リールベルトに成り代わった男の物語   作:冷やかし中華

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成り代わって5日目

 ――1998年9月

 

 時間が飛んだ? 気にするな、その間にあったことと言えば恒例の天空闘技場で試合を組んで勝利したくらいだ。あとカストロの初勝利を祝った。

 

 モブ戦x2(勝者:リールベルト〔戦績6戦4勝2敗〕)

 モブ戦x2(勝者:カストロ〔戦績4戦2勝2敗〕)

 

 なお、カストロは俺の元で『念』を習得し始めてから未だ半年とはいえ、やはり天性の筋も良かったのだろう。それに加えて努力型というのが、最初は勝手が行かずとも、一度でもエンジンが掛かり始めると爆発的に伸びていくというのは漫画や小説にだけ許された設定という訳ではない。それを知らぬものが、突如、大抜擢されて活躍し始めたスターを『天才』などと言ったりするのだ。まぁ、世の中には本物の化物みたいな連中など探せば幾らでもいるのだろうが。『知識』を垣間見ただけでも、あの幻影旅団の団長ことクロロ=ルシルフルや、ゴン=フリークス、その父であるジン=フリークス、暗殺一家の跡取り(予定)ことキルア=ゾルディックなどが、その典型であろう。俺? 俺は、単に授かった『知識』と『経験』を使ってるだけだから。そんなものたちと一緒にされては困る。

 

 ちなみに、何故9月かと言えばヨークシンで行われている祭り、ドリーム・オークションとやらに参加してみたかったがためである。なんでも『知識』によると、此処には『念』を使って辺りを徘徊しているだけでボロ儲けが出来る()()()のだ。それに今年は()()()()()()()()というのも一因としてある。「いのちだいじに。」これ基本だよね?

 

 ………と思っていた時期が俺にもありました。

 

「お久しぶりね?」

「どちらさまでしょうか?」

 

 目の前にはグラマラスなボディを持った金髪美女、その隣には童顔だけど一枚肌蹴れば相当に鍛えこんでいることが分かるマッチョ、あと淡い瑠璃色の髪を持っている少女の三人組。対する俺はカストロとは別行動でぼっちである。

 

「コイツが?」

「『念能力者』ってこと以外は、なんの変哲もないもない優男にしか見えないけどね」

「でも、面白いヒトよ?」

 

 口々に呟く男女の念能力者(それも相当レベルが高い)に内心でドン引きしている俺。というか「両手に華」とは、こういうことを言うのだろう。リア充爆発しろっと呪詛を吐いておく。もちろん内心で、だ。勝てない戦などするものではない。

 

「あ、もしかしてクーパさん?」

「えぇ。その通りよ」

「く、クーパさんって………パク、そんな偽名使ってたの?」

「何か言ったかしら?」

「イエ、ナンニモ」

 

 シャルと呼ばれていた童顔マッチョが、俺が発した呼び名に笑いを堪えて何事か言うと、それを一睨みで黙らせる美女。以前、連絡が取れなくなったことで電話帳から連絡先を削除した看護士(仮)ことノダ・クーパさんが、そこにいた。彼ら曰く『パク』と相性で呼ばれている美女のことである。

 

(パク……ノダ・クーパ……パク……ノダ・クーパ……パーク・ノダ……パクノダ……なるほど。)

 

 男の発した言葉と相性、俺が嘗て聞いていた偽名などを脳内で連続再生している内に、1人の女性が思い浮かんだ。そして、シャルと呼ばれている男についても『知識』から引き出して考える。

 

(シャル……童顔……シャル……マッチョ……シャル……童顔……シャル……あ、コイツがシャルナークか。)

 

 もう心は完全に『Orz』状態である。それらの思い至った名前が意味するところは、彼らが幻影旅団のメンバーであるという紐付きが取れてしまったからだ。本当に、こういうときだけは『知識』や『経験』という反則(チート)にも穴があると思わせられる瞬間である。なんたって知識は所詮『知識』でしかないので思い浮かべられる情報は〔数字〕や〔文字列〕で構成されたものでしかなく、経験は『経験』であって、そこには〔記憶〕や〔感情〕など含まれていなかったからだ。

 

(まぁ、そうであるからこそ、あの日、俺が唐突にリールベルトに()()()()()()()時でさえ、取り乱せずにいられたということもあるけどね。いや、十分、取り乱してたじゃんと言われたら、その通りでもあるけど……)

 

 そこまで考えて、そういえば俺の名前ってなんだっけ? という致命的な情報の欠落に思い至った。

 

「あら、顔色が悪いわね。どうかしたかしら?」

「いや、こっちのことだよ。それでもキミは、()()()とは見違えるほど綺麗だね」

 

 いや、本当に自分のことで勝手に混乱の極みに達したことを、()()()()()()()()()()()()()()()のかと勘違いでもしたのだろう。パクノダやシャルナーク、それと名前は分からないが和服を着付けている美少女は、一気に警戒心を上げる様にして垂れ流しだったオーラを "纏" の状態へと切り替えていた。それは、まるで名うての狩猟者(ハンター)が獲物を捕らえる時のそれに似ており、しかし、俺はその様相を「幻影旅団に警戒され過ぎバロスwww」などと笑う事などできなかった。なんたって、俺は当事者だからね!

 

「口が上手いのね? 貴方、そんなにフェミニストだったかしら?」

 

 俺を警戒するように、けれど当時の繋がりが勝ったのか、俺が発していた言葉について茶化すように言葉を重ねてくるパクノダ。うん、本当に美人ですよね。眼福です、こんな状況じゃなければ。

 

「事実を言ったまでだよ。それにフェミニストは、その隣の知り合いじゃないのか?」

 

 それについて、なんとか言葉を絞り出して答えると相変わらず名前の分からない美少女(『知識』の引用により大方の予測は付いているが)から童顔マッチョことシャルナークへ茶化すような言葉が送られていた。

 

「って言われてるよ、シャル」

「俺は野に咲く花を人知れずに愛でるタイプなんだけどなあ」

 

 うん。完全に棒読みですよね、それ。聞かなかったことにするから、もう帰ってくれっという喉まで出かかった言葉を呑みこんで、大きく深呼吸。そして尋ねた。

 

「唐突に連絡が取れなくなったので少しだけ心配していたんですけど、無事なようで良かった。えっと名前は――」

「パクノダよ。それと貴方に今更()()()()()()()()()()()()()()()()()、こっちの2人はシャルナークとマチ、後ろにいるのがクロロよ」

 

 ハイ、団長頂きました~!!

 

 /(^o^)\

 

 恐る恐る、という程でもないが、努めて冷静に振り向くと、そこには市に並ぶ古書に興味津々な幻影旅団の団長ことクロロ=ルシルフルが売り手と何やら交渉している最中だった。団長の威厳は台無しであるが、真昼間から殺傷沙汰にならないだけマシなのだろうと無視して「そんなことを言われても困るんだけど?」と言葉を返したのだった。

 

「え、なにこれ。此処まで来て、まだ惚けてるの?」

「調べれば分かることよ」

 

 シャルナークは俺の言葉を訝しみ、パクノダによって制されたことで「そうだね」と1つ頷いて素直に身を引いた。やや間を置いてからパクノダは俺の手に触れて「貴方は、私たちのことを知っているの?」と聞いてきた。触れられた手の辺りから彼女のオーラが流れ込んでくるのが分かる。「なるほど、こうやって他人の記憶を読み取るのね?」と内心で呟いて、また様々な『経験』からアタリを付けて流れ込んできた彼女のオーラに抵抗するようにして精神防壁を張りめぐらせて抵抗した。

 

「一体、何のことかな?」

「「「…………………」」」

 

 パクノダだけではなく、それを見つめるシャルナークとマチたち3人の無言が痛い。にも拘わらず、俺の背後では相変わらずクロロが、たったの100J単位で値切り交渉している。お前、もう黙って買えよ。たかだか3,000Jじゃねえかチラッとみた値札をみて俺は思う。けれど、これは団長の周到なツッコミ待ちに違いないと敢えて無視を決め込んだ。拾っても何の得もしない火中の栗に手を伸ばすほど俺は愚かではないのだ。

 

「へえ、本当に何も知らなかったのね。その割には誰に師事する訳でもないのに、やたらと『念』について詳しいようだったし、先ほどの狼狽っぷり………気に掛かることは多いけれど、そのどれもが気の所為だったのかしら?」

 

 俺の手に触れたままのパクノダが小言で何か呟き、それを意識せずとも拾ってしまえたが、これが『釣り』だったら嫌なので、俺は変わらずに演技を続行する。というか、パクノダって近くで見ると本当に美人だよなと直近ではヒソカとの一件もあって(あれは酷い鬼ごっこだった………)荒んでいた心に潤いが戻ってきたようで勝手にほっこりしているとパクノダはスッと俺から離れた。

 

「変なことを聞いたわね。ところで、今日は何しに此処に?」

「目的は似たようなものだと思うけど?」

 

 そうパクノダからの質問に質問で返すような不躾を自覚しつつも、俺の背後で未だに終わらない交渉(笑)を続けているクロロを指差して「あの人も知り合いって言っていたよね?」と続きの言葉を紡ぐと同時に、目の前にいた3人が「ああ……」と溜息を吐いたのが見えた。それに、また別な意味で俺はほっこりしつつ「こうしていれば、普通に話せる平和なヒトたちなんだけどね」などと場違いなことを考えたが、そんなことを口に出すほど俺は命知らずではないので、やはり出かかった言葉をグッと呑みこんで堪えるのだった。「いのちだいじに。」超重要、「ガンガンいこうぜ。」ダメ絶対。俺は唐突に始まり、なんとか乗り切った自身の危機を前にして改めにて思いを巡らすのだった。


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