深い夜の闇を照らす星屑の空を一人眺めていた。既に第4次試験が開始されてから特段大きな問題もなく折り返しを過ぎたこともあって少しだけ感傷に浸っていたのかもしれない。そんな中で不穏な気配を察知した。
(ヒソカか。随分と荒ぶっているな……一体、何があった?)
伝わってきた
「なんで、こっちに向かってくるんだよ!!」
そう悪態をついて俺は車椅子を巧みに操作し、気配を絶って移動し続ける。その最中で俺とヒソカの鬼ごっこに途中参戦してきた気配があることに気付いた。
(俺を追う気配が増えた? 否、それは正確ではないな。俺では無く、ヒソカを追っている? イルミならば、そんな
まだ俺とヒソカとの間にはそれなりに距離があるものの、移動した俺に迫るようにしてヒソカが研ぎ澄まされた第六感のみを頼りに俺の位置を探り中てて執拗に追ってくる。それが出来る理由として考えられるものは、移動する過程でどうしても発生してしまう不自然に散った木々の葉や駆け抜ける合間に折れた枝、そして何よりも、この暗がりにありながら僅かに残る俺の通った
そして――
「はぁ。これは詰んだか………」
散々逃げ回った先の更に2,300メートル先に長髪を束ねた受験生を見つけて俺は舌打ちを1つ残してボヤく。目の前には俺の変わりに贄の羊となってくれる
「リールベルト、見ーつけた♥」
「随分と荒れてるな。一体、どうした……?」
敢えて理由を聞いてみるが、そんな問答は不要とばかりにヒソカは俺に
その間にも迫るヒソカに空いた手で取り出していた
――シュパン
下肢を使わずとも上体の力だけで振るわれた鞭の先端は音速を超える。その鞭をヒソカは何時の間に仕込んだのか、直進してきた方向からほぼ真後ろに向け、何かに引っ張られるようにして避ける。俺は、それを応用にしてピンポン玉ほどの大きさを持つ球体の1つに瞬時に "周" を施して先ほど小石を弾いてトランプを叩き落した要領でヒソカに向けて弾いた。
ヒソカは両腕からバリアでも張るようにして
<うーん、これは良くないね♠>
<………。そのまま受けとけよクソが!>
<やっぱり、何か仕込んであるんだねえ♦ ――本当に抜け目が無い♣>
脳裏に響いたヒソカの声に瞠目すると同時に思いっきり悪態を吐き、同時にヒソカは自らの腕同士に引いていた
――チュドン
大きな爆音と大量の煙を濛々と撒き散らして暗い森を白い煙で覆った。同時に俺は噴出していたオーラを止め "絶" に。当初の目的地は直線状、その先、約400メートルにあるが、そこへは向かわずに敢えて横道に逸れるようにして森を突っ切る。800メートル先に似たような地形があることは既に把握していたからだ。勿論、今のヒソカに目くらましになるとは思えないものの、少しでも注意を引ければと反対側には "陰" で隠したオーラを反対方向へ放出して、さらに爆音を響かせることも忘れない。忘れなかったのだが……。
「やあ、どこへ行くんだい♥」
「追ってくるなよ、変態」
「追ってなんかいないさ、ボクが居たところにキミが勝手に来た♠ 事実は、それだけじゃないか♦」
「あー、はいはい。そーですか。じゃあ、俺は別な場所に移動するからヒソカは其処から動くな」
「そうしたいのは山々だけどねえ、でも、この試験も残すところ3日を切っている♣
だから、ここらで合格ラインに達するように
そう零すとヒソカは先の籤で引いた自身の獲物となる番号を示したカードを見せてきた。そこにあったものは『43番』という番号。そう、見間違うことのない俺自身のプレートを示すそれだった。
「うわ、最低……」
俺が、そう零したのも無理からぬことだろう。だが、その悪態すら今のヒソカにとっては気分を一層、高揚させるものらしく「これで心置きなく殺れるねぇ♠」と舌なめずりをするようにして先ほどまでとは比べ物にならない速度で俺へと向かってくる。俺は迎え撃つようにして手に持つサンダースネイクを一閃するも、それは地を這うようにして屈まれて避けられ、大地を抉るようにして俺に向かって飛んでくる。その光景、その蜘蛛かと見間違えるような動きは、いつか何処かで見たことがあると錯覚する暗殺者の動きにも似たソレだった。
――ダンッ
片手で車椅子の肘掛部分(スクーターモードだとハンドル部分に相当する)を叩くと、その先端からイルミの扱う鋲にも似た暗器が飛び出した。しかし、それは今度は単純なヒソカの身体能力だけで無理矢理避けられ、頬に掠り傷を残すのみに留まり、代わりにヒソカからトランプが投擲される。互いに攻撃した瞬間こそが相手に付け入る隙とでも言えばいいだろうか、出来ることなら先ほどと同じように "周" をした暗器か、小石で叩き落したかったところだが、それは叶わない。かといって、あの厄介極まるヒソカの "発" を考えれば生身で受けるわけにもいかない。瞬時に今度は俺が避けるという判断を下して叩いた肘掛部分から重心ずらすように操作して全体を捩るようにして迫る数枚のトランプを間一髪で躱したのだった。
だが、その間にもヒソカは迫り俺に拳をくれてくる。俺は今度こそ舌打ちをして、それを掌で受けた。
――ダンッ
「バカ力が!!」
「キミに言われたくないよ♠」
車椅子ごと吹き飛ばされる中で俺は、また悪態を吐き、それに意味深な受け答えをするヒソカは
――ギュン!!
あぁ、これはダメだと脳内で思考を纏める。それは選択肢として車椅子ごとヒソカ目掛けて
ヒソカの突き出してくる拳が見える。それは寸分違わずに瞬きほどの間を以て俺の拳を打ち抜くだろう。
受ける手にオーラを40%、全身に
――ビッ
ヒソカの胸に着けていたプレートが、ずっと鬼ごっこに興じていた俺とヒソカを密かにつけ回していた第三者によって奪われた。
――ドゴンッッッ!!
俺の40%に見せかけて実際は部分的に "陰" をするという技術を用いて
ヒソカは拳を中心にオーラを展開して伝わる衝撃を和らげたのだろう。俺は――積み上げた『知識』、そして『経験』から見つけたもの、今の『俺』にとって最早
『
それを展開した瞬間、副次作用的に俺だけの
――ヒソカの視線が自身の拳からプレートが奪われていった先に僅かにズレるのが見えた。
それを受けて俺は未だヒソカの
――ヒソカは数瞬遅れて俺の放った蹴りを
展開した "発" により、俺の超スローモーションで体感することができる時間は一旦そこまでだった。
――ズドンッッッ!!
――ギュンッッ!!
俺の全力の "硬" を用いた蹴りをヒソカは腕にゴムの盾を纏って受け、おそらく衝撃の半分以上は緩和しながらも吹き飛んで行った。同時に俺は僅かに胸の辺りがヒソカのガードに使われなかった腕、その指先に引かれるような感覚を覚える。
「あの野郎!!」
吹き飛ばされ、転がるヒソカに俺は悪態を付いて大地に
俺が放出系で、操作系との相性が良かったことに安堵したのは、その為だった。まぁ、細胞の意志を統一するなんて操作系の能力じゃなく、ヒソカに言わせれば完全にメモリの無駄遣いであることは否めないが、俺に必要なものは
そんなことを考えていると上機嫌でヒソカが俺に向かって歩いてきたのだった。
「ほら、やっぱり立てたじゃないか♦ それ、キミの能力と関係があるのかい♣」
「さぁな? だが、まぁ、
俺の含みを持たせた回答にヒソカは更に上機嫌になるが、俺は此処で接続を切って、まるで隙だらけの様相で四つん這いの様な姿勢になる。まだ完治には遠いなと内心で悪態を吐いた。
「クックックッ……それなら、あと10年待つよ。その "発" が完成したら、またおいで♥」
「うっせーよ。誰が行くか、ばーか。さっさと俺の前から消えろ!
だいたいテメェ、俺と遊ぶのに夢中で大事なプレート獲られてんじゃねえか」
「おや、本当だ♠ それじゃあ見事にボクからプレートを取った子の顔でも観に行ってこようかな♦」
睨み付けるようにして声に出して悪態を吐くとヒソカは殊更嬉しそうにクツクツと笑いを零しながら、そのように零し最後に「でも、コレは貰っていくね♣ 返して欲しかったら、さっきみたいにボクを全力で蹴り飛ばしてごらんよ♥」などと言い捨てて去っていった。いや、行きませんけど? そう言ったばかりだったはずだが、なんだろう。やはりキチガイには言葉が通じないらしいと俺は溜息を吐いて大の字に寝転んだのだった。やがて「ふぁぁぁ」と大きな欠伸をして呟きを漏らす。
「しっかし、まさか本当に俺がヒソカのターゲットだったとはな。ある程度、計算に入れたつもりだったが不覚。でも、いいか。『秘密』を曝すことにはなったが、アイツは言いふらすような性格じゃないし、あとは試験官をどうにかすれば事足りる。まぁ、こっちもこっちでペラペラ喋って回るようなヒトには見えないから多少は安心できるが………それにしても、マジで限界……あのクラスの使い手相手じゃ、まだ使用制限のある短時間じゃ殺れねえわ……」
(もっと鍛えねえとな。あと身体も能力に関係なく動かせるように、どうにかして完治させなきゃならねえし……問題は山積みだ……)
俺の
まぁ、寝ている間は多少隙だらけにもなるが、ヒソカやイルミ級、或いは大分ランクは落ちるが俺を張っているような試験官くらいのレベルでなければ俺の不意をつくことなど出来ないだろうし、そこは安心してもいいかもな。プレートは取られちまったが、幸いにも元々用意した5点と、クラピカから奪った3点分、計8点は椅子の下に隠してあるし、俺が試験を突破できることに変わりは無い。だから、もう安心して眠れるなと思ったところで何時の間にか俺のプレートのあった位置に貼り付けられていたヒソカの引いた籤と見られるカードが変わりに張り付いていたのが見えた。
それを手に取り、よく見てみると、そこには見知らぬ番号が書かれている。
――384番
「~~~~~!!!」
内心で「あの野郎だましやがったな!!!」と、そう全力で俺が叫んだのも悪くないはずだ。
* * *
「そろそろ気付いた頃かな♣
やっぱり便利、ボクの
ところ変わった場所にて殊更に上機嫌な死神は嗤い、そして回収したターゲットのプレート『384番』、そしてリールベルトから奪ったプレート『43番』、イルミから貰った誰とも知れぬ者のプレート『80番』を弄ぶ。
「でも、先に見つけた彼等からは1点も回収できなかったし……あと1点を何処かで見繕わなくちゃねえ♠」
だが、まだ合格には点数が足りずとも、この第4次試験は十二分に彼を愉しませることができたのか、死神は変わらずに上機嫌で夜の森を闊歩するだけだった。
偽のターゲット番号を見せられて「はい、どうぞ」って渡してもヒソカは納得せずにバトルになるのは目に見えているので、あわよくば此処でしとめようと思ったけど錬度不足で諦めたオリ主でした。加えてヒソカが他のこと(ゴン)に目が向いて、自分から注意がそれたので、それに便乗しただけとも言う。
しかし、本当にバトルって文字だけだと表現が難しいですね。。