この凄まじい金欲者に祝福を!   作:ホイル焼き@鮭

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10話です!やったー(´∀`*)
バトル&お話回です。王宮へと走る謎の影……果たしてその正体は?(ヤツにはバレバレですが(^_^;)


10.この無垢なる少女と語らいを!

「『エクステリオン』ッ!」

 

一閃。

アイリスが手の剣を振るったその瞬間、一筋の光が実体を持ち、此方に迫ってくる。

スレスレを通るように閃光を越える。

すると、アイリスは俺様に向かって一直線に迫り、着地の隙を狙う。

俺様は一瞬構えた刀でその攻撃を受けようとしたが、途中で思いとどまる。

あの剣を真っ向から受けたら、刀が切れる。

 

「『ブレード・オブ・ウィンド』ッ!」

 

ほぼノータイムで詠唱し、迫り来るアイリスに向けて風の刃を放つ中級魔法『ブレード・オブ・ウィンド』を発動する。中級魔法といえど俺様の魔力値で放たれる魔法だ、それなりの威力を有する。

しかし俺様にとっては目を疑うことに、アイリスはほぼ不意打ち気味のその攻撃を、剣を数閃振るうだけで破壊してみせた。その間に着地し、俺様は多少の距離をとる。

………高速詠唱かつ、詠唱時間の短い中級魔法で、完全なカウンターだったはずだが。

全く……王族というのはこれだから。

 

ベルゼルグ王国の王族は、数多くの英傑達と古くから交配し、その遺伝子を取り込んでいる。

高い潜在能力もさることながら、その上に戦闘に関する高度な教育を受けた王族の戦闘能力は、並大抵の冒険者とは比べ物にならないものとなる。

相手が子供だろうが、その実力は折り紙付きだ。だから受けたくなかったのだが、前金を受け取ってここに来た以上、受ける以外の選択肢はなかった。

第一、何故に俺様なのか。単に練習相手なら、王都にこれでもかと居る転生者にでも頼めというのだ。受けたからには本気で臨むが、多少の嘆きは零れるというもの。

 

…………さて。

攻めないと逆に危ないか。

剣戟を受けるのは不可能でも、攻めいることは出来るだろう。

 

「ふッ!」

 

アイリスに向かって加速し、横薙ぎに刀を振るう。アイリスは剣でそれを受け止め、巧みに勢いをずらして半円を描くようにいなす。

ほぼ勢いを殺さずに躱されたせいで、態勢を崩される。

その隙を突くように、アイリスは左肩を前にして踏み込み、剣の柄で鳩尾を狙いに来る。

右手は刀で埋まっているので使えない。

ならばと、柄を握っているアイリスの右手に向けて左の掌を向け、詠唱。

 

「『ライトニング』ッ!」

 

一筋の閃光を飛ばす中級魔法『ライトニング』が直撃し、アイリスの攻撃が一瞬怯む。

その間に、流され行き場を失っていた勢いを利用し、回転。

最初の一撃から一回転したように、再度アイリスへと狙いを付ける。

しかし先程とは違い、彼我の差は殆ど無い。

なので俺様も先程のアイリスと同じよう、刀の柄尻でアイリスの背中に向けて突きを放つ。

しかしやはり有効範囲が狭い。

察知したアイリスは上体を倒し、柄尻の一撃をかわす。そして再度、今度はアイリスの側からだが、距離をとる。

 

………ふう。

予想よりも強い。

身体能力の点では凡そ俺様の方が上だが、動体視力や直感と言った、感応能力はあちらの方が上かもしれない。

全く。

こんな相手を前に、俺様が何を教えられるというのか。

 

「ふふふ。凄いですね、ミツルギ様」

「何か勘違いしていないか?この場は俺様が君の父上から承った正式な取引の末の場だ。君と語らう為の場所ではないぞ」

「………む。それもそうでした。ご相手頂くからには、私も本気でかからねばなりません」

 

そう言ってアイリスは、再度剣を構える。

薄ぼんやりと刀身が光るのが見える。何やらとんでもないことをなそうとしているのは明らかだ。

嫌な予感とともに、俺様も背中の杖に手をかけ、幾言か詠唱する。

俺様の予想が正しければ、恐らく。

 

「『セイクリッド――――――ライトニングフレア』ッ!」

 

アイリスがそう叫ぶと同時に、アイリスの剣が眩い光を放ち始める。バチバチと真白の雷を伴う光の奔流が、俺様へと向かってくる。

…………予想通りではあるが。

外れたらどうするつもりなのだろう?

 

「二重詠唱発動、魔法の同時使用許可。過重詠唱発動、カバー範囲拡大……!『『プロテクト・オブ・アイギス』』!」

 

極光を受け入れるように、俺様の目の前を巨大な盾が現れる。

ミシミシと音を立て、軋みながらも、白銀の盾は俺様の身にアイリスの光を届かせることは無かった。

すぅ、と極光が尽きると同時に、真っ白だった視界が開ける。

が、目の前にあるはずのアイリスの姿がない。どこへ消えた?

上か。

そう思った俺様は、上を見上げる。

―――――――――――ビンゴだ。

 

「はぁあああっっ!」

 

案の定、掛け声を上げながら、アイリスは上から剣を振り下ろそうとしていた。

ふん――――――なるほど。

実戦不足、だな。

俺様はアイリスの足元へ斜めに跳び、その足首を掴む。

勢いのまま腕を下に回し、空中でアイリスを地面へと放り投げる。

 

「ぐっ……!」

「『エナジー・イグニッション』ッ!」

 

投げ飛ばされたアイリスに向けて、上級魔法『エナジー・イグニッション』を放つ。

青白い炎がアイリスの周囲に大量に現れ、結合して巨大な炎と化す。

しかし流石の王族。

完全に周囲を塞がれる前に、アイリスは跳び上がり、炎から逃れる。

チッ、沈んでくれれば良かったものを。

こうなると、危ういのは俺様の方である。

空中は機動力が鈍る。

さっきのお返しとばかりに、アイリスはこちらの着地点へと突進し、俺様に向けて剣を斜めに切り上げる。

舌打ちしながらも、俺様は右手の刀を地面へと投げつけ、突き刺さったソレを足場とし、アイリスを跳び越える。

完全に体重を乗せていたであろうアイリスの一撃は、刀を易々と切り裂いた。その斬れ味は流石の一言と言えるだろう。

が、しかし。

背中は完全にガラ空きである。

 

「『ライトニング・ストライク』」

 

落雷を発生させる上級魔法『ライトニング・ストライク』を発動する。

威力・速度ともに申し分ない代わりに、直線で回避のしやすい上級魔法なのだが――――まぁ、今回の状況にはピッタリだろうよ。

 

「きゃあぁぁぁっっ!?」

 

極太の紫電はアイリスの背に直撃し、目の前へ吹き飛ばす。

これでもまだ安心できないのが王族だ。

着地と同時にアイリスへと突進し、倒れたその背に乗り、右腕を固める。

少なくとも、腕力ではまだ負けていない。

 

「っ………」

「おい。クレア、レイン。これは勝負あったと思うが?」

「そこまで!両者、矛を収めてください!」

 

クレアの号令とともに、俺様はアイリスの腕を離す。

…………ふぅ。何回か死にかけたな………。

恐らく蘇生魔法を使えるプリーストは居たのだろうが、それでもそんなものにお世話にはなりたくないものだ。

時間にしてみれば十数分の試合だったが、その実中身はかなりのボリュームだった。

俺様だから死んでないが、並の転生者なら死んでいるだろう。

アレは、たった1つのチート風情でどうにかできるシロモノではない。

 

「いたた……。完敗です。本当にお強いですね、ミツルギ様……」

「ふん。よく言ったものだな。なんだあの化け物じみた魔法は。殺す気か」

「またまた。あんなに大きな盾で塞いでいたではないですか。凄いです!」

「ふん。あんなもの、やろうと思えば誰にでも出来る。君の魔法はそうではないだろう」

 

実際、他のアークウィザードでもできないことは無い。

『過重詠唱』も『二重詠唱』も、スキルポイントこそかなり食うが、アークウィザードであれば習得できる可能性はある。

 

『過重詠唱』は、その魔法二つ分の魔力を消費して効力・範囲を拡大するスキル。

『二重詠唱』は発動してから一発目の魔法は発動させず、二発目の魔法に合わせて同時に使用されるというスキルだ。

つまり同時に使用すると、4倍の魔力消費が術者にはかかる。上級魔法ともなれば、その消費も相当なものとなる。

……爆裂魔法に使ったらどうなるのだろう。

…………相当な惨劇になりそうだな……。

 

まぁ、そんなことはどうでもいいな。

仕事はもう終わりだ。

さっさと金を受け取って帰ろう。

む、少し話して帰らなければならんのだったか。

仕方ない、少しばかり王宮でも散策するとしよう。何か金目のものはないものかな。

この際だから情報収集でもするか?

 

「それではミツルギ様。15分の休憩の後、二戦目をお願いします」

「……………………………………は?」

 

クレアがサラリととんでもないことを言い出す。

二戦目…………だと……?

 

「何を仰います。先程も申しあげた通り、この修練は1時から3時までとなっております。よって、その間はアイリス様との模擬戦を繰り返して頂きます」

「なっ……!?」

 

冗談ではない。

たった十数分やり合っただけでこの疲労感だぞ?

それを何度も繰り返せと言うのか?

 

「し、しかし……クレア。俺様の戦法は魔法と剣を交えたモノだ。あんなものを繰り返せば、じきに魔力が切れる。それに、刀も既に無い!連戦は不可能じゃないか?」

 

どうにか、連戦を避けられるように口上を述べる。我ながら必死である。

無理だ、本当に死ぬぞ!こんなくだらないことで死んでたまるか!

 

「ご安心下さい」

 

そう言ってクレアは、何かしらの指示を執事らしき男に命じる。

しばらくすると男達は、何やらカートのような物をガラガラと引きながら持ってきた。

 

「最高品質のマナタイトと、替えの剣でございます。何回壊してくださっても結構ですので、どうぞ思う存分、お使いくださいませ」

「…………………」

「あの、ミツルギ様……。気が進まないのは分かりましたが、私からもお願いします。私も努力致しますので、お付き合い頂けないでしょうか……?」

「………………………………………」

 

国王、ファック。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

約2時間後。

 

「はぁ、はぁ、はぁっ、はぁ……。クソが……覚えておけよアーサス……今度会ったら爆裂魔法を喰らわせてやる………」

 

俺様はものの見事に倒れ込んでいた。

結局四回も付き合わされ、俺様の疲労はピークに達していた。マナタイトがあっても、体力は替えがきかないからな……。

しかもこの王女。戦闘を繰り返せば繰り返すほど、対応力が上がっていくのだ。

俺様のスタイルはあくまでも多彩なスキルと才で相手を翻弄するものだ。『金欲者(パワー・オブ・マネー)』があればまた違うが、そもそも対人戦を想定した戦いをしていないのである。

よってタネが出尽くせば、見極める事はそう難しいことではない。

無論、ある程度の才能があればだが………。

 

「お疲れ様でした、ミツルギ様。本当に凄いです!結局1本も取ることが出来ませんでした……」シュン

「………ふん……一本取られてたら、俺様は今この世には居ないだろうが……」

「あっ、それもそうですね。そういう意味では、当たらなくて良かったのかも。でも、お父様の言う通りでした。ミツルギ様は強いから大丈夫だと!」

「……………」

 

どっちだろうな。

本当にそう思っていたから言ったのか、最悪死んでも面白いと思って言ったのか。

俺様の知るあの国王のことだと、後者だと思えてしまうのだが。

…………死ななかったからいいがな。

 

「では、アイリス様。お召し物をご用意致しましたので、こちらへ」

「ミツルギ様も。シャワールームがございますので、どうぞそちらへ」

 

クレアと執事が、そう進言する。

………確かに、汗はかいた。俺様にも生理的欲求はあるので、汗で濡れているのは気持ちが悪い。

ここは1つ、言う通りにするか……。

 

「あ、はい。………あの、ミツルギ様。お着替えが済みましたら、その……」

 

…………俺様の嫌いな言い方をしやがるな、この王女。

言いたいことはハッキリと言えというのだ。

相手に察してもらおうなんて考えはこの世で最も唾棄すべき考えだ。大概の場合、人は他人の気持ちなど考えない。特に男はな。

言わなくても分かって欲しいというのは、人のエゴのようなものだ。誰も彼もが人の気持ちを理解出来る人間とは限らないのに、さもそれが当たり前のように考える。

実にくだらないが、流石の俺様も齢10にも満たない子供に小言を垂れるほど性格が悪いわけではないので、ある程度は察してやる。

 

「俺様は書庫にいる。しばらくはいるだろうから、来るなら来い」

「あ………!ありがとうございますっ」

 

はぁ。

全くもって度し難い。

何故この対応で、この王女はこれ程に嬉しそうなのだろうか。

正直俺様の態度は、相当悪いだろうに……。

まぁ、知ったことではないか。

長期的スパンで見ればマイナスだが、短期で見るならば王族に好かれるのはプラスだ。

まぁ、ひとまず汗を流すか…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……」

 

汗を流したあと、執事が用意した服に袖を通す。

気持ち悪いほどにピッタリだ。そして俺様の好みである。王家の情報収集能力もバカにはできないようである。

 

「お疲れ様でした、ミツルギ様。陛下より承っておりますので、どうかご自由になさって下さいませ」

「あぁ。ご苦労」

 

頭を下げ、執事達はどこかへと消えていった。

さて、言った通り書庫に行くか。

王宮に来たのも初めてではないので、いくつかの部屋の位置は理解している。

見取り図を見たことは無いので、この箆棒に広い王宮を完全に把握している訳では無いが………それも書庫にはあるかもな。

 

暫く歩いて、書庫にたどり着く。

扉を開くと、中は相当に広かった。3階分繋がっていて、壁一面に本棚が敷き詰められている。

蔵書量は推定だが……100万はあるか。

司書らしき女性に声をかけ、分類表を見せてもらう。

ふむ……蔵書数は多いが、大半は魔法書・戦術書の類だな。その他専門書も置いてはいるようだが。

語学、数学、化学、力学、歴史、外交、モンスター学………。

ひとまず全種の本を持ってきてみるか。

聞き込みで分かるレベルの知識には限りがあるからな。これを機に、この世界の知識を持っておきたい。俺様はパーティーを組んでいないので、少しの知識不足が命取りにもなる。

 

「ミツルギ様ー。いらっしゃいますかー」

 

三階の通路にあるいくつかの読書スペースで、暫く本を読んでいると、下からアイリスの声が聞こえた。

む、思ったよりも早かったな。

まぁ予定では30分しかヤツに余暇は無いのだから、それも当然か…………。

 

「あっ、ミツルギ様。こんな所にいらっしゃったのですね。………勉強中でしたか?」

 

アイリスが階段にやって来て、そう漏らす。

俺様の目の前に何冊か積まれた本を見て、一瞬の逡巡が見られた。口元は微笑みを絶やさなかったが、俺様にまで隠せるほど巧妙でもない。

交渉事は商いの基本。相手の希望を理解してこそ、出せるカードもある。

また余計な考えをしてるのだろうと思うと、少しばかり俺様も辟易とする。

 

「そんなところだな。だが余計な気遣いは不要だ。時間が無いのだろう。俺様に話せる程度の事は話してやるから、とっとと席に着くことだ」

 

テーブルを挟んで奥の椅子を指さす。

 

「は、はい!失礼します!」

 

アイリスは少しばかり跳ねて、指示された通りに席に着く。

 

「………ミツルギ様は、なんでもお見通しなのですね」

 

席に着くなり、アイリスはそんなことを言い出した。

む。確かヴリトラの一件について話を聞きたいということではなかったか?急なその発言に、俺様と言えど少し困惑する。

 

「何を指してそんなことを言うのか、俺様にはとんと見当がつかんな」

「いえ……何となく、そう思いまして。先程私が少し迷ったこと、お気づきでしたよね?」

「ふむ。それはそうだな。邪魔をしては悪いなどという、下らない事を考えていたのだろうとは推定した」

「やっぱりですか。本当に凄い方ですね、ミツルギ様は」

「ふん。褒めても何も出ない。そしてそれは当たり前のことだ。君のような子供の感情を見抜く程度、俺様に出来ないはずがあるまい」

「ふふふ。凄い自信ですね。羨ましいです」

「実力があるのに、自分を卑下するのは愚者のすることだ。分を弁えろというだろう。出来るやつには出来るやつの仕事があり、責務がある」

「……含蓄のある言葉ですね」

「ふん。君がどう話を持っていきたいのか、俺様には分かりかねるな。一体何を言いたい」

 

試合前よりも、アイリスは沈んでいるように見えた。

俺様は心理学も教育学も修めているが、それだけで人の気持ちを常に理解できるはずもない。

よってこの王女が何を考えているのか、俺様には全くもって分からない。

だが――――――どうにもこの王女。

何やら俺様への敬意が強すぎるようにも見える。

俺様は確かに能力は高いが、所詮はそこらの冒険者。

国王たるアーサスも、俺様を使いだした当初は偉ぶり、高圧的だったものだ。

そして俺様はそれに異論はない。ここは王政なのだ。ならば、出自は誇るべきものだ。

そもそも最初から『ミツルギ様』と言った時点で、少し不審には思ったが………。

その傾向は時を経て強くなっているようにも思う。

 

「……あはは。すみません、特に意味があるわけでは無いのです。クレアやレイン以外の方とお話することないので、何を話そうかと」

「…………ふん。じゃあ、俺様から質問してもいいのか?」

「もちろんです。なんでしょうか」

 

話す気がないのなら、その真意は俺様が見抜いてやるさ。

俺様は、理解できないことは嫌いだ。

 

「君は、いつも今日のようなことをしているのか」

「えぇ、まぁ」

「外に出たりはしないのか」

「えぇ。お勉強がありますし」

「ふむ。それは殊勝なことだ。………が」

「が?」

「君がその生活に満足しているようには、俺様には見えんがな」

「………………そんな事はないですよ」

「少し迷ったな。全く心当たりのない人間は、直ぐに否定するものだが?」

「………………」

 

アイリスは黙り込む。

沈黙は是なり。

黙り込むことは、認めるのと同じようなものだ。

俺様には子供を追い詰めるような趣味はないが、必要ならばそれも躊躇はしない。

 

「勘違いされても困るが、俺様はそれを否定している訳では無い。毎日王宮に留められ、勉学に励む。それが窮屈なことくらい、誰だって分かる」

「仕方ありません。王族として生まれた以上、勉学に励むことは当然の責務です。それに、私はそれを苦痛と思ったことはありません」

「…………………」

 

俺様はそう言うアイリスの顔を観察する。

目には力が宿っており、頬は軽い緊張とともに強ばっているが、柔和な笑みを崩しはしない。眉にも僅かに強ばりが見え、唇は少し水分を失って、鮮やかな桜色が少しくすんで見える。

…………………ふむ。

 

「ふん。嘘ではないようだ。しかし本音でもない。『当然のことと受け入れているが、それはそれとして外への興味、憧れもある』―――――とまぁ、そんな所か」

 

ふむ。なるほどな。大体分かった。

 

「…………!そ、そんな事は……」

 

言葉尻が萎む。目線が泳ぐ。表情筋が弛緩する。

ふむ。俺様でなくても嘘だと分かるレベルだな。

 

「何を隠すことがある。この王宮の中に居るだけでは体験出来ない多くの事が、外にはあるのだぞ?それを知りたいという感情に、何の悪があるというのか」

「…………本当に、何もかもお見通しなのですね、ミツルギ様には……」

「何度も言わせるなよ。そんな事は当たり前だ。子供の考えることなど、大抵は決まっている」

「あはは。でも、他の従者やお父様は、何も言いませんよ?」

「ふん。そいつらには、君の考えを読もうとするような気持ちは無いのさ。従者はその考え自体を不敬とし、国王は君以外の事で忙しい」

「なるほど。そういうことなのですか」

「うむ」

「……………」

「……………」

 

暫く無言になる。俺様は好奇心を満たせて満足なので、特に話すことは無い。

苛々するだろう。目の前の人間の考えが読めないと。

…………もしや俺様だけなのか?

まぁいい。話すことがないのなら読むか、本。

何冊か積まれているうちの1冊を手に取り、1ページ捲る。

モンスター学か………なかなか学びがいのありそうな名前だな。

 

「あ、あの、ミツルギ様?」

「む。なんだ第一王女」

「だ、第一王女……。いえ、その……な、何もないのですか?私が外へ興味があるからなんだ、とか……」

「そんなつまらんことを俺様が聞くわけないだろう。俺様はただ、俺様の好奇心を満たすためだけに聞いたまで。君の考えを知った今、俺様から話すことは特にないぞ?」

 

認めたはずだしな。年頃の少女ならば当たり前だと。

何を動揺しているのだろう。この第一王女。

アイリスは口を野放図に広げ、阿呆な風に唖然としていたが、暫く経つと口元を緩ませ、今日一番の笑い声を上げた。

 

「あははははは!な、何も無いんですかっ。あれだけ真剣に顔なんか見てっ?あはははは……っ!」

「む。そこまで笑われると、流石の俺様でも心外だぞ」

「す、すみません……!あんまり可笑しいものですから、つい……!ふふふ」

 

そう言いつつも、アイリスは込み上げる笑いを我慢できない様子だった。

ふむ。何か可笑しな事を言っただろうか。

それとも彼女のツボがおかしいのだろうか。

あとここは書庫だ。静かにしろ。

 

「あはは……。何だか、笑ったら色々スッキリしちゃいました。こんなに笑ったのは久しぶりです」

「ふん。それは良かったな」

「………ミツルギ様。少し、お聞きしても?」

「好きにするがいい」

「ミツルギ様は、冒険者ですよね」

「そうだな」

 

金さえ貰えればどんな事でもやるので、実際は冒険者とは些か違うのだが。大きく間違ってはいない。

 

「いつから、冒険者を?」

「ふむ。数ヶ月前だな」

「本当ですか!それでそのお強さ……。ミツルギ様は才気溢れるお方なのですね……」

 

なぜこいつはこんなに俺様の事を持ち上げるのだろう。何かしたか俺様。

俺様がもはやこの世界でも随一の手練であるのは既に承知だが、ここまで何かにつけて褒められるほどなのだろうか……。

 

「……まぁ、そうかもしれんが」

「………ミツルギ様は、色んな街を回っているとか。少しだけ、お父様やクレアに聞きました。今まで、どんな所に旅を?」

「む……生憎、何度も街を行き来しているので、あまり1つ1つ覚えてはいない」

「そういうものなんですね」

「ただまぁ……酷いところはよく覚えているがな。水の都アルカンレティアや、鍛冶の都ガロッサはとにかく酷い」

 

忌々しい記憶が甦る。

アルカンレティアは温泉街だが、水の女神アクアを崇めるアクシズ教徒の巣窟で、その洗礼は凄まじかった。どれだけかと言うと、この俺様が偽造の入信証明を作るほどである。

ガロッサは鍛冶を基盤とした工場町で、ここはアルカンレティアよりはマシだ。

ただこの街には鍛冶に使う火を用意するための火の精霊が町中を飛び交っており、箆棒に暑い。平均気温40度。

しかしここの鍛冶師の腕はいい。

 

「ガロッサに。あの街は人の過ごせる場所じゃないと聞きましたが……ミツルギ様はそこで滞在を?」

「ふむ。1週間はいたな」

「どうやって避暑を?」

「言っておくが、あの場所にもそう暑くない場所はあるぞ。鉱山の中だな。火の精霊は熱気を好むから、暗くて冷涼な鉱山にはよってこない」

「そうなんですね……勉強になります。他に、何か覚えてる街はあるんですか?」

 

さも当然のようにアルカンレティアを無視したなこの王女。

まぁ、気持ちはわかる。いたく分かる。

触らぬ神に祟りなし。

他に覚えてる街、か………。それはもちろん、俺様の再スタート地点でもある、あの街が真っ先に思い浮かんだ。それと同時に、メグやユウ、サトウのような連中の姿が思いやられて、少し苦笑する。

俺様にとってあの街は、アイツらとセットらしい。

 

「そうだな。覚えているといえば、1番思い当たるのはアクセルだ」

「アクセル……。確か、冒険初心者が集う街、でしたか。ミツルギ様もそこで研鑽を?」

「そうだ。思えば、パーティーで活動したのはそれが最後だったな」

 

アクセルで別れて以来、俺様はパーティーを一切組まなかった。無論生まれたての赤子のような状態の俺様である、何かとサポートしてくれる仲間があった方が良かったのだろうが。

居なくとも案外どうにでもなるもので、それから習慣として、パーティーは組んでいない。

 

「常におひとりで、ですか……。こんな事を聞くのは失礼かもしれませんが……寂しくは、なかったのですか?」

「寂しい。俺様が?」

「えぇ。多くの街を訪れ、各地を遊学する。確かにそれ自体は意義のあることだと思います。ですが……親しい人が近くに居ないのは、とても寂しいと思うのです」

 

寂しい。寂しい、か……………。

あるのか、そんな感情。俺様に?

あらゆる技術をその手に納め、生涯をかけて金を追い求めるこのミツルギキョウヤに?

――――考えるまでもない、否だ。

しかし何故否なのか。

ふむ……なかなか考える余地のあることかもしれない。

しかし今は目の前の王女に答えなくてはならない。

仕方ない、適当に誤魔化すか……。

 

「一欠片もそんな事を思ったことは無い。旅をすれば色んな連中に会える。性格どころか種族も違うが、それだけ多様な存在とも交流を持つことが出来る。これ程に愉快で、意義のある経験はないだろうと、俺様は思うが」

 

………む。俺様にしては綺麗なことを言った。

しかし案外、これが俺様の本音なのかもしれん。

全ての知恵を持つほど、人間は優れた存在ではない。それでもある程度のことまでは、学べば理解はできよう。

しかし人間はどうだ。

心理学や統計学から導かれる、ある程度の同一性を持つのは間違いない。

ただ、全く同じ選択をする人間はいない。全く同じ性格の人間もいない。

人こそ最大の謎であり、俺様の興味を引く存在なのだ。

しかし、あくまでも興味だ。金稼ぎに並ぶほどの理由には決してならんがな。

 

「…………!そう、ですか……」

 

神妙そうに頷くアイリスに、少しばかりの哀愁を感じた。どうやら求めていた答えではなかったらしい。

…………やれやれ。俺様は子供の相手も苦手ではないが、ヤツらは感情豊かで困る。

 

「………そうだな。例えば、旅をしていたからこそ、国王のヤツやクレア、レインに会えた。そこから繋がって、今君とこうして話をしている。それが少し面白いと、俺様は思う」

「それは……そうかもしれません」

「あぁ。無論これは俺様が、気楽な冒険者でしかないからだがな。立場があれば、そうもいくまい」

 

財閥のトップでいた頃は、こうも気ままに行動することは出来なかった。

無論それはそれで金稼ぎに殉ずる良い人生だったとは思うがな。しかし俺様は金稼ぎ第一の人間ではあっても、それだけで人生を過ごそうとする人間ではない。

だから、目の前の王女に同情する。

立場のみに縛られ、日々を過ごす王女に。

 

「………ふん。そろそろ時間か?」

 

時は既に3時半近い。そもそもシャワーを浴びた身だ、語らえる時間など15分もない。

 

「はい。……その。ありがとうございました、ミツルギ様」

「何もしていない。故に礼には及ばない」

「そう仰ってくれると、私としてもありがたいです。……また、来てくれますか?」

 

……………正直あまりここには寄りたくない。

何かと面倒だからだ。俺様を扱うのに金さえ払えばいいと思っているからな。正しいが。

少し不安そうに、アイリスは遠慮がちに俺様を見上げる。

…………チッ。面倒なことになった……。

 

「ふん。どうせ王家の事だ。俺様を呼ぶこともあるだろう。……その時は、話くらいしてやるさ」

「は、はいっ!ありがとうございます、ミツルギ様っ!」

 

アイリスは花が咲いたような笑みを浮かべ、嬉しそうに去っていった。

………まぁ、仕方あるまい。ヤツに同情し、何かしらの手伝いをしてやりたいと思ったのも俺様の考えだ。その通りに行動するとはつまり、俺様の利益につながると言っていい。

金にはならんが、な。

 

「我ながら、下らん感情に流されたものだな……やれやれ」

 

そうぼやいてから、俺様は手にした本をペラリと捲り、暫く読書に耽けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数時間後。

数冊の本を読破し、時は既に夜となっていた。

王都からどこかに行くにせよ、時間がかかる。

だので、少なくとも今日は王都に滞在するつもりだ。

 

「ミツルギ様。お食事はどうなされますか」

 

と言って、いつの間にか現れた執事が声を掛けてくる。

 

「要らん。金は明日受け取るから、今日のところはさっさと失せるがいい」

「そういう訳にはいきません。陛下より歓待の命を賜っておりますので」

「ふん、歓待か。そんなもの、この場を貸しさえしてくれれば十分だ。分かったらさっさと失せろ」

「…………失礼致します」

 

これ程辛辣でなお眉も顰めない。

本当によく出来た従者だ。

どうせなので全ての本を読んでしまいたいものだが、どうにも寝ているとそれも難しそうだ。

俺様は睡眠はキッチリ6時間取る。どれだけ多忙でも取る。多忙ならその分起きている時に働けば済む話だ。

よってあまり無理は出来ない。全ての本を丸々読んでいる時間はないということだ。

俺様は速読術もマスターしているが、1000ページはありそうな本を十数冊、読めるほどには速くないのだ。

 

飯はどうするかな。

さっきも断ったように、俺様はここの料理は好かん。多様だが量がないのだ。それに俺様は生粋の日本人故、米のない飯は好みじゃない。

とにかく米があればいい。米さえ食えれば頭は回せる。ビバ米である。

パンだと?あんなものを食っているヤツは頭がヨーロッパだ。そんなに食いたいならライ麦畑にでも住め。

この世界にも米はある。しかし米は小麦と違い、穀物の中でも育てにくい部類だ。

よって高い。場所によっては売ってすらない。

ファック。

 

「さて、心の内でボヤいても仕方ない。取り敢えず王都に降りて、何か口にするか……」

 

そう独り言をして、俺様は長時間の読書で凝り固まった広背筋を解す。

独り言は癖だが、状況を言葉にして整理するというのは状況把握のテクニックでもある。

書庫の扉を開け、王宮と地続きの、王都の中心街へと向かう。

しかし、なかなか悪くなかった。

やはり新しい知識を取り入れるのは心躍る。

これは帰ってから漁るのもいいか――――――――――――

 

「……………む……?」

 

城門を出る際、一筋の影が城壁へと走るのが見えた。それと同じくして、厚めのローブで顔を隠した不審な人影が、その影を追うように走っているのが見える。

いや―――走ってはいない、か?

どちらかと言うとワイヤーで、身体を引っ張っているような動きだ。

 

「…………………」

 

明らかに賊だ。その近辺の見張り役は、丁度交代の時間か、櫓の外には気が回っていないようだ。

それだけならば俺様は何も思わない。あの王宮に賊など、自ら捕まりに行くようなものだ。

しかし俺様は、1度会っているならば、体型を見てある程度までは人物の判定が効く。

その俺様の鑑識眼が正しければ―――――あの賊は。

 

「…………ククッ。全く―――――俺様だけでは飽き足らなかったというわけか?アレだけの失態を犯しておいて、なお盗みに入るとは恐れ入るぞ―――――なぁ、クリスよ」




いつも思うのですが、1話辺りの文量長すぎですかねぇ……。
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