リールベルトに成り代わった男の物語   作:冷やかし中華

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削除済みの12日目で追記修正要望の多かった?後半部分を付け足しました。


成り代わって11日目

 ――ヒュウウウゥゥゥゥゥ

 

 今は1月。この辺りの季節柄も相まって、ここにいるだけで疲労と体力の喪失を余儀なくされそうな劣悪な環境に定刻よりも少し遅れた8時過ぎに俺たちは全員乗ってきた飛行船から下ろされた。そして先に下りていたナビゲーターを務めているらしい受付でもあった緑色をしたマメみたいな人間?から三次試験についての概要および試験官からの伝言を届けられた。

 

「皆さんが降りた場所はトリックタワーと呼ばれる塔のてっぺんです。ここが三次試験のスタート地点となります。

 さて試験内容ですが、試験官から伝言を預かっているのでお伝えします。

 

 『生きて下まで降りてくること。制限時間は72時間』

 

 それが、この試験の合格条件となります。なお、それまでに下へ辿り着くことが出来なかった受験生は今期の試験で失格となりますので、ご注意ください。」

 

 三次試験の要件は、それだけ。72時間以内に『生きて』トリックタワーの下まで降りてくるというものだが、さて、予想通りの困難が俺を待っていた。外周を回って下の様子を見ながら、うろうろしている間に自分はロッククライマーだという86番のナンバープレートを持つものが壁伝いに下を目指そうとしたが、それは敢え無く周囲に生息する怪鳥の群れに食い殺される結末となったようだ。そして『知識』どおり、注意深く中心に向けて視線を向ければ、やはり人一人がギリギリ通れそうな隠し通路を伝って幾人かの受験生がトリックタワーの内部へ消えていくのが見えたからだ。

 

「キミも大概運が無いね♠」

「まったくだ。なんだ、この試験。俺に、このまま頂上(ここ)で死ねと言っているようなものだな………」

「それで、どうするつもりなの? さすがに俺もリールベルトを抱えてタワーから飛び降りるなんて依頼されても嫌だよ」

「何とかするさ。ギブアップは、そこの変態が許してくれなさそうだしな」

 

 そんな会話をして「まぁ、後から適当にいくからお前たちはさっさと降りろよ」と手を振って動向を見送る。さて、本当にどうしたものか。『鬼札』を切るにしても、まだ他に受験生がいるのでは時期尚早だろう、暫く様子見か。そんなことを考えて辺りに人の気配が無くなるまで俺は一人タワーの中心で佇むことにした。俺がヒソカやイルミと離れたことに慢心でもしたのか、途中でちょっかいをかけてきた16番のナンバープレートを持つやつを適当あしらい、威圧すると、16番は焦った様に慌てふためき、やがて近くにあった適当な隠し通路を伝って降りて入った。

 

「さて、俺も降りるか…」

 

 ようやく周りに人気がなくなったことを確認し、俺は、俺の試験を開始するべく、背後へオーラを噴出してトリックタワーから飛んだ。

 

 

 * * *

 

 

<残念だが、キミたちの試験は此処で終わってしまった。というのもイレギュラーが発生し、もうこの塔の頂上に受験生が残っていないからだ。>

 

「な、なんだって!?」

「ふざけんなー!!」

 

 ゴン、キルア、クラピカ、レオリオは途方にくれていた。4人が降りたのは5人の受験生が揃わないと先へ進めない『多数決の道』と呼ばれるもの。彼らは与り知らぬことではあるが、正史であれば、トンパという小男が嫌がらせのように2時間以上が経過したところを見計らって降りてきたことで5人が揃うという手筈になるはずが、そのトンパが別なルートを取ってしまったからだ。たしかに正史であろうと、そういう可能性は僅かながら存在した。二次試験の合格者は42名、そして3名がアクシデントによって三次試験スタート前、或いはスタート直後に死亡しているのだから。

 

 そして、この話では二次試験をクリアしたメンバーは43名。スタート時点で41名、そして頂上から隠し通路を通らずに離脱したものが2名。つまり、もともと用意された通路(如何考えても車椅子では通り抜けは不可能だったが)は二次試験を突破した43個。39人が、それぞれのルートを通ると少なくとも4つの道が余ってしまう計算になる。彼らが、如何にしてトリックタワーを攻略するのかは現時点では分からない。分からないが、少なくとも4人では多数決にならない以上、どうしようもないことは明白であった。

 

 その説明がアナウンスされたところでレオリオは文句を叫び、クラピカが知的に試験官へ迫るも、それらは全て梨のつぶてであった。

 

<今回は運が無かったと思って、このまま此処で72時間過ごしてくれたまえ。来年の健闘を祈る。>

 

「そ、そんな………」

「これで終わりなのかよ、ちくしょう!!」

 

 彼らは口々に絶望の言葉を口にし、そして諦観のような表情を見せたり、各々が反応を見せたが試験官は突き放すようにアナウンスを切った。

 

 

 ――その頃

 

「ぶえっくしゅん………なんだ、風邪か?」

 

 俺は、トリックタワーの頂上、およそ300メートルほどの高さがあった場所からダイブし、途中、見た目以上に素早い動きで迫ってくる怪鳥をオーラで打ち落としながら自由落下に身を任せる。そして最終的には着地まで数十メートルほどのタイミングになったところで、俺は地面に向けてオーラを放出し、落下速度にブレーキをかけてからサンダースネイク(笑)などと同じように愛用している車椅子に仕込まれた暗器のうちの1つを用いてトリックタワーの外壁にどこぞの怪盗が使いそうなアイテムを取り付け、追突しそうなタイミングで、またオーラによって外壁との間に緩衝を作って無事に地上へ降り立った。さきほど出たクシャミは、その埃によるものか、それとも誰かが彼の取った行いにより間接的に迷惑を被ったことで垂れ流した不満に中てられたものか、あるいは呟きどおりに吹きさらしの頂上に2時間ちかくいたことで本当に風邪を引いたのか、いずれにしても真実は分からないが、とにかく彼は普段することの無い盛大なクシャミをすることになっていた。

 

「入り口は――ここか?」

 

 この監獄塔ちっくな塔を一蹴し、その際に群れを成して迫ってくる獣たちを一蹴しながら俺はトリックタワーの入り口らしき場所を見つけて扉を叩いた。すると――

 

<なるほど。そういう可能性もあるとは思っていたが、やはり外壁を伝うようにしてクリアする猛者がいたか。良いだろう、受験者番号43番、リールベルト。三次試験通過第一号だ! 所要時間2時間51分!!>

 

「はいはい、ありがとさん」

 

 そして俺はトリックタワー内部へ通され、そこから約70時間を待って過ごすことになった。なお、2番目にクリアしたのはヒソカで約3時間後。イルミがクリアした番号は覚えていなかったが、本人の話を聞くにどうやらペアの道だったらしく、その相方となった男が使えなさ過ぎて何度も手が滑りそうになったと不満をぶちまけていた。その相方だったという男へ目を向けると、この十数時間の間に物凄く老け込んだ16番のプレートを胸につけている男が目に入った。(あ、察し)

 

 

 * * *

 

 

 ――ところ変わって、どことも知れぬ国の郊外にある廃墟の一角

 

 そこで愛用のパソコンを片手にカタカタと何かを操作していた仲間からシャルナークと呼ばれる男が、結局、最後まで幻影旅団の活動に参加しなかった男の動向について仲間へ報告していた。

 

「ヒソカのヤツなんだけど、なんかリールベルトとハンター試験受けてるっぽいよ」

「あ? ヒソカのやつはどうでもいいけどよ、なんで車椅子がハンター試験なんか受けてるんだよ??」

「そんなの知らないよ。大方、巻き込まれたんじゃない? っていうか、リールベルト、天空闘技場の猶予期間のこと頭にあるのかな。あと20日も残ってないみたいだけど……」

 

 シャルナークの言葉にウボォーギンは率直な疑問を覚え、それについて自分が理由なんか知るわけが無いと答える。ただハンターライセンスは持てるなら持っているだけで、通常では考えられないくらいの破格の特典を得られるのだ。取れるのなら、それに越したことは無いとメンバーの連中にも何度か言ったことはあるが、結局、現在までにライセンスを取得したという話は他に聞いていない。せめて同じ情報系担当のパクノダ、他にもシズクやマチたちには取ってもらいたいと思っているんだけどなぁとは思うものの、それを口に出せずにいた。

 

(ヒソカが首尾よくライセンスを取れたとして………ダメだ、とても協力的に動いてくれるとは思えないし、何より頼りたくない。

 ってことは、やっぱりリールベルト? うーん………仕方がない、合格したら本格的に誘ってみようか。入団しなくても協力を前向きに考えてくれるだけでも、パクたちも喜ぶかもしれないしね)

 

 それはそれとして気になったことをシャルナークは口にする。

 

「そういえばさ、ウボォーギンって、意外とリールベルトに執着するよね。なんで?」

「あん? 決まってんだろ。あの野郎、俺を腕相撲で()()()()()()()! 信じられるか!?」

「ウヴォーにしては笑えない冗談を言うよね………って、それマジ!?」

「おう。まぁ、アイツに合わせて寝そべるような体勢で念も使っていなかったとはいえ、びっくりしたぜ。だからよ、シャル。アイツが()()()()()()()()()()()()()()()()よ、動けないなら動けないで、動けるようになるための方法が何か無いか探してくれや」

 

 唐突に飛び出してきた新情報に、その場にいたメンバーは全員がウボォーギンと呼ばれている大男の発した情報に目を丸くして驚いていた。

 

「へえ………本当なら有料って言いたいけど、それ面白いね。最新式の医療技術とか、念能力でそういう専門家がいるかとか当ってみるよ。上手く行けば、とんでもない貸しを作れるしね」

「おう、任せたぜ!」

 

 こうして本人の与り知らぬところで包囲網は着々と完成しつつあったのだとか。それがクシャミの原因だったかどうかは定かではない。

 

 

 * * *

 

 

 目を開ける。ここは、どこだ?

 

 否、それは愚問だ、ここはトリックタワーの1階だ。どうやら眠っていたらしい。そうだ、たしかに俺は三次試験の合格者第一号として登録されて、そのあとヒソカやイルミ等を交えて適当に雑談ともいえない雑談をしたり、ヒソカの用意したトランプに興じたり、そんなことをしていたような気がする。ハッキリしない思考のまま、ゆっくりと視界を上げて、そこに映し出された経過時間を見る。

 

 ――71時間44分。

 

 そして、次に辺りを見回したところで

 

「やあ、おはよう♠ よく眠っていたみたいだね、だけど酷い顔だ。何か悪いユメでもみたのかい♦」

「寝起きにお前の顔を見る方が、よっぽど酷いと俺は思うがね」

 

 そう俺の声を掛けてきた男に言葉を返すと、その奇術師めいたメイクが特徴的な男―ヒソカ―は「くっくっく……それは酷い言われようだ♣」と何かに堪えるような笑いを漏らしていた。

 

「まぁ、リールベルトの言うとおりだと思うけどね。寝起きにヒソカとか悪夢以外の何者でもないでしょ」

 

 そう言葉を合わせてきたのはイルミ、しかし寝起きの覚醒しきっていない頭だからなのか、その立ち姿は少しだけ焦っているように見えた。それを無視して俺は続ける。

 

「ほら、2:1だ。寝起きにヒソカは最悪。これ流行語(はやる)んじゃないか?」

「本当にキミ達は揃って酷いなあ♠」

 

 ――71時間51分

 

 気づけば、この三次試験も残り僅かとなっていた。たった今、何人目になるか分からないがボロボロになった受験生が降りてきて、そして息を引き取ったらしい。顔が似ている様で似ていない3人の男たちが「莫迦なヤツだ(三次試験に)合格して死ぬより、生きて来年受験し直せばいいのに」と嘯いているのが聞こえた。その通りだと俺も思う。そして辺りを見回して、イルミの心なしか焦ったような表情、気配を醸し出していた理由が思い至った。

 

(ゴンたちが、いない……?)

 

 目が醒めるまでに視ていたユメの内容は欠片ほども思い出せない。だが、俺の引き出した『知識』では、この三次試験でゴンたちが落ちるような結果は、どのような選択肢を引いても()()()()()。それが意味することは――

 

「剪定、事象……?」

 

 それは思わず呟きとなって声に出た。

 

「リールベルト、今、何か言ったかい♦」

「いや、なんでもねえよ」

 

 その言葉を隣にいた男が聞き漏らすこともなく、確認してきたが俺は首を振って何でもないアピールをする。時計を見上げれば三次試験の残り時間、あと4分ほどに迫っていた。


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