「・・・来た。」
場所は九州のとある湿地帯、前日の豪雨により更に足回りが悪いこの場所でかなと西住の戦いが始まる。
かなが乗る戦車はケホ・・・大日本帝国時代に試作された軽戦車だ。
小さい車体に、緑色の塗装を施し、更に見にくいように湿地に生えている蘚や水草つきのネットを被せて、認識しづらくなっている。
5両の戦車に乗り、各家と自衛隊代表が会場入りする。
妖夢と言葉は戦車を降り、整列する。
戦車から降りてきたかなを見て妖夢と言葉以外は絶句する。
古めかしい大日本帝国陸軍の軍服に傷だらけの大佐の勲章、千人針を腹に巻き、双眼鏡を首からぶら下げて、頭には日の丸が描かれた鉢巻と1人だけ太平洋戦争中にタイムスリップしていた。
「ふ、ふざけるな!!こんなコスプレ女が宰相だと!!恥だ、西住流の汚点だ!!」
分家の1人が吠える。
他の面々も頷いているが、2人だけ違う感想を抱いていた人物がいた。
島津家の代表で、島津家の分家に当たる高校生の少女と、久保家の分家の中学3年生である。
「・・・甘くさ、見てたけ、世界クラスはバケモンけんね。」
「久保やすえ、また訛っとるよ。」
「島津のねーさんもけん。」
「こりゃ、厳しくなりそうだな。」
「ええ。」
「心配するまでもなかったわ。」
「・・・お母さん。」
「みほ、急に呼び出してごめんなさい。」
まほの葬儀から数ヵ月、かなの宰相就任やその後の動きを上条家に嫁いでからも耳にしていた。
ただ、実家と言えど、みほ自身も上条家の宰相(こちらは実権も完全に乗っ取っている)の地位にいるため中々訪ねる機会がなかった。
そんな中、かなの実力を測る目的の決闘があると、母親であるしほから連絡を貰い、これ幸いと駆けつけたのだった。
「かなちゃんの噂はここ(日本)にいると中々入ってきませんから・・・でも欧州リーグの覇者ってことは聞いてます。」
「実際に指揮をしたのもかならしい。かなレベルの指揮者が複数名いることは確かだ。」
「頭脳の1人かぁ。・・・実力もすごいんだろうなぁ。あんなにちっちゃかった子が・・・立派になって。」
(みほ・・・婆臭いぞ。言わないけど・・・。)
「・・・あの格好はどうにもできなかった。」
「何かのジンクスかもしれませんし、公式戦じゃないから大丈夫じゃないかな?」
「・・・始まった。」
かな以外の練度不足、泥濘による足回りの不良という致命的と言って良いハンデを背負っていたかなであるが
「これだけ稼働できるのは良いことだし。」
と呟いた。