この凄まじい金欲者に祝福を!   作:ホイル焼き@鮭

11 / 11
何故かこちらを上げることになりました……不覚。
書け次第理想郷も上げますので、平に御容赦を……。
クリスさん回。徐々に変わり始めているミツルギくんなのであった。


11.この愛らしい女神へ親愛を!

先程見た、この宮殿の内部図を頭に思い浮かべる。

賊が狙うとすれば、まず宝物庫。

次点でアーサスの部屋、アイリスの部屋と言ったところだ。

無論どちらも鍵は掛かっているだろうが、冒険者の盗賊には『解錠』のスキルがある。ヤツならば突破も可能だろう。

しかし無論のこと、宝物庫には見張りの従者がいるだろうし、警邏の者も宮殿中を回っているはずである。

故に、ヤツが盗みに成功する確率は――――少し高めに見積もって、40パーセントと言ったところか?

ふむ。無い確率ではない。飯時であることも相俟って、かなり高い確率だ。

 

「ふっ。計算はしてみたが、俺様には関係の無い事か。クリスの奴が捕まろうがよいし、何かしらの金品を盗んだところで構わない。精々強請るネタになるのが関の山だ」

 

俺様は冷静に、そう分析を下す。どちらに味方をした所で、大した金にはならん。

それに、あの賊がクリスである保証もない。俺様は自分の能力を正確に把握している。100あって90当たるからと言って、残りの10を考慮しない俺様ではない。

ただもしクリスであったとして。アレが捕縛されればどうなるか。

先程読んだ歴史本の類例を探ってみると、反逆罪は死刑に当たった。この国は明文化された法律がない(近代からすれば考えにくい話だがな。過去の判例を中心とした不文法に当たる)事からも、似たような判決が下されるのは間違いないだろう。

 

………………………………………。

 

一瞬、アイリスの笑みがチラつく。

彼女に危害が及ぶ可能性はない訳では無い。

ふむ…………自問自答、だな。

クリスの為には俺様は働けん。無償でそんな事をする気概はない。完全にクリスだという保証があればまた別だが。

ただあの王女の為ならば?

あの王女の為に、俺様はなんの報奨も求めずに動けるか?

 

「…………………ハァ………」

 

心の奥から漏れた溜息に、俺様自身も苦笑する。

お笑い草、だな。

心中でそう嘲笑して、俺様は外へ向けていた踵を返して、場内へと戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――――ッ!」

 

駆ける。俺様に可能な限りの速度で王宮内を駆け巡る。

この城は三階建て。端に書庫があるが、それ以外の箇所では階を貫く場所はない。

つまり階段はそう多くない。

一階には2箇所。2階にも2箇所。

しかし此処が不便なところか。

広い割には少ない。その上、階段が連結していない。コレは恐らく、建築の技術が未だに発展していないからだ。

故、そんなに単純な構造ではない。初めて侵入するクリス(仮)には難しいはず。

 

「『マジック・サーチ』」

 

幾言か詠唱してから、上級魔法『マジック・サーチ』を発動する。

流石は王宮、反応が多数ある。

一際高い魔力が一階食堂に2つ。コレは恐らく、アイリスとレインだ。

そしてもう1つ――――――この人数の反応の中でさえなお高い魔力反応が、2階端宝物庫に1つ。

ほかの反応と違い、単独でそこに存在している――――間違いない。

 

やはりお前か、クリス―――――気配は隠せても、魔力だけは隠せんぞ?

 

そして微弱だが、その周辺に均一に広がった魔力の反応もある――――――恐らくだが『ロバースト・ロック』だな。

侵入を拒む上級魔法だ。破るにはそれ以上の力で押し入るしかない。これなら時間はあるか。

階段を駆け上がりながらそう思っていると、不意にマジック・サーチの薄い反応が途絶えた。

結界が破られたのか?なぜ。

…ふん、考えても分からんな。しかし俺様を前にして、事を起こすには遅すぎる。

少し入り組んだ廊下を駆け巡る。

途中何人かの警邏の者にも遭遇した。

 

「だっ、誰だ!?不届き者かっ?」

「俺様だ!後は何も言わんぞ!」

 

そうとだけ残して、俺様はその脇をすり抜ける。

この王宮内ならば、コレで分かるはずだ。

『俺様』などと自称するような不遜なものは、この世界でも俺様くらいのものである。

 

そうする間に、宝物庫へと辿り着く。

端に寝かせるように、二名の兵士が倒れ込んでいる。不甲斐ないことこの上ないな。

頑丈そうな錠前は既に外された後のようだ。

 

中に入ると、相当に埃臭い。そう使われている場では無さそうだ。

マジック・サーチを発動すると、中には幾つかの魔力反応が見られた。恐らく宝物の類に魔道具があるのだろう。

しかしその中にも、限りなく薄く巡らされた魔力の反応がある。

恐らくだがトラップだろう。

盗賊のスキルである『千里眼』や『トラップ・サーチ』の類が無ければ、突破はかなり困難だ。

 

「ちっ、手詰まりか?」

 

中はかなり雑多に散らかされている。無論ガラスケースやらに入っているものも有ったが、多くは棚に仕舞い込まれているものばかりだった。

しかし監視カメラの類はない。遠見の魔法に頼っているのだろうか。それとも技術がないのか。

結界が破られてからそう時間は経っていない――――待つのも不可能ではない、か?

俺様の今の目的はアイリスからクリスを遠ざけること。何かしら盗まれようが、俺様の知ったことではない。

ならば待つのは選択肢としては妥当――――いや。

待て。何か盗まれたらどうなる?

俺様が滞在しているうちに、王宮から何かが盗まれる―――まず疑われるのは俺様では?

それに、先程宝物庫の方角へ走る俺様の姿も見られている。状況証拠としては充分。

つまり―――――盗ませる訳にはいかない。

 

「ちっ!」

 

ならばどうする。

トラップの詳細までは分からんが、微量の魔力は線上に並んでいるようには見える。

なればレーザートラップの類だと見て支障はないだろうが、この世界の技術力で体温感知や反射反応で発動するトラップが作れるか?

…………難しいはずだ。この世界は科学よりも魔法が発達した世界。ならば、魔力に反応する可能性が最も高い。

……賭けにはなるが。

 

「過重詠唱、過重詠唱、二重詠唱――――『『ナイト・オブ・ヴェール』』」

 

過重詠唱を二度重ね、二重詠唱を用いて上級魔法『ナイト・オブ・ヴェール』をさらに掛ける。

単純計算、元の効力の8倍―――の、筈である。

ぐらりと視界が歪む。何せあの戦闘の後だ。いくらか休んだところで、魔力も完全には戻らない。その上でこの暴挙だ。魔力を吸い尽くして、体力を蝕み始めている。

コレが目的である―――別に、魔法はなんでもいい。

人間は誰しも魔力を持っているもの――――しかし体力を消費する程に使い切ってしまえば、探知にも引っかからないのではないか、ということである。

こうなれば自棄なので、背に刺した杖でレーザーを一瞬だが遮る。

しかし、なんの反応もない。

ビンゴだ。やはり魔力に反応すると見ていい。

レーザーの中に勢いよく飛び込み、反応を確かめる。

しかし何も起こらない。

 

「はぁー………流石にビビるぞ、俺様でも……」

 

それ以外にも幾らかトラップが有ったが、大概は魔力を有したものだったので、避けるのは容易だった。

中を慎重に抜けていくと、漆黒のローブが背に見えた。

 

「おい、貴様」

「!」

 

声を掛けると、黒いローブの人影はこちらをゆるりと振り向く。

 

「『バインド』ッ!」

「!」

 

振り向きざまに奴が縄を俺様に向けて投げると、その縄は意思を持っているように俺様の身体にまとわりつき、拘束する。

 

「ふん――――魔力で出来た縄だな。盗賊のスキルか?クリスよ」

「……………………なぁんだ、バレてたんだ」

 

そう言うとクリスは、フードを取ってその素顔をさらけ出した。

 

「全く、なんでキミがここに居るかなー。その様子だと、あたしが盗みに入ったってバレてるの?外には兵士がいっぱい、ってワケ?」

「ふん。さぁな。それより貴様、なんの為に盗みなどしている?」

「あはは。それこそさぁね、だ。あたしにはあたしの事情があるんだよ」

「ほう?しかし今、貴様は追い詰められているのではないか?俺様の部屋程度ならば許せようが、ここは一国の主の宝物庫だ。流石の俺様とて、今度は見過ごせんぞ?」

「あはは。追い詰められてるのは君の方じゃないのかな?あたしが逃げて、その姿で見つかったら危ないのは君の方じゃない?」

「うん?あぁ、コレか」

 

胸部から下腹部にかけて縛られたその縄を、俺様は全身の筋肉を緩ませて少し弛ませ、右手の側に多少のゆとりをつける。

右手を垂らしたその状態から体の内側を通して振り上げ、背の刀を取り、魔力の縄を切る。

 

「緩すぎる。俺様を拘束したければ、もっと手間のかかる方法をとるべきだったな」

「………うっわぁー、凄いなぁ。君、何者なのさ?」

「ミツルギキョウヤだ。2度目になるがな、クリスよ。盗みというのは、見つかった次点で負けだ。お前も盗賊の自分が、アークウィザードの俺様に勝てるとは思うまい?」

「………………まぁ、ねぇ。そうだなぁ。君の性格的には、他の人には知らせてないと思うから。さっさと事情を話して、見逃してもらった方がいいのかな?」

「さぁな。見逃すかどうかは俺様しだいだ。しかし、従わないならばさっさと捕縛して突き出すことは確かだな」

「…………仕方ないなぁ」

 

神器、って知ってる?

そう言ってクリスは話し始めた。

 

この世の中には強大な力を持った武器や魔道具が存在している。そういったシロモノは、優秀な冒険者が兼ねてより振るってきた。

しかしここの所、何故かそうした神器が各所で反応が見られるようになった。

しかも戦闘に携わらない、領主や金持ちの屋敷に、だ。

そして私は、そういった神器を拝借して回っているのだ、と―――――――。

大まかに言えばそういった話だった。

……色々突込みどころはあるが。

 

「二三質問するが」

「どうぞー」

「なぜそんな物を回収してるのだ?」

「………えーっとー。そんなものが悪用されたら危険じゃない。だから回収して回ってるの―――って言って、信じるミツルギじゃないよねぇ」

「無論だ。俺様を騙したければ、まず自分を騙せるようになるべきだな」

「だよね!あははー」

「ふん。さしずめ、お前の正体と関連していると言ったところか?」

「うぇー。相変わらず、バカみたいに天才だね、キミ。あたしは勘のいい男は嫌いかなー」

「どうでもいいわ、そんなもの。もう1つ質問だ。なぜお前は神器とやらの気配がわかる?」

「あー。それはだねぇ……」

「それもお前の正体に関連してると。ふはは、何も答えられぬではないか」

「うぐ……そりゃ悪いとは思ってるけどさ……。あたしにも事情が……」

 

話しながらも、俺様は少しだけ頭を回す。

神器。俺様はこの言葉を聞いた覚えがある。

王都に多数存在していた転生者たちが、自らが受け取った特典のことを称して神器と言っていたのだ。

つまりクリスの言う、『優秀な冒険者』と言うのは転生者どもに当たるのだろう。

ヤツらの特典が神器という訳だ。

だのに、それらが今や、領主や金持ちの手に渡っている。

それを回収したいと言う立場は、どのような存在が考えられる?

 

1つの例を挙げるならば、元々の持ち主。

神器の気配は分かるが奪われた武器かどうかは分からない、という状況であれば、そのような行為に及ぶこともあるだろう。

しかしこの場合ならば、他者に話せないほどではない。この状況ですら言い淀むような事情とは思えない。

 

もう1つ考えると、転生者に神器を与えた側――――つまりはアクアやそれに比類するような神、もしくはその使者の類だ。

武器が流れるということは、売られたか、持ち主が死んだかのどちらかの可能性が高い。

後者の場合とすれば、使用者が死んで無用となった特典を、神々の類が回収して回っている、ということになる。今のところ、この説を否定する根拠は無いように見える。

 

そして最後に、義憤に駆られて、だが。コレはクリスが否定した。否定しなきゃいいのにな。俺様は確率が薄かろうと、決してゼロにはしないのだから。

 

何個か他にも浮かばないこともないが、どれもこれも秘匿の必要が高いようには思えない。

やはり2個目か。

神ねぇ……この世界はエリスとアクア以外に広く信仰されている神はいないらしいが。

じゃあこいつエリスか。

……いや流石に暴論だな。

ただカマをかける価値程度はあるか。

唇を尖らせて不貞腐れているクリスに向けて、俺様は声を掛ける。

 

「ふむ……。おい、エリス」

「はい――――――って。ってぇぇええええっっ!?な、なんで……っ!?」

「煩い。その反応……お前本当に嘘つけないな。あまりの素直さに俺様もビックリだ」

 

絵に描いたように動揺するクリスもといエリスに、嘲笑を通り越して気が抜ける思いだ。

そうか、エリスだったか………。そりゃあそう簡単には正体明かせないな。何せ女神だものな。

 

「あ――――だ、騙したんだね!」

「いやまぁ。そうなるがな。しかしこの程度の引っかけだぞ?仮に答えたとしても、『なんか呼び間違えた?』の一言でスルーできるカマかけだぞ?こんなので動揺するお前に非は有ると思うが」

「ぐぬ………っ!それは……そうだけどさぁ。そうだけどさぁー!」

「分かった分かった。お前の正体は黙っておくさ。で、いくら出す?」

「やっぱりそれなの!?うぅー……こっちでは本当に冒険者やってるんだから、お金なんてそんなにないのにー」

「何を言うか。知っているぞ、貴族の家に盗みに入っては金をとる賊の話を。そしてその多くが闇金だと言うことを。お前だろう、エリスよ」

「………な、なんの事かなー」

「ふははは!なんだ貴様、今更シラを切れると本気で思っているのか?お前には嘘の才能がないんだ、諦めて俺様に金を払え」

「うぅ……そんなにバッサリ言われると。なんだよー……いくら出せばいいのさー」

「ふん。まぁ100だな」

「100かー。100って、100万かー……。うーん、絶妙なラインだなぁ」

「ふっ。妥当だろう?俺様からすれば安いがな」

「はぁー……分かったよー……今は無いから、アクセルに戻ってからでいい?」

「あぁ。さて、楽しい話はここまでとするか。そろそろ夕飯時も終わる、そうなれば異変に気づくものもいるやもしれん」

「楽しいのは君だけだと思うけどね!!ただ、それには同意だけど……なにか、他に聞くことは無いの?もうここまで言っちゃったし、いくらでも答えるよ?」

「ふん、そんなのはいつでも出来る。こんな危ない所に長居するのは明らかな愚策だ。で、貴様はどうするのだ?契約を履行してもらうために、俺様はお前に捕まって欲しくないのだが。神器とやらは見つかったのか?」

「……うーん、それがね。どうも、この辺りにはないっぽくてさ。かなり危険な魔道具だから、早めに回収したいところでもあるんだけど……」

「ふむ。具体的な当てはあるのか?ないならば撤退を推奨する。盗みは何より計画が命だ」

「うーん、そだねぇ。今回は宝物庫にないってわかって良かったってことにするかな」

「あぁ。他に何も盗んでは――――居ないな」

「あのねぇ。キミ、あたしがエリスだって分かってて言ってるんだよね?女神がそんな事すると思う?」

「アクアならする」

「………ごめん、確かにアクア先輩ならやりかねない」

「だろう。まぁ、見取図程度ならば俺様が工面してやるから、今日のところは帰るがいい。ひとまず明日までは俺様も王都にいるだろうから、お前の方から来れば話くらい聞いてやろう」

「むぅ。それは魅力的な話……」

「ただし、失敗しても今度は知らん。入念な対策を練ることだな。………さて、行くぞ」

 

少しばかり思考が覚束無い。思ったよりも体力を使ったらしい。今日のところはさっさと寝て、減った腹は朝どうにかするか……。

 

「分かったよ。じゃあ後ろ着いてきてね」

「言われずとも」

 

クリスの後を追って、罠を回避しながら宝物庫を後にする。

シンプルな錠前だったが故、俺様にもどうにか締め直すことが出来た。久方ぶりのピッキングだったが、上手くいって何よりである。

閉める方が難しいのだ、コレが。

 

「さて……ここの結界はどうするんだ。俺様はもう魔力はないぞ」

「んー。多分普通の人は気づかないと思うけどなー」

「馬鹿を言え。あんなでかでかと魔法陣が浮かんでて気づかない阿呆がいるか」

「それはキミがアークウィザードだからだよ。魔力探知も用いずに、結界の存在を意識するのは相当な才能だからね」

 

………む。そうなのか。それは不勉強だった。

しかし、有ったはずの物がないのは流石に危険だろう。疑われるのは俺様だ。

 

「仕方ないな……後でマナタイトを買って掛け直してやる」

「おー。恩に着るよ、ミツルギ」

「それは構わんがな。お前、そのローブは脱げ」

「お。何さミツルギ。セクハラ?」

「違う。俺様は王宮内であれば顔が利く。そんなに怪しい格好をするよりも、堂々と顔を出した方が怪しまれない」

「なるほどね。よいしょっと」

 

クリスはローブを脱ぎ、いつもの盗賊らしい服装に戻る。

 

「おいクリス。この寝てるヤツらはどうするんだ」

「ん?あぁー。その内目覚めるんじゃない?」

「雑だな。しかしまぁいい」

 

本当ならば、疑いのかかる可能性のある連中を放置するのは俺様の性分ではないが。

まぁ、何かあったとしてもだ。何も盗んでないのだから、全く問題は無いだろう。

しかもこの場合、どうすることも出来ない。

 

「よし。では行くか」

「はーい」

 

つかつかと、不要な程にゆったりとした足取りで歩む。

途中で、何人かの警邏とすれ違った。

 

「……?ミツルギ様、その女性は……」

「恋人だ。あまりにも心配だったから連れてきている」

「はぁ。そうでございますか……では」

 

少し訝しんでいたようだが、その警邏は俺様の横を通り抜け、巡回に戻る。

 

「あはは。恋人だって。もーちょっとマシな言い訳なかったの?」

「何を言うか。王都くんだりまで連れてくるような女だぞ。恋人が妥当だろう」

「ふーん。なんだ、ミツルギにも恋人欲しいみたいな感情があるのかと思ったのに」

「俺様を何だと思ってるんだ。その程度の感情ならばある」

「えっ………」

「本気でショックを受けるな。なに、恋人というのは要するに、自分を精神面と肉体面においてサポートする装置だろう?一緒にいることで心が安らぎ、飯を作るなりなんなりで肉体面のサポートもこなすと。うむ、是非とも欲しいさ」

「うわー。純度100パーセントのバカ発言が来た……うわー」

「ふん。俺様も暴論だとは思うがな。しかし突き詰めれば恋人なぞ、互いを体良く利用するだけの関係でしかないからな」

「うわ、本気で言ってるよこの人。まぁ、そっちのがキミらしいけどさー」

 

下らない与太話も交えつつ、一階へとたどり着く。

そして中央の門扉を目指す訳だが、その途中でばったりと、アイリスとクレア、レインと会った。

 

「ミツルギ様。また会いましたね―――って、アレ?その方は……?」

「恋人だ」

「!?」

「「ぶっ!?」」

 

俺様が一切の淀みなく答えると、アイリスは目を丸くし、クレアとレインは勢いよく吹き出した。

汚ない上に失礼だな。

クリスと言い、人を何だと思っているのだこいつらは。金儲けこそが俺様の生きる理由であり基軸だが、それだけで人生がやっていけるか。

 

「そ、そう……なのですか。恋人……ですか。その……どうして、その方がここに?」

「あまりに俺様が心配だと言って、こんな所まで押しかけてきたのだ。言おうが聞かないから連れてきた。まずかっただろうか」

「あっ、そういうことでしたか……。いえ、ミツルギ様を呼び出したのはこちらの事情ですし。一部屋お貸しします」

「いや、いい。俺様用に宛てがう予定の部屋があるのだろう?ならそこで充分だ」

「あっ……そ、そうですか。そうですよね……恋人同士、ですものね。わ、分かりました。既にお聞きかと思いますが、ミツルギ様のお部屋は突き当たりの右側です」

「ああ、ありがとう」

「………で、では。失礼致します、ミツルギ様」

 

やけに取り乱した様子で、アイリスは通り過ぎていった。

すれ違いざま、クレアかボソリと言葉を零す。

 

「……おいミツルギ。後で食堂に来い」

 

………なんだ突然に。

と言う間もなく、クレアはそのままアイリスについて去っていった。

まぁいい。用事が済んだら行ってやるとするか。

 

「さぁ、行くぞクリス。……なんだその目は」

「いやー。うん。なんでもないよ、なんでも」

「そうか。ならば行くぞ」

 

宣言通り、俺様はそのまま宛てがわれている部屋へと向かう――――訳もなく。

そのままクリスを伴って、大広間の扉を開け、王宮の外に出る。

門に繋いである馬車にクリスを乗せ、王都内へ向かう。

門前には無論見張りの兵士が居たが、大したチェックもなく、俺様の顔を見ただけで通してくれた。杜撰な体制だな。まぁ、王家に忍び込むような命知らず、普段は居ないだろうからな。仕方ない面もあるのやもしれんが。

 

「クリス。貴様、宿はどこに取っている」

「イーストエリアのホテル街だよ。というか、別にここで下ろしてくれてもいいけど」

「ふん。こんな夜中に王都に女1人だぞ。王宮のあるセントラルは冒険者が多くて治安が悪い。勘違い転生者どもがわんさか居るからな」

 

王都は大きく分けて5つのエリアに分かれる。

王宮やギルドが構えるセントラル。

日用品や雑貨などが多く売られるノースエリア。

宿やレジャーが多いイーストエリア。

魔王軍と境を共にする為、防衛に重きが置かれた鉄の街、ウェストエリア。

そして多くのエリアに出向く日雇い労働者などが慣例的に住まう街、サウスエリアだ。

 

簡易に言うと、ノースは商店街。イーストは歓楽街。ウェストは防衛拠点で、サウスは貧民街と言ったところだ。

この内、セントラルは特典持ちの転生者が多く集まる場所でもある。そしてヤツらは突然力を手にした影響で、無自覚に態度がでかい。どいつもこいつも主人公気取りで、他の転生者を嘲る。

お前らなぞより、アーサスや皇太子の方がよっぽど強いし頭がいいのにな。

踏み台にすらなるまい。

 

「お?なにさミツルギ、今日は優しいじゃない。なんか変なものでも食ったのかな?」

「当たり前だろう。お前に万が一の事があったら、誰が俺様に金を払うというのだ」

「……あー。うん、やっぱりミツルギはミツルギだったね」

「俺様が俺様である限り、金を追い求める事に変わりはないさ。俺様は金づると友人には甘いんだ」

「うわー。カッコイイんだかヤバイんだか分かんないなぁ。あたしはどっちなのさー」

「さぁな。そら、イーストに着いたぞ。今日のところはさっさと帰って寝ることだな」

 

王都は確かに大きな街だが、馬車で常に移動しなければならないほどエリア間の距離は遠くない。

直ぐにイーストにたどり着いた俺様は、人の少ない路肩に馬車を止め、クリスを下ろす。

 

「助かったよ、ミツルギ。ありがとね」

「貴様は金を払うと言った。ならばコレは契約だ。礼を言われる筋合いはない」

「あー、はいはい。でも私を突き出した方が、報奨としては高かったんじゃない?」

「…………ふん。なに、戯れだ。王宮に忍び込もうなどという命知らず、滅多に居るまい。希少価値、というやつだ」

「あはは、照れてるのかな?可愛い所もあるんだねー」

「鬱陶しいヤツだ。さっさと失せろ」

「あはは!じゃーね、ミツルギ!」

 

そう言って手を振りながら、クリスは街へと消えていった。

………やれやれ。面倒なことをした。

さて、後はノースに寄って、少し高いマナタイトを買って帰るか………。

そう思って馬車に乗ると、唐突な疲労感が感じられた。

クレアが用があるとか言ってはいたが、帰ったら寝そうな勢いである。

 

「………まだ8時半、か。ならば起きるしかあるまい」

 

そう決意はしたが、思考が覚束無いのはどうしようもない。俺様は類まれなる能力を備えてはいるが、所詮は人間なのだからそれはなんとも出来ん。

如何に道の混む王都とは言え、誰かを轢く程惚けている訳では無いが………。

ノースに到着し、マナタイトと軽い移動食を買ってからも、その傾向は拭えなかった。

因みに練乳である。

この世界の牛は気性が荒く、乳牛ですら並の大人4、5人は吹き飛ばす。よって牛と争い、数時間の格闘の後にその乳を絞ることが出来る。少し筋肉質だが、肉もそれなりに食える。

 

その点で言うと、鶏はまだ優しい方である。

鶏卵を狙うものは容赦なく集団で囲みリンチするが、一個体を捕獲しようとするのにはそうではない。ただ目からビームが出る。信じ難いが本当だ。

 

そんな他愛のない事ばかりを無意味に頭に浮かべながら、俺様は王宮にたどり着く。

仕事は手早く済ませたいので、1階の食堂はスルーし、2階の宝物庫へと向かう。

どうやら兵士はまだお眠なようで、目立たぬよう廊下の隅に座らされていた。

結界内に閉じ込めないよう兵士どもを動かし、マナタイトを握りしめて詠唱する。

 

「『ロバースト・ロック』」

 

魔力を込めると、金色の魔法陣が中央に浮かび、薄い結界を築き始めた。

さて、コレでひとまずの後処理は終わった。

後は面倒だがクレアに付き合い、部屋へ戻って眠るだけ。

最後のひと仕事だと気を取り直し、1階の食堂へと足を進める。

全く……急になんなのだ、クレアのヤツは。

夜中にまで愚痴を聞くのは、流石の俺様でも堪えるぞ……?

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。