魔女の子たち   作:暗黒わらび

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#6

 スオルは駆けていた。全力全霊、力のかぎり、駆けていた。

 柔らかい茂みを跳び、行く手をにょっきり遮る樹木を避け、跳ねるように転がるように進む様は、まさに森の子である。しかし、走るのは最終手段だ。人間は走るのが下手で、もし他の森の動物と競争したら、あっという間に負けてしまう。競争することにならないように、人間は準備していくのだ。スオルだって準備はしてきたが、ただ今回は、それは役立ちそうになかった。

 ぱっととび出して、とうとう躓いてしまった。

「うぎゃあ!」

 蹴転がしたのはおかしなイタチだった。体が細くて、皮膚は硬そうで、爬虫類かもしれない。そいつは腹を仰向けてじたばたしていた。天地を取り戻すそれの奮闘を、呆然自失と見ていたスオルは、我に返り膝をついたままずるずると木の洞に入った。樹木の大きさに比例して空間は広い。壁の窪みそのもののように、スオルは息をひそめ身を縮めた。僕は木だ、僕は木だ、とか思いながら。イタチもどきも、いつのまにやらすぐ隣でじっと壁になった。

 やがて、そいつが現れた。立ち上がった熊よりも大きく、牡鹿のように悠然と、一人と一匹の隠れている樹木越しに影が地面に落ちた。高く掲げた頭、首に、胴体と続いて、長いしっぽ。やがて怪獣の足音が小さくなり、去った。スオルははいつくばって耳を澄ませていたが、ふと横ではイタチもどきも地面に耳をあてていた。

「ああ、びっくりしたよ、本当に」

 体を起こすと、もどき(・・・)もゆらゆらと首をもたげた。目のまわりの縁取りに隠れてわからないそいつの瞳をスオルはにらみつける。

「岩山を登ったら、ばったりだもの。最近、変なの多いよなあ………おまえもだよ」

 すると、フンフンと鼻息を荒くしながら、胸を張ってそいつは答えた。

「ナマエハ、マダ、ナイ!」

「そうかい」

 土を払うと、スオルは歩き出した。これ以上おかしなことが起きませんようにと願いながら。

 

 

 

 

 そこは暗くて狭くて、鼻を刺すような獣のにおいや草花の香りで満ちていた。さっきまで揺れたり軋んだりしていたのだが、物達はおとなしく、静かに置かれている。そこへ閉ざしていた分厚い布がめくられて、昼の光が一筋、入ってきた。

 暗がりからも鏡が一閃、光って応えた。

「……今朝んときゃ、何ともなかったんだよな?」

「何とモなかった」

「だけどいまは?」

「………割れてル」

「ううう、そうじゃない! ヒビが入っただけだ………」

 ごそごそ、がたがたと物音がつづいた。ようやく落ち着いてしずかになると、また毛皮や薬草のにおいが戻ってきて、むんわりと籠もった。

「で、どうなんだ?」

「ドウって?」

「ヤバそうかってことだよ」

「なにを今更………最初っからヤバヤバだったじゃンかー!」

 ぱたぱたと暴れた後、むぎゅと潰された。

「わかりやすい形としちゃあ、あのばけもん鳥だな。だけど騎士連中も、意図が不透明だ。なんか、睨まれてる気がするんだよなあ………」

「心当たりがありまくるものネ」

「とりあえず、みつかんないようにしろよ、お前」

「………。ウン」

 

 

 

 

「姉さーん! 姉さーん! おねーさーん」

 クレイサルは普段どおり日の当たる一隅であぐらをかいていた。そこへ、孫のような少年がぴょこぴょこ跳んで来た。落ち着きのないのはいつものことで、慌てた様子でもなかった。姉と同じで、慌ててもそんな風には見えないのだ。

「村の方で助けが必要らしくて、呼ばれてったぞ」

「えー?」

 スオルは心底おどろいた。まるで自分の予感を裏付けているようではないか。彼女は滅多に村に降りていかないのだ。クレイサルは噛んでいた植物を口から離して、少年の足下を示した。

「ところでおまえ、なんだそれは」

 なんとなく片足を持ち上げて見たスオルは、その姿勢で飛び上がった。そこにはイタチもどきが、当然のような顔をして居た。

「おい、どこへ行くんだ」

「これ、捨ててくる」

「わしの腰のくすりは?」

「取ってこれなかった!」

 少年はあっという間に森に消えていった。

「明日でいいぞ! その辺で帰って来い!」

 なんとなく不安に襲われて、クレイサルはつけくわえたのだった。

 

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