もう少し内容を詰めても良かったのですがこれ以上こねくり回すより先に進むべきだと思うのでこのまま投稿で。
結論から述べよう。ルーデルと共に帰還したクルスト・ハラルド両伍長は後方への配置転換を受領した。
あの2時間後、顔面蒼白になった二人を連れてルーデルが戻ってきてからすぐのことだった。
「いったい何をしたんだ」
「単に中隊規模の敵と戦わせただけだ。それ以上のことはしてない」
そういえば奴ら、まだ対魔導師戦闘の経験はなかったか。
初戦だというのに中隊規模、12人から16人程の敵を2人で相手にしたのだ。普通なら死んで当然だが
死ななかったのはハンナが何かしたからだろうが…
「もう遅い。今日は寝る」
ハンナは詳しいことは何も言わず寝床に向かっていった。
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11月9日 0700
205中隊本部テント
「中隊諸君。任務だ。
戦線中央地域で砲撃観測をしていた友軍魔導師が敵魔導師部隊に捕捉され、友軍の塹壕に釘付けにされている。
これを救出、可能であれば制空戦闘を実施する」
「観測手狩りですか」
「ルーデル中尉とデグレチャフ少尉は北方で経験済みだったな」
「ええ、一人だったら死んでました」
「共和国の雑魚共ならともかく、私もあまり一人で協商連合の一個中隊を相手にする気にはなりません」
「我々が苦戦している相手を雑魚とは、酷い評価だな」
「北方と比べると数だけやたら多い割に歯ごたえが無さ過ぎます。接近して荒らし回るだけですぐ壊滅して逃走を始める。これを雑魚と呼ばずして何と呼べば?」
相変わらずのルーデル。どうも楽しめない敵ばかりでご立腹のようだ。
「我が軍のすべてが君のように戦えれば我々もこういう任務をせずに済むのだがね…」
「それだと帝国が慢性的な牛乳不足になってむしろ戦えなくなるのでは?」
隊の誰かがそう言った。
隊長を含めた全員の笑い声が本部テントから聞こえてくる。
基本的に"地獄"と形容されるライン戦線でそんなことが起こる部隊がどれだけあるだろうか。
第七戦闘団以外ではほぼありえないだろう。
数に押し切られて全滅した中隊もそれなりにあると聞いている。
作戦説明中に冗談が言えるこの部隊を良いか悪いかで語ることはできないが、
少なくとも全員に余裕があるということ。
結果と戦果も考えればまあ悪いことではないと断言できる。
「確かに牛乳の欠乏は深刻だな。さて、本題に戻るが…」
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「何か質問は」
「我が小隊は現在2名です。セレブリャコーフ伍長の技量と疲労を考えますと作戦遂行は難しく、セレブリャコーフ伍長を外してルーデル小隊に合流するべきだと考えます」
流石に新兵を引き連れて制空戦闘に出るというのはあまりよろしくない。
第一ハンナが居るなら、伍長は足手まといだ。
速度差がありすぎて色んな所に支障をきたす。
「はっきり言って今回の任務においては邪魔です」
…いやまあ、制空戦闘能力だけ見れば本来あれ一人でも十分だが。
「救援に出た挙句、部下も救助対象も死なせるわけにはいきません」
「中隊としては構わないが、伍長の意見も聞かねばな」
「私は…私は任務に志願します!」
「やめろセレブリャコーフ伍長、今回は仮に撃墜されたとして貴官を拾える余裕があるか分からない」
「私とて帝国軍人です! 小官は任に耐えうると確信します! 中隊長!」
「だそうだ、少尉」
中隊長は本人の意見を尊重しろとでも言いたいのだろうか。
だがお断りだ。無駄なリスクを増やすべきではない。
「あのな伍長」
「いいじゃないかターニャ、本人がこう言っているわけだし、たかが共和国軍相手だぞ?」
ハンナまで同調する。対共和国制空戦闘をピクニックか何かと同程度にしか思ってなさそうに言う。
奴の感覚では、吹けば飛ぶ共和国軍を殲滅するのは雀や鳩を蹴散らすのと何も変わらないのだろう。
…というか出撃は食事や歯磨きなどと並ぶ日常生活の一部と捉えているに違いない。前世からそうだ。
食事の回数より出撃回数のほうが多い、それがルーデルの日常だったわけで、今もそんな生活をしている。
だがそれを新兵にも適用できるわけでないことは本人もよく分かっている。
加えて部下の面倒見が良いのも前世からであり、
ハンス・シュウィルブラッドなど、対地攻撃エースを配属直後から育て上げた実績から考えるに…
「ただしヴィーシャ。付いてくるのはいいが、くれぐれも同輩の2人と同じような真似はしないようにな」
「はいっ!」
そのルーデルが認めたのだ。ある程度は期待できるのかもしれない。
私も認めてやるべきか。
「分かった。だが足手まといと判断したら容赦なく置いていく。そこは覚悟しておけ」
若しくは…まさか伍長もアレに感染したか?
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『アドラー2からアドラー1、救援対象を見つけたが目の前で撃墜された。塹壕上空に敵魔導師部隊、大隊規模』
『こちらアドラー1了解。ルーデル小隊は一時後退し本隊と合流せよ』
『
『…後退に関してはそちらの判断に一任する。幸運を祈る』
『あの程度気にすることでもないだろう。アドラー2アウト』
「ということで小隊諸君。あの敵部隊を潰すぞ」
「隊長、相手は大隊規模ですよね…?」
「そうだ。30名ほどの部隊だな」
「いくら中尉でも大隊規模を相手にするのは無茶です!
私を切り捨てて退避してください! 覚悟はできています!」
「断る。私が高速で近接していつも通りかき乱す。後はヴィーシャと2人で適当に攻撃してくれ」
「いつものだな」
「あ、あのっ隊長!」
ハンナは返事もせず上昇しながら加速していった。
ここ最近は低空ではなく高高度がお気に入りのようだ。
「隊長! ルーデル中尉!」
この場合、軍人としては新兵を切り捨ててでも増援と合流して叩くのが正しい判断だろうし、
セレブリャコーフ伍長もそれを分かっていてこんなことを言い出したのだろう。
…例外だらけの小隊でそれが正しいとは限らないが。
「少尉! 今からでもルーデル中尉に私を見捨てるように進言していただけませんか!」
しかし伍長はどうしてここまで必死になっているんだ?
…ああ、そういえば。
「確か、貴官はルーデル中尉の制空戦闘を見たことがなかったな」
「えっ、はい」
「なら、奴…ルーデル中尉と飛ぶときだけは常識的な判断は意味がないということを理解しろ」
「それは…」
「見てれば嫌でもわかる。空飛ぶ非常識を目の当たりにしてから考えても遅くはないぞ」
「空飛ぶ非常識…ですか?」
「ああ。わが帝国、いや世界最高の非常識的魔導師だ。
この世に生まれてきたこと自体、神にとってすら大誤算だろう」
前世でも非常識だったが二周目ともなると磨きがかかってくる。
あっちでも大戦初期は割と普通だ。二周目は最初から非常識。戦争が終わるまでにどこまで行くのやら。
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"運の悪い奴らだ"
推測するに観測手の救援に来たのであろう定数の4人に満たない3人編成の小隊が見えたときは、
そう思った。
眼下の塹壕から出てきた敵魔導師は大隊によっていともたやすく撃墜。
そんな所にひょっこり現れた小隊に憐れみすら感じた。
奴らが救援する対象はもはや存在しない。この距離なら追撃して一個小隊をつぶすことなど容易い。
運が悪いことに、その小隊は大隊にスコアを献上に来たに等しかった。
しかし、三人のうち隊長と思しき一人が突然急加速しとんでもない上昇率で昇っていく。
その瞬間大隊長は気づいた。奴は"魔女"だと。
そして大隊はそれを見ただけで逃げ出すしかなかった。
『見たら死ぬ』
それがラインラントの魔女なのだ。
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同日 1607 パリ
共和国国防省某室
「我軍の制空戦闘は全戦線において概ね、一部戦線を除き優勢を保っております。
キルレシオにおいては若干劣るものがありますが、帝国は二正面で戦争中、
更には他の国境に配置する戦力を差し引きますと、数の優位は当面揺るぎないものかと思われます」
「で、その"一部戦線"というのはどこだね」
「…ラインラント中央部の戦線です」
「またか!」
共和国は悩みを抱えていた。
それは突破するべきラインラント戦線の制空権が全く確保できないどころか配置する度に
突然部隊ごと消滅することだ。
「私はここ2ヶ月、ラインラント中央戦線においてろくでもない報告しか聞いてないが、
いい加減なぜそのようなことになっている理由くらいは分かったのかね」
「今朝ようやく情報が入りまして、該当地域に展開している敵魔導師部隊、『第七強襲戦闘団』が原因である可能性が高いとの報告が」
「その部隊の詳細は?」
「情報局が収集した資料によると、北方戦線から転線してきた部隊のようでして…」
「――確か協商連合魔導師の損耗率が極端に高い地域があったな」
「その地域に配置されていたのも第七強襲戦闘団だったようでして、
例のネームド、"魔女"、その姉の方だけですが、それと思わしき魔導師との交戦も少ないですが記録されていました」
ネームド”ラインラントの魔女”
該当者は二人、黒髪の少女と金髪の少女。
外見から推測される年齢は二人とも"幼い"という表現ができるほど。
2人で行動しているという報告が多く、場所によっては単に"姉妹"とも呼ばれる。
詳細は不明のため共和国軍内では黒髪のほうを姉、金髪のほうを妹と便宜上呼称している。
「北方での魔女被害の詳細は分かるかね」
「それが目撃報告自体はかなり少ないのです。開戦初日に2個中隊が壊滅した際に当該部隊の大隊長が目撃しているくらいで、それ以外は殆ど部隊自体が推測全滅の記録が残っているばかりです」
この姉妹が共和国によって初めて確認されたのは低地地方での制空戦。
最初の接敵報告からものの10分で大隊は偵察に出ていた数名を残し全滅。
このときの報告では4核連結型の高性能新型宝珠を使用していると推測されており、
速度400で大隊に接近し近接戦闘を強いて組織的戦闘能力を一瞬で奪い、
最後は撤退しつつある大隊を広域照射魔術により大隊ごと消し飛ばされた。
「第七戦闘団に対して損害を与えられたと推測できる撃墜レポートに関しても我が軍も含めて全く存在しません。
おそらくは、魔女の姉妹だけでなく戦闘団全体の練度がかなり高いものと推測されます」
9月も半ばに入るとラインラントに現れ、
ラインラントでの最初の出現から三か月と経っていないのに、特に姉単独での損害報告が相次いでおり、
場合によっては報告すらままならず未帰還になる中隊や大隊が相次いだ。
妹はあまり目撃されていないが、恐らくは未帰還部隊と交戦したものと思われる。
姉一人ですら大損害を被るのだ。そんな敵が二人もいたとすると全滅は当然の結果である。
特に姉は早朝から深夜に至るまで、ラインラントの全域、広い範囲に現れるため
概ね制空戦闘では優勢である共和国軍魔導士の間でも、
突然現れ部隊を全滅させていく魔女の噂は瞬く間に広がり士気を落とす一因となっている。
「ラインラント中央戦線は士気低下が著しい。歩兵部隊どころか魔導師部隊からですら敵前逃亡や脱走が相次いでいる」
「実際、先週は334大隊の全員が中央戦線への配属を拒否して拘束されたそうじゃないか」
「それは初耳だな」
魔女の攻撃による推測損害は2ヶ月強で魔導師530騎以上、野砲1200門以上。
歩兵に関してはもはや数えることすらできない。
ラインラント中央戦線は"戦場"ではなく"墓場"だという噂が軍全体に流れ、
実際に墓標のない共和国軍兵士と魔導師の死体ばかりが転がっている有様だった。
「ラインラント中央戦線の突破が実質不可能になった以上、アルザスの方に集中したほうが良さそうだが」
「それはまずい。ただでさえ損耗が激しくて縦深と予備戦力が乏しい。ラインラントから引いたらいともたやすく突破される」
「しかしこのままラインラントに集中していても損耗が増えるばかりで突破は見込めまい」
「仮に第七戦闘団が脅威なのだとして、奴ら魔導師の配置転換はすぐにできる
攻勢正面の変更を察知されたら対応されるどころか先回りされてしまうだろう」
「打つ手なし…か」
「クソッ、機動軍団が残っていればまだ手は打てたというのに…」
会議は何も生み出せず、タバコの消費量だけが増えていく。
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ハンス・シュウィルブラッド(Hans Schwirblat)
「ルーデルの影」とも言われた対地攻撃のエース。
最終階級は中尉。出撃回数831回。
1943年10月にルーデルの部隊に配属され、2番機を務めることが多かった。
1944年5月、ルーマニアにて敵航空機に撃墜された際に左足と手の指を7本失うも
8ヶ月後、義足で部隊に復帰。ルーデルのそういう部分は伝染するのかも知れない。
"最後の飛行"においても2番機だった。
ちなみに酒もタバコもしない。ルーデル同様牛乳飲みだったらしい?
ヘルムート・フィッケル(Helmut Fickel)
ルーデルの副官。最終階級は中尉。出撃回数800回以上。
シュウィルブラッドと同じくルーデルの2番機を務めることも多かった。
3回撃墜されたもののシュウィルブラッドやルーデルと違い負傷はしていない。
大戦末期には第2地上攻撃航空団第III飛行大隊第9中隊(9./III./SG2)の隊長、中隊指揮官に任命された。
なぜ2番機が2人いるのか。
それはルーデルに鍛えられた彼らでもルーデルの出撃回数には付き合いきれなかったからかもしれない。
なんせ彼らがルーデルの2番機を務めていたあいだ、ルーデルは"公式記録で"1500回以上の出撃をしているからである。
ルーデルの記録を漁ると一日に14回出撃などという記録が平然と出てくる。つまりそういうことである。
Q:次はいつになるの
A:7月にはちょっと時間が取れるか怪しいので2ヶ月以内を目標に…
寝かせ過ぎでこれでいいのか悪いのかすら分かりませんがこれ以上寝かせると悪化するだけなので…