仮面ライダービースト ~Magic Girl Dinnertime~ 作:流離太
一見すればお金に汚い小物にしか見えませんが、彼女は信念に生きる魔法少女でした。
シスターナナの「お姫様プレイをするためにわざと危険な場所に向かう」という本性に気づいたのも、トップスピードとマジカロイドくらいです。
知恵も覚悟もある魔法少女だったのですが……悲しいかな、まほいく最強の攻撃「不意打ち」の前に散ってしまいました。
二次創作は愛だと思っております。
この小説から私のマジカロイド愛を感じていただければ嬉しいです。
時刻は四時を回ったところ。
とある橋の下にて、浮浪者の男が河に向かって釣り糸を垂らしている。
「所詮、快不快の勘定~♪ それだけで上等~♪ 私の生きる価値~♪」
その横には、入院患者が着る水色の病衣に身を包んだ少女が座っていた。
年は十五くらい。小声で歌を口ずさみながら、自身の指にネイルアートを施している。
元ロボ系魔法少女「マジカロイド44」こと「
「真琴ちゃん、こんなところにいていいのかい? お医者さんには全治一週間って言われたんだろ?」
「いいのいいの。正直入院生活もホテル代わりだと思えば悪くないかなって思ってたけど」
心配そうなホームレス――おっちゃんを尻目に、真琴はうんざりした表情で溜息を吐く。
「あの飛彩って医者が口うるさくてさぁ。消灯時間は九時だから早く寝ろとか、友達を呼んで騒ぐなとか、院内で勝手に酒や煙草を転売するなとか」
「そりゃまあ、病院だからねぇ」
「おまけに永夢とかいう研修医、
『家出なんていけない。家族は仲良くしなきゃ』
とか言って勝手に親を呼ぼうとするし」
真琴は親に無断であちこちを転々としている。
連絡なんてされれば、心配した両親によって家まで連れ戻されかねない。
「その先生、面倒見がいいんだねぇ」
「余計なお節介の間違いでしょ」
ハハ、と真琴は苦笑う。
「あんな煩わしい場所に一週間もいるなんてまっぴらごめんだわ。私、やりたくないことは絶対やらない主義だから」
―― やりたくないことはやらない
それは単なるワガママじゃない。真琴の信念にして哲学だ。
自分が「やりたくない」と思ったことの行き着く先は援助交際の誘いだったり、大体ロクでもないことばかりだった。
それだけは魔法少女に選ばれてからも、頑なに守ってきた。
―― 魔法少女育成計画
一万人にひとりが本物の魔法少女に選ばれるというゲームアプリ。
友達の代わりにレベル上げをしている過程で、真琴は魔法少女に選ばれた。
なりたくてなったわけではないがなったものはしょうがないと魔法少女ライフを満喫していたら、
――『魔法少女の数を減らすことにしたぽん』
そこから魔法少女の潰しあいがスタートした。
マジカロイドの魔法は「未来の便利な道具を毎日ひとつ使うことができる」というもの。その大半が「昆虫雌雄鑑定機」だの「デブリ除去専用マニュピュレータ」といった役に立たないものばかり。
聞けば、スノーホワイトやシスターナナといった非力な魔法少女達は、他の強い魔法少女に守ってもらっているという。
――「宜しければ、ワタシもあなたに協力しようと思うんデスが…」
ならばと、マジカロイドは無法者の魔法少女「カラミティ・メアリ」にコンビを申し込んだ。
シスターナナにも同盟を申し込まれたが、彼女は関わってはいけない類の人間だと思っている。カモとして利用こそすれ、できればお近づきにはなりたくない。
メアリも野蛮で凶暴で理不尽で下種な女だが、シスターナナよりは毛ひとつ分マシだ。
やりたくはないが、生き残るためだ。仕方ない。
だが、
――「一人、殺ってこい…」
ああ、これはやりたくないことだ……と直感的に思った。しかしここまで来れば引き返せない。
恐らくそのような状況がマジカロイドの正常な判断を狂わせたのだろう。だからこそ自分が非戦闘魔法少女であるということも考慮に入れず、ラ・ピュセルとスノーホワイトの二人に襲い掛かるというトチ狂った行動に走ってしまった。
――「おいおい、あの状態の二人に突っ込むなんて、趣味悪いなあんた」
そうして仮面ライダーウィザードに捕まってしまった。
――「お、おやおや…コンバンワ…ウィザード。」
最初は焦った。しかし、次にチャンスだとマジカロイドは考えた。
マジカロイドの人物鑑定眼は、どの魔法少女よりも確かだ。
この正義感溢れるお人よしに哀れっぽい姿のひとつでも見せてやれば、専属のボディガードになってくれるかもしれない……そのように計算した。
――「あんたに協力してやるから、あんまり危険なことはするなよ」
してやったり。マジカロイドは心の中でガッツポーズをとった。
紆余曲折はあったが、最後は自分みたいな賢いものが生き残る……そう思った矢先
――「ウィ…ザード…どうやら私は…あなたの言う…通り…本当に…危険な人に…関わったよう…で…」
――「迷…惑を…掛け…て…ごめん…なさい…」
メアリの報復に遭い、入院を余儀なくされてしまった。
口先だけの謝罪を言葉にしながら、生まれて初めて己の気持ちを曲げてしまったことを、心の底から後悔した。
―― ああ、やっぱりやりたくないことはやるべきじゃなかった
それから真琴は死ななかったものの、魔法少女に変身できなくなってしまった。
メアリに撃たれた足はまだ痛むが、平凡な生活に戻れたわけだ。
元々なりたくて魔法少女になったわけじゃないし、再び殺しあいの場に放り込まれたらと思うとゾッとする。
―― でも。
「お、かかったかかった」
感傷に浸っている途中で、おっちゃんが喜びの声を上げた。
見ると、竿が今にも折れそうなぐらいしなっている。どうやら大物の様子。
「くぅっ、なんて馬鹿力だ! こいつを釣り上げれば、しばらく飯には困らんぞ!」
「手伝うよおっちゃん」
「真琴ちゃんは足の傷に響くだろ! ここはおっちゃんに任せときな
……どりゃあああッッ」
おっちゃんは掛け声をかけると、勢いよく釣竿を振りかぶる。
すると、釣り針を口に引っ掻けた大きな影が、水しぶきと共に引き揚げられた。
それは、
「痛ててててッッ!! マジ痛ってぇええッッ!!」
「なんだ、人か」
陸揚げされ、釣り上げられた人物は鯉のようにぴちぴちと悶え跳ね回る。
「あっ」
真琴は思わず声を上げる。見覚えのある顔だ。
確か、ウィザードと一緒に真琴を助けてくれた魔法使い―― 仁藤攻介。
「……ってことがあってさ」
橋の近くにある電話ボックスにて。
真琴はコイン投入口に十円玉を追加しながら、受話器の向こう側にいる人物へ今さっき起きた出来事を説明する。
「それで、仁藤は無事なのか?」
「うん。一回意識を失ったけど、おっちゃんの懸命な人工呼吸で息を吹き返した。
なんか『俺の初めてが……』って体育座りしながら泣いてたけど」
「仁藤、ファーストキスだったのか……」
電話相手の「ウィザード」は、哀れむような声で仁藤に哀悼の意を唱える。
真琴がやってやってもよかったのだが、自身もキスは初である。
ボジョレー・ヌーボーしかり早カツオしかり、初物は有り難がられる。価値のあるものをこんなところで簡単に浪費したくない。
「ともかく、知らせてくれてありがとな」
「まぁ、あんたには一時でも守ってもらった借りがあるしね」
「意外だな。君はそういうの気にしないタイプだと思ってたよ」
「さりげなく失礼ね、あんた」
「あの時だって俺のこと、体のいいボディーガードとして利用しようとしてたみたいだし」
やはり気づいていたか。
食えないやつだ。
「タダより高いものはありマセンカラ♪
これで貸し借りは無しということでお願いシマス♪」
無償奉仕なんて信じない。
世の中はギブアンドテイク。
労働の対価はきっちり請求するし、きっちり支払う。
「そっか。どうやら俺は、君のことを誤解していたみたいだ」
「わかりゃいいのよ」
「あ、そうそう。これが終わったら病院戻れよ?ご両親心配してたぞ?」
「大きなお世話」
真琴はガチャリと、不機嫌そうに受話器を置く。
「ふぅ」
もう関わりがないと思っていたウィザードとの通話のせいか。
頭の中で、自分の魔法少女時代の記憶が次々とフラッシュバックする。
―― 友人の代わりにレベル上げをして、魔法少女に選ばれたこと。
―― 初めてした人助けで「化け物」と恐れられたこと。
―― シスターナナをカモに、ゴミみたいな未来の道具を売りつけたこと。
―― トップスピードの箒に乗り、死ぬような思いをしたこと。
―― 母へのプレゼントが壊れて泣いている子どもに、未来の道具をプレゼントしてあげたこと。
思い出が、浮かんでは消えていく。
魔法少女なんてお金にならないし、いいことばかりではなかった。
未練なんてないと思っていた。
――でも、
魔法少女は、やりたくないことではなかった。
今思えば、魔法少女生活をそれなりに楽しんでいた気がする。
けれども、すべては終わったこと。
「金にならない商売さ~♪ 魔法なんてもんは、ありゃしな~い♪」
陽が西に傾きかけた春の空の下。
真琴は微笑し、歌を口ずさむ。
茜雲のラインを引きながら飛び往くジェット機に、マジカロイド44の姿が重なって見えた。
静かな回が続きましたが、次回からファヴの送り込んだ刺客が本格的に牙を剥きます。
さて、その刺客とは……?
シャバドゥビ ダッチ ヘンシーン!
チェンジ! ナウ!