FAIRY TAIL ◼◼◼なる者…リュウマ   作:キャラメル太郎

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13……それは忌み数。


13……それは西洋に於いて、最も忌避される数。


13……それは──────不吉の数字





人類最終到達地点  13番目の100年クエスト
第 ০ 刀  13番目の依頼


 

 

アルマデュラとなったルーシィが、ケム・ザレオン文学賞の新人賞を受賞をしてから翌日、リュウマを初めとしたクレア、バルガスにイングラムは、チーム『人類最終到達地点(クァトル・デュレギレーション)』として数多くの100年クエストへと馳せ参じていた。

 

本来はここにオリヴィエも居るのだが、生憎と妊娠9ヶ月という妊婦であるため、チームの仕事からは抜けて、リュウマ宅で他の妻達と家事を行って過ごしている。ナツ達の最強チームも、同じ日に初めての100年クエストへと向かったが、ナツとグレイのストッパー役にルーシィは居るものの、無理矢理止める係兼戦闘員であるエルザも、妊娠している為チームからは一時抜けている。

 

それでは流石に初めての100年クエストを受けさせるのが怖いということから、マスターであるマカロフは100年クエストの中でも一番簡単であろうもの受けさせた。それならば大丈夫だろうということで、リュウマは納得したものの、正直心配ではある。因みに、難易度についてはリュウマが魔法で調べた。

 

100年クエストというのは、100年前に依頼されてから、誰にも受けることも無く放置されたクエストは含まれず、何人も何人も受けて、誰もクエスト達成されないまま100年という月日が経ってしまったものを言う。つまるところ、受理されたクエストの中で超最高高難易度クエストということだ。

 

そもそもな話、依頼者がクエストを発注し、それを受注して内容をクリアし、報酬を得るというサイクルを繰り返すギルド…という組織自体が、今から大凡100年前に作られたのだ。つまり、100年クエストというのは、ギルドそのものが設立されてから、過去に一度だって誰にもクリアされたことが無いという、計り知れないクエストなのだ。

 

しかし、その100年クエスト。超最高高難易度という割に、内容は無理難題が殆ど…というよりも全部が無理難題である。やれ伝説の魔獣を無傷で捕らえて欲しいだの、ヒントも無しに幻の薬草を採取して欲しいだの…人に頼むのには限界があるだろうと思えるような、何だそれという内容になっているのが100年クエストであり、リュウマ達はここ一ヶ月で、その100年クエストを既に十二個達成していた。

 

これは異常な速度であり、現にフェアリーテイルのギルダーツは、一つの100年クエストを受けてから2年もの間休まず行い、アクノロギアに邪魔されたということもあるが、失敗して帰ってきた。それを鑑みれば、彼等の100年クエストの消化速度が途方も無い事が解るというもの。だが、彼等がその速度で終わらせるのも、ある意味では当然かも知れない。何故ならば、彼等は400年前の世界の4強であるのだから。但し、何も総てが上手くいっているという訳ではない。

 

 

 

「やっと12個目終わったぜ……」

 

「……次で…最後」

 

「と言っても、今回の100年クエストは我しか動いてはおらぬではないか」

 

「ったりめーだろうがッ!!内容思い出せ!12個中半分が()()()()()()()()()()()()だろうが!!」

 

「何も我が好きでやった訳では無い。偶々放置していたものが、100年クエストとして依頼されていただけだ」

 

 

 

彼等が何の話をしていたのかというと、100年クエストの内容である。全部で13個の100年クエストを受けた訳ではあるが、その半数が昔、リュウマが何かしらで起こした大災害の残りだった。例えば、国を滅ぼす時に行った攻撃の余波が、周囲に影響を及ぼしながらも、今現在まで残ってしまっているものがある。それらはクエストの内容を聞き、どう考えても自然現象では成り得ないものであることであり、何と言っても本人に思い当たる節があったのだ。

 

だが、半数が確かにリュウマによるものではあるが、だからと言って、その他のものが確とした100年クエストの依頼という訳では無い。

 

 

 

「確かに、直径100キロに及ぶ何もかもが消滅する超特級隔離エリアを作ったのは、我が400年前に竜へ向けて放った『世界を灼く紅蓮の神剣(レーヴァテイン)』の仕業による余波かも知れぬ。だが、3つ目の100年クエストはクレア、お前の不始末だ」

 

「ぐっ……」

 

「魔法でも解除(ディスペル)出来ぬ程の超弩級のサイクロン。あれはクレアの蒼神嵐漫扇で発生させたサイクロンではなかったか。バルガスとて、地下40キロにもなる大地の亀裂は赫神羅巌槌で以て叩き割ったものではなかったか?」

 

「……ウム」

 

「そら見ろ。一概に我の所為とは言えぬではないか」

 

「オレ達は1個だろ!?お前は6個じゃねーか!?」

 

「我に牙を剥いた愚か者共が悪い。我に責任は無い」

 

「開き直んな!!」

 

 

 

リュウマに向かって怒鳴るクレアではあるが、リュウマは反省の色が無い。というよりも、一々魔法を放った余波が、これだけの年月を経ても甚大な影響を及ぼしているとは思わないだろう。何しろ、クレアも400年前に発生させたサイクロンが、今も発生し続けては大地を抉っているとは思いもしないだろう。バルガスの大地の亀裂も、地下40キロともなれば人が落ちたら一溜まりも無い。

 

だというのに魔法で埋め切る事すら叶わない、それ程の大規模且つ、人知を超えた大災害だからこそ、100年という時を以てしてもクリアされた事が無いのだ。

因みに、リュウマ達が今先程クリアしてきた100年クエストは、『世界を灼く紅蓮の神剣(レーヴァテイン)』によってリュウマが、一歩でも範囲内に入ってしまえば、微生物であろうと消滅する超特級危険エリアにしてしまった、直径100キロに於ける区域の解除であった。

 

過去に100年クエストを受けに来た魔導士も、魔法解除しようとしたものの、発動中である力には効かず、中には範囲内にその身を入れてしまい、消滅してしまう輩も居た。その解除には、発動者であるリュウマしか耐えきれず、その100年クエストに関してはリュウマが中に入って解除してきたのだ。

 

 

 

「移動には困ってねーからいいけどよ…もうクエスト飽きたわマジで。一旦そこら辺の町とか行って休まねぇ?100年クエストこの一ヶ月ぶっ通しでやってんじゃねぇか。ナンパしよーぜナンパ。美人でエロい感じのねーちゃん引っ掛けてよ。一夜限りの爛れた夜を過ごそうぜ!な!?」

 

「何を言っておるか。引っ掛けられるのは120%お前だぞクレア。この一ヶ月、お前は何度男に言葉を掛けられた?」

 

「……余が数えた限り…34…程声…掛けられていた。記録は…更新中」

 

「オレは男だッ!何で見て分かんねぇンだよ!?これ程イイ男なんだぞ!?」

 

「勘弁しろクレア。我を笑い殺す気か」

 

「どういう意味だコラァ?」

 

 

 

鋭い目付きでリュウマの事を睨み付けるクレアだが、その実…全く怖くは無い。発せられる覇気は凄まじいものの、見た目がそれに追い付いていないのだ。澄み渡る快晴の空が如く映える蒼き髪。傾国の美女と称されても足りぬ程の端整な顔立ち。薄紅色で色付いたふるりとした瑞々しい唇。全体的に細く華奢で、未だに気付かず着続けている蒼を基調とした女物の着物は、その細さと容姿と相まって見る者の心と視線を離さない。

 

垂れた瞳の端の効果によって、浮かばせた微笑みは優しく包み込むような印象を与えさせ、手に持つ美しい装飾を施された扇子で口元を隠せば、何を擲ってでもその尊顔を拝もうと世の男が挙って夢中となるだろう。王としての教養で、立ち振る舞いも一級品であり、背に一本の棒を仕込んでいるような真っ直ぐに伸びた完璧な姿勢。産まれてから女に相手にして貰えないと言う彼だが、その実体は彼の容姿にあり、相手はクレアと己との美しさの次元の違いに当てられて意気消沈するのだ。

 

そんな彼の容姿に、擦れ違う男達が黙っている訳も無く、どうにかお近付きになりたいからと、己の武勇伝を語ってみせたり、己と共に来るならば富と名誉を約束しようと言う者まで現れる。だが、残念ながらクレアには最強のセコム(リュウマ)が常時張り付いている為、万が一という事は有り得ない。クレアへの口説きを邪魔され、憤ったとしても、ほんの一睨みでその場には誰も居なくなる。実力行使?とんでもない。息を吹きかけられるだけで死んでしまう。

 

 

 

「そこまで言うのであれば、我が相手をしてやるのも吝かでは無いが?ふふ」

 

「お、おい…!やめろ!!その姿で抱き付くなテメェ…!」

 

「そう邪険にせんでも良かろう?ほら…そこらに蔓延る女よりも、余程美しい我の躯体だ。好きにしても良いのだぞ?揉むも舐めるも吸うも好きにすれば良い。後に我も楽しませて貰う故に………………じゅる」

 

「柔ら…じゃなくて、良い匂…じゅなくて!!貞操!オレの貞操の危機!!嫌だ!初めてが男とか絶対やだ!!」

 

「確かに精神は男だが、体はお前の言うエロくて美人な女のそれではないか」

 

──────待ってヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい!!めっちゃ柔らかい良い匂い!!

 

「ふふ…ありがとう。何だ、それなりに楽しんでいるではないか」

 

「心を視るな!?」

 

 

 

男の体から女の体へと早替わりし、クレアの背後から包み込むように抱き締めた。外気に触れているクレアの鎖骨を右手で擽るように撫で、残る左腕は逃がさないように腹部へと回し、苦しくない程度に抱き締める。すると、リュウマの豊満で柔く弾力のある胸がクレアの背中に押し付けられ、ふにゅんと形を変えていく。女の姿でも170以上の背丈を有し、逆にそれよりも身長が低いクレアは必然的に後ろから抱き締められても、リュウマの顎がクレアの頭頂に乗ってしまう。

 

顎をクレアの左肩に顎を載せ、そのまま薄く赤い色づきを見せる左頬に、自身の頬をじゃれつくように押し付けて頬擦りをした。その際に色素の抜けている銀髪の長い髪が肌に触れ、最高品質の髪の艶やかさを体感した。昨日野宿した際には、リュウマの魔法で創った風呂に入り、同じシャンプーを使った筈なのに、香ってくるのは甘く蕩けるような官能的な匂いが鼻腔を擽る。

 

淡い紅色の唇が開き、耳元で息を吐く度に擽ったく、男とは別に女の声になっているリュウマの息遣いは、傍で聴いているだけで幸せな気分にさせ、耳を溶かされてしまいそうになる。そこに優しく囁き掛けてくるものだから、心臓が心拍を早めて煩い。そして、リュウマは剥き出しているクレアの首にちゅっと、リップ音を鳴らしながら接吻を落とし、舌の先で少しだけぺろりと舐めた。

 

 

 

「うひっ…!な、舐め…!?」

 

「ん…はぁ……据え膳食わぬは男の恥と言うであろう?何、心配せずとも痛くは無い。終始夢気分だ」

 

「お、おい…!」

 

「さて、そろそろ“下”の反応が顕著に表れる筈だが…ふふ。如何かな…?」

 

「あ…ぁ……ぁあ…!!」

 

 

 

麻酔をされたかのように、体が言うことを聞かず脱力し、後ろに居るリュウマにもたれ掛かってしまう。しかし、リュウマはそんなクレアの事を同じく左腕で支え、右手が少しずつ移動を開始した。鎖骨を撫でていた右手が上へと上り、細く長い白魚のような人差し指でクレアの唇をなぞり、下唇に引っ掛けるように下ろせば、柔らかい唇はぷるんと揺れた。

 

そのまま下へと下がっていき、撫でていた鎖骨を爪で軽く引っ掻き、筋肉が余り付いていない、薄い胸板を通り、その途中で乳頭の真上を通過する。その時にクレアの体がびくりと反応し、そのまま下へ。隠れているが、薄く肋を見せる肉付きの薄い肋骨の上を通り、臍の上へと滑るように通過する。そして右手は、クレアの着る着物の裾の間に侵入を果たし、男なのに艶々した太腿を撫で上げ、更には内側へと手を這わせる。

 

一度二度と、上下に太腿の内側を撫で摩る。背筋を登ってくる言い知れぬ快感に、クレアは両手で口を覆って変な声が出ないように努め、子鹿のように震える脚は内股になってしまう。その際にリュウマの右手が挟まれてしまうが、それでも止まらずに内腿を撫で上げていく。太腿の刺激に気を取られている内に、体を抱き締めていた左腕が移動し、左手が胸元の着物の隙間に入り込み、薄い胸板に手を這わせ、薄桃色の乳頭を爪でかりっと引っ掻いた。

 

ぁっ…というクレアの儚げな声が、塞いでる両の手の平の中から聞こえ、それを確と拾い上げたリュウマは、クレアの頬に頬擦りをしながら、その縦長に切れた瞳を細め、口の端を緩りと持ち上げて吊り上げた。左手で胸の一番刺激を感じやすい乳頭を弄り、右手が内腿を扱くように撫で摩り、時には手を広げて握り締めるように強く揉む。そしてそこから内腿の上にある付け根のものへと手を──────

 

 

 

「おぉ…っ!?」

 

「ん…はぁっ……はぁっ……?」

 

「……そこまで。それ以上は…此処では…無粋。それと…教育に…良く…無い」

 

 

 

クレアの体を(まさぐ)っていたリュウマが、背中から離れた。高い体温が離れたことにより、言い得て妙な寂しさを感じるが、ハッとして頭を振って背後を見やった。するとそこには、2メートルを優に越す巨漢であるバルガスが、リュウマの襟首を以て宙吊りにして持ち上げていた。ふらふらと揺れ、首の後ろを持たれた猫のような格好になっている。

 

リュウマを下ろしたバルガスを余所に、乱れてしまっていた着物の裾を素速く元に戻し、下ろして貰ったリュウマに鬼気迫る顔で詰め寄った。

 

 

 

「テメェっ!!何しやがる!!オレは男に抱かれる趣味は無ェぞ!!」

 

「我とて男に好き好んで抱かれに行くような軽薄者でも無ければ趣味も無い。男の精神構造故な」

 

「だからオレは男だっつってんだろッ!!」

 

「はは、此奴言いおる(笑)」

 

「ねぇ殺して良い?良いよね?オレ後少しでも貞操散らされるところだったんだけど?もうギルティ案件だろ?」

 

「蕩けた顔をしていたではないか」

 

「し、してねーしッ!?」

 

「……後少しで付く…筈だ。余は…イングラムを…労って…来る」

 

 

 

そう言ってバルガスは、()()()()()()()()()頭の方へと移動した。リュウマは既に男の姿へと戻っており、暴れるクレアを丸め込んで胡座をかいた上に載せて、頭を撫でていた。

 

此処は地上から3500フィート。メートルに直すならば約一万メートルの位置。そこに紅き紅蓮の鱗を持つ成竜の姿となっているイングラムが悠々と飛んでいた。まだまだ子竜であるイングラムのこの姿は、アルバレスとの戦いでもその姿を見せており、その真相はリュウマの魔法によるものであった。

 

魔法によって未来に成長為うるであろう程の姿まで、一時的に成長させているだけに過ぎない。故にイングラムは、その成長の魔法を解かれれば、何時もと変わらない小さな子竜の姿へと戻る。最初こそは電車を使っていたものの、1つ目の100年クエストが終わり次第、時間短縮の為にイングラムの背に乗って移動する手段に入った。

 

 

 

「……疲れては…いないか。イングラム」

 

「バルガス?大丈夫だよ?飛ぶの楽しいしっ」

 

 

 

イングラムは長い首を後ろへとやりながらバルガスの姿を視界に収め、目を細めながら口の端を上げて嬉しそうに笑った。本能の赴くままに飛ぶ。生物としての矜持があり、翼を大きく広げて無限とも思える大空を翔る力を持つが故、イングラムは飛ぶことが好きだった。何より、同じく翼を持つ大いなる(リュウマ)より、飛び方の何たるかを享受されれば、尚のこと好きになるというもの。

 

二人で散歩と言わんばかりの、何の目的も無い大空への飛翔をした時の快感は、今でもイングラムの大切な宝物(きおく)である。況してや今、そんな宝物をくれた父やその親友を背に乗せ、共に風の流れを感じながら役に立っているということ自体が、イングラムにとってはとても誇らしいものであった。

 

その意を汲み取ったバルガスは、イングラムの首元を擦り、感謝の気持ちを伝えた。それを受け取ったイングラムは、首を前に向け、リュウマ達が目指す町へと泳ぐように飛んで進む。

 

快晴の空。澄み渡った空気。照り付ける暖かな太陽の光。本来は雲の上にもなる超高度に位置した場所故に、酸素濃度が極めて低いのだが、人類の壁を突き抜け、未完成故の完成に至ったこの者達に、酸素濃度がどうこうで騒ぐ程、柔な身体の造りをしていない。無限の進化をするからこそ、低酸素領域に居れば、その低酸素領域でも生存していられるだけの存在へと進化する。それだけのこと。

 

彼等にとって此処は、地上と差して変わらない場所。故に彼等は、移動をイングラムに任せ、暫しの休憩として眠りにつく。バルガスが座り込んで目を閉じ、リュウマがバルガスと背中合わせになるように座り込んで、眠りの姿勢に入る。クレアは無理矢理だが、リュウマの膝を枕にして横になり、目を閉じて寝息を立て始める。3人で仲良く眠る姿を首を曲げて振り向き、確認したイングラムは、背中側の鱗の表面をほんのり暖かくさせ、眠りやすい場所を提供した。

 

リュウマの魔法によって、前から吹き抜ける風に作用されず、慣性の法則等といった物理法則すら捻じ曲げる異空間を、イングラムの背中を覆うように展開している。そのお陰で、3人は逆様になったとしても振り落とされる事は無い。リュウマは例え、眠っていても魔法を継続させることが出来るのだ。

あっという間に夢の中に入ってしまった3人を見ていたイングラムは、クスッと笑うと飛ぶ速度を緩めた。もう少しだけ3人が眠っていられるようにと、そう思いながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お…?あの街か?」

 

「どれ。……ふむ、彼処だな」

 

「……ご苦労…イングラム」

 

「すまなかったなイングラム。後は休んでいて良いぞ。それに、ドラゴンが突然街の前に降り立てば面倒な騒ぎとなる」

 

「サンキュー、イングラム。楽できたわ」

 

「いいよ!じゃあボクはここまで!」

 

 

 

ぼふんという音と煙を上げながら、イングラムは元の大きさへと戻り、リュウマの肩へと乗った。肩にイングラムの重さを感じたことで確認したリュウマは、足場を無くして自由落下を始める前に、背中に生えた6枚の黒白の翼を大きく広げて羽ばたき、飛翔して空を飛んだ。

 

続くようにクレアが扇子を一振りして風を発生させ、操りながら自身の周りに展開する。すると、ふわりと空中で浮遊した。風を自由自在に操る魔導士であるクレアにとって、この程度の事等、息をするよりも簡単である。そしてバルガスも、身体の周りに赤雷を発生させ、全身を雷で包み込むと、特殊な磁場空間を発生させて空を飛ぶ事が出来る。その見た目とは裏腹に、雷速以上の移動すらも可能としている。

 

3人はゆっくりと降下していき、街の入り口であろう検問所へと降り立つ。空から人が現れた事に驚く二人の検問員は、その手に長い武器である槍を持ちながら、足早にリュウマ達の元へとやって来る。

 

 

 

「ギルド妖精の尻尾(フェアリーテイル)から依頼を受けに参った」

 

「……紋章を見せろ」

 

「これで良いな?」

 

 

 

リュウマは王の黒装束の襟首を緩めて左鎖骨の下辺りをを出した。そこには黒いフェアリーテイルの紋章がある。クレアは着物の袖を捲ると左の二の腕を見せれば、側面に紋章があり、バルガスは左の脇腹のところに刻まれていた。検問員は3人の紋章を確認すると、武器を下ろして敬礼をした。

 

 

 

「失礼な態度を取ってしまい申し訳ありませんでした」

 

「確かに彼の有名な妖精の尻尾(フェアリーテイル)の紋章である事と、容姿から聖十大魔道序列一位であるリュウマ様、同じく三位のバルガス様、同じく四位のクレア様と確認しましたので、どうぞお入り下さい」

 

「うむ。務め、ご苦労である」

 

 

 

敬礼をしている二人の検問員の間を抜けていき、一声掛けてから入り口を抜けていった。見ればリュウマ達が聖十大魔道で有名な者達だと分かるのだが、だからといって警戒しない訳にはいかないのだ。

因みに、検問員の二人の横を通り過ぎて行く時、リュウマの肩に乗るイングラムが大きい蜥蜴か何かと思っていたのか、背中に翼があることに驚いた表情をしていた。

 

検問所を抜けて街の中へ入ると、中は人で溢れかえって大いに賑やかな空気を醸し出している。3人と一匹は大通りを歩って進み、依頼主である街の町長が居るであろう場所を見渡して探しながら、賑わいを見せる店の数々に目を通していった。勿論、翼を生やしたリュウマと、容姿が傾国レベルのクレアに巨漢のバルガスが通れば、自然と視線を集めていく。

 

此処はマグノリアの街から、遙か大凡三千キロ離れた街である観光都市ナハトラ。大自然に囲まれ、自然豊かな大地を見て回ることが出来る上に、植物に囲まれる事によって空気が澄み、近くに巨大な滝と滝壺が存在することから観光名所として訪れる人が、毎年後を絶たない。それに自然の中には、人懐っこい動物に溢れ、人を襲うような動物が存在しない。そういうこともあって、人が気軽に訪れる事が出来るのだ。

 

大通りには透明で光を反射して小さな虹を描く、大きな噴水が設置されており、その一番上には二人の人間の姿を模った石の彫刻かあった。周辺では子供達が降り立った鳩を追い掛けて遊んでおり、中にはコインを噴水に投げ入れて、何やらお祈りをしている場面もある。

 

 

 

「よお兄ちゃん。見ない顔だね!どうだい、ここの都市で名物の饅頭は?」

 

「ほう…?ならばそれを20個貰──────」

 

「……そんなことより…依頼人の所へ…行くぞ」

 

「なっ…!待てバルガス!饅頭20個…いや、19個で良いから買わせろ!!」

 

「……却下」

 

「一個しか減ってねーわ」

 

「ボクも食べたかったなー…」

 

 

 

リュウマは饅頭を買おうとしたが、バルガスに止められてしまって購入出来ず、放っておくと勝手に買って食べてそうだった為に襟首を掴んで、引き摺るようにその場を撤収していった。引き摺られていくリュウマは、面白く無さそうな顔をしていたが、バルガスから買うなら後でという言葉に頷き、依頼人の元へと向かっていった。

 

それを見ていたクレアは、まるで駄々を捏ねる子供の事を、適当な事を言って嗜めて静かにさせる親のような一連の会話に、影ながら少し笑った。因みに、リュウマの肩に乗っているイングラムも食べたかったようで、少し残念そうにしていた。

 

そこから店には気を取られず、リュウマ達は大通りを進んで行き、時には道を通行人に聞きながら依頼者である、この街のトップである者の元へと向かっている。店が建ち並ぶ場所から、住居が建ち並ぶ場所へと移ってきたリュウマ達は、事前に聞いていたトップの者が住む住居と、合致する家を見付けた。流石はトップと言うべきか、他の家とは一線を画して豪華で立派な建物だった。

 

装飾の付いた両開きの玄関扉をノックすれば、中からは使用人であろう女性が現れた。クエストを受けに来たと言えば首を傾げられ、100年クエストだと付け加えて言えば、慌てたようにリュウマ達を中に通し、客人の間に通されてしばしお待ちをという言葉と共に、部屋から出て行った。出て行った女性と入れ違いになりながら、他の使用人の女性がカートを押しながら入室し、リュウマ達3人の前に紅茶と、先程の売っていた名物饅頭を出された。

 

 

 

「家主様は今、急遽準備をしていますので、失礼ながら暫しの間おくつろぎ下さい」

 

「うむ。おぉ…?これは先の饅頭ではないか。幸先が良いな」

 

「……頂く」

 

「紅茶も中々うめぇな」

 

「ほれイングラム。我と半分ずつ食おう」

 

「わーい!ありがとうお父さん!」

 

「あっ…!肩に乗られている方の分も直ぐにお持ちに…!」

 

「良い。半分ずつ分けて我は食い終わった。饅頭はもう良いからイングラムの飲み物を持って来い。それで赦す」

 

「畏まりました。直ちにお持ちします!」

 

 

 

急いで出て行く使用人を尻目に、リュウマはイングラムに分けた半分の饅頭を食べさせていた。中にはこしあんがみっちりと入っており、甘くしつこくない控えめの餡子の味が口内に広がる。翼をぱたぱたさせながら喜んで、美味しそうに食べているイングラムに触発されてか、クレアとバルガスも自分の饅頭を少し取り分けてイングラムへと差し出した。

 

美味しい饅頭を3人から貰い、幸せそうか顔をしているイングラムに癒されていると、部屋の扉が開いた。すると、額に汗を掻いたふくよかな体型をした男性と、喚びに部屋を出て行っていた使用人が入ってきた。漸く来たかと腰を上げると、入ってきた男性は人懐っこい笑みを浮かべながら握手を求めてきた。

 

 

 

「ようこそいらっしゃいました。お待たせして申し訳ありません。この街で一応会長を務めさせて頂いているチャッチと申します」

 

「『人類最終到達地点(クァトル・デュレギレーション)』であるリュウマ・ルイン・アルマデュラだ」

 

「オレはクレア・ツイン・ユースティア」

 

「……余は…バルガス・ゼハタ・ジュリエヌス」

 

「ボクはイングラムだよっ」

 

「はい!聞き及んでいます。この大陸で有名な彼の妖精の尻尾(フェアリーテイル)。その中でも最強のチームである『人類最終到達地点(クァトル・デュレギレーション)』の方々にお越し頂くだけでも感無量でございます!それであの…もう一人居ると聞いたのですが…」

 

「もう一人は我の妻だが、今は諸事情により一時的にチームから抜けている」

 

「そうでございましたか!では、ここに居る方々で話を進めさせて頂きます。そして早速で申し訳ありませんが、()()()の方にサインを……」

 

「うむ」

 

 

 

握手と自己紹介を終わらせたリュウマ達は、ソファーに座って話し合いを始めた。会長であるチャッチは、使用人から100年クエストを受けに来たという知らせを受けていたので、事前に契約書の準備をしてから、ここにやって来た。リュウマはチャッチから手渡しで受け取った契約書を読み、確認すると黒い波紋の中から羽ペンを取り出し、サインを書いて返した。

 

今リュウマが渡され、サインをした契約書は重要且つ、100年クエストに於いての特殊なものである。通常普通のクエストでは、依頼人とギルドの証を持つ者が邂逅し、内容に違いが無い事と、報酬についての確認をし、クエストを遂行していく。だが、100年クエストは超最高高難易度クエストであるため、特別なサインを事前に書いて貰う事が取り決めとなっている。

 

そしてその内容というのは…我々はこのクエストに於いての死亡した場合、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()というものである。無論、大怪我を負った場合に於いても自己責任ということになり、何が起きても一切責任を取らせることは無いというものである。命を落とす危険が多く発生するクエストであるからこそ、100年クエストにはこういった特別な契約書が交わされるのだ。

 

 

 

「報酬はどうなっている?」

 

「はい。成功しました暁には、金額にて1()2()0()()J()を贈呈すると同時に、この街に入る時の入場料永久無料のサービス。他にもこの街にある物の全ての物を、あなた方が好きなだけ持って帰って貰って構いません」

 

「ほう…?金額は妥当であったとしても、付属報酬が破格だな」

 

「つまりあれか、()()()()()()()()()()()()()()()()()ってことか」

 

「……100年クエストな…だけあって…達成を望んでいるだろうが…それを加味しても…破格」

 

「ふむ…では内容を訊こう。この100年クエストの依頼内容は何だ?」

 

「クエストの依頼内容は──────とある物の回収でございます」

 

「とある物?」

 

「それは……()()()()()()()です」

 

 

 

そう言ってチャッチは、言葉を切った。英雄の生きた証。訊くだけならば生存している証拠と受け取る事が出来る言い回しだが、よくよく考えればそうでは無いことが解る。そも、このクエストは100年クエストである。つまりは、この内容のクエストが100年間未達成のまま流れているということだ。人間はそこまで長生きする事が出来ない。中にはフェアリーテイルの初代メンバーであるウォーロッドは100年以上生きているが、そういった例は稀である。

 

リュウマは400年前の欠陥魔法によって、代償として寿命という概念そのものを持っていかれて死ぬことが出来ない不死となった。オリヴィエはリュウマが生きている事を確信した為、400年前に存在したとある村に伝わる不老不死の霊薬を飲み干し、名実共に不老不死の存在へと為った。

 

バルガスとクレアに関しても不老不死という事になっているが、これはリュウマが原因である。武器に魂を封じ込め、リュウマの創造の力によって身体を創って貰い、魂を定着させて一種の蘇生を為す。しかし、その時にリュウマは、人知れず人体に於ける不老不死の理論を完成させ、その理論に基づいて二人の身体を創った。

 

しかし、それだけに止まらず、リュウマは万が一という場合も考慮し、二人を眷属化させた。これは不老不死ですらない者が、不死であるリュウマの眷属と為った場合、リュウマの不死の力によって、眷属が不老不死の存在へと昇華される現象を作り出す。そしてその力は、術者が死亡した場合に破却され、眷属は不老不死が解除される。つまり、リュウマが死なない限り二人に死は有り得ず、それ以前から身体が不老不死と為っているのだ。

 

紆余曲折。チャッチの言う英雄の生きた証というのは、年代とクエスト内容から考えて、生きている証拠ではなく、()()()()()()()ということになる。それを瞬時に理解した3人は、依頼内容の詳細を訊くことにした。

 

 

 

「その英雄というのは何者で、何の英雄なのだ?」

 

「本名までは解りません。最早()()()()()()()名前に関する物が残っていないのです。しかし、何と謳われた英雄なのかは残っています。その英雄というのは二人居て…赤の英雄、青の英雄と称されていました」

 

「二人一組の英雄…?もしかして、大通りの噴水の所に彫刻された像がそれか?何の奴か知らねーから分かんなかったからスルーしてたけど、英雄つって讃えられてんならあれがソレでも不思議じゃねぇ」

 

「はい、クレア様の仰るとおりでございまして…あそこに建てられた二人の石像こそが、赤の英雄と青の英雄であり、今から4()0()0()()()に存在した我が街の英雄なのです」

 

「ほう…400年前の英雄か」

 

 

 

チャッチの言葉を訊いてリュウマは、頭の中でそんな呼び名をされていた英雄が居ただろうかと検索を掛けていた。しかし、結局は出てくることも無く、世界に名を轟かせるには至らなかった、謂わば()()()()英雄なのだろうと当たりを付けた。

 

クレアとバルガスに目を向けてみれば、二人も思い至った事は同じらしく、アイコンタクトでリュウマと同じであることを告げた。クレアとバルガスは武器から出て来て1年程しか経っていない為、思い返すのは容易であり、記憶の鮮度で言うならばリュウマ以上である。リュウマは確りと400年生きているので、憶えてはいるものの、確証を得ないという場合もあるし、昔の記憶だからと、当てにならない場合とてあるのだ。

 

 

 

「して、その英雄の所持していたであろう、何を探し当てれば良いのだ?」

 

「何でも構いませんが、確実なのは武器でしょう。古くから伝わる言い伝えでは、英雄達は理想郷へと至り、その地にて骨埋めたと言われています。所詮は言い伝えでありますので、必ず武器があるとは限りませんが、探すならばソレかと……」

 

「噴水に建てられた像が持っていた大剣と大盾だな?」

 

「はい」

 

 

 

実は噴水の所に彫刻された二人の像は、その手に身の丈ほどの大剣と、二人重なっても余裕があるほどの大きな大盾を、その手に持っていたのだ。リュウマ達はそれを探し出すことを第一として、如何しても見付からない場合には、その他のものを探そうと決めた。流石に、400年前の存在である以上、身に付けていた衣服は劣化して、触れるだけでも崩れるか、若しくはもう粉々になって砂の一部になっているかも知れない。

 

だが、それでも依頼は依頼なので、出来うる限り探し出さねばならない。この100年クエストは、残っているかも定かでは無い物を探し出すが故に、若しかしたら何も残っておらず、クエストのクリアは夢のまた夢という悲惨なものになっているかも知れないのだ。

 

 

 

「手掛かりは無いのか?その英雄が残していた手記だとか、痕跡を辿る手掛かりになるやも知れぬ記録等は」

 

「有るには有るのですが……」

 

 

 

チャッチが目を伏せて渋ってから、使用人に例の物を持って来いというと、扉の傍で控えていた使用人の一人が部屋を出て行き、直ぐに戻ってきた。そしてその手には、一冊の本と同じくらいの大きさをした箱を持っていた。使用人はリュウマ達とチャッチが挟んで置いてあるテーブルの上にその箱を壊れ物を扱うように慎重に置くと、頭を下げてお辞儀をしてから下がっていった。

 

チャッチは置かれた箱を開けて、中にある物を取り出した。目測でも一冊の本が丁度良く入るであろう大きさであったので、中には本か何かが入っているのだろうと思っていたリュウマ達だったが、取り出されたソレを見て訝しげな表情をした。

 

 

 

「おいおい。テメェ如何いうつもりだ?まさかそんなもんが手掛かりとか言うんじゃねぇだろうな?」

 

「……申し訳ありません。1年程前…この家に盗みを働く者がおりまして、厳重な大金庫の中に保管していたこの箱の中に入っていた本を盗んでいったのです。幸いなことに全て盗まれた訳ではなく、これだけが金庫の中に落ちていまして……」

 

「……全てでは無い…と言われても…それは…残った…という内には…入らない」

 

「……申し訳ありません」

 

 

 

チャッチが取り出したのは、手の平の半分程度の大きさであろう、小さな白紙の紙であったのだ。確かに全ては持っていかれて無いだろう。しかし、それは苦しい言い訳にしか聞こえず、屁理屈にも取れる。そもそも、そんな紙の切れ端があるだけで、どうやって英雄達の軌跡を追い掛けろというのか。

 

クレアとバルガスの鋭い目付きと怒気に、脂汗を掻きながら焦っているチャッチ。場は不吉な雰囲気へと変わり、部屋の中に居る二人の使用人の女性も、どうなっているのかと冷や汗を流している所で、待ったを掛けたのは他でも無い…リュウマであった。

 

 

 

「そう憤る事も無かろう二人共」

 

「何言ってやがる!最早こりゃオレ達をバカにしてるレベルだぞ!?」

 

「……手掛かりが此だけでは…見付けるのは…困難。況してや…400年前の者達…更に難易度は…跳ね上がる」

 

「落ち着け。何も全て無い訳では無いのだ。この様な切れ端であろうと、元の一部さえ有るならば元の形へと修復させれば良い」

 

 

 

チャッチから紙の切れ端を受け取り、手の中で弄っていたリュウマは、何時もと変わらぬ表情で飄々とそう口にした。確かに、手掛かりが一冊の本の内の…それも1ページの端の、それも唯の切れ端だけともなれば、八方塞がりでどうにも出来ないだろう。しかし、それはどうにも出来ないという言葉の前に、普通ならばという言葉が入る。

 

リュウマは別に、紙の切れ端しか残っていないという事態に、特にこれと言った憤りの感情等持っていなかった。原形を留める事すら出来ていない代物が有るならば、原形を留めていた頃まで戻してしまえばいい。唯それだけの事なのだから。何も残っていないならば面倒なことになっていたが、それでも解決出来ない案件という訳では無い。

 

彼の王の扱う魔法は全能にして万能。お伽話に出て来る魔女が扱うような魔法も、リュウマからしてみれば指先を使うまでも無く実現出来る。そんな最強の魔法使いである彼が、この程度で根を上げていたら、世界最強等名前負けしてしまうではないか…という話だ。

 

 

 

「禁忌…世界時辰儀(ワールドクロック)──────『刻戻し(レヴァルディ)』」

 

 

 

「す、スゴい…!」

 

「紙の切れ端が……」

 

「戻っていくわ……!」

 

 

 

時間…それは出来事や変化を認識するための基礎的な概念である。時間とは、空間と共に認識の、又は物体界の成立の為の、最も基本的で基礎的な形式を為すモノであり、一切合切の出来事がそこで生起する、枠のように考えられているものである。

 

この世に存在する、哲学的概念としての時間は、まず第一に、人間の認識の成立の為の、最も基本的で基礎的な形式という位置づけである。哲学者等の指摘に基き、現在まで用いられ、現在も日々用いられるようになっている意味である。一般に人というのは、日常的にこの意味での時間を“流れ”…として捉えていることが多いのだ。

 

例えば時間は、「過去から未来に絶えず移り流れるもの」だとか「過去・現在・未来と連続して流れ移ってゆくもの」や「過去から未来へと限りなく流れすぎてゆくもの」等と言って表現されるものである。尚、時間の流れに関しては、過去から未来へと流れているとする時間観と、未来から過去へ流れているとする時間観がある。

 

つまり簡単に言ってしまえば、時間というのは、川の流れと同じように、下流や上流といったものは無くとも、一方から一方へと、不可逆性が有り得ない一方通行のものであるということである。しかし、リュウマは世の理である時間を、有機物無機物含め、総て捻じ曲げる事を可能としているのだ。

 

リュウマが手にしている紙から、1ページ分の大きさの紙へと引き伸ばされるように戻り、次第にその枚数を多くさせ、何時しか手の平の半分以下の大きさしか無かった紙の切れ端は、一冊の本へと戻っていた。リュウマは、本の時間を元に戻し、元の状態へと戻したと思われているが、厳密にはそうでは無い。

 

リュウマは本を元に戻したのではなく、此処にはこの本が確かに存在していたが…一部を残して無くなった、という事実の理に纏わる時間の概念ごと巻き戻したのだ。つまるところ、リュウマは本だけでは無く、本と共に流れた時間の流れも一緒に巻き戻してしまったのだ。そして此が意味する事は、所々痛んだりしていたであろう本では無く、書き上げて本として成り立ったその瞬間の本が、此処にあるということ。

 

 

 

「そら、これで完成だ。此ならば問題は有るまい?」

 

「お父さんすごーい!」

 

「ケッ。相変わらずの万能性だな」

 

「……何かと…便利」

 

「魔力を媒介に求め想像した現象を、世の理を捻じ曲げてでも実現させて事を為す。それこそが魔法である。此は当然の帰結だと思うがな?」

 

 

 

呆れたように溜め息を溢しているクレアとバルガスを余所に、世界規模で見ても有り得ないほどの高等技術で魔法を使用した事を何とも思っておらず、一冊の本を手に持ったまま、不思議そうに首を傾げるリュウマであった。

 

そもそも、不思議そうにする時点で間違っており、世に存在する魔導士が全員こんな事が出来るというならば、世界の時間という概念は出鱈目な事になって、混沌とした世界になっている。しかし、それ程の魔法を片手間にやってしまうのが、リュウマ・ルイン・アルマデュラであるのだ。

 

そして、本を元に戻したところで、100年クエストは終わった訳では無い。こんな事、まだ始まった内にも入っていないのだ。ギルドが設立されてから一度もクリアされたことが無い超最高高難易度クエスト…これは最強の二文字を背負う嘗ての王達がチームで挑む、最難関の冒険譚である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『やめろ…やめろリュウマぁぁぁぁぁぁっ!!』

 

 

 

 

 

 

『……ぐッ…こんな物…見たことが…無いッ!余達は…一体何と…戦っている…!?』

 

 

 

 

 

 

『あなたと出逢えて……良かっ…た……』

 

 

 

 

 

 

『貴様はこの場で……この我手ずから殺してやる。決死の覚悟で臨むが良い。最早貴様は細胞一つ残さぬ』

 

 

 

 

 

 

『クソ……クソッ………クソックソックソッ!!クソッたれェ────────────ッ!!』

 

 

 

 

 

 

『すまぬ……後は…──────頼んだぞ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして誰にも、あんな事態になるとは…想像出来るはずも無かったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





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