最悪当ててしまっても構わないわ。神ならきっとこの程度防ぐだろうし、仮に人間だったとしてもどうせ生き返るわ。」
神?生き返る?もうどうなってんだ?本当に何が何だか…
と考えているうちにパン、と乾いた音とキン、と甲高い音が聞こえ何かが俺の顔をかすめていった。
「ちっ、はずしたか。」
「ヒッ⁉︎」
アクアの驚いた声が聞こえる。
ひぃぃ!ほんとに撃ってきた⁉︎
リーダーらしき子の手元には拳銃がありそれから若干の煙が上がっている。彼女が撃った銃弾を銀髪の少女が剣で弾き、その流れ弾がこちらへ飛んで来たらしい。
………。
俺は集団から背を向け全力で駆け出した。
早くここから逃げないと!とりあえずわかったことはあいつらはやばい。捕まってしまったら何をされるかわかったもんじゃない。
背後からリーダーの彼女の合図ともに銃弾の雨が降り注がれる。
「うおぉぉぉ!ほんとなんなんだよこの世界ぃぃぃぃ!!!」
「ちょ⁉︎待って、待ってってばああ‼︎」
俺とアクアはこの場にいた銀髪の少女のことなど忘れて全力で逃げた。
「逃げられた!日向くんたちは天使の足止めして。私たちはあの2人を追うわ。」
攻撃を始めた集団の中ではリーダーを務める少女がやや悔しげに周りに指示を出していた。
…………。
「……神ってなんだったかしら?人間に敬われて大切に扱われる存在よね?どうしてこんなことになっているのよ……」
あれから走ったり隠れたりと追ってくる奴らから逃げ続けていたがずっと引きこもっていた自分の体力が持つわけでもなくすぐにつかまってしまった。この部屋に入る前校長室と書かれたプレートをちらりとみたがどうみても校長らしき人物はいないのは明白でそのかわりに何人かのたむろしている。
これからどうなってしまうのだろう。となりではアクアが膝を抱えて座っておりその目は死んだ魚のようになっている。
「初めまして2人とも、私はこの死んだ世界戦線のリーダーを務めるゆりよ。短い間になるかもしれないけどよろしく。さっそくで悪いんだけど自己紹介をしてくれるかしら。」
集団の中から一歩前に出て来た自らをゆりという美少女がにこやかにあいさつをしてきた。だがその目は笑っていない。周りの者たちも武器を手に持ち臨戦態勢のようだ。
「待ってくれ!俺は今日ここに転向して来たんだ!俺は何も悪いことはしていない‼︎なんで捕まえてきたんだ⁉︎」
「自己紹介しろって言ったんだけど。」
ゆりは手に持った拳銃を俺に向けてきた。すごく笑顔なのに目が笑ってないんですけど。ほんとに。
「さ、佐藤カズマです。こっちはアクア。」
「そう、カズマくんにアクアさん。単刀直入に言うわ。アクアさんが自分のことを神だと言ったという報告を受けているんだけど、あなたは神なのかしら?」
俺はアクアの目が輝いたのに気づいた。まずい。
「そう、私はめが「こいつが神なわけナイジャナイカ。それに神なんて本当にいるのか?」」
全力でアクアの口を抑えた。そしてアクアにしか聞こえない声で言う。
「普通神ってのはいるのかいないのかわかんないんだよ。さっきも言ったけど神を自称するなんて頭のおかしい子に見えるだろ?だから女神名乗るのやめろ。」
「いやよー!私はアクシズ教徒が崇める御神体なのよ‼︎私はみんなから敬われたいの!讃えられたいのよ‼︎」
「そんな宗教見たことも聞いたこともないんだけど。」
「いるのかいないのか今確かめているんじゃない。で神なの?違うの?」
ゆりは語気を強めてアクアに詰め寄る。
「も、もしこいつが神だったらどーすんだ?」
「そうね…」
少女は一呼吸おいて冷たく言い放った。
「殺すわ」
「「えっ⁉︎」」
思いがけない言葉に固まってしまった。
「じょ、冗談よね?だって神様よ?崇め奉るんじゃないの?」
焦った様子のアクアがゆりに笑顔で近づいた。が、
「いいえ、ここにいる私たち死んだ世界戦線の目的は理不尽な人生を強いた神に復讐することよ。だから私には崇め奉る神はいないわ。」
という言葉でその笑顔は固まってしまった。
「もうこれで最後よ。まぁ、答えなくてもいいわ。あなたみたいな美少女を撃つのは気がひけるけど、この引き金を引けばわかるもの。神ならこの程度防ぐ、人間なら死んでしまうけどまた生き返る。さぁ、あなたはみんなから崇め奉られる神様かしら?」
銃口がアクアの眉間の近くまで迫っている。
「わ、私はめ、めが…メガミナンカジャナイデス。キブンデメガミッテナノッテマシタ。ゴメンナサイ。」
ゆりがセーフティを外した瞬間にあっさりと女神であることを否定した。さすがにこれには同情する。まさか神を殺すなんて物騒なことを言う奴がいるとは思わなかった。うなだれているアクアをみていると本当になんというか…みじめだ。
「だってよ、ゆりっぺ。その銃下ろしてやれよ。神がいなかったってのは残念だが新メンバー獲得のチャンスだぜ?」
「神っていうのは人間と同じ姿をしてるのか?それになんというか神々しいオーラを持ってるっていうか、もっと違ったものを想像してたぞ。」
と周りを囲っていた者たちの中から2人が近くまで寄ってきた。1人は一見チャラそうな雰囲気を持った青年、もう1人は赤みがかった髪の色をしていて前者とはちがい制服もきっちりと着た好青年であった。
「そうね日向くん。神って言葉を聞いて少し取り乱したわ。カズマくんにアクアさん、怖い思いをさせて悪かったわ、ごめんなさい。それと音無くん、私たちは神を見たことないから人間の風貌をしているかどうかもわからないわ。でもそこの彼女とは違って神だったらこの程度の脅しには屈しないでしょうね。」
音無という青年の言葉やゆりの発言を聞いてどんどんとアクアが涙目になっていくのがわかる。俺もこいつを見るまで神ってのはもっとすごいものだと思ってました。俺は関係ないけどなんかごめんなさい。
でも危なかった。こいつが女神だって本当のことを言っていたらどうなっていたんだろう?この堕女神が関係あるかはわからないが神ってのはここでは相当な恨みを買っているらしい。
今のやりとりで俺たちを囲っていた奴らの緊張感も解けたようだ。みんなそれぞれの武器を下ろし和やかな雰囲気が出始めている。それにしてもここは本当に学校なのか?さすがに拳銃は不良の度を越しているんじゃないか?
疑問がつきない中再びゆりから声をかけられた。
「さて、こちらの誤解も解けたことだしあなたたちもこの世界のことについて色々聞きたいことがあるんじゃない?改めて自己紹介しましょ。」
ゆりは武器を側にある机の上に置いたあと再びこちらに笑顔で振り返る。今度は先ほどとは違い目も笑っているように見え、そのルックスも相まってとても魅力的であるように思えた。