リールベルトに成り代わった男の物語   作:冷やかし中華

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 サブタイトルは『成り代わって○日目』で統一していきますが、時系列はガンガン飛ばしていこうと思います。


成り代わって2日目

 ――1997年8月

 

 リールベルトの身体に成ってから早いもので一ヵ月の時間が過ぎた。タイトル詐欺? 知らんな。まぁ、それは良い。とりあえず、俺の負った脊損は同類型の中でも大分マシと言われるものであったことは幸いだった。下肢が動かせないことに変わりがないので、そういう意味では不幸だが、それを言ってはしょうもないことだろう。

 

 ちなみに俺が成り替わったリールベルトの身辺調査も記憶の混濁を理由に行い、出身地から年齢、個人番号まで全て把握することが出来た。所持していた口座にあった所謂「普通預金」と「定期預金」、それ以外にも複数の生命保険会社と契約していたのには驚きを隠せなかった。また現金預金の残高も3億ジェニーを僅かに上回り、医療費そのものも契約していた保険絡みで多少は捻出できそうだったのは不幸中の幸いだったと言えるだろう。もちろん天空闘技場で患った障害に対しての支払いには難色を示されたが、そこはほら「約款にはそんなこと一言も書いてないだろう?」と言いながら、オーラを纏ってガン飛ばすことで担当者をねじ伏せた。ねんのうりょくってべんりだなあ(棒)

 

 さて、集中治療室から一般病棟へ移動したあとは上記のような自己証明を行う傍らで、脊損により下半身不随となったものが神経が自然に再生しない以上、治癒には至らないので、俺に取れる選択肢は如何にして残された機能を活用し、日常生活動作を可能にするか、ということである。それについては、与えられた知識(もの)の中に既に下肢を使えなかったり、使えないものを世話したりといった経験があったので、「障害受容」は比較的楽に受け入れることが出来た。

 

「こんなに割り切りの良い患者は初めてだよ」

 

 とは、担当となった医者の言葉である。まぁ、『生前の』というと本当かどうか怪しいが、そういう経験だけがあるというのは便利なものである。

 

 自己証明を雇った人間に任せながら日常生活動作を行うためのリハビリテーションをし、その傍らでは密かに『念』と『燃』の鍛錬も行う。神経が再生しないのならば、自分自身で代替となるものを()()()()()というのが俺の出した結論だった。あと加えて言うなら、このリールベルトの身体は先に自覚した内情より『凡才』と表現したが、そんなことは勿論無かった。それもこれも与えられた知識、また『念』というものをかつて使えていたという経験あってのことなのだろう。さすがに、ここまでお膳立てされれば元々持ち合わせていた才覚が本当に凡百のそれだったとしても、その与えられた知識と経験という後押しを得た時点で、それは天賦の才と呼ばれるものへ昇華されているからだ。ヒトは、自分には出来ない相手の優れた長所を指して『才能』というのだからな。既に()()()()というアドバンテージは、それほどに凄まじいものなのだ。とはいえオーラの総量に限れば、やはりこの身は凡百の一人でしかないのだろう。既に経験済みという知識(チート)の後押しにより拙いながらも基礎・応用の技術がそれとなくカタチになりつつあっても、オーラの総量そのものは然程増えているような気がしないのだ。まぁ、こればっかりは気長に続けるしかないと半ば諦めている。

 

 ということで、あれよあれよとリハビリと鍛錬、そして流れる世界情勢を追ったりしながら日々の時間を過ごすうちに猶予期間が時効を迎えつつあったので不戦敗をエントリーしに200階クラスの受付までやってきた。

 

「やあ。これから試合の申込かな?」

「そうだが」

「その不便そうな身体(なり)で本当に戦えるのかい?」

「さてな」

 

 受付に向かって車椅子で移動してきたところで能面の闘士が声を掛けてきた。どこの誰かは知らないが他人の不幸に愉悦を感じてそうな雰囲気に僅かな苛立ちを憶えつつも、敢えてそれらを無視して介添を申し出てくれた看護士に合図を送り車椅子を先へと進めていく。

 

「無視しないでよぉ。同じ『洗礼』を受けた仲間じゃないか」

 

 そういって男は自身の左腕が無いことを見せびらかしてきた。なるほど、ご同輩というわけか。つまり、俺の状態に対する愉悦を憶えるような雰囲気は生来のものということになるが………どちらにしても面倒くさいことには変わりがないので無視するに限る。いちいちこんな有象無象を相手にしていられるほど俺は暇ではないからな。

 

「――たしかにな。それで? 用件はそれだけか? 俺はこれから試合にエントリーした後に別件を控えているんだ。他に用が無いのであれば、これで失礼する」

「連れないなぁ。ま、いいや。また機会があったら声を掛けるよぉ」

 

 その何とも言えない不快感を憶える声を無視して俺は、その場を後にした。試合にエントリーし、エレベーターに乗って階を下る傍らで俺は介添を務めてくれている女性に確認を取った。

 

「さっきの――あの能面は何者だい?」

「リールベルトさんと同じ200階クラスの闘士で、名前はたしか『サダソ』と紹介されていたかと思います」

 

 その言葉を受けて俺は脳裏に詰まった知識を引き出していき、リールベルトの他の可能性――というよりも()()()()()()()()()()を模したような物語にも同名を持つ200階クラスの闘士がいたことを思い出した。

 

「あぁ、アレが……」

「何か気になることでも?」

「いや、何でもないよ」

 

 その言葉に俺の車椅子を押してくれていた女性は無言で頷いたのを確認し、今度こそ俺たちは天空闘技場を後にしたのだった。

 

 

 * * *

 

 

 やがて更に時は経ち、俺がリールベルトに成ってから半年。つまりは最初の冬、それも年の瀬を迎えるに当たって、リールベルト生を得てから始めての困難に立ち向かっていた。それは奇しくも繰り返し、繰り返してきたリハビリテーションの賜物か。それとも授かった『知識』にはあったが、実際に真実かどうかは不明だったことに取り組んでいた修練が実を結んだことの歓びか。どちらにしても『成功』という甘美な蜜で内心が満たされたことで有頂天となり、その心を油断と慢心が占めてしまったが故の必然だったのか。

 

「今、何か言ったかい♦」

「いや、また変なのに目を付けられたなと思ってね」

「その『変なの』っていうのは、もしかしなくてもボクのことかな♠」

 

 そう、目の前には奇術師然としたメイクをした男が立っており、ジッと俺の方を眺めていたのだ。

 

 一目見ただけで分かる異常性に背中を冷たいものが伝うのが分かる。おそらく()()俺では、()()()()()()()()()()()()()()決して敵わないであろう超級の念能力者にして、超一級の危険人物である『ヒソカ』がいるのだから。まぁ、それらの情報もまた『知識』から得たものの抜粋でしかないのだが。

 

「さてね。その答えは俺から返すことは出来ないな。ところでキミ「ヒソカだよ」………失礼、ヒソカは何故この場所に?」

「もちろん試合にエントリーしに来たのサ♥

 だって24時間以内にエントリーしないと失格になっちゃうって聞いたからね♣」

 

 あれだ、これは間違いなく狙ってやっているというのが目の前の男、もといヒソカが身に纏う雰囲気(オーラ)が如実に物語っていた。

 

(本当に、碌でもないヤツに目を付けられたな。しかも『知識』によるとヒトを見る眼だけは持ち合わせているから厄介極まりない………)

 

 俺は内心で溜息を一つ零して隣を通過しようとしたところで、俺の乗る車椅子の取っ手をヒソカに取られたことで、今度こそ口から盛大に溜息を吐いたのだった。


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