幼女ルーデル戦記   作:com211

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10:大隊

「スコアの件ともう一つ、君らの意見が聞きたかったのだが、貴官ら2人はこの戦争をどう捉える?」

問われている内容が明確でないので明確にしようとした矢先、ハンナが先に答えた

「大戦に発展しうると考えています」

「大戦…とは?」

「主要列強の大半を巻き込んだ大規模な戦争。世界大戦と呼ぶべきでしょうか」

 

「…根拠は?」

ハンナは主観が入りすぎてるので割り込んで説明は私が引き継ぐ。

 

「まず帝国は他の列強に対して国力、軍事力の点で頭一つ抜けて優位に立っています。他の列強に対して1対1であれば勝利できるでしょう」

「うむ、共和国には勝てるだろう」

共通認識があるというのは話がしやすくてありがたいことだ。

 

「しかしながら、この優位は他の列強には脅威であり、共和国を勢力下に入れることを連合王国や連邦が見逃すとは思えません」

「彼らはこの戦争には直接関わっていないはずだが?」

「仮に共和国を帝国が併合、もしくは国力を抽出できる状態にしたとすると、帝国は2つの列強と同時に戦争をして尚、優位に立つことが出来る超大国、いえ"覇権国家"となります。仮に帝国が敗北したとすると、逆もまた然りです」

 

「なるほど。そのような圧倒的な脅威が目の前で誕生するのを何も言わずに見守る事は出来ない。そういう訳だな」

「はい。これを阻止するためには共和国と帝国が消耗して共倒れになるようにするしかありません」

 

「具体的には?」

 

「外交的圧力、レンドリース、義勇軍の派兵等が分かりやすいかと」

 

「直接参戦の可能性は?」

 

「帝国が共和国に勝利した、若しくはその可能性が高いとすれば、多少無理にでも参戦すると推測します」

 

「勝利、敗北、共倒れ。どれを取っても帝国にとって最終的な勝利とは言い難い、と」

 

「はい」

 

「では我々はどうすれば良いのか?」

「勝利に対する考え方を変えねばならないでしょう。完全勝利は最終的な敗北に繋がりかねません」

 

「勝利を目指さない…と?」

「勝利の定義を変えるべきです。現状のままの"勝利"を目指すのは危険です。

共倒れを防止するという点では帝国の消耗を限界まで抑制し敵に出血を強いて、戦費を回収できる程度の条件での講和が最も益のあるものと考えます」

 

どっかの世界線の遊戯では消耗抑制ドクトリンは某仏国の士気の低さを再現するために用意され、

負ける運命が確定した残念国家、実質罰ゲーム用、カエル野郎専用の梅毒ドクトリンなので

あまりおすすめしたくない。というかこれ採用したらフォウニーウォーもなく負ける気がする。根拠はない。

 

「現状の塹壕戦は他の列強の思う壺ということか…」

「残念ながら」

「我々もこの勝敗が見えない塹壕戦を何かしらの方法で解決しなければならないと考えている。空から見て、この塹壕戦に思うところはないかね」

 

「私達が見ていた第七戦闘団の防空範囲は航空戦で圧倒的な優勢ですから、敵の突撃は歩兵が対処する前に破砕されるかなり特殊な地域になるので別としまして、」

という前置きをしつつ

 

「たまに派遣される敵方が航空優勢な地域を見る限り、敵の戦車運用があまりにも分散しているがゆえに運良く失敗しているという印象を受けました。戦車は塹壕戦を突破するのに非常に適した兵器です。

 

一方我が方はそもそも航空戦において押されており、航空優勢な地域は高練度の魔道師が集中投入される"特殊地域"と言えるラインラント周辺にしか無く、ラインラント以外ではそもそも攻勢を実施できないため戦車の攻勢運用自体がされていません。

他方、ラインラントでは戦車は不要です。我々がいる間、敵方は航空機ですら空を飛べる状態にはありませんでしたから」

 

「航空機?」

 

「ルーデル大尉は高高度上昇と高速飛行ができるので戦闘機まで落としてしまいます」

「魔導師よりも的が大きい分むしろ落としやすいくらいです」

ハンナが肯定する。

 

確かにUFOじみた動きをする魔導師などよりも的が大きく、自分も散々乗り回し、ときには追いかけ回され動きが先読みできる戦闘機など完全にカモでしか無いだろう。

 

詳しくは聞くまいとゼートゥーア閣下は話を続けた

「…君たちは、塹壕戦において戦車と制空権が重要だと考えているのだね?」

「はい。航空優勢と戦車の集中運用に加え、歩兵を自動車に乗せることで戦車の機動速度に随伴し、更に可能であれば野砲も自走化。敵が対処できない速度で攻撃すれば敵は塹壕を建設する間もなく崩れると考えています」

「先程話していたのはその事かね」

 

「はい、ですがまだ研究の途中でして…」

「途中で構わん。まとまっている範囲で話してくれ」

 

二人で検討していたのは「縦深攻撃」及び「電撃戦」に魔導部隊の要素を入れたもので、

機械化するべき砲兵の一部を爆撃機と魔導部隊で置き換え、更に偵察を魔導師のみで実施する。

 

こうすることで迅速に広範囲で正確な敵戦力の把握が可能となり、電撃戦における先鋒部隊の基本である「戦闘の回避」を徹底する。

さらに、迂回不可能な場合は近接火力支援を行い地上部隊の突破を援護する。

しかし、これら2つを実現するためには敵の魔導師及び航空戦力の排除が必要で、制空任務も加わる。

特に魔導師は近接火力支援、偵察、制空を行わねばならず

魔導部隊への負担が非常に大きいドクトリンとなる。

 

このため先鋒の機械化部隊に随伴するのは高練度の部隊を用いるか、

数的な優位を確保するかの二択となり、どちらにせよ必然的に魔導師の集中運用が重要となり、

魔導部隊の大規模な再編成と機甲戦力の拡充、歩兵の自動車化、機械化を同時に行う必要がある。

 

「開戦時の共和国による機動戦は同様の考えによって行われたものだと思われます。

魔導師戦力が壊滅し補給部隊が打撃を受けたために撤退していますが、

仮に突破された場合は多大な損害を被っていたことでしょう」

「戦闘教義の時点で遅れを取っていると言いたいのかね」

 

「残念ながらその可能性は高いと考えています。

現在の共和国軍は装甲部隊を分散運用していますが、開戦初期に集中運用を提案した人物が居たのは確かです。

失敗したために歩兵支援の分散運用に切り替えています」

 

「…わかった。だが歩兵まで機械化するとなると時間と予算が必要だ。今すぐ改良できそうな部分はないかね」

 

「魔導師も突破重視の集中運用をする事でしょうか。高練度の魔導師のみで構成された部隊であれば敵の後方に侵入するだけで敵方の補給を断つことができますし、小さい空輸負担で機動防御も可能です」

「わかった、検討しておこう。

機動戦理論の方は完成次第私のところに回してくれ」

「はい」

 

 

 

後にゼートゥーア准将の手に渡った戦略論文は参謀本部で再検討され、

"大戦の形態と戦局予想及び目標策定"という名前で参謀本部に広まることとなる。

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――

1924年9月某日

帝都ベルリン ゾルカ食堂 

 

 

休日。軍大学が休みだと言うだけだが結局いつもコレと行動を共にする。

 

「きょうはどうしようかなー」

「本当に何歳なんだお前」

「11さい!」

なんか精神年齢が年々下がってる気がする。今は精神年齢4-6歳くらいだろうか。

 

そんな事を考えていると、珍しい人物が店に入ってきた。

「ウーガ大尉殿、珍しいところでお合いしました」

「いつもここだと衛兵司令に聞いてね」

「なるほど」

 

「デグレチャフ中尉、ルーデル大尉、同席させてもらっても良いかね」

「いいよ~!」

ちなみにコイツ、この状態だと上官相手でも口調が変わらない。

「もちろん。どうぞ」

 

「…ルーデル大尉はいつもとは大分…」

軍大学だと寝てるか真面目モードかどっちかだから驚かれるのも無理はない。

 

「おかしいでしょう?切り替えが激しすぎて疲れるんですよ。

こんなのが撃墜数ランキングの上位を張ってたなんて国民に知られたらどうなるやら」

「まあ、年端も行かぬ少女を戦わせてたと非難轟々だろう」

「わたしは好きでやってるのになー」

 

「…失礼を承知で聞きたいのだが、君たち2人はなぜ軍に志願した?」

…どういう意味だろう。軍にいるのがふさわしくないとでも思われたか

 

「いや、階級やその他のことは関係なく単純な興味からの質問だと思ってくれ」

「はあ」

「君達ほどの才能があれば道はいくつもあるはずだ。なのに何故軍に志願した?」

 

「魔導師適正があるとなれば軍からは逃げられません。早かれ遅かれ軍に入るだけです」

「しかし徴用は早くとも15歳から、戦争がそれまでに終われば軍に入らずとも良いし、

それに軍大学に入れるほどの学力があれば、帝国大学に入ってあらゆる徴用を避けることが出来る。なのに何故」

 

…正直に話すわけにも行くまい。言っても理解できるわけがない。

 

「私の父は軍人で、戦争で亡くなってしまったそうです」

「…」

「孤児だった私に他の道などありませんでした。魔導適性があり、いずれは軍に入る。

ならばと孤児院を一番早く抜け出す方法、"軍に志願する"という手段を用いたに過ぎません」

 

「しかし士官学校に入るほどの学力があれば高等教育への道も」

「ありませんよ。孤児に選択の余地などないのです。

むしろ私は恵まれているのですよ。本来なら入れないはずの士官学校にも、魔導適正があるから入れた」

「軍人遺族なら恩給は……」

「私は父親の顔も知りませんし、母親が何者なのかもわからない私生児です。ただそう知らされているだけです」

あまり嘘を語るのは気が向かないが…

 

「る、ルーデル大尉は」

「わたしはねー、空が飛びたかったの」

「空?」

「ある日おかーさんがパラシュートのおもちゃを買ってきて、それを真似してパラシュートを作って二階から飛び降りたの。

空は飛べなかったけど、少し浮いた気がしてもう一度飛んでみたら、もっと遠くまで飛べたの。

それを繰り返してたらずーっと遠くまで飛べるようになって、学校で調べてもらったら魔導適正があるって」

 

自伝か何かに書いてた話と"こっち"にきてからの話をごっちゃにしてるな。

 

「…」

「それでね、軍の魔導師になったらもーっともーっと遠くまで、高くまで飛べるってきいて士官学校に行くことにしたの!」

 

「そうか…」

スコアや軍大学での態度とはあまりにも乖離したいかにも子供らしいハンナの回答に戸惑っているようだ。

 

「しかし、君達はまだ子供だ。軍人はやめるべきだ」

「えー」

……まあハンナの方はそう言われても仕方ない。

完全に普通の女の子が前線で敵を墓場に、いや墓場すらないところに送り込んでいるのだ。

一般的な人間なら想像しただけで嫌になる。

外から見る限り純真無垢な幼女が、数千、いや数万という人間を屠っている。

これは絶対におかしいし正すべきかもしれない。だが……

 

「戦争が終わったら民間の魔導師になる道だってある」

「ウーガ大尉殿、大尉殿は"コレ"はともかく小官の資質を疑われるのですか?」

 

私は違う。見た目はハンナとそう差はないが一人前の軍人として振る舞えていると自負している。

年齢こそ子供だが中身は当然別物。実力主義の帝国軍において私の存在を否定するのは宣伝省位のものだ。

 

「それは違う、君を資質無しというなら帝国軍将兵全員が銃を置かねばならないだろう」

そのような私の考えを否定し、続けた

 

「だが君のような子供が戦争に行くことに違和感を覚えるのだ」

「まあ…そうでしょう。特にこの幼女大尉なんてこれでトップエースの一角ですからね

ですが、私に関してはたまたま身長が低いだけの一般的な士官であると考えていただきたい」

「だが」

 

「ウーガ大尉、どうされたのですか。そこまで言うのはあなたらしくない」

 

「じ…実は子供が生まれたんだ。女の子の…」

「それは、おめでとうございます」

 

「君を見ていてふと思った。自分の娘も戦争に行くことになるのかと、

可愛い盛りの子供を戦場に送る社会など……」

 

「おかしいと思います。

私自身、宣伝省の方からは退役するべきだと何度も言われています。安心してください大尉。

社会は"まだ"正常です。私達二人が例外なだけで」

「わたし、おかしい?」

「お前がおかしくなかったらこの世の何がおかしいんだ」

なんかもう上官ではなくてボケをかましてくる面倒な妹みたいだ

 

「ちなみにルーデル大尉は家族に反対されなかったのか?」

「おかーさんは、『毎日崖から飛び降りるよりはもう軍隊行くほうがマシね』って

おとーさんは主が力を与えてどうの言って良くわからなかったけど、とりあえず賛成してくれた」

 

「ご、ご理解のある両親だな」

 

 

「わたしは飛ぶのを邪魔してくる奴等をね、この世から根絶やしにするの!」

ハンナのかなり狂気的な一言を聞いたあとはウーガ大尉はこの件について触れなかった。

 

……本気で敵を全部根絶やしにする気だろうか

 

 

―――――――――――――――――――――――――

 

1924年10月某日

帝国軍参謀本部 陸軍第一晩餐室

 

「まずは、昇進おめでとう。デグレチャフ大尉」

 

「ありがとうございます。大佐殿」

 

「いきなりだが、貴官の配属についてだ。古巣の第七戦闘団に原隊復帰や教導隊というのが本来のところだが…」

言わなくとも分かる。参謀本部のが本命だろう。

「参謀本部からも一件、来ている。存分に迷い給え」

「選り取り見取りでありますな」

そんな訳がない。実質参謀本部案件一択。

 

「参謀本部の件については、ゼートゥーア准将から直接お話があるそうなので…」

そう言って人事局のコードル大佐は席を外し

「小官はこれにて」

「ご苦労コードル大佐」

 

ゼートゥーア准将に話を引き継ぐ。

参謀本部案件は吉なのか凶なのか…

 

「さて、貴官らには新規で大隊を編成してもらおうと考えている。参謀本部直下の実験的な大隊だ」

主語が複数形。つまり……

「それは"ルーデル大尉と"ということでしょうか」

「そのとおりだ。彼女は昨日同じ話を快諾してくれた。ちなみに彼女も少佐に昇進している」

凶であった。大隊を率いて前線に出ろというのが参謀本部直々の命令である。断れるわけがない。

 

奴とセット扱いになった時点で嫌な予感はしていたが、

戦争にルーデルが前線に出て暴れまくり、代わりに私は参謀本部付きで夢の帝都ライフという夢は脆くも崩れ去った。

どうしてこうなった…

 

ルーデルのせいとは言わん。奴が居なければ私は北方ですでに死んでいるはずだ。

 

 

「君ら2人の”縦深突破"と"電撃戦"は参謀本部でも高く評価しているし、仮に連邦の膨大な兵力を相手にした時には最も効率的なドクトリンであると考えている。だが予算を大量に使って機械化部隊を作る以上、参謀本部以外からの反対で頓挫しかねない。君らにはそれらを、特に財務省を黙らせるだけの戦果を期待している」

「…お言葉ですがルーデル少佐一人で十分なのでは?閣下も御存知の通り"アレ"ならば連邦一個軍の戦闘力をほぼ一人で奪えますが」

「それでは意味がない。人事局などの反対を押し切ったのだから、君らには"電撃戦"の要素の一つとして魔導師の集中運用と襲撃が効果的であることを参謀本部以外に見せつけてほしい」

 

「人員の選定はこちらで?」

「人事局との折衷案でな。教導隊から数人を送り込むが、あとは東部戦線を主体に西部戦線からも支障のない範囲で好きに引き抜いていい。48人以下で編成してくれ。手段も任せる」

「増強大隊ですか。部隊名は」

「ルーデル少佐から今後も規模を拡張することを考えて独自の編成形態を取りたいとの意見から名称及び編成が独自のものを要求してきた。

第52魔導戦闘航空団の第一大隊という事になっている。略称I/JG52…やたらと中途半端な数字だが、これがどういう意味か大尉は分かるかね?」

「い、いえ…」

 

JG52、私もヤツも知らないわけがない。

エーリヒ・ハルトマン、ゲルハルト・バルクホルンが所属したエースだらけの第52戦闘航空団。

元SG2指揮官、ハンナ・ウルリカ・ルーデルがその部隊に付けた名前は推測するに、その部隊の目標を示すものである。

対地攻撃をしながら"10000騎"を撃墜。連邦の魔導人的資源が現在のところ大粛清に伴い推測で3万以下なので、その3分の1を狩り潰す…本気でアカを根絶やしにする気なのだ。

 

ルーデルも分かってはいるだろうが撃墜数というのは"普通"多めに報告される。

過小報告してもっと殺せると喜ぶような斜め上のバカは全地球上の全史を探しても流石に一人しかいない。

そしてルーデルが今カウントしているのは推測撃墜ではなく撃墜確実のもののみ。つまりJG52を遥かに超えるスコアを目標にしているに等しい。

 

……根絶やしという言葉が、妙に現実味を帯びてきた気がする

 

「ただ、運用統合の都合で表向きは単なる3桁番号を持つ増強大隊だ。編成番号V601。

新設されるJG52の指揮下に編成番号V601の大隊が配置される形になる。

なお、編成する大隊の48人に戦闘団本部人員は含まないものとする」

 

ちなみにこの場にルーデルも呼ばれていたのに居ないのは「自主訓練中行方不明」ということらしい。

実際は准将に直接「ラインで暴れる予定なので無理です」と断ったそうな。

つまり奴はすでに実質原隊復帰している。共和国はまた多大な出血を強いられるだろう

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――

1924年11月某日

参謀本部 V601部隊準備室

 

さて、部隊を編成するとして、どうするべきだろうか。

求められているのは「集中運用を目的とした高練度部隊」である。

引き抜きが自由とはいえ、帝国最高練度部隊と推測されるラインラントの第七戦闘団から引き抜くことは戦線に支障をきたしまくる。

…東部から引っこ抜いて再訓練して編成するしかないか

 

というのは表向きの考え。実際は"如何にして部隊編成で時間を稼いで前線に出る時間を削るか"という算段を立てていた。

そんなことしていたらハンナがキレそうなものだが、ヤツは"訓練"と称して西部戦線に向かったものの、

現在は実質205に原隊復帰。ラインラントで一年ぶりの猛威を奮っているに違いない。

カエル野郎共には悪いが貴様らの命は無駄にせず私の後方勤務時間を稼ぐダシにさせてもらおう。

 

とにかく過酷な条件で募集を募って志願者集めをできるだけ引き伸ばしてやる。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

……という予定だったのだ。

実際に大量の志願書が届くまでは。

 

どうしてこうなった。

 

気が遠くなる。どういうことだ…頭が回らない…

 

 

ハンナが帰ってきて書類の山を見回したあと募集要項を見て、さらに精神をえぐってくる

「お前、この文面で募集出したのか?

日本じゃどうか知らんが、前の大戦でも民族や国家の存続に貢献し名誉を得るためなら命を捨てるやつはいくらでもいただろう」

「いや…戦前日本はまさにそういうのだらけだ…」

今思えば思い出す限り一番古い例では島津の捨て奸(すてがまり)を筆頭に戦争となれば命を捨てる侍だらけの島だった。

江戸を挟んだあともかなり…

 

「自分の感覚だけで人を制御するのは難しい。士官学校でもそうだが、妙なところで失敗してるな。

平時日本の会社員感覚と国家存亡の危機にある国家の感覚は全くの別物だ」

 

「全くもってその通り……」

至極当然のことを言われ、愕然とする。

ちょっと考えれば分かるものなのになぜ自分は自分の基準で募集文を書いてしまったのか。

そんな考えが足りなかったばかりにこの書類の山…

 

現実逃避をしても仕方がない。

「まあいい、これだけ志願書があれば処理に凄まじい時間がかかる。"念入り"に審査して時間を稼いでやる」

「これ以上遅滞させようとするなら職務怠慢として報告するぞ」

「それだけは勘弁してくれ!」

 

そんなやり取りをしていると扉を開く音がした。

「あ、あのー」

 

聞き覚えのある女の声。女?参謀本部に?

「この度V601に配属されま「ヴィーシャ!」

幼女少佐が飛びついた。さっきまで真面目な話ししてたよな?

「お、お久しぶりです。ルーデル隊長」

「おひさしー」

「ヴィクトーリヤ・イヴァーノヴナ・セレブリャコーフ少尉、本日付でV601に配属されました!」

 

 

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用語解説:負ける運命が確定した残念国家

実質罰ゲーム用、カエル野郎専用の梅毒ドクトリン

 

HoI2のイタリア、フランスAIが主に採用する消耗抑制ドクトリンの事。

散々な言われようだが、実際縛りプレイ、罰ゲーム用扱いされるクソドクトリンで、

防御重視という扱いなのだが、指揮統制が上がらない、士気も上がらない、

生産ボーナスがちょっとだけ付くがどうせ役に立たないというゴミっぷり。

 

多分一次大戦なら役に立つんじゃないかなー…

 

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用語解説:カエル野郎

フランス料理にカエルがあるので、"蛙食い野郎"という意味なのか

"froggy"という古典的な差別語。

ちなみに二次大戦後は降伏が早かったので「サレンダーモンキー」が追加される

 

用語解説:サレンダーモンキー

Cheese-eating surrender monkeys(チーズを食べながら降伏するサル野郎ども)

の略。言わずもがなフランス人のこと。




おまたせしました一年と数ヶ月ぶりです。
え?幼女戦記の映画やってたから便乗だろって?
いえ、この話自体は去年6月あたりからえっちらおっちら修正を加えながら書いてきたものです。

紆余曲折書き直しを何度も繰り返していながら、相変わらず低い完成度になってしまっていますが
いつまで経っても投稿できないよりはマシかなと思った次第です。

次は既に手を付けてある程度形になってはいます
4月末までには…

(気まぐれで用語解説を追加、そういえば原作でもVicに言及されてたのでhoi2もいいかなーって)


追記 用語解説について
基本的に幼女ルーデル戦記は「自分と似たような知識範囲の人向け」に作ってますけど、
流石に初見お断りスタイルもアレなので原作みたいに用語解説を充実させようと思います。

ただ、その用語解説の場所を原作通り文中にするべきか、
文末にするべきか、それとも不要なのかがちょっとわからないのでアンケートやります。

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