翌日。
これまでに無い程の激烈な砲撃が終日続いた。ずらりと並んだゴジュラスとゴルドスが一斉に砲門を開く。間断なく降り注ぐ弾丸に、要塞の壁は蜂の巣となる。敵の攻撃は異常であった。これまでと同じ方法で、ただ闇雲にこちらの射程外から撃ち込んでくる。まるで正面に釘付けとなった部隊が、何かに追い立てられるかのように。硝煙に紛れて城壁に近づこうとする敵ゾイドは「塔の上の悪魔」の格好の餌食となった。苦し紛れの総力戦は徒に損害を増やし、アイアンコングは未明から夕刻にかけて十数機を葬った。日が没して、その日の敵の攻撃は終了したかに思えた。
月は無い。やや強めの向かい風が吹いていた。
要塞内に敵の襲撃を知らせる長い警報が鳴り響く。
「側面より接近する未確認ゾイドを発見。至急、迎撃準備を整えよ。繰り返す……」
幾つもの吊光弾が放たれ、要塞西方向を照らす。これまでどの様なゾイドも越える事がなかった密林地帯を、そのゾイドは真っ直ぐ踏み越えて来る。時折、共和国が敷設した地雷が爆発するが、進撃速度を緩めることはない。前面には金属成分を含む硬質の樹木の幹を撒き散らし、自ら道を切り拓いて突き進んでくる。再三にわたって砲撃を繰り返してきた正面の敵攻撃部隊は沈黙したままだった。
要塞の探照灯の光芒が謎のゾイドに集中し、その巨体を露わにした。
司令部は異常事態と判断し、謎の巨大ゾイドへの一斉攻撃を命じる。なけなしの砲弾が要塞の城壁から放たれる。幾つもの敵ゾイドを葬って来た十字砲火が密林を焼き払い、煙の中に謎のゾイドを覆い隠す。しかし、それで斃れるような相手ではない事など判っていた。新型ゾイドが完成したのだと、直観的に理解した。
鋼鉄の獣が唸り声を上げ、同時に耳を劈く大音響が響いた。密林を焼き尽くす炎の中、トラス状に組み上げられた櫓に、カノントータスの背部に乗っていた拡声器と同じ物が十基取り付けられ、密林から迫り出している。要塞から投げ掛けられる光芒を遥かに凌ぐ閃光が、謎のゾイドから発せられた。真面に光を見た者は眩惑され、網膜に焼付いた赤い残像に視力を奪われる。ブラックライモスのモニターも、白く画像が焼付き視界を奪われた。直視を避けて敵の姿を確認する為、ライモスのコクピットを開く。その時、謎の巨大ゾイドから逸らした自分の眼窩に、紫色の背鰭を煌めかせる白いゾイドが映った。
(ゴルヘックス……)
全面戦闘には不向きな電子戦ゾイドが現れたのが不思議であった。アメジストの如き背鰭のクリスタルレーダーが微細な振動をし、闇の中に煌めいていた。
秋風に混じって、歌が聞こえた。
要塞全体が震える。建造物が積木細工の様に振動し、兵士は地面に倒れ込んだ。ベトンで固めた分厚い城壁の一部が風船玉の如く膨れ上がる。城壁が瓦解する予兆としては、時間が短すぎた。
「退避せよ、城壁が崩壊する」
緊急避難を命ずる声も掻き消し、城壁は粉微塵に砕け散り、瞬時に突破された。濛々たる砂塵を巻き上げ、崩壊した空隙の中、回転する2本のドリルが出現していた。
また幻聴だと思った。歌っている。女性の声だ。聞き覚えがある。
兎追いし彼の山
小鮒釣りし彼の川
夢は今も巡りて
忘れ難き故郷
雪崩れ込んだ謎のゾイドが遂にその全貌を現した。巨大な2本の回転する角に加えて鼻先に短い角が在る。巨大なフリルは微細な虹色の輝きを纏っている。背中に二門の大口径衝撃砲とキャノンビームを装備し、要塞内の部隊を蹴散らしながら突き進んでくる。
如何にいます父母
恙無しや友がき
「青い鴬だ」
歌声は彼女のものだ。今まで長い間耳を傾けて来たのだ、間違うはずがない。この歌を何度か聞いている。地球の古い歌、『ふるさと』という歌だ。謎の巨大ゾイドの放つ大音響に掻き消されてしまうはずなのに、機体に直接響いてくる。
噎び泣いている。だから時折途切れる。それでも彼女の歌声が響いている。ゴルヘックスに違いない。あのゾイドが、あのアメジストの如き紫の透き通った背鰭が、彼女の歌声を戦場に届けていたのだ。
雨に風につけても
思い出ずる故郷
敵巨大ゾイドの周囲に無数の火柱が上がる。「塔の上の悪魔」がミサイルを撃ち込んだのだ。硝煙に覆われる巨体は、秋風によって煙が吹き掃われた時に、全く無傷のままであった。塔の上で、アイアンコングが人間の様に茫然と立ち竦んでいた。
志を果たして
いつの日にか帰らん
謎の巨大ゾイドの一際長く伸びた2本の角が轟音と共に回転し、みるみる塔の土台を崩し始めた。アイアンコングが機体特有の唸りを上げた瞬間、塔が真っ二つに折れた。空中に投げ出され、自由落下に任せ抵抗の出来ないコングの躰をビーム砲が刺し貫いた。
山は青き故郷
水は清き故郷
時間にして数分、『ふるさと』が流れていた間だ。しかしそれは実に長い時間であった。
『風の城』は秋風と共に陥落した。
瓦解した城壁を越え、ゴジュラスが、コマンドウルフが、シールドライガーが殺到する。城内は修羅場と化した。シールドライガーがレーザーサーベルで咥えたまま、何度も何度もモルガを叩き付ける。ゴジュラスがその脚でマルダーを踏み付け、シェルを叩き割る。イグアンが3機のコマンドウルフに集られ、勢いを付けて引き千切られた。これまで攻略を妨げてきた恨みを叩き付けるかのように、執拗に、要塞内の帝国ゾイドは破壊されていった。
ブラックライモスの突撃戦用超硬度ドリルを猛回転させて、敵陣突破を図る。どうしてもあのゴルヘックスが気になったのだ。あのゾイドのキャノピーであれば、「青い鴬」の素顔を見ることが出来るかもしれない。電磁砲を連射し、前面の敵を薙ぎ払いながら突進した。代替品の回路を使っていた電磁砲は最初に右の、そして左の砲が炎を噴き欠落する。装甲板を失っていた右前肢が早々に撃ち抜かれ、三本脚のまま更に突き進む。途中、コマンドウルフを1機貫き、ゴドスを2機踏み潰した。しかし正面に白い巨体が立ちはだかった。
「ゴジュラスMk-Ⅱ……」
鋭いクラッシャークローがライモスの頸部に突き立てられ、そのまま持ち上げられて要塞の外壁に叩き付けられた。標本のように壁に磔になったライモスの胴体を、ゴジュラスは巨大なハイパーバイトファングで噛みついた。
両足に鈍痛を感じた覚えがある。愛機ライモスが断末魔を上げる間も無く上下に切断され、コクピットのある頭部は真っ逆さまに地表に落下した。
落下の瞬間、白と紫に彩られたゴルヘックスを見たような気がした。
そこから記憶は欠落していた。