FAIRY TAIL ◼◼◼なる者…リュウマ   作:キャラメル太郎

107 / 130


我の力は異質だった。


物心付く以前より内包し、我の中に眠り続け、発現の時を待つ。


一度(ひとたび)使用すれば、その力は嫌にも理解させられるだろう。


故に我は使用を己に禁じた。




───────父母に嫌われたくなかった。




今やそれでも愛してくれた父上に母上も居ない。






我は如何すれば良いのだ(誰か我に教えてくれ)──────




第八八刀  父の誇る最大の強み

 

人の魂を刈り取る、死神の鎌と化した剣が振り下ろされる。遅緩する緩やかな動きの世界で、ウェンディは確かな死を覚悟した。流石に本当に殺されるということはないにしろ、致命傷に至る傷を負うのは確信していた。揮われる剣筋が、狙われている以上解ってしまうのだ。

無防備な背後からの突然な奇襲。リュウマの呼び出した武器のみが使用を赦される特殊能力たるシフト。投げ付けた武器の元に使用者が転移する事が出来る。線での移動ではなく、点での移動なためタイムラグなど存在せず、ウェンディのように刹那に背後を取られるということは何も珍しくは無い。

 

剣が振り下ろされた。鋭く強靱に鍛えられた至宝の剣を肌で受け止めることは出来ない。況してやそれがこの場に居る者達の中でも最年少であるウェンディともなると、身体が完全に作り上げられておらず、柔い部分も多々ある。斬り付けられれば当然肌は切れて血も流れる。避けるには既に遅すぎ、防御にも間に合わず、例え間に合っても防御しきる自信等は皆無。身近で見てきたからこそ分かる彼の剣裁き。

心の中で他の仲間達へと謝罪し、早々のリタイアとなることに目を瞑った。焦った仲間達の声を聴き、もっと彼の動きを注視しておくべきだったと反省した。

 

皆の視線を集める中、森に囲まれたこの場所に激しい血飛沫が上がった。真っ赤なそれは血潮に間違い無く。世に生き蔓延り跋扈する人間の身体に流れるもの。

 

悲鳴が上がる。女性陣の内の誰かの声なのだろう。対する男性陣は、どうにかしてウェンディを助けようとしていたが為に目を逸らすこと無く見ていた…その一連の結果と過程を。顔を蒼白くさせながら見ていた者達は瞠目する。それに例外無く、その中には()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

赤く紅く朱い血飛沫が噴水のように上がる。斬り裂かれた。断ち切られたからこそ宙へと舞う右腕。それの元の持ち主はウェンディか?…否。

 

 

「─────ッ!?何…!?」

 

「ぁ…」

 

 

「…っ……ハァッ……間一髪だ。相手を誰だと思っているんだ小娘。リュウマの行動の全てに注視しないか馬鹿者」

 

「オリヴィエ…さんっ」

 

 

斬り飛ばされて血潮と共に宙を舞うリュウマの右腕。

 

召喚した剣を手に取り実体化させ、人が比較的密集している所へと投げ付けるように見せ掛け、その実確かにウェンディを狙った剣の投擲。一瞬だけ見ることの出来たリュウマの瞳。縦長に細くなった特徴的な瞳孔を持つ瞳が、確かにウェンディに向けられるのを見て悟ったオリヴィエは、ウェンディが剣を避けようとする刹那…大地を踏み込み、初速から最高速度を叩き出しリュウマとの間に入り込んだ。

 

揮われた剣の刃がウェンディに触れる数ミリ前に、オリヴィエが左手に持つ純白の双剣が軌跡を描き、リュウマの右腕の二の腕半ばから斬り飛ばした。リュウマを以てしても理解不能にして解析不可能と言わしめる、純黒の刀と対を為し相対関係にある純白の双剣の内の片割れである一振り。それは見事と言っても良い程滑らかにリュウマの腕を両断した。

 

常に自身の身体の周りを魔力で覆い、万が一にも攻撃に見舞われたとしても、その膨大な魔力を使用して衝撃の殆どを無効化する常時発動型のバリア。純黒なる魔力により護られているにしても、オリヴィエの持つ純白の双剣には相性が良く又、相性が非情に悪い。相対関係にある以上、互いの魔力が特攻であり弱点であるのだから。

 

分が悪かった。唯身体の周りを魔力で覆っているだけなのに対し、オリヴィエの攻撃は純白の双剣に加えての純白の魔力。例えるならば、鋭いにしてもナイフ一本と、セーフティーを外して向けられている拳銃。覆っているだけのものに、特攻効果のある純白に武器と魔力には対抗出来なかった。故に純黒なる魔力であろうと紙のように切り破って皮膚に到達し、その凄まじい切れ味によって内部の硬い骨ごと斬り落とされてしまったのだ。

何はともあれウェンディはリュウマの攻撃から身を護る事が出来た。自然に察知してくれた他でも無いオリヴィエの手によって。御礼を言いたい。だが今言っても邪魔になってしまうという事は明白。オリヴィエは今リュウマの腕を斬って、更に追い打ちを掛けようと踏み込んだところなのだから。

 

ウェンディの滅竜魔法による補助により、オリヴィエの攻撃力が倍加される。確かな強化を確認しながら、まさか間に入り込んで腕を持っていくとは思っていなかった…そもそも間に合って助け出すとは思っても見なかったリュウマが瞠目して驚愕している。体勢は後ろへと仰け反りやや崩れめ。追い打ちを掛けるならば絶好の機会と言えるだろうタイミングと余力。斬るのに使ったのは左に持つ剣。であれば二振りある以上もう一方を使うことが出来る。一度目の斬撃の力に逆らわず、流れるように次の攻撃へと繋ぐ。狙うは残る左腕及び左脚。一度に斬り落として動きを制限し、更なる連撃へと繋げるための第二撃。

 

迫り来る純白の刃。その軌跡を視認し予測することで、己の左腕と左脚を落とそうとしているのがリュウマには手に取るように解る。但し、解るからと言って今の状況で避けられるという訳では無い。体勢を崩してしまった痛恨の不覚。そんな隙をオリヴィエが逃す筈も無く、それを此方も分かりきっている。ここで左腕と左脚を持っていかれれば、殆ど何も出来ないところに追い打ちを掛けられて攻撃に見舞われるだろう。そんなこと予測するまでも無いリュウマは、聡明な頭脳で瞬時に答えを出した。

 

 

「…ッ!!遅かった…ッ!」

 

「フハハッ!そう上手く事が運ぶと思うなよ」

 

 

斬り飛ばされた右腕に持っていたのは、召喚した剣の内の一振り。宙を舞っているそれは、そこにあるだけで十二分な効果を発揮した。オリヴィエに斬られる前に、飛んで行ってしまった賢王の剣へとシフトしたのだ。厄介以外の何物でも無い瞬間移動での回避で、オリヴィエの剣は空を切った。

乱回転しながら放り出されている剣はそのままに、リュウマは分断されてしまった右腕を掴み取り、斬られた断面同士を付ける。同じタイミングに自己修復魔法陣を刻み込み、斬り落とされた腕は修復されて元の腕へと戻った。

 

腕が修復された後、リュウマは手を握ってみては動作と感覚の確認を行い、完璧に治されたことを確認した。腕を一瞬で治した、その修復速度に驚いている者達を上からの見下ろしながら、次は如何するかと思案する。

次の武器を取って投げ付けようかと考えていると、下から猛スピードで差し迫ってくる影が二つ。ハッピーとリリーに抱えられて飛んできているナツとガジルであった。リュウマは自身の翼を使って現在飛行している。しかし、空を飛べるのは何もリュウマだけでは無い。翼を生やす魔法である(エーラ)という魔法を使う事が出来るエクシードのハッピー達も飛べるのだ。

 

 

「よっしゃあぁ───────ッ!!行くぞハッピー!!」

 

「あいさ───────っ!!」

 

「行けリリー!!サラマンダーに負けんな!」

 

「目的を間違えてないか?ガジル…」

 

 

「フン。空中で我に追い付けるものか」

 

 

ニヤリと悪どい笑みを浮かべたリュウマは、向かってくるナツ達に背中を見せ、反対方向へと飛んで行った。逃がすかと追い掛けるナツ達だが、中々に追い付くことが出来ない。直線距離となると距離を離され、鋭角を攻める鋭い軌道変更になればその動きについて行けない。変幻自在にして自由自在に空を飛行するリュウマに、見失わないように付いていくのが精一杯だった。

抱えられているガジルの急かす声を聴きながら、リリーは内心でリュウマの飛行速度に舌を巻いていた。元々エドラスの王国騎士団の隊長を務めていたリリーは、戦闘もさることながら空を飛ぶことに関しても一流だった。だというのに、そんなリリーを以てしても全く追い付けないのだ。

 

背後から必至に食らいつこうとしているナツ達を尻目に、リュウマは余裕の表情を見せる。高々()()()()()速度で見失おうとしている事に、まだまだ飛行自体が未熟だなと内心思っていた。いくらエクシードが全員(エーラ)を使うと言っても、リュウマの一族である翼人は生まれながらにして翼を持っているのだ。魔法で使うよりも、日常に於いて常に使用し、況してや翼人の命と等価である翼が魔法に負ける訳が無い。それも相手が翼人の王であるリュウマともなるとそれは火を見るより明らかとなるのだ。

 

追い付かせない他にも、遊び半分で行っている鋭角を攻める超軌道は、本来ならば行うことが出来ない。翼の構造上羽ばたいて飛行すれば前に進み、他に出来ることと言ったら減速する事ぐらいだろう。それは翼を持つ鳥にも言えることで、飛んでいる最中に真横へ移動することなど出来ないのだ。だがそうなると、一つの疑問が生じる。ならば何故リュウマはその様な複雑な動きを可能としているのか…という点である。

リュウマの翼は白と黒に別れ、それぞれ3枚ずつの計6枚ある。リュウマが治めていたフォルタシア王国初代国王であるリュウデリア・ルイン・アルマデュラも同じく6枚の翼を持ち、それは突然変異によるものだと言われていた。だがそれは違った。

 

リュウデリア・ルイン・アルマデュラは確かに6枚の翼を持って生まれた。だがそれは()()()()()()()()()()のだ。リュウデリアとリュウマには共通する点が幾つかある。その内の一つが莫大な魔力を身に宿しているということ。そしてもう一つが元から持ちうる身体能力等の、身体の能力に関するものが翼人一族のなかでも一線を画していたこと。最後の一つが…両親がどちらもトップレベルの力を持っていたこと。

下劣極まる王の遊びにより、リュウデリアは愛など無い誕生を迎えた。しかしリュウデリアを産んだ翼人の女性は飛び抜けて魔力を内包し、男性の翼人は身体能力が翼人の奴隷の中でも随一であった。その事が要因となり、リュウデリアは6枚の翼を持ち、リュウマも同じく身体能力が最強であったマリアと、魔力が最強であったアルヴァの遺伝子によって6枚の翼を持ったのだ。

 

話を戻すとしよう。リュウマが普通の翼人と違って6枚もあるということは、翼人の3倍の翼力を持つということである。そこでリュウマは、翼の2枚一対毎に()()()()()()()のだ。本来ならば翼は進むために煽ぎ、止まることにも使うがそれだけだ。だが、リュウマは上側の2枚一対の翼に進行方向の改変の役割を持たせ、中間の2枚一対は滞空する時などに使用する重さとの等価推進力の操作を、下側の2枚一対は飛行する際の爆発的な推進力の要を負っていた。

魔力と魔法を付加させることにより、翼を使った場合の飛行性能は途方も無いものとなっているのだ。故に彼は最高速度を出すとマッハをも軽く達するし、急な方向転換をも謀ることが出来るのだ。

 

 

「ハッピー!もっと近付けないか!?」

 

「あ…いッ…!オイラ…!MAXスピード…だよ!!」

 

「おいリリー!!」

 

「全く…!追い付けん…!!」

 

 

追い付こうとしているのに、只管に距離を空けられてしまっていることに焦りを覚える。ナツとガジルはハッピーとリリーを激励するのだが、それだけでは追い付くには至れない。オリヴィエからの強化の施しを受けるにしても、ある程度の動きには対応出来るからといって、リュウマの全てに対応する事が出来ると言うことではないのだ。

 

追い掛けられているリュウマは突然、身体を反転させて後ろ向きで飛行し始めた。何を舐めたことをと怒りを露わにしたナツとガジルだったが、リュウマの周囲に又もや半透明の武器が並び、その一つを手に取って実体化させたのを見て背筋に冷たいものが落ちた。

何の武器なのか解らない。武器を見てどのような力を持つものなのかを教えるアルヴァがここに居ない以上、ナツとガジルは圧倒的情報不足による不利に回っているのだ。

 

先程説明した通り、リュウマは空中に於いて自由自在に飛行することが叶う。つまりは、突然の後方への方向転換へも対応出来るということになる。

 

 

「フハハハハハハッ!!!!」

 

「ぬおぉ!?『鉄竜棍』ッ!!」

 

 

後ろを向いて飛行していたリュウマは、急な急発進を真反対の方向へと行い、彼を追い掛けていたMAXスピードのナツ達と衝突した。手に持っている剣…ではなく斧は修羅王の刃と呼ばれるもので多大な重量故に振りが遅くなる分、それ相応と言える程の攻撃力を持っている。腕を鉄の棍に変化させたガジルが受け止めるものの、余りの威力に表面が罅を奔らせる。

痛みに顔を歪めたガジルのところへ、ナツを抱えたハッピーが向かう。攻撃準備として拳に炎を灯したナツは、リュウマに向かって行くが、リュウマは更に半透明の武器の中から一つを手に取った。

 

実体化したのはボウガンである。何の変哲も無い遠距離用の武器に見えるが、生憎彼の周囲を回っている武器に普通のものなど皆無。照準を殴り掛かろうとしているナツに向け引き金を引いた。最初から装填されていた矢が発射され、ナツに向かって射られた。

類い稀なる動体視力で材質が鉄だと見切ったナツは、弾くでもなく避けるでもなくそのままに見過ごした。着弾した矢はナツの皮膚に触れた途端、高熱によって熱せられた鉄のように熔解されて無効化される。

 

 

「オレにそんなものは効かーーーん!!!!」

 

「であれば……これならどうだ?」

 

 

手を掛けること無くボウガンの弦が引かれて弾を充填した。同じ手は食わないと、もう一度超高温の体温で溶かしてやろうとしているナツとは違い、抱えているハッピーは嫌な予感を感じ取った。

放たれる矢。かかってこいと言わんばかりの表情であるナツを抱えたハッピーは、急いで右へ大きくズレて射程圏外へと回避した。何で態々避けたんだと文句を垂れているナツであったが、ハッピーの咄嗟の判断は非情に正しいものであった。

 

右手に持っている飛王の弓は、動きながら狙うことが出来るという利点の他に、番える事が出来るものならば何でも放つことが出来る。つまりは、()()()()()()()()()()()ということ。言ってしまえば、一射目と同じように溶かそうとして当たりに行っていれば、今頃ナツの腹には風穴が空いていたのだ。

 

魔力で鉄の矢と瓜二つに創り出し、形状はそのままだが材質はリュウマの魔力そのものである矢を食らえば、触れるだけでもアウトだということが解る。リュウマは矢を又も創り出すとボウガンに番わせ、一度に四つの矢を射出し、魔法によって4倍の16の矢へと変化させた。見るからに数が増えた矢をどうにか回避している隙に、リュウマは飛王の弓を消して違う武器を手に取る。

 

 

「──────墜ちろ」

 

「なん──────ぐあぁあぁあぁぁッ!?」

 

 

見るからに攻撃力が高そうな斧とは違い、ガジルの鉄で形成された腕を強引に斬り裂き、その重さと共にリリー共々地面へと叩き付けた。手に持っているのは刃が回転している大剣であった。綺麗には斬れないが、押し付けて無理矢理にでも斬ることが出来るその大剣は、見た目以上に刃の部分に触れることを良しとしない。その証拠にガジルの二の腕の肉は強引に削り取られ骨が見えそうになっている程の重傷である。

 

回復要員として真価を発揮するシェリアは直ぐさまガジルの元へと駆け寄り、滅神魔法でガジルの傷を癒して完治させた。リリーも擦り傷だらけなので一緒に回復させ、猛スピードの飛行をしたことで上がっていた息をウェンディによって回復して貰う。

 

 

「すまんウェンディ。助かった」

 

「いえっ。私のことは気にしないで下さいっ。私は回復係ですから!」

 

「前線で戦わせてごめんね?」

 

「ケッ。ンなもん余裕だっつーの」

 

「今叩き落とされたのに?それもまた“愛”っ」

 

「今のはマグレだっつーのッ!!次はこうはいか──────ッ!?避けろッ!!」

 

 

何かに気が付いたガジルはシェリアを押してその場から追い出し、自身も身体を丸め込んで転がるように緊急回避の行動を取った。数瞬後大きな落下音と共に何かが落下してきては地面に着弾。大地はその衝撃に当てられて爆発音を響かせながら砂塵が舞う。間一髪回避行動が間に合ったものの、後少し遅ければ今の衝撃を身を以て体験する羽目になったと顔を青くさせた。ウェンディとシェリアはガジルに突き放されて事なきを得たものの、仮に当たっていれば重傷どころではなかった。

 

風に煽られ砂塵が飛ぶ。原因は何だったのか。そんなことを考えを巡らせる必要性すら無かった。少しずつ晴れてきた砂塵の砂埃から感じるのはリュウマの莫大な魔力。言うに語らず、空から墜ちてきて武器を揮ったのだ。自由落下の力のみならず、推進力を使いながら体を縦回転させて遠心力を載せる。果たしてその威力は如何程なものか。それは確実に人が死ぬほどのものになるだろう。

 

 

「──────『鬼王(きおう)枉駕(おうが)』…流石に躱すか」

 

「あっ……ぶねぇ!?後少しでも潰れるところだった…!何しやがんだテメェ!!」

 

「潰してやろうとしたまでの事」

 

「──────『天竜の咆哮』っ!!」

 

 

墜ちてきて地面を数メートルに及んで陥没させたリュウマの手に持っていたのは…メイス。殴打用の武器であり、打撃部分の頭部である柄頭と呼称される柄を組み合わせた合成棍棒の一種である。金属製の柄頭と木製の柄からなるが、石や骨…木のような自然物製の柄頭を持つものや、全てが金属製の物も作られている。特に金属製の柄頭を持つメイスの打撃は、強固に造られている金属の鎧に対し刃類よりも有効であり、出縁やスパイク、突起により衝撃点を集中し厚い甲冑を凹ませたり貫通したりと、意外に多用な使い道がある。そのため、金属鎧による重武装化が進むと幅広く使用された。

 

頑丈な鉄の塊とぶつけ合わせても斬り裂き歪曲させるほどの力を持つ鬼王の枉駕を、自身の魔法を信じてガジルが受け止めたとすると、覇王の大剣で斬られた時よりも悲惨なことになっていただろう。最低でも受け止め腕は修復不可能なところまで破壊されていた。

 

背後に居たウェンディの咆哮(ブレス)が当たる直前、リュウマはその場から消えてしまう。見失ってしまったと思い探そうとするも、上空でハッピーとナツの叫び声が聞こえてきた。ハッとしてそちらに目を向ければ、避けようとしたのだろうが間に合わず、二つの飛来してくる武器に体中を薄くではあるが斬り裂かれていた。

伏龍王の投剣と呼ばれる鋭い尖端が四方向に伸びた手裏剣の形の大型武器。二つあることで一方は遠距離に、もう一方を近距離に使う事が出来る二振りの武器である。

 

高熱を発して斬られる前に溶かそうと試みたナツの思惑とは違い、伏龍王の投剣は溶けることなく傷を刻んだ。そして懸念しておくことは、伏龍王の投剣は暗器であるということ。何時の間に投げたのか。そんなことを悟らせることも無く予め適当に投げておき、ウェンディの攻撃が届く前にシフトを使用し、避けると共に伏龍王の投剣を手に取って更にナツに投げ付けたのだ。

 

傷を負ってもナツならば引き続き動き続けることが出来る。だが、それにハッピーは当て嵌まらない。根っからの戦闘向きではなく、サポートも人を抱えて空を飛ぶこと以外は出来ない。痛みに対しても耐性が無いハッピーが先に脱落するのは必然。空を飛ぶための翼は消え、ナツは気絶したハッピーを抱えて真っ逆さまに落下している。

 

 

「ナツっ!」

 

「うおっ!?ミラ!!」

 

「ハッピーは…?」

 

「気絶しちまった!ウェンディとシェリアに診てもらわねぇと!」

 

「私がこのまま連れて行くからジッとしてて!」

 

 

 

「──────させると思うてか?」

 

 

 

気絶してしまったハッピーを抱えたナツを、サタンソウルを身に纏ったミラが抱えた。大人が持っても大きいと言える伏龍王の投剣によって、身体を細切れにされなかっただけマシにも思えるが、それでも体中に負っている傷は浅くない。躊躇いなど無い…完全に敵と認識していると()()()()行動に胸を締め付けられる。話し合いは出来ないのかと思うが、今更そんな甘いことが罷り通るとはもう思わないことに決めている。

 

空を飛んでウェンディとシェリアの元へと急ぐミラの背後から、純黒の刀とは違う刀を腰に差したリュウマが、鍔に親指を掛けて鎺の覘かせた。斬撃が来る。飛ばすのでは無く直接的に。空へ逃げてもリュウマは翼人一族。翼を持っていながら最高の制空権を持っている。

拙いと直感的に解っている。解ってはいるのだが躱せるとは到底思えないミラ。一端ナツ達を手放して後ろへ向き直り迎撃しよう…そう考え途端──────ミラは前へと進んだ。

 

 

 

──────己を切り離し仲間の療養を先取るか……悪手であろうがよ。

 

 

 

刀に手を掛けているリュウマの手から逃げ果せることは不可能。オリヴィエならばまだ可能性はあるが、他の者達にとっては隔絶とした戦闘能力に反射神経、それらと同等の力と精度を持つ直感を持ち得なければ命は無い。例え反応出来ても防げなければ意味は無い。

 

リュウマの大腿筋がうねりを上げる。軋む音が聞こえる程に張り詰められた筋肉が伸縮しながら抑え込み、発射のその時を待っている。普通の人間とは異なり、生まれた時から普通の人間の数十倍の筋肉密度を持っている中で、リュウマは更に上位…最上位の筋肉密度を持っている。

強靱な肉体に宿る筋肉の膨張を更に筋肉によって抑え込む。矢を番い弦を引き絞る限界値に達している弓矢の状況を作る。そうすることにより…踏み込みは大気を足場にした。

 

揮われる至宝の王の武器。最愛の妻を亡くしてからは人が変わったように豹変したという王…闘王の刀である。翼を使った莫大な推進力ではなく、刀を使うことで取らなくてはならない半身の体勢の為、敢えてリュウマは空を蹴るという選択肢を取り…ミラの背後に現れた。

 

 

 

『さて……そろそろ作戦開始といこうか?者共よ──────反撃開始(ミッションスタート)だ』

 

 

 

「──────『雷竜の顎』ッ!!」

 

「─────ッ!?何ッ…!」

 

 

刀を振り下ろす過程で、忽然とリュウマの真上にラクサスが現れ、合わせた両の手を振り下ろし背中へ殴打を入れる。突然の人の気配に瞠目しつつ、リュウマは身体を翼を使って覆い防御の姿勢に入った。

天より墜ちる(イカヅチ)がリュウマの全身を呑み込み感電させんと迸る。しかしそう都合良くリュウマがやられる訳も無く、精々地面へと墜とすのがやっと。だが…ラクサスの役割はソレであった。

 

落下していくリュウマは思考する。一体どのような手を使い忽然と姿を現したのか。背後に現れたので視覚領域外…つまりは完全な死角故の知覚外。いくら雷速を誇る動きを出来ようと、()()()()()()リュウマの眼からは逃れられない。此処までに直線にしろ曲線にしろ向かって来たならば解る。だが解らなかった。よってラクサスは瞬間移動を行い来たということになる。

 

線では無く点で移動する事が出来るのはリュウマと、メストだけだと分かっている。そしてこの場にメストが居ないということも検知済み。一体どうやって来たのか。あらゆるシミュレーションを頭の中で繰り返すも答えは出ない。オリヴィエとて瞬間移動の魔法は体得出来ていないのだ。

 

 

 

──────まぁ良い。思わぬ一手を貰ったが、痛手には全く為らぬ。一度足を付け、先ずはオリヴィエを抑え込むことから始めるか。

 

 

 

この中で一番の脅威というのは、オリヴィエただ1人。相対関係故に唯一の弱点を常に突くことが出来るオリヴィエは、リュウマに対する特攻そのもの。どれだけ硬く頑丈な防御を張ろうとも、一撃では破壊は出来ずとも2、3と立て続けに食らえば防御を破ることとて可能。彼女一人居るというだけで戦況を引っ繰り返すことは容易くなるということ。ならば最初に墜とすことは必定。但し…例外もある。それは回復役。ウェンディやシェリアのような他人を回復させる者達を更に先にやらねば、オリヴィエを戦闘不能にしたとしても戦場に帰り咲かせることになる。

 

賢王の剣を投げ付けて最初に墜とそうとしたのは、その回復役を先ず先に退場させようとしたのだ。何気ない攻撃から既に、戦力を削ろうという魂胆があった。

雷から身を守ったリュウマは、翼を広げ直して一度ふわりと羽ばたき落下の威力を殺し地面に着地した。

 

 

 

「──────ッ!?地面が…ッ!?」

 

 

 

そして────────足下の地面が崩れ落ちた。

 

 

 

一体何が起きた?何故地面が着地した途端に崩れた?()()己の体重は80キロ。確かに重い部類には入るだろうが、それでも着地した途端に、それもまるで仕込まれていたかのように崩れ落ちはしない。何者かによる策によって崩れやすいように細工をされていたということに他ならない。

思案し推測を終え、答えを出し終えたリュウマははたと気付いた。これは確かに何者かによる策だ。だがその策がここで…今、この時…この瞬間に嵌まったということは…少なくとも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということになる。

 

 

彼の…リュウマ・ルイン・アルマデュラの背筋に、決して良くは無い電流が奔った。

 

 

400年という長い年月を生きた人間の精神を読み取ることは不可能に近い。人の性格が余り変わらないのと同じく精神面も幼少から年少へ至るのとは違い、そう簡単には変わらない。だが、それが何百年という年月の果てならばそうは言っていられない。最早リュウマの精神面に於いて、誰かが読み取りきるということは不可能なのだ。

 

 

「────よォリュウマ。いらっしゃーいィ」

 

「────ッ!ギルダーツ…!!」

 

 

 

『クックック……はてさて…それは連結されるぞ?1から2へと…なァ?』

 

 

 

地面が崩れ落ち落下していく、背後からリュウマの耳に届いたのはギルダーツの面白そうな声であった。何故ここに居る…ということを考え、又しても気が付く。この軟弱な地面は何者か…十中八九己の前に現れた者達の中に居たジュラの魔法であると看破した。だが、ジュラは確かに普通の魔導士とは違い、聖十大魔道の称号を得ていて相当な実力を持ってはいるが、リュウマの行動の数手先を見切るほどの戦略眼は持っていない。

 

元からここへリュウマが墜ちてくるということを分かりきっていたのか、崩れやすい地面で蓋をするようにして高められた魔力を隠し隠蔽していた。だから着地する時にしても、そもそもここへ着地しようとするにしても何の感知も無かった。この隠蔽工作を行えるのはただ1人…オリヴィエだ。総てを包み込み無へ還す事の出来るオリヴィエは、対象が魔力そのものであろうと無へと還す事が出来る。それで覆った地面の内側に純白の魔力を纏わせ、放出されていたギルダーツの魔力を外部へ漏れないよう押し留めていた。

 

 

 

「──────『破邪顕正・一天』ッ!!」

 

 

「──────ッぐ…!!」

 

 

 

高めに高めたギルダーツの魔力の載った拳が接近する。咄嗟の判断で両の腕を交差させて身を守り防御した。しかし威力を殺すことは出来ず、かと言って今のギルダーツの攻撃は素のものではなく、オリヴィエの強化を受けての攻撃。防いで盾とした腕から骨が軋む様な音を立て、折れてもいなければ罅も入っていないことは分かるが、その場から吹き飛ばされる。

翼を広げて体勢を立て直そうとするが、それはこの場では出来ない芸当となっている。その原因は今居る空間。割かし狭く作られた穴の所為で、大きく枚数も多いリュウマの翼が上手く広げられないのだ。

 

墜ちてきている最中に殴られ、相手がギルダーツともなると勢いが凄まじく、直ぐさまギルダーツから見て正面の壁に激突した。それだけならばこの狭い空間にギルダーツとリュウマの一対一という、ギルダーツでは不利になる状況になるのだが…背中から衝突した壁が簡単に崩れた事で、その起こり得る筈の状況が決壊した。

薄く薄くと造られた、0.1ミリ程と思える極薄の壁をガラス板のように砕き割り、元から一本の通路のようになっている道を吹き飛ばされて進む。この通路も所詮は狭い空間故に、リュウマは翼を使うことが出来ない。

 

何故こんな所にこんな物を作ったのだと、リュウマは弾かれている最中に思案し、仮説を立てた。もし仮に、このよく分からない通路が一本の道を交わしてもう一つの空間の元に繋がっているのだとしたら?そしてそれが…攻撃を入れる最大のタイミング且つ、必ずと断言出来る程のダメージを負わせる手段を持つ者が先に居たとしたら?

 

 

 

──────最初から動きの見られなかったギルダーツが此処に居た。つまりは初めに攻撃を仕掛けては来ないと我に認識させるための囮そのもの。我を空へと追い遣り相手にするには少ない二人で追い掛けてきたのは、空を飛ぶ事が可能な者は少数であり、懸念しておくことが無く、取るに足らぬと認識させて地上に視線と注意を向けさせない為の偽り(フェイク)…!そして我の翼の可動域を熟知し、尚且つ我が此処へ着地し、ギルダーツの攻撃を受け止めると分かっていての通り道…!!となればこの先にあるのは本命の第一手…!!なればこそ必然と言える──────

 

 

 

「覚悟しろよ貴方。これは少しばかり効くぞッ!!」

 

 

「やはりか…ッ!!」

 

 

 

 

『リュウマよ…私には全てがお見通しだぞ』

 

 

 

 

繋がる通路の先に居たのは…魔力を漲らせて今まさに放とうとしていたオリヴィエだった。

 

前方のリュウマに向けて両手の双剣を合わせて剣先に莫大な魔力を充填する。溜めれば溜める程威力が上がる当然の過程を有する魔法。しかし、籠められているのは特攻効果のあるオリヴィエの魔力であり、今は背を向けていて防御のしようが無い。

 

 

 

 

「────『番い放たれる一条の白胱(フォトン・デア・セイヴァー)』ッ!」

 

 

 

 

放たれた莫大な魔力と、目を眩ませる程の眩い純白の光は、極太の光線となってリュウマを襲い、地を揺るがすほどの超広範囲の大爆発を起こした。

 

 

 

 

『──────私の筋書きに例外は無い。それが私の唯一であり、最高の力なのだから』

 

 

 

 

フォルタシア王国第16代目国王、アルヴァ・ルイン・アルマデュラは、戦場に出ること無く、己の兵士のみを使いありとあらゆる戦場を制した。そしてその(いくさ)に於いて死傷者は出ず()()()()()()()()()

 

 

世界最強に至ったリュウマ・ルイン・アルマデュラの実父たるアルヴァ・ルイン・アルマデュラの、全てが規格外で済まされる実の息子(リュウマ)に勝る唯一の力…それは──────戦略眼。

 

 

頭脳明晰であるリュウマの知能指数、所謂IQは数字にして『214』。正しく天才の域に浸かっているリュウマであるが、アルヴァの知能指数は良くて『174』。天才の域に入ってはいても、どう足掻いても頭の善し悪しでは勝つことは出来ない。それはリュウマの幼い頃、長年の研究でも創り出すことが出来ないでいた人体の修復魔法を、たったの数ヶ月で完璧に創り上げたことにより証明されている。対してアルヴァはリュウマが生まれる前から執り行っていた時間跳躍の魔法を完成しきる事が出来なかった。

 

リュウマは頭が良く、絶対記憶能力を持たないにしても、それに限りなく近いほどの記憶力を持ち、最高で30桁の暗算も熟すことが出来る。見ただけで魔法の術式を読み取り、己の手で干渉し無効化することも容易い。類い稀なる頭脳が無ければ出来ないようなことも軽々とやってしまうが、アルヴァは出来ない。しかし、しかしだ。アルヴァはとある方面に於ける知能指数はリュウマを遙かに超える。それが戦略方面の頭脳である。

 

どれ程の知性を持っているのかを数字で知ることが出来るもので、リュウマの知能指数(IQ)は『214』だが、アルヴァの知能指数を戦略のみに傾けた場合に出て来る知能指数(IQ)は……『350』。

 

頭の良いアルヴァと、身体能力の優れたマリアとの間に生まれたリュウマはどちらの才能も受け継いで生まれてきた。だが、その全てをという訳では無い。唯一…アルヴァの戦略眼のみを完璧には受け継がなかった。

勿論のこと、リュウマが考え出す戦略も素晴らしく穴が無い。だが、アルヴァの戦略と比べると如何しても下位互換となってしまう。

アルヴァが昔に言った事がある。「私は殆どの面に於いてリュウマに負けている」…と。その殆どの中に入らない例外が戦略眼。

 

マリアが戦女神(いくさめがみ)と呼ばれ、リュウマが殲滅王と畏れられる中で、唯一何と呼ばれ、何と謳われていたのか、それらが明らかになっていないアルヴァの呼称は──────神眼者(しんがんしゃ)

 

 

 

神の眼を持ち、あらゆる全てを見通すと謂われ、歴代王の中で最強の『眼』を持つ男である。

 

 

 

「──────ぐぶ…っ…こほッ……『慈王の盾』…げほッ…!げほッ…!」

 

 

 

「リュウマに傷を負わせた…」

 

「なんっつー威力だよ…」

 

「本当にあそこに来るとは……」

 

 

 

ここで一つ、アルヴァ・ルイン・アルマデュラの打ち立てた功績の一つを紹介しよう。

 

 

遙か昔、400年前にあった王戯という盤上遊戯があった。それは己が持つ駒を持ち、相手の(キング)を討ち取れば勝ちとなるゲーム…今で言うチェスのようなもの。だが、このゲームはただのチェスではない。チェスは本来一つのマスには一つの駒しか配置することが出来ないが、このゲームは一つのマスに三つまでの駒を載せることが出来、その重ねた駒の種類によって役割が変わる多彩な戦略ゲームである。

 

チェスというのは必勝法というものが存在し、10の120乗という途方も無い数値の盤面が存在する。本来ならばこれを覚える等到底不可能であるのだが、リュウマはそれを全て頭の中に入っている。そして忘れてはならないのが、王戯は兵士を重ね合わせる事が出来るということ。つまりは更に莫大な手数が存在すると言うことになる。それを数値にすれば実に10の400乗にもなる。そしてそれすらもリュウマは全て憶えている。ならばアルヴァとそのゲーム…王戯をやった場合、リュウマはアルヴァに勝てるのだろうと思うが…それは大間違いである。

 

リュウマはとても負けず嫌いで、王である以上負けそのものを良しとしていない。故に彼は一度負ければ例え父母であろうと勝つまで己を研鑽し挑み勝とうとする。その執念は深く、子供の頃から負かされた事を引き金にマリアの事を調べ上げ、勝つまで鍛練に打ち込み勝利した程。

 

だが…それはそれであり、それはアルヴァには通用しなかった。

 

 

 

 

24762戦24762勝0敗0引き分け

 

 

 

 

これが…アルヴァのリュウマとの王戯での対戦に於ける戦歴である。つまり…リュウマは生まれてこの方、アルヴァに戦略という面で勝てた例しが無く、同等に至った事すら無いのだ。

 

負けては苦汁を舐めさせられ、次こそはと気合いをいれて研鑽を重ねて挑むこと24762回。その度に理不尽さに嘆いた。明確な必勝法である全暗記を行っても、引き分けにすら持っていくことの出来ない戦略。それらを十全に使いリュウマに勝利し続けた絶対の人物こそが…実の父であるアルヴァ・ルイン・アルマデュラなのだ。

 

 

 

 

『さてリュウマよ。他でも無い、私とお前による久し振りの王戯(ゲーム)といこうか?』

 

 

 

 

アルヴァの眼が金に輝きながら陽炎のように揺らめき、その口元はリュウマを彷彿とさせる笑みを浮かべて嗤っていた。

 

 

 

 

 




すみません、これからは9月まで不定期となります。

国家試験の勉強をしなくてはならないので……。


 ▲ページの一番上に飛ぶ
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。