この小説はかなり気分です。プロットもなければ書く予定もあまりありません。しかしこの場に掲載したからには、何らかの形で終わらせられたらと思っております!宜しければこれからも、ご愛顧いただければと!
想像以上に、アクセルの西門は惨憺たる状況だった。
まず目に入るのは、なだらかな丘陵地にぽっかりと空いたクレーター。そんな事が出来るのはメグしかいない。辺りにアンデッドナイトの姿が無いことから、恐らく纏めて爆裂魔法で吹き飛ばされたと見える。
それにしても、あの数を纏めて消し去るには彼奴等を1箇所に固める必要があるのだが、どのようにしてそれを叶えたのだろう。
はて、俺様に比類するような軍師は居なかったと思うのだが。
もしくは、何者かの特殊スキルか?
まぁ、なんだろうとそれは構わない。
しかし――――何よりも悲惨なのは、クレーターではなく。
ゴロリと無造作に転がっている、赤い球体だった。
びちゃびちゃと激しい水音を立てながら、1つ、また1つと数を増していくそれらは、見るものを震撼させること請負だろう。
つまり―――――今俺様の目の前では。
何人もの冒険者が―――――吸い込まれるような漆黒の剣を持ってして。
首を―――――切り落とされていた。
複数人で掛かる冒険者達を、ベルディアは一瞥もせずに同時に切り伏せていく。
それも、蹴りや肘打ち、上体の移動などによった躱し方、切り伏せ方ではない。
ただ一つ、剣だけを持ってして相手を捌き、致命傷を的確に与えている。
「(………アレは、ただ戦闘のスキルとしての剣技ではないな。アンデッドのイメージとは真逆―――厳格なルールと心構えに従った、騎士の剣技だ)」
いわゆる、喧嘩殺法ではないということだ。
俺様も剣技を学んだことはある。しかしどちらかというと、俺様の剣技は後者に近い。
だからなのか、その美しい体捌きに見惚れざるを得なかった。どんな剣舞よりも、見応えのある舞台だった。
しかし――――その剣技は同時に、相手の実力を証明するものでもある。
どうする。間に入るか?
『
しかし―――勝てるか、この俺様だけで?
生まれ持った類まれなる頭脳をもって、ヤツと俺様のスペック、相性を即座に導き出す。
―――――――――7割。
7割が、俺様の現時点での勝算だった。
俺様は天才ゆえに、多くの技術を常に高レベルで身につけてはいるが、1つの道を極めた者ほどのパフォーマンスは発揮できない。
レベルが上がり、スペックとしてはやはり上がっているものの……剣技では及ばない。
そしてアンデッド故の性質だが、奴らは物理攻撃に対して若干の耐性を持つ。
無論、俺様は真に魔法剣士故、物理攻撃に魔法をかけての攻撃も可能だが、やはりそれは相手のアドバンテージに他ならない。
しかし、同時に俺様単体の能力値を見た時、目の前の幹部とそう遜色ないことはわかる。
ステータスのみを見た時、俺様はヤツのソレを上回っている。単純なスペックは俺様が上。
よって、7割。
まぁ、賭けてもいいレベルの勝算ではある。
しかし同時に、3割とは無視出来ない可能性でもある―――――俺様は勝負師ではない。
経営者だからな。
とかなんだの思っているあいだに、すっかり畏怖に包まれていた冒険者達の中から、ある女がベルディアの前に現れる。
「ほう?次はお前が俺の相手をするのか、聖騎士の女よ」
そう、ベルディアの目の前で両手剣を構えているのは先程別れたダクネスだった。
む。確かあの女、攻撃が当たらないとかでは無かったか。
何やらゴチャゴチャと下らなさそうな会話の後、ベルディアへと切りかかるダクネス。
ベルディアは姿勢を低くし、高いレベルを感じさせる俊敏な動きで、彼女の元へと駆ける。
「はぁあああっ!」
身体に喝を入れるように掛け声を上げ、ダクネスは剣を袈裟懸けに振りかぶる。
スカッ。
小気味いい程に空を切ったその剣は、ベルディアの足元に突き刺さった。
………まぁ、なんというか。
前評判通りではあるな。
流石にこの衆目の中、啖呵切って現れてソレなのは恥ずかしいのだろう。
頬を赤く染めながらダクネスは更に剣を振るうが、ベルディアにはかすり傷1つつかない。
「……期待外れだった……が、もういい。お前はここで、死ねッ!」
ベルディアの一閃がダクネスを襲う。
あわや、他の冒険者たちのように切り裂かれ、二分されるかのように思われたが、しかし。
「ああっ!?せっかく新調した私の鎧がっ!?」
――――――ベルディアの一撃は、ダクネスの銀鎧を裂くのみだった。
見たところ、その身体に手傷を負った様子はない。
…………ふむ。
鎧そのものの素材はやはりいい。この世界でも希少な鉱石を使っているのはすぐにわかる。
しかし――――それだけでベルディアの一撃を防ぎきれるか?
否。生半な防御スキルでは紙切れ同然だろう。
クルセイダーというのは、耐久に寄せた剣士の事である。無論その本質は前線で攻撃を受ける
そもそもジョブによってステータスの伸びやすさは変わるのだから、防御力なぞ放っておいても上がるもの、というのが定説。
………なるほどな。アレは、基本スキル『剣術』すら取得していないのだ。
スキルポイントは全て――――防御系のスキルにつぎ込んでいるというわけ、か。
………メグにせよ、ダクネスにせよ……阿呆しかいないのか、この世界には。
しかし、パーティープレイにおいては事のほか優秀なようで――――最前線でベルディアを抑え、他の魔法使いの詠唱のサポートをこなしていた。
そしてその指示をしているのは、なんとあのサトウである――――ほう?
アレこそ、特筆する長所を持たない凡夫だと思っていたが――――なるほど。
クセのある連中を纏め、作戦を立案するブレーンだと言うわけか―――――まぁ、悪くはあるまい。
しかし、ベルディアはそれにも即座に対応する。
「貴様ら全員まとめて、一週間後にッ!死に晒せぇぇぇえええ!」
漆黒の煙が、魔法使い連中の元へと飛んでいく。
死の宣告。ベルディアがダクネスに向けて放ったという呪い。それが発動したと見える。
それと同時に、動揺した魔法使いの連中は、魔法の詠唱を辞めてしまう。
後続の魔法使いたちも、それを見て詠唱を躊躇しているようだった。
ふむ。中々良い手を使う。負の感情は伝播するが故に、集団を相手取る時、心理的ダメージを与えるのは有効だ。
しかし、もう少しは統制も取れるかとは思ったが。
まぁ、ヴリトラの時とは違い、連中は完全に巻き込まれただけだろうからな。
やる気と危機感が足りんのだ。ぶっつけの作戦のダメな所だな。
………さぁ、どうするサトウ?
貴様の動かせる手は、もう無いぞ?
柄にもなく、少しこの観戦を楽しんでしまっている自分に気づく。
………王都でも、俺様と同じような転生者は居た。多くは強大な特典を武器に、急速にのし上がってきた連中だった。
ただ――――俺様が目をかけるに値する存在は、そこには居なかった。
なんてことは無い。振るう力が強大であろうと、それを振るう人間に意志がなければそれはただのオートマタだ。
そんなものに興味などないし、俺様の実益にもならない。力を手に入れただけのガキに、どうして興味を抱けよう。
ただ――――目の前の転生者は、違う。
転生者でありながら、力がない。だが、ヤツには意志がある。難境を越えんと行動を起こしている。
………さぁ、どうだ。お前は、少しは見所のあるヤツなのか?サトウ――――――――――
「覗き見?趣味が悪いね、キミも」
「………ほう?そういう貴様はどうなのだ―――――貴様も冒険者の端くれであろう?参戦しなくても良いのか――――クリスよ」
突如掛けられた声に、俺様はゆっくりと振り返りながらそう零す。
そこに居たのはクリスだった。
短い銀髪を靡かせながら、クリスはニッコリとこちらに微笑んだ。
「あはは。まぁ、ちょっと申し訳ないけれど。でも、勝てない戦いはしない主義なんだ、アタシ」
「ほう。貴様はコレを勝てない戦と言うか」
「そりゃあね。ここは駆け出し冒険者の街。あの幹部には勝てやしないよ」
「ふむ。シンプルだが的を射た結論だな」
「そういうキミはどう思うのさ、ミツルギ。勝てると思うの、アレ」
「………さぁな。俺様の知った話ではない」
「薄情だなぁ。キミが加勢すれば、少しは状況も良くなるんじゃないの?みんな、キミの名前を呼んでたみたいだよ?」
眼下では、サトウがダクネスとベルディアに向け、初級魔法『クリエイト・ウォーター』を放っていた。水を生み出すだけの、シンプルな魔法だ。
ベルディアはそれを大きく避けたが、ソレはヤツらの足元を大いに濡らしていた。
それをサトウは、これまた初級魔法『フリーズ』で凍らせる。
ほう。単純な組み合わせだが、悪くない。
少しとはいえ、ベルディアの動きを鈍らせることにサトウは成功する。
そして更にスキルを使う。盗賊の基本スキル、『スティール』をベルディアに向けて使った。
『スティール』は、相手から何か1つ持ち物を奪い去るスキルだ。そのスキルの成功率と奪い去る代物は幸運値に左右される。
狙いは恐らく、ベルディアの持つ黒剣。
「なるほど――――悪くない狙いだったな。しかし、残念だな冒険者よ。レベル差さえなければ、俺の剣を奪うことも出来たやもしれん」
………ふむ。それはまぁ、そうだろうな。
マイナス補正、というのがこの世界にも存在する。
悪龍ヴリトラが、ドルアの『デコイ』を効かぬと豪語したように。
根本的なレベルが大きく異なると、スキルの成功率は反比例的に下がっていく。
体力が少なくなる、つまりは被術者の生命力がさがるにつれて、上がるのだが。
つまり、低レベル冒険者のスティールは、いかに卓越した運をもってしてもほぼ不可能だということだ。
盗賊職の冒険者たちが、スティールをベルディアに掛ける。
がしかし、ベルディアの剣を奪うことは、やはりできなかった。
ふむ。
出るか?
そろそろ限界なようにも思う。
俺とて、古巣が徒に蹂躙されるのを、黙って見ていられるほど冷酷ではない――――勝算を鑑みても、ここで義憤に駆られ、助太刀に向かうというのも選択肢だ。
俺様は座り込んでいた体を動かし、参戦の準備を始める。
しかし――――――少しだけ、期待もある。
俺様はただのCEOゆえ、人事そのものに口出しをする立場ではなかったが、その辺の選別眼も無くはない。側近の連中は俺様自身が見繕った人間で埋めていたのだから。
その俺様の勘が告げている――――もう少し。
待ってみても、良い気が――――――――
「水だぁぁぁああ!!!」
――――そんなサトウの叫び声と共に、大量の水魔法がベルディアに向けて放たれる。
それをベルディアは、まるで何の変哲もないその水を恐れるように、1つずつ丁寧に避けていく。
む……?なぜ、水を避ける?
……………確か、先程ダクネスに水をぶちまけた時も、避けていたか。
まさか。水が苦手なのか?
ヴァンパイア宜しく、流れる水が苦手だと?
……伝承的根拠があるのかは知らんが、ヤツが水を執拗に避けているのは確かだ。
そして、1回でそれを見抜くサトウの慧眼も、確かなものなのだろう。
「あれ?行かないの、ミツルギ?」
「……少し、気が変わった。賞金は惜しいが――――目先の利益より、優先すべきこともある」
「………ふぅん。ま、好きにするといいよ。私はもう行こうかな」
「ふん。そう言えば、前々から思っていたがな、クリスよ」
「うん?」
「貴様、何故盗賊職をしている?」
「なんでって……適正が高かったからとしか言えないけど」
「ふむ。にしては貴様、随分と『魔力の値が高い』ようだが?」
上級魔法『マジック・サーチ』。
その結果で彼女は、相当高い魔力値を示している。凡そこの世界においても、魔法職は価値が高く、人気も高い。盗賊も無論、ダンジョン探索に適正の高い人気職だが、魔法職には及ばない。
そんな俺様の言にクリスは、少しだけ驚いたあと、取り繕うように笑う。
「やだなぁ。何かの間違いじゃないかな?」
「ふむ。クリスよ。貴様には隠し事は向いていないようだ。単にやってみたかったからと言われれば、俺様はそれで納得したものを。そこで無駄な誤魔化しを述べてしまっては、裏の事情が見え透くぞ」
「……………あー。なんか、うん。確かにあたしには向いてない、かな」
「あぁ。そのくせ人と関わること自体は好きときた。警戒するか控えるか、どちらかを推奨しよう」
まぁ、俺様の部屋に盗みに来た時から、クリスという人間は少し特異な印象はあったが。
冒険者の盗賊が、人からモノを盗むなどと、聞いたことがない。
何やら事情でもあるのだろうとは、前々より思っていたことだ。
「……聞かないの?あたしが何者か」
「聞いてどうする。聞いたところで、好奇心が満たされるだけで、一銭にもならんだろうが」
「あははっ。ブレないね、君は」
「そうとも。何せ俺様は稀代の才児。そんな俺様がフラフラと惚けていては、後ろにいる者が不安になるだろう。人の上に立つというのはそういう事だ」
「……そう。それは、なんというか。経営者というより………王様みたいだね」
王。
ふむ。王、か。言い得て妙である。
王とは自己を追求するもの。我欲を追い求め、全てを投げ打ってなお、自己のために邁進できるものだ。
そうでなければ、誰もその背に従おうとは思わない。何よりも真っ直ぐなエゴこそ、人を惹きつけ、その背に身を任せたいと願わせる。
その点なら、俺様は王に近い。
金儲けこそが俺様の全て。幼き頃の貧困を、生きるための我武者羅な努力を、俺様は忘れない。今なお求めてしまう程に、金は俺様を魅了してやまない。
………くく。つまらんことを考えたな、俺様にしては。
「くくく。中々いい事を言うな……クリスよ。笑わせてもらった――――よって、貴様への疑念は捨ててやる。誰にも売りつけはせん、何億積まれようとな」
「………ん?急にどうしたのかな―――君がそんなことを言うなんて。頭でも打った?」
「ふっ。正常だよ、俺様はな。そら、疾く失せろ。それとも、まだ見ているのか?」
クリスと与太話をしている間も、戦いは続いていた。水を精製する初級魔法『クリエイト・ウォーター』がベルディアに向けられるが、その尽くが避けられていく。
ふむ。中々面白いダンスだな。格好だけは立派な騎士が、ぴょんぴょんと跳ねて非常にダサい。
「……いや。遠慮しとくよ。それじゃあね、ミツルギ」
そう言って、クリスは今度こそどこかへと立ち去った。
ふむ。中々愉快なショーなのだがな。100エリス程度の価値はあると思うのだが。
しかしまぁ、有効打にはならんようだ。
所詮は初級魔法。大した量の水ではない。
せめてもう少し大量の水を生成できるのならば、弱体化は見込めるだろうに。
そうこうするうちに、アクアがサトウのそばに寄り、何やら耳打ちする。
幾言か言葉を交わした後、アクアが泣き叫びながら何やら呪文を唱え始める。
……………おいおい。この魔力量。洒落にならんぞ、コイツは……!
「『セイクリッド・クリエイト・ウォーター』ッ!」
アクアがそう叫ぶ。
同時にヤツの杖が淡い紫の光を帯び、冒険者たちの頭上に一瞬で水が現れる。
………おいこれ。俺様も巻き込まないか?
というか、この水量。アクセルの外壁程度で耐えられるか?
――――――いや無理だ。
「ちぃっ……!懸賞の少しはよこせよ、凡夫どもが……!」
俺様は一瞬で判断し、冒険者たちの前に立ちふさがる。
いけるか?いや、どうにかする。
『
仕方ない――――全てをかばいきるのは不可能だが、やるしかない。
『高速詠唱』がある、間に合うだろう。
座標位置を修正。サポートスキル『過重詠唱』発動。カバー範囲拡大。サポートスキル『二重詠唱』発動。魔法の同時発動許可。
「ミツルギッ!?お前、どこから……!」
「『『プロテクト・オブ・アイギス』』ッ!」
防御魔法『プロテクト・オブ・アイギス』を二重に発動。純白の輝きが、冒険者たちの頭上にまるで滑り台のような斜面を形成する。
頭上に現れた大量の水は、そっくりそのまま、ベルディアとダクネスに向けられる。
ミシリと、純白の盾が軋む音がした。
「お―――オオオォォオオッッッ!?」
もはや洪水なその勢いに、ヤツらは荒野へと流されていく。庇いきれなかった分が街にも流れ込んだが、足首程が浸る程度で済んでいるようだった。
………間に合ったか。間に合ったな?
水が完全に流れ終える前に、俺様はサトウに問いかける。
「おい、サトウ。次の策はなんだ」
「えっ!?お、俺か……?」
「貴様以外どこにいる。俺様は善意では動かん。よってアレを倒したら俺様に金をよこすことだな」
「お、おぉ……お前、ホントに金のことしか考えてねーんだな……」
「無論だ。金があればなんでも出来る。金がなければ何も出来ん。して、次の策は。勝てぬのならば俺様が勝ってやろう。その方が俺様にとっては都合もいい。しかしサトウ。貴様が勝てるというならば、俺様は1歩引き、再度傍観することも吝かではない。ここまで来たのだからな」
俺様の言が意外だったのか、サトウは目を丸くする。しばらくしたあと、目を逸らしながら嘯いた。
「……いや…俺なんかじゃ、あんなのには勝てないって。ミツルギ、お前がやった方が……」
「戯けが!今のは貴様が自信満々に勝てると言うべきところだろうが!この小説的に!!」
一喝してやった。
「お、おおっ!?なんかとんでもないこと口走ってないかお前!?」
「ふん。まぁ貴様がそれで良いと言うならば良いだろう。見込み違いだったというわけだ。俺様も目が鈍ったな」
背に据えた長剣を構える。全く、少しは期待したが。しかしまぁ、ここまで弱らせたのだ。それは素直に称賛すべきだろう。
もはや勝率は100パーセント。楽な金儲けだな、全く。
「いや。待ってくれ、ミツルギ」
「………ほう。待てと言うからには先程の言、撤回せんと?サトウ」
「いや。俺じゃなくてお前がやった方がいいってのは、間違いじゃないんだけどさ。でも……やれるだけは、やってみたいのもある」
目の前の男からは、臆病な気質を感じる。
恐らくこの男は、タダの一般人だったのだろう。元の世界でも万能の天才である俺様とは違う。
しかしまぁ、ここで自分でもやろうとする気概だけは、あるということだ。
それはつまり、この世界で多少なりともやり直したい、努力したい、特別になりたいという想いがあるということ。
そういった連中を育て、利用してこその経営者。つまりは『王』だろう。
「ふん。好きにするがいい、サトウ。貴様がトチった時は、俺様がカバーしてやろう。だから、やるならやって見せろ。貴様の価値を見せるがいい」
「っ。あぁ……!」
大量の水が、漸くハケきる。
さて、少しは良い結果が出れば良いが。
そう思いながら、そこらの冒険者の中に混ざり込む。無論『ナイト・オブ・ヴェール』はかけておいて、だ。
しかし見知った連中には若干効果が薄いのか、よろよろと千鳥足のメグが俺様の隣にやってくる。
「珍しいですね、キョウヤがあんな事を言うなんて。懸賞金、欲しくないんです?」
「無論、欲しいとも。しかしだ、メグよ。目の前の数億よりも、時に人材を見極め、耐え忍ぶことが必要となる時もある。その人材が俺様に与えてくれる利益は、目の前の数億を越える可能性があるのだから」
「へぇ……カズマは、キョウヤの眼鏡に適うというわけですか?」
「ふん……あくまで可能性だ。可能性だが、少しは期待してやる。そら、どうやら始まるようだぞ」
よろよろと千鳥足で、歩み寄るベルディア。
その余りに弱りきった姿は、やはり先程までのヤツとは大きく異なる。
例えば今ならば――――――『スティール』が成功する可能性も、決して低くはない。
「喰らえ――――『スティール』ッ!」
「やってみよ!いくら弱体化したとは言え、駆け出し冒険者のスティールにかかる俺ではないわ!」
まさに運命の瞬間だった。
しかし命運はサトウの方に傾いたようで、サトウの右手には物体が立ち顕れていた。
漆黒に輝くその物体は、確かにベルディアにとって大切であり、取られてはならないシロモノだった。
「あの………頭、返してくれませんかね……?」
沈黙。
そして――――――嬌声。
「おーいみんなー!サッカーしようぜー!サッカーってのは……手を使わずに、足でボールを蹴るスポーツだよっっ!」
「あいでっ!?」
「ぎゃはは、こいつぁおもしれぇ!」
「おーい、こっちー!こっちにもパース!」
混沌。そうとしか言い表せぬ状況が、今俺様の目の前で繰り広げられていた。
まさか……まさかデュラハンの頭を、スティールで奪い去ってしまうとは……。
サトウの幸運というのも、侮れないかもしれない……。
そしてよりにもよってサッカーに興じる始末。
しかしこれはこれで面白いので、しばし鑑賞することにしておく。
恐らく、あの頭に準じて見えているのだろう、ヤツには。
だからこそ、頭部があそこまでぐるぐると弄ばれてしまえば、身動きが取れんというわけだ。
だが……これでは現状維持にしかなるまい。
無論そこは、考えがあるらしいサトウ。
ベルディアと同じく洪水に流され、フラフラと千鳥足のダクネスに、サトウは呼びかけた。
「おいダクネスッ!お前、一撃くれてやるっていってたよな!?」
「いや、言ってないが」
「言ってたんだよ!書かれてないけどッ!」
「お、おぉ……そうなのか……」
「今だ―――――かましてやれ!」
「っ。あぁ!」
無駄かつ蒙昧なやり取りの後、水浸しのダクネスが地面に転がった両刃剣を手に取る。
アレでもヤツはクルセイダー。ナイトの上級職である近接最強職。膂力はそれ相応のものを持つはずだ。
いくらヤツでも、この距離で視界の覚束無いベルディア相手に外すことは無い。
「げはっ!?」
白銀の両刃剣が、ベルディアの漆黒の鎧に切りかかる。素材も良好、筋力も上々、ともなれば――――斬れぬ道理なし。
大きな手傷を負ったベルディアだが、それでもヤツはアンデッド。物理ダメージでトドメを刺すことは難しい。
しかし、あそこまで弱体化していれば――――――ターンアンデッドが、ベルディアにも効くのではなかろうか。
予想は的中し、サトウは何やら死体に近づいて処置を施していたアクアに近づく。
ふむ。アレは蘇生魔法の準備だな。
並大抵の蘇生魔法では、吹っ飛んだ頭を完治させるほどの効果は無いはずだが。
ヤツは女神。とすれば、そこらのプリーストとは格が違うだろう。蘇生できるのやもしれんな。
「おい、アクア!何してんだお前、出番だぞ!」
「えー。これでも私、働いたんですけどぉー。てか現在進行形で働いてるんですけど!」
「いいからほら!今のアイツなら、浄化できるんじゃねぇか!?」
「もー。仕方ないわねー!賞金はこのアクア様にしっかり貢いでよ――――――『セイクリッド・ターンアンデッド』!」
アクアが杖を持ち上げそう叫ぶと――――眩い極光が、ベルディアの全身を包む。
純白の輝きとは裏腹に、燃え盛る火に包まれ――――――ベルディアは消滅していった。
全くもって効率的ではないし、まぐれ当たりにも程があるが――――――しかし。
勝てば官軍、負ければ賊軍――――より簡潔に纏めるなら。
「結果オーライ、ですね」
「………ふっ。あぁ、そうだな――――」
踵を返し、街中へと足を向ける。
結末は見た。可能性も十分に見届けた。ならば、ここに留まっている理由はない。
後ろではギャーギャーと騒がしいようだが、まぁ、俺様には関係の無いことだ。
「待ってくださいよ、キョウヤ。私を置いていく気ですか?」
「………なんだお前。混ざらんでいいのか、アレに。捨てられないよう、媚びを売っておくべきだと思うが」
「ふふ。相変わらずキョウヤは、冗談がきついですね」
「うむ、確かに冗談だが、7割本気だぞ」
「それほぼ本気じゃないですか!………いやぁ、その。久しぶりですからね。殆ど話も出来なかったじゃないですか。キョウヤが何をしてたのか、興味がありまして」
そんな妙にいじらしいことを言うメグ。
妙に顔も赤い。アクアの出した洪水のおかげで、絶妙な気温だと思うがな。
………まぁ、なんというか。
「妙なヤツだな、お前は」
「えぇ、まぁ。元とはいえ、キョウヤのパーティーメンバーですからね」
「抜かせ。……言っておくが、俺様はお前なんぞおぶらんぞ」
前を歩く。前にはギルドと、数名の職員達が手を振っている。
やれやれ。
もう少しだけ、今日という日は続くようである。
ソレを少し楽しみに思っている俺様に、やはり聡明な俺様は気づいているわけで。
ふっ。
隣のバカが、うつったのかもな?
後日談。
後付けを語る俺様ではないが、万能ゆえ物事への関心が少しばかり薄い俺様でさえ愉快な出来事であったため、文章に起こすこととした。
ベルディア討伐の翌日。
ギルドから多額の報酬金を得た冒険者どもは、朝っぱらから大量の酒を湯水の如く飲み干し、バカ騒ぎを繰り広げていた。
実は俺様は、こういうバカな空間が嫌いではない。むしろ好きだと言っていい。
アホを見ると、自分だけはああなるまいと思えていい引き締めになるからな。
しかし、サトウは未だに姿を見せていない。
アクアは居るのだがな。
早く来て欲しいものだ。
………うん?気持ち悪いだと?
ふん、分かるぞ、その気持ちは。俺様も書いててキモイからな。
「………うお、何だこの騒ぎ?」ガララ
おっと、そうこうするうちにサトウが来たようだ。
冒険者どもが口々に、今回の一件の主役であるところのサトウを囃し立てる。
その声に流されるように、同様に姿を見せていなかったメグとダクネスと共にサトウは、ギルド職員のルナの元へ行く。
「……あぁ……。お待ちしていました、サトウカズマさん。あの、まずはそちらの御二方へ賞金です」
と言って、ルナはダクネスとメグに小袋を渡した。因みに中身は50万エリス。これは全冒険者一律である。働いてない連中もいるだろうに、豪勢なことだ。
「その。サトウさんのパーティーには、特別報酬が出てます」
特別報酬、という単語とともに、にわかに場がさらにザワつく。機転を巡らし、ベルディアを見事討ち取ったのは確かにヤツらだ。
誰も文句は言うまい。
…………俺様以外は、な?
「魔王軍幹部、べルディアを見事討伐した礼金として。ここに、3億エリスを授与します」
3億。
3億という大金を前に、どっと場が沸き立つ。この世界は親切なことに、元の世界とほぼ変わらない価格相場なため、一生遊んで暮らせるであろう大金である。
「おいおいなんだ3億ってよー!」
「奢れ奢れー!!」
そんな場のはやし立てもさることながら、サトウの喜びようもかなり浮かれたものであった。
「おいダクネス、めぐみん!二人に言っておく事がある!俺はこの先、冒険に出かける確率が低くなると思う!大金が手に入った以上、危険はなるべく避けたいからな!」
「おい待てっ!魔王退治の話はどこに行ったのだ!?」
「それは困りますよカズマ!魔王を討伐し、爆裂魔法こそが最強だと世に知らしめる私の夢はどうなるのですっ!」
………それにしても凄い浮かれようだな。
うむ、出番のようだ。満を持して、と言うやつだな。
申し訳なさそうに、ルナはサトウの肩をちょちょいと叩く。
「あのー……それが、ですねぇ」
「そう上手い話があるわけないという訳だ」
同じように、俺様はサトウの肩にポンと手を置く。
「ミツルギ?お前にも世話になったな!そういや、お前に分け前やらなきゃだったっけ!いくらがいい?流石に全額、は無理だぞー?はははっ!」
「………」スッ
俺様は何も言わず、1枚の紙をサトウに差し出す。
「なんだこれ?…………推定数千キロの水流が起こすであろう被害とその修繕費用?」
そう。今サトウの読み上げた通り。
この俺様が直々に、あの時アクアが作り出した水勢から大凡の水量を割り出し、『俺様が一方向に流し込まなかった』場合の被害総額並びに修繕必要額が全て書き込まれている。
「その費用、しめて7億8000万108エリス。なぁ、サトウよ。俺様の言いたいこと、分かるだろうな?」ニッコリ
「おぉ、出ましたねキョウヤの暗黒スマイル……相変わらずの恐ろしさです……くわばらくわばら」
メグがボソッと何かを零したが、今は見逃してやる。
サトウはどうやら俺様の意図が飲み込めたらしく、引きつった笑いを浮かべながら口を開く。
「ま、まさか……これ、払えって……?」
「何がまさかだと言うのだ、変なやつだな。俺様は言ったぞ?あれだけの水が流れたのなら、被害は甚大だと。そして聞いたぞ?
「…………も。もし、俺がそんなの知るかって言ったら……?」
「ふむ。それは貴様も日本人なら分かるだろう。未払いの借金は制裁を持って帳消しとする。具体的にはこの近隣に言い含めて、街八分にする。もしくは爆裂魔法で焼く」
「…………」アゼン
完全に唖然として、開いた口が塞がらない様子のサトウ。うむ、俺様はサディストではないが、調子に乗っていた人間がどん底に落ちた時ほど愉快なエンターテインメントはないな。
スッ、とサトウが後生大事そうに抱えていた賞金袋を抜き去る。
「まぁ、俺様も鬼ではない。払えん分まではとるまい。実際には被害はないわけだからな。コレで勘弁してやる。ソレに書いてあることは一片の嘘もないぞ?実際にやってたら借金もいいところだ。ありがたく思うがいい」
「…………」
「じゃあな、サトウ?諸兄らも。まぁ、せめてもの親切心として、この言葉を残して去るとするさ」
ギルドの入口まで来たあたりで、俺様は振り返る。あのメグでさえ、「うわぁ……」と苦笑いするくらいには邪悪な笑みで。
「押し売りには気をつけろよ?フハハハハハハハッッッ!!」