暗く、なにもない空間に俺は浮遊していた。
全身を針で何度も刺しているかのようなチクチクとした痛みが走っている。
どうにかして目を開けた瞬間―――――
『貴様の体、貰うぞ!』
「っっ!」
鋭い牙を何本も生やした大きな赤い口が俺を飲み込まんと突っ込んできた!
「はっ! ぐぅ!」
後味の悪い悪夢から目が覚め、起き上がろうとすると全身に痛みが走り、
そのまま後ろへと倒れ込んだ……が、誰かに肩を抱かれた。
「お目覚めですか」
銀色の髪にメイド服を着た女性――――――グレイフィアさんが俺の肩を抱いていた。
彼女の助けを借りながらゆっくりと起き上がり、
グレイフィアさんから貰ったコップに入った水を飲み干し、
今の状況を把握しようと頭を動かす。
そして数秒後には理解した。
――――――戦いに……レーティングゲームに敗北したのだと。
「今リアスお嬢様はグレモリー家が準備した会場で」
そこまで言った後、グレイフィアさんは言葉を詰まらせたのか、
それとも目の前の光景に絶句したのかそれ以上話そうとしなかった。
「……見つけた」
彼女の目の前の光景――――――それは、俺がリアス・グレモリーの魔力を感知し、
彼女がいる場所へとつながる魔法陣を出現させていた。
俺はすぐさま上の服を変え、クローゼットから服を取り出そうとするが体全体を、
動かさないようにするためかギュウギュウにまかれた包帯が、
邪魔で服がある場所まで腕が上がらなかった。
「……邪魔だ」
ブチブチという悲鳴を上げる包帯を俺は躊躇なく破り捨て、
服へと手をかけようとするが横から手が入り、俺の腕をつかんだ。
「お待ちください! 今、貴方が展開した魔法陣は冥界へとつながるものです!
もしも、なんの許可もなしに冥界に入国すれば貴方は不法侵入者として拘束されます!」
グダグダと御託を並べる奴の話を聞くほど俺は性格がなっていない。
だから、彼女の腕を払い、服を取り出して着て、
魔法陣へと向かおうとする俺の前にグレイフィアさんが立ちはだかった。
「貴方は向こうに行けば犯罪者になるかもしれません!
リアスお嬢様を救うがために」
「犯罪者になっても助ける価値がある奴がいる。それだけで十分だ」
その一言にグレイフィアさんは言葉を失っていた。
「……貴方の覚悟、承りました。ですが、
貴方が犯罪者になってはお嬢様が悲しみます。これを」
メイド服のポケットから一枚の紙を取り出し、それを俺に手渡してきた。
それは両面に魔法陣が書かれた紙だった。
「行くのであれば必ず、お嬢様を助けて下さい」
その時のグレイフィアさんの表情は、主に仕えるメイドではなく、
妹のことを心底心配している家族……姉のように見えた。
扉の奥にアーシアの魔力……。
「アーシア。行くぞ」
「はい!」
その言葉を待っていたのか嬉しそうな表情を浮かべ、俺の手を握ってきた。
その瞬間、アーシアの手が光輝き、その光が俺に流れてきた。
「向こうにつくまでの間、限界までイッセーさんの傷を癒します」
「……お前も俺の希望だ。行くぞ」
アーシアの手を強く握りしめ、紙に魔力を流しこむと目の前に魔法陣が展開され、
俺達はその魔法陣をくぐる抜けるべく、一歩一歩、踏みしめて歩いて行った。
魔法陣を抜けた俺達の目の前に大きな扉があった。
どうやらもともと、ゴールはこの地点に設定されているらしかった。
「アーシア、もう良い。十分だ」
そう言い、アーシアの手を離すと彼女は微笑を浮かべ、俺の手を離した。
「……アーシア。上と下、景色を見るなら地上から高い方か低い方か。どっちがいい」
突然の質問に戸惑っているようだったが彼女はすぐに答えを出した。
「じゃ、じゃあ高い方で」
『コネクト、プリーズ』
俺は魔法陣を展開し、アーシアをお姫様だっこにして抱えると魔法陣へと突っ込み、
陣を潜り抜けるとそこはすでに教会の中の天井で、
多くの参列者とドレスを着たリアス・グレモリー、そしてスーツを着たチャラ男の姿、
そして正装をした木場達の姿があった。
一瞬、木場達と目があい、その瞬間に何かしらの意図を掴んだらしく、
全員が首を縦に振った。
「だ、誰だ!」
俺が着地したと同時にその言葉が掛けられ、
また背後から放電時に聞こえる音と何かを強く殴る音、そして金属音が聞こえてきた。
「兵藤一誠。リアス・グレモリーのポーン」
涙目のアーシアを降ろし、一歩ずつ両者が立っている場所へと向かう。
「リアスを……連れ戻しに来たのか」
五歩ほど進んだところで、チャラ男の方が先に口を開いた。
「ああ、それもあるが……お前との決着を付けにも来た」
「……お前に一対一での決闘を申し込む」
その言葉が教会内に響いた瞬間、後ろからざわざわと耳に障る音が聞こえてきた。
「……フェニックスの名において……お前を倒す! 俺が負けた時はリアスを返す!
だが、俺が勝ったときは結婚は続行だ」
「ふざけるな!」
だが、しょせんチャラ男という悪魔一人の意見が通るほど悪魔の社会がやわなものでもなく、
後ろにいる参列者から罵詈雑言が飛んできた。
チャラ男は目を瞑り、数秒間考えると目を見開き、
俺の方へと歩いてくるが俺を通り過ぎてもなお、歩き続けていた。
そのまま俺から十歩くらい離れたところで、停まった。
「俺は! 俺はあの時、兵藤と一対一を行うとき、下僕に手を出すなと言いました!
ですが、それの約条は下僕の俺に対する忠誠心から破られてしまいました!
下僕の失態は主である俺の失態です! どうか!
どうか、兵藤一誠との再戦をお許しください!」
チャラ男は参列者に頭を下げ、
懇願するが参列者からの罵詈雑言がやむことはなく、ただただ奴にぶつけられ続けた。
だが、俺はこの耳でハッキリと聞いた。
罵詈雑言が溢れるこの教会の中でたった一つの拍手を。
参列者たちもその拍手に気づき、徐々に罵詈雑言が息をひそめていく。
向けられる視線は俺の背後に集まっており、
振り返るとそこにはリアス・グレモリーと同じ紅色の髪を持った男性がいた。
「素晴らしい。言い方は悪いがまだ、君はまだ子供だと思っていた……だが、
それは私の考え違いだったようだ。私も君に似たような考えでね……皆さん!
私はライザー君の頼みを受け入れるつもりです!」
その一言に再び、教会内は騒然となった。
「受け入れるつもりのない方もいるでしょう。しかし、
ここは私の顔に免じて受け入れてやってもらいたい」
どうやら、目の前で喋っている男はこの世界でもかなり高位の位置に坐しているらしく、
騒然としていた教会が一気に静まり返った。
「お父様。そしてフェニックス卿、よろしいでしょうか」
男の質問に名前を呼ばれた二人は何も言わず、目を瞑り、
ただただ一度、頭を上下に振った。
この瞬間、俺とチャラ男の決闘が成立した。
数分後、全ての参列者が移動し終わり、俺とチャラ男は広い場所で互いに対面していた。
「始めるぞ」
「ああ……ここでお前を倒す」
手をかざし、目の前に魔法陣を展開しようとするが――――――出なかった。
「はぁ!」
魔法陣がでないことは後回しにし、
放たれたバスケットボールサイズの火球をその場から飛び退いてかわすが、
全身に激痛が走った。
ぐっ! 包帯を取ったせいか傷がまた開いて。
「おおぉぉぉ!」
咆哮をあげながら背中から炎の翼を生やしたチャラ男が突っ込んでくるのが見え、
それを避けようとした瞬間、足から力が突然抜けて、地面に膝をついた。
「らぁ!」
「がっぁ!」
そのままロクに防ぐこともできず、相手のパンチを腹部にモロにくらい、
血を口から吐き出しながら吹き飛び、会場の壁に激突した。
幸い、参列者は会場の二階席の部分で戦いの様子を見ていたから誰にも怪我はない……が、
そんなことよりも……何故、魔法が発動しない。魔力は山ほどある……まさか、あのドラゴンか。
「兵藤……弱った体のままで戦いに来たことがお前の敗因だ」
拳に炎を纏わせたチャラ男が俺を見下ろしていた。
ふざけるなよ……ふざけるな! ドラゴン! 俺に力を貸せ!
「終わりだ!」
「俺に力を貸せぇぇぇぇぇぇ!」
叫びながら手を目の前にかざした瞬間、突然、目の前が真っ暗になった。
こんにちわ