この凄まじい金欲者に祝福を!   作:ホイル焼き@鮭

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こちらではお久しぶり、どちらでもお久しぶりです。ホイル焼き@鮭です。
ベルディアさんの可哀想さが凄い。


7.この痛ましき幹部に黙祷を!

アクセルの街を出て、早数ヶ月。

俺様は傭兵として各地で働き、多くの懸賞金を得ながら生活する日々を送っていた。

その結果、多くのことがわかった。

 

1つ。この世界の国家情勢について。

 

と言っても、全ての地理を把握した訳では無い――――この国の名は、ベルゼルグ王国。

魔王軍の本拠地と隣接している、人類側最強の剣。他の国々は、凡そベルゼルグに追従する立場をとるが、大きく援助をしているのは隣国のエルロード王国。カジノで有名。

 

2つ。正体不明だった固有スキル、『金欲者』について。

 

どうやらこのスキル、敵にした者から得られる金額に応じて、自分のステータスの全てを底上げするというものらしい。

しかし思った以上に、自分が金に目がくらんでいる時にしか使用できない。また、使用の意思も不要。………なぜ俺様にこんなスキルが付与されているのかは不明。アクアは特典として一つだけ、持っていけると言っていた。

となると、なぜこんなものが付いているかは考証の余地があるだろう。

 

3つ。今の人類側の戦況について。

 

魔王軍の侵攻というのは凡そ王都でのみ行われており、被害は意外と少ないということだ。これでは話が違う。被害により人口減少、転生の拒否、異世界人の投入――――というのが、アクアの話の基軸のはず。

 

結論。

 

あの駄女神………嘘をついたのか?である。

 

しかし、俺様は他者の感情、意向を読み取る術には長けている――――この俺様を騙せるほどの話術が、アクアにあるわけが無い。

となると―――――まだ、俺様の知らない裏事情がありそうだ、ということだ。

 

それを打開すべく足を伸ばしたのが古巣。

冒険初心者の街、アクセルである。

ここに来た理由は、主に2つ。

 

1つは、先述の話にも繋がる話だ。

傭兵として各地を放浪する関係上、四方山話には縁が深いのだが、その中に1つ、気になる噂があったからだ。

 

曰く、アクシズ教の女神の名を騙る不届き者が、アクセルの街にいる、と。

 

アクシズ教というのは、女神アクアを祀る宗教のことだ。その教徒からの噂話である。

別に、本気にした訳では無い。ヤツがこの場にいるわけがないのだし。

しかし、今アクアという存在はキーパーソンの一角だ。無視はできない。

 

2つ目は――――――――――――――――

 

「グォオオオッッッ!我を下すか、人間!」

 

――――――――目の前の、こいつだ。

エンシェントドラゴン。大樹を背に宿し、地面に埋もれる事でエネルギーを吸収する生物。太古の昔より存在しているらしく、滅多に移動を行わない。代わりに、ヤツの移動には天変地異級を伴うという。

その移動ひとつで、何億という被害を呼ぶ災害にも発展しかねる。それが彼奴のプロフィールである。賞金3億エリス。

こいつがアクセルの近くに根を張ったと聞き、退治にやってきたということである。

 

「龍というものは、どいつもこいつも話し方が似通っていて困る。偶には丁寧な言葉を覚えた方がいいんじゃないか、龍よ」

「カッ!よく吠える人間だッ!しかしそれこそ、強者たる所以か!」

「クク……あぁ、人間だとも。人間だから、褒められて嫌な気はせんぞ――――安らかに眠らせてやろう。『エクスプロージョン』!」

 

爆発がエンシェントドラゴンの背の大樹に直撃、木の幹がぼきりとへし折れ、轟音を立てて地へと落ちる。

それと同時に、ヤツの目から徐々に光が失われていき―――――やがて動かなくなった。

ふむ、やはり幹がコアだったか。やれやれ、無駄に手足や尻尾を切ってしまった。

とまぁ、そんな感じだ。アクセルの近くでこいつが出没したとの噂を聞きつけ、狩りに来たということである。

 

「さて―――これで仕事は終わり。久方ぶりの古巣だ――――偶には旧交を深めるとしよう」

 

冒険者カードを見て、エンシェントドラゴンを倒したことが記録されているのを見る。

この世界では、倒したモンスターから魂の記憶というものを吸収しているらしく、それが冒険者カードに数値化されるらしい。

………端の方に、自分の今のレベルが見える。

各地で傭兵業を繰り返し、賞金首を狩って来た俺様の現在のレベルは、なんと。

 

59にまで達していた!

 

………なんだ貴様、意外と行ってないなと思ってはいないか?この国の王都防衛軍の水準レベルは30だぞ?十分ではないか。

……少し雑用にも手を出しすぎたのが問題でもあるが。

まぁ、レベルなどはどうでもいいだろう――――金だ金。レベルなんかより金だ。

 

貯蓄額。これは以前とは比べ物にはなるまい。

ヴリトラ戦時点での貯蓄総額は、1兆7500エリス(計算しようと思った諸君、まぁ待て。あの時の勘定にはドルアの働き分を勘定していなかった。ので、1000万奴には払っている。当然の報酬だ)だったが、しかし。

今現在、俺様の貯蓄額は、なんと。

 

1兆76億5000万40エリスである!

 

…………うむ。分かる。額が高すぎて、稼いでいないように見えるのも分かる。分かるが、数ヶ月に1人で76億稼いだことを考えれば、物凄い額なことも分かるだろう。

………やはり、会社の力とは偉大だったのだな………昔の部下達を思い出すというものだ。

……俺様は何に言い訳しているのだろう。

何故かそうしなければ行けない気がした。

 

「………やれやれ……アクセルについたら、今日は寝るとするか…………む」

 

自前の馬車(無ければ傭兵などやってられん)を引き連れ、アクセルの門を潜ろうとすると、やけに騒がしい事に気づいた。

おぉぉ………と、どよめく声。

……あぁ、そう言えば、アクセルでは俺様は英雄扱いされていたか……そのせいだな。

 

「ミツルギが帰ってきたぞーっ!」

「英雄様のお帰りだーっ!」

 

………まぁ、仕方の無いことだから良いのだが、煩い。しかしまぁ、パフォーマンスとして、手くらいは振ってやるべきか……。

手を振ると、謎の歓声が巻き起こった。

ふむ。悪い気はしない。しかし俺様はカリスマであって、アイドルではない。手を出した経験がないとは言わないが、本職ではないことは確かだ。

 

「やれやれ……面倒だな。『ナイト・オブ・ヴェール』」

 

杖に手を触れ、上級魔法『ナイト・オブ・ヴェール』を発動する。存在感を薄める魔法である。姿を隠せる訳では無いが、少しはマシになるだろう。盗賊職ではないのだから、効果は高くはないらしいが。

魔法を発動した途端、ザワザワと騒がしかった門前が徐々に静まり、平静を取り戻す。

ふむ、案外効果は高いようだ。万能職というのは間違いないようである、アークウィザード。

さて、辺りも静まったことだ。件の女神を騙る女を探すとしよう。馬車を門口に停める。

その時。珍妙なものがメインストリートを通っていくのが視界の端に写った。

 

「おーいアクアー……そろそろ出てこいよ。もうブルータルアリゲーターはいないからさぁ」

「いや……檻の外は、怖いもの……このままギルドまで行くもん……」

 

馬に檻が繋がれており、その檻の中で青い髪の女が膝を抱えている光景。なかなか見られないどころか、単純に奇異の目で見られる所業である。見物料を払いたいくらいだ。

しかし、それはまあどうでもいい話……問題は、檻の中身に限りなく見覚えがあるということである。

 

青い髪。薄紫の羽衣。天女めいた髪飾り。

 

俺様は魔法を解いて、大急ぎでその団体へと近づく。あまり目立ちたくはないが、仕方ない。馬の進行方向に立ち塞がる。

先頭で馬を御していた男が、怪訝そうにこちらを見る。

 

「なんだぁ?あの男」

「さぁ。なんだろう。はっ、もしや馬に引いて欲しかったのか!?なんて度し難い変態だ……っ!」

「……なぁダクネス。人のこと言えないぞ?」

「おや……もしや、あの男……」

 

何やら話し込んでいるようだが、今はどうでもいいと思った。つかつかと歩み寄り、檻の側面へ。

 

「貴様。アクアか?」

「へ?……あんた誰?」

「む………そうか。分からんか。ならいい」

 

どうやら人違いのようだ。本物の女神アクアならば、俺様の顔くらいは覚えているはず。

……しかし、忘れているだけかもしれんな。

何せ、俺様が特典を授かってから数ヶ月の時が経っている―――――忘れるのに十分な期間ではある。

 

「………やっぱり。キョウヤ、ですね?」

「……む?」

 

おずおずと俺様に話しかけてきたのは、この珍妙な一団の1人だった。その体格に比べ大きすぎる帽子には、見覚えがあった。

 

「………お前、メグか?」

「おぉ!その変なあだ名は正しくキョウヤですね!久しぶりです!」

 

その出で立ちは何やらおかしくなっていた。

俺様が買い与えた杖はやはり持っていたが、腰に短剣らしきものを2つ、備えている。

その出で立ちはまさしく、魔法剣士と言ったところだ。しかし俺様の知るメグであれば、魔法を剣にかけることなど不可能だろうが。

 

「なんだよめぐみん、この兄ちゃん、お前の知り合いなのか?」

 

そう、リーダーらしき青年はメグに話しかける。同じように、鎧を着込んだ金髪の女も寄ってくる。

この一団はどうやら、プリースト、ウィザード、クルセイダー、そして職業不詳の男の構成らしい。

 

「えぇ!かつてのパーティーメンバーのミツルギキョウヤです!私と同じアークウィザードですよ!」

「へぇー……。で、そのミツルギさんがどうしたんだ?」

「………すまない。驚かせてしまったな。1つ、聞きたいことがあったのだ」

「聞きたいこと、ですか。そう言えばさっき、アクアと何か話してましたよね。知り合いなんですか?」

 

アクア。そうメグは檻の中の女を呼称した。

………同名、などというのは考えにくい。

しかし、奴は仮にも女神だ。女神がなぜ、こんな世界の一冒険者のようなことをしている?

 

「なんだなんだ、お前の知り合いか?」

「違うわよ?私、こんな人のこと知らないし」

 

という会話が耳に通る。やはり人違い?

……少し、カマをかけるか。

 

「忘れたのか、アクアよ。他でもないお前から特典を受けたのだぞ。貴様から一兆もの資産を受けたのだ。忘れたか?」

「い、いっちょう!?……あ、あーっ!わざわざ金持ってった資産家の人っ!?」

「ちょ、ちょっと待ってくれよ!なぁ、ミツルギさんだっけ?少しいいか?」

 

リーダー格の男はそう言って俺様を強引に連行し耳打ちする。

 

「なぁ、あんたも特典を受け取ってここに来たのか?」

「………ふむ。その通りだ。ということは貴様も転生者、というわけだな?」

「あぁ、多分間違いない。アクアの知り合いってことだよな?」

「そうだ。………しかしお前、思った以上に何も持っていないな。身体に直接作用する特典を望んだのか?」

 

しかし目の前の男からは、転生者特有のオーラというものが感じられない。武器種の類でもなさそうだ。ならばこの男、特典は何を受けたのだ?

…………まさかとは思うが。

 

「…あー……それは……だなー」

「………違うならばバカにしてくれて構わんが、まさかあの女神を特典に選んだのか?」

「……!よく分かったな……。そうだよ」

 

………なるほど。その発想はなかったな。

俺様はより詳しく、サトウカズマと名乗った男から経緯を聞いた。

 

曰く、トラックに跳ねられそうになった少女を助けようとし、元の世界で死んだ。

 

曰く、転生の際にこちらをあまりにバカにするアクアの態度が気に食わず、特典の内容にアクアを選んでしまった。

 

曰く、それでも女神だから役に立つだろうと思っていたが、女神の割にてんで役に立つことがなかったと。

 

ふむ。なるほど、理解した。

さてはこいつバカだな。

……まぁ、気持ちは理解出来る気もするが……。

それにしても先見性のないことである。

 

「……キョウヤ、カズマ。さっきから何をしているのです?」

 

流石に怪しまれ、メグに声をかけられる。

さて、大体の事情は察せた。となると、まずは当初の目的を果たさねばなるまい。

しかし、そうとなるとこの場ではダメだな。

もっと簡易に、アクアと2人になれれば良いのだが。

 

「お、おぉめぐみん。いや、なんでもないんだよ。少し話でもと思って、さ。な、ミツルギ!」

 

誤魔化すように、俺様の肩をバンバンと叩きながら言い放つサトウカズマ。

馴れ馴れしいことこの上ない。

しかし、この場でこのサトウカズマと対立する利点があまりにも薄い。湧いた怒りは飲み込むのが得策だ。

 

「あぁ、そうだなサトウよ」

「そうですか。まぁキョウヤもカズマも、友達少ないですからね。少し仲良くするのも……って、いた、いたたた!」

「ほほう。残念だなメグよ……お前はそんな事を思っていたのだな。うむ、悲しい。悲しいぞ俺様は」グリグリ

「いたたたた!ごめんなさい!謝りますから!謝るからこの拳を収めてくださいー!」

「………ふむ。なに、冗談だ」

 

しかし失礼なやつだ。友達が少ないだなどと。

例え正しかろうと言うべきではないだろう。

まぁ、あまり気にはしていないのだが。

友人は多くて損は無いが、益もない。

ならば友人の多寡などは些末な話だ。

 

「………さて。しかしまぁ、奇縁あって出会ったのだ。どうだ、サトウ。これから食事でも」

「おー、そうだな!せっかく湖の浄化クエストもクリアしたわけだし、報酬で1杯やろうぜ!」

「カズマカズマ、私、しゅわしゅわ呑みたいわ!頼んでいいかしら!」

「カズマー、今日はお酒呑んでもいいですかー」

「………放置プレイ……くっ、なんて屈辱的なんだ!」

 

…………いや、なんだ。このパーティ、クセの強そうな連中しかいないな。

 

「はいはい、わかったわかった。めぐみん、お前はまだジュースな。ダクネス、さっきから会話に参加してないからって盛ってんじゃねぇよ!」

 

目の前で叫んでいるサトウという男が、とても不憫に思えてきた。俺様はせめて少しでも負担を軽減してやろうと、サトウの肩に手をポンと置く。

 

「………大変だな、お前」

「み、ミツルギ…っ!分かってくれるか!」

「まぁ、見れば分かる……奢ってやるから、めげずにな」

「うおお……!さてはお前、良い奴だな!」

 

当然だろう。何せ俺様はミツルギキョウヤだぞ!ふはははっ!

普段ならばそう答えるはずだったが、今はあまりの不憫さにそれすらもはばかられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「がつがつ……カズマさんカズマさんっ!なにこれっ、すっごく、美味しいんですけどっ」

「あぁ!最近まともなもん食べてなかったし、余計だな!」

「ほう。味噌ベースの山菜鍋か……これはなかなか珍妙な味がするな」

「流石キョウヤ。いい所を知ってます」

 

ひとまず俺様の知る、アクセルでは高すぎて利用者が少ないと言われている高級料亭に連れていくことにした。

さて、どうにかアクアと2人になれれば良いのだが。あまりおおっぴろげに話す内容ではない。サトウならばいいが、ダクネスと呼ばれていた金髪の女と、メグには耳に入れない方がいいだろう。

しかしまぁ、タイミングもある。

暫く食事とともに、歓談に勤しむ事にする。

 

「へぇー、めぐみんの言ってたヴリトラ?だとかを討伐したって、本当だったんだなー」

「なんですかカズマ、疑っていたのですか?」

「いやぁ、確かにお前はこの中じゃマシな部類だけどさ。そこそこ戦ってくれるし。それでも爆裂魔法しか使えないのに、んなわけねーって思ってたわー」

「……ふむ。案外使えるのだがな、爆裂魔法」

「そうかぁ?確かに威力はすげぇけど、撃ったら倒れるんじゃ意味無くねぇ?」

「まぁ、雑魚相手ならばそうだろうが……自分よりもデカい連中を相手取るならば、あれほど使い勝手がいい魔法もないぞ」

「……なんか、経験談みたいな感じ出てない?」

「そりゃそうですよ!何を隠そう、このキョウヤも、爆裂道を歩む者なのですから!」

「はぁ!?マジなのか、それ!?」

「マジだな。ほら」

 

冒険者カードを見せる。スキル欄の上部に『爆裂魔法』とでかでかと書かれている。

サトウはそれを見ると、驚嘆に目を見張る。

 

「うぉ、マジだっ!いや……つか、スゲーなこのスキル欄!殆どの魔法覚えてんじゃん!」

「そうだな。もう覚える魔法もないんじゃないか」

 

50を超えたあたりから、確か有用性のある魔法は全て覚えたはずである。最初に不正を大量に行ったからなのだが。

そもそも、もはやレベルすら上がりやしない。

懸賞1億クラスでも上がらん。単価だけではどうしようもない頃合ということだろう。

残りのクラス別スキルで用途がありそうな魔法は主に2つ。

炸裂魔法と、爆発魔法である。

どちらも爆裂魔法の下位互換であり、覚えても魔力の無駄を抑える程度の事にしか役には立たないだろう。

ただまぁ、余裕が有れば考えるか……。

 

「へぇー……。すげぇなぁ……」

「あまり持ち上げるなよ。今から友人になろうというヤツに持ち上げられても、対応に困る」

「ほう……ミツルギ殿は、案外謙虚なのだな。それだけのレベルと実力があるならば、もっと天狗になるものではないか?」

 

ダクネスと名乗った金髪のクルセイダーがそう俺様に言う。

ふむ。

俺様などと自称する人間のどこに謙虚さがあるとこの女は思っているのだろう?

どこかおかしい気もするが。世間ズレしているというか、真面目バカというか。

なんとなしに、ダクネスという女に興味が湧いた俺様は、少しだけ、女の身なりを注視してみる。

 

この世界では、金髪はそもそも珍しい。

金というのは外系の遺伝子を持つものであり、凡そ身分の高い者によく見られる髪色だ。

そして、俺様には分かる。

着ている鎧、担いでいる剣。どれも高級品だ。希少な鉱石の透明な輝きが、それを物語っている。

こいつ。

どこかの貴族の娘だな。恐らく。

 

「な、なんだ、ミツルギ殿。そんなに私を見つめて……」

「…………いや。何も無いぞ」

 

少しだけ考えたが、要らん詮索はよそう。

……しかし、そうだな。貴族、か。

懸賞金での金稼ぎは、やはり効率で言うならば最高効率ではあるのだが―――――如何せん、手間がかかる。

多くの懸賞金は魔王軍に与する実力者、行動が災害に直結する特大の移動体、数が希少ゆえに捕獲司令の下っている希少生物にかけられている。

 

が故に、数が少ないのだ。

魔王軍の幹部クラスともなれば、単独行動でも勝ち目は……薄くはないが、高くもない。俺様はギャンブラーではないのだ。

多くは魔王城に居を据えているため、狙いにくい。

二番目は最も狩りやすい。どこに居を据えているかが判明しているからだ。

3番目は、タダの運勝負。多くの魔法を駆使して、ある程度までの捜索は出来るが、現実的な方策としては薄い。

 

限界が来ているというのは、間違いない。

その点貴族ならば、金を溜め込んでいる可能性は極めて高い。盗みに入るというのは、俺様にとって気が引ける行為では全くない。

その発想を得られただけ、俺様はダクネスに多少の感謝を抱くべきだ。より一層、黙っていてやるという気にもなる。

 

「あまり謙虚と称されたことは無いが―――一応褒め言葉だろうので、素直に受け取っておこう」

「キョウヤが謙虚だなんて、ダクネスは変なことを言うのですねぇ。これだけ自信満々な人もそういないでしょうに」

「そうか?実力があるのだから、当然のことではないか」

 

ふむ。褒められるのは悪い気はしない。

ただ、俺様は自分の能力値においてはほぼ全て把握している。自分に何が出来るか、何が出来ないかは凡そ理解しているのだ。

 

褒められればそれは嬉しいし、貶されれば少しは気分も害す。

が、だからといってそこから俺様への変革が起こりうるかといえば、ノーである。

 

「分かりませんねぇ……。まぁいいですが。それよりキョウヤ、どうしてアクセルに?」

 

と、メグは言う。

ふむ。それは概ね、アクアに会いに来たと言ってもいいのだが。

ただし、突っ込んだ話をする訳にも行くまい。彼女には関係の無いことである。

 

「なに、この近辺に所用ができてな。少しばかり、ここらで居を構えようと思う」

「ははぁ。なるほど……キョウヤのことですから、噂を聞きつけて戻ってきたのかと思いましたが」

「噂?なんだそれは」

 

もしや、女神アクアの噂を聞きつけたということがバレた?

………いや、それは無い。メグにおける俺様が、女神と噂されるだけの女を見に来るわけがない。なぜなら、俺様はアクアでなければこの場に来ようとは思わない。エリスと呼ばれる、もう1人の女神だったのならば全く興味は抱かなかったのだ。

だからそれは別の噂だろう。

 

そんな事を考えていたが、その後のメグの言葉は思いもよらぬものだった。

 

「えっとですね。西門の荒野に、城があるのは覚えていますか?」

「あぁ。誰も住んでいないらしいが」

「そこに今、魔王軍の幹部と言われている騎士が住み着いているのですよ」

 

―――――――――なんだと?

魔王軍の幹部?

そんなA級の賞金首が、今ここにいるのか?

それも、単独で?

あまりの衝撃に、先程まで考えていた、アクアと二人になる奸計がどこかに吹き飛ぶ。

 

「おい、メグ。その話、詳しく聞かせろ」

「は、はぁ……それは構いませんがキョウヤ、顔、近すぎませんか……?」

「………む。悪い、少しばかり昂りすぎた。話を聞かせてくれ」

「まぁ、いいですよ。私とキョウヤの仲ですしね」

 

そう言って、メグは語りだした。

求めもしないのに、俺様が街を出てからの成り行きを、事細かに語りだした。

俺様は見てわかるよう、基本的には効率主義の男である。なので簡潔にまとめると、

 

1。俺様がいなくなってからは腕力任せで短剣を振るってなんとか生計を立てていたが、やがて限界が来て、つい最近サトウとアクアのパーティーに入れてもらった。

 

2。その後暫くし、ダクネスという剣が当たらない、タダの壁としか役立たないクルセイダーを仲間にした。

 

ほう。こいつもダメなやつだったのか……尚更、サトウの苦労が偲ばれるというものだ。

 

「な、なんだよミツルギ。そんなに慈愛に満ちた顔をして……」

「いや。まぁ。なんというか、頑張れ」

 

3。サトウのパーティーに入ってからメグは日課として、日に1度、爆裂魔法を廃城と化した城にぶっぱなしていた。

 

4。所がその廃城は最近住み着いた魔王軍の幹部ベルディアの住処であり、そのせいでサトウ一行はベルディアの不興を買ってしまった。

 

5。ベルディアは激怒の後ダクネスに『死の宣告』という呪いをかけて1週間以内に自分を倒さなくては死ぬと言い残して去ったが、空気の読めない女神の介入により、その呪いは早々に解除された………と。

 

それが取り敢えずのあらましのようだった。

うむ。

 

「……………」ハァ

「ど、どうしたのです?そんなに憔悴して空を仰ぐなんて」

「いや………なんというか、お前ら……バカみたいな事ばかりしているなと………」

 

詰まるところは、アレか?

こいつらは生粋のバカだということか?

全くもって愉快な話だな!

………しかし、それにしても。

仮にも魔王軍の幹部の残した呪いを、解呪1発で解除したのか、アクアは。

やはりそこは、腐っても女神ということか?

 

まぁ、いい。

しかしこの情報。どう活かす?

単独かつ、騎士の魔王軍幹部。所在までハッキリと示されている。これを逃す手はないと思われる。

しかしまだ、情報が足りないな……。メグから得られたベルディアの情報は、漆黒の鎧を纏った首なしの騎士、つまりはデュラハンであるということのみだった。

 

デュラハン。北欧に伝わる民間伝承の1つ。

 

死期の近いものの家に現れては、出会い頭に桶いっぱいの血をぶっかけるという、トンデモな妖精である。

妖精とはあるが、首と胴の別れた姿より、この世界ではアンデッドの類だと思っていい。

 

つまり俺様がこれよりすべきことは、主に2つ。

アクアへの聴取。ベルディアの調査だ。

しかし思った以上に、アクアと2人になるというのは難しそうだ……。機会を伺っていたが、どうにもである。

ならばまぁ、いい。どうせアクセルに居を構えているのならば、これからいくらでも機会はある。

ならば喫緊の用事として、ベルディアの調査から手を付けてみるか………。

 

「すまない、少し急用が出来た。勘定は済ませておくから、後は頼むぞ」

「えっ。キョウヤ、もう帰るのですか?」

 

何故かメグが少し残念そうにそう口にする。

久方ぶりに会うからだろうか。俺様にも、久闊を叙したいと思う程度の人情はあるが。

しかし俺様はそれで『明日でもいいか』などとは思わないほどには、自分の欲に素直なのである。金に繋がることは即行動、だ。

まぁ機会を設けて、少しは語らうとしよう。

金稼ぎ以外が無駄とまでは、俺様も思わん。

今はそっちに留意したい、というだけである。

 

「悪いな。また今度、どこかで語らおう」

「むぅ、仕方ないですね。今度はゆっくり、昔話でもしましょう!」

「あぁ。諸兄らも、また機会があれば話でもしよう」

「おー。ありがとな、奢って貰って」

「ガツガツガツ……」

「あぁ、楽しみにしておくよ」

 

伝票を持って部屋を出る。

さて……情報収集か。俺様も傭兵として長いので、得意な分野ではある。

この世界で情報を得やすい場所は決まっている。

酒場と、ギルドだ。

そして情報に通じている人物も決まっている。

アクセルだと……そうだな。多少の貸しもある事だし、彼奴を訪ねてみるか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「という訳だ、盗人。時間はあるか」

「………いきなりご挨拶だね。まぁ……少しなら構わないけどさ」

 

そんな訳で訪れたのはギルドである。

目当ての女を見つけ、さっさと声をかけた次第だ。

目の前で少しバツの悪そうな顔をしているのは、盗賊装束を身にまとった銀髪の女。

そう、恐れ多くも俺様の部屋に忍び込み、盗みを目論んだ盗賊職の女、クリスである。

 

「というか、帰ってたんだねミツルギ。聞いたよ?随分とご活躍じゃない」

「ふん。なに、タダの野暮用だったのだが。生憎、少しばかり所用ができたのだ」

「ふぅん。それが魔王軍の幹部退治ってワケ?」

「まぁ、そのようなものだ。それで、どうなのだ?貴様は何か情報を持っているのか?」

「うーん、まぁ、多少は?」

「ほう。それは手間がなくていいな。いくらだ」

 

俺様がそう言うと、クリスは意外そうに目を丸める。その後、にぃ、と口の端を吊り上げた。

 

「へぇ。ちゃんと払うんだ、守銭奴のくせに。意外だね」

「何を言うか。今時、情報ほど価値のあるものはあるまい。価値のあるものに金を払わんなど、金への冒涜だろうが」

「君らしいね、全く。そうだなぁ……うん。君には見逃してもらった借りもあるしね。1万エリスでどう?」

「ほう。皮肉のつもりか、盗人?」

「さてね。あたしにはサッパリ」

「食えん奴だ。あぁ、それで構わん」

 

財布から1万エリス抜き出し、クリスの前に置く。所詮これも、幹部を倒せば戻る金だ。

1万で済むなら、思ったよりずっと少ない。

まぁ、情報の中身によるが……。

クリスは1万エリスを受け取ると、にんまりと笑ってそれを財布の中にしまった。

 

「毎度ありー。交渉成立だね。いやぁ、久しぶりにこういうやり取りをしたなぁ」

「御託はいい。さっさと話せ」

「むぅ。ストイックなやつ。分かったよ」

 

そう肩を竦めて、クリスは語る。

俺様はそれに二三、相槌を打ちながら聞き、大いに頷く。

 

「なるほど。それはなかなか――――大変だな」

「ね。君も気をつけたほうがいーよ?」

 

あぁ、と頷いて、俺様はクリスと別れた。

さて。なかなかとんでもない情報を得てしまったな。

1つ―――――確かめてみるか。

そう思い立ち、俺様はギルドを離れ、暗くなり始めた外へと赴くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クリスの情報は単純なものだった。

曰く、かの幹部の目的はこの街の付近で見られた、妙な光の筋の調査だということ。

聞くにそれは、妙な神気を帯びていて、聖属性の強いものであったという。

 

………ふむ。時期と、アクセルにアクアがいたという事実を鑑みれば、それは十中八九アクアのものではないだろうか。

……なんだ、ベルディアがこの近くにいるのはアクアのせいなのか。それはなんというか、はた迷惑なことだな。

 

これだけなら1万の価値はないと思うところだが、そうではない。

クリスが語ったもう一つの情報、それは――――――今、俺様の目の前にある。

 

「………っ。これは……なかなかの数のモンスターだな」

 

目の前にいるのは、大量の数のモンスターだった。数百はくだらないだろうその軍団は、黒く変色しきった腐肉を、真っ黒な甲冑で包んでいた。

ほう。アレはアンデッドナイトか。ゾンビとは違い、鎧に身を包んだ上位のアンデッドだ。

む?今俺様がどこにいるのか、だと?

 

知りたいか。知りたいなら教えてやる。金を払え。

 

いやなに、冗談だ。ミツルギジョークだ。

そこまで欲どしい人間ではない。

俺様は今、件の古城に来ている。

残念ながらバルコニーのようなものは無かったので、窓のサッシに足を引っ掛けながら中の様子を伺っている次第だ。

そしてそこから中の大広間のようなものが見えるのだが、なんとそこには大量のアンデッドがひしめいていた、というのが俺様の現在の状況である。

その先頭で、堂々とした立ち居振る舞いを見せているのは、真っ黒な馬に、真っ黒な甲冑を着込んでいる、頭部の失われた人物だった。

 

「(アレがベルディアか………。聞いていた通りではあるな……)」

 

クリスから受けた情報のもう1つ。

それは、魔王軍幹部ベルディアが、大量のアンデッドを引き連れ、攻め入る準備をしているということ―――――だった。

事実、今、目の前にいるのだから真実なのだろう。

さて――――どうしたものかな。

 

爆裂魔法をぶち込めば、大半は殺せるだろうが……あの幹部まで巻き込める気はしない。

それに、爆裂魔法を撃ったあとは、著しく行動が鈍る。レベルが上がった故、爆裂魔法1発では倒れるほどの疲労を催すことは無いが。

それでも倦怠感はある。やはりこの魔法の使い勝手は非常に宜しくないのである。

 

こんなことならば、ギルドに懸賞金の金額でも聞いてくるのだった。

積まれた額によっては、2発ほど撃つことすら可能であったろうに。

 

とかなんだの考えているうちに、ベルディア達は出立してしまったようだった。

オォォ、という鬨の声を響かせながら、外へと赴く戦士達。

 

むぅ。こうなってしまっては爆裂魔法も効果は薄いだろう。どうしたものかな。

そもそも。リスクとリターンがどうかも分からん。奴単体と事を交える危険と、(見返り)のどちらが優先されるべきなのか。

 

………仕方あるまい。様子を見るとしよう。

まぁ、どこへ攻め入ろうとしているのかは明白。あの街にはそこそこ猛者がいるのだ、アレでも。それに、一応ではあるが、特典持ちのサトウも居る。多少はなんとかなるだろう、きっと。

 

そうだ。魔王軍幹部の住処が今ここにあるのだ。何かしら、金目のものがあって然るべきでは?

ちょっと、入ってみるとしよう。

そう決めた俺様は、堂々と中に入る。

古城然とした外見とは異なり、中は凄まじく整頓されていた。大きな城だけあって、多数の部屋が存在していたが、そのどれもが美しく保たれていた。

ふと、部屋の壁にこんな壁紙があるのに気づいた。

 

「1。整理整頓を心掛けよ、美しい部屋が美しい心身を育む。2。我らアンデッドと言えど、誇りを捨てることなかれ。身体が腐り落ちようと、心まで腐ってはならぬ。3。急な爆撃に注意。爆撃後は俺の指示に従って片付けをすること…………………」

 

なんだこれは。

なんとまぁ、綺麗な条文であるか。これが本当に魔王軍の幹部の言なのか?

確かに、長年放置されていたはずの城にしては綺麗すぎると思ったのだ。まぁ、こんな言葉をアンデッドが理解出来るとは思えんが。

 

というか、3の爆撃ってメグだろう。辻爆裂魔法を打ち込まれては、ベルディアという幹部は整頓をしていたのか………?

さすがの俺様といえど、同情を禁じ得ないぞ……?

 

そんなことを知ってから、そこかしこの努力の姿が目に見えるようになってきた。

 

黒く変色した城壁を張り替えたり。

ぽっかりと空いた穴に、板が据え付けられていたり。

ぼっきりと折れた梁が、板で補強されていたりしている。

 

「ふ、不憫すぎる……こんな事をするような奴、俺様ならぶっ殺してるぞ……」

 

急激に、ベルディアという話もしたことのない幹部への憐憫が湧いてきた。

ただ調査に来ただけなのに、仮拠点に毎日爆裂魔法をぶち込むバカに日頃の整頓をぶち壊しにされるのだぞ?

逆によくここまで耐えたと思うぞ、俺様は。

いや、それでも。金になるのならば俺様は殺るが………。

 

どうやら物色の甲斐なく、中に金目のものはないらしい。

仕方ない、様子を見に行くとするか。

 

「『ナイト・オブ・ヴェール』」

 

魔力の流れを覆い隠し、存在感を失わせる。

さて。アクセルはどうなっているのか。

少しは、鑑賞してみるとしようか。

遠くでサイレンが鳴り響くのが聞こえる中、俺様はひとまず、アクセルの西門に戻ってみるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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