首をひとつ、失ったケルベロスはあまりの痛みに悲痛な叫びをあげながら、
のたうち回っていた。
「助太刀しよう」
アーシアをケルベロスから守ってくれた人――――それは以前、
旧校舎の部室にやってきた青い髪に緑のメッシュを入れたゼノヴィアだった。
ゼノヴィアはその握っている聖剣を持ち、痛みにのたうち回っているケルベロスに向かっていき、
もう一本の首をはね、さらなる痛みで動けないでいるケルベロスを横に一閃すると、
塵となってケルベロスは消滅した。
「朱乃! 小猫! 私たちもケリをつけるわよ!」
朱乃の落雷と私の滅びの魔力の塊、そして小猫の激しい拳打を同時に受けたケルベロスは、
その場から逃げようと後ろを向いた瞬間、突然地面から刀が生え、
ケルベロスの全ての足を地面に突き刺して拘束した。
「部長! 今です!」
声の主は顔を見なくても分かった。
「朱乃!」
「はい!」
数秒、魔力を高め、今もてる全ての力を凝縮させた滅びの魔力の塊と、
幾つもの落雷を直撃したケルベロスはついにその体を地面に這いつくばらせ、目を閉じた。
「やった」
ホッと一息ついたのもつかの間、向こうから聞こえてくる心のない拍手に私たちはすぐさま、
意識をそっちへ持っていかれた。
「おめでとう。よく、ケルベロスを倒したものだ」
コカビエルがそう言った直後、彼の背後からすさまじい輝きが発せられ、
辺りを明るく照らし出した。
私はその輝きを見た瞬間、背筋が凍りつき、
言葉を発することができなくなってしまったうえに体がカタカタと震えだした。
あの光が何なのかはまだ私も完璧に理解できていない……でも、
私の……悪魔の遺伝子があの力は危険だと私自身に伝えているようだった。
「コカビエル、完成したよ」
「そうか。よくやった、バルパー」
その名には聞き覚えがあった。
バルパー・ガリレイ。向こうでは皆殺しの司教と呼ばれ、
祐斗達被験者の人生をめちゃくちゃにした最低の男の名前。
「回収したすべてのエクスカリバーを合体させた。フリード」
私はコカビエルのその話を聞いて愕然とした。
エクスカリバーは欠片になっても並みの悪魔なら一瞬で、
消滅してしまうほどの聖なる力を持つ伝説の剣! その欠片がすべてではないとはいえ、
合わさった……本当に覚悟を決めないと私達が……。
「あいあいさ」
暗闇から白髪の神父が現れ、
校庭に突き刺さっている聖剣を手に取り、私達の方へと向いた。
「四本のエクスカリバーが一本になったことで下の術式も完成した。
後20分もすればこの町は跡形もなく消える。解除方法はコカビエルを倒すことだけだ」
下の術式!? いつの間にそんなものをこの街に施したの!?
すると、憎悪の色を顔中に乗せた祐斗が一歩前に出て、
バルパーと白髪神父が握っている聖剣を睨みつけた。
「バルパー・ガリレイ。僕は聖剣計画の生き残りだ。今は悪魔として生きている」
「ほぅ。こんな極東の国で出会うとはな。数奇な運命とでもいうべきか」
バルパーは嫌な笑みを浮かべ、祐斗の方を見た。
「どうしてあんな惨い計画なんかを実施したんだ!」
「私はな。聖剣が好きなのだよ。幼いころから本を読みそれに興奮したものだ。
自分も本の中のヒーローのように悪を切り裂きたいと……だが、
その夢はあっけなく砕け散った。私には才がなかった。聖剣を扱う才がな……そして、
私は研究の道へと入った。そして知ったのだよ。聖剣を扱うものは皆、
体内に聖剣を扱う因子が存在していることを……そこで私は思いついた。
その因子を抽出し、体内に埋め込めば使えるのではと」
「それで……自分の夢を叶える為だけに多くの少年たちの命を奪ったのか!」
「それがなんだ! 私のおかげで聖剣使用者は増加した! だがミカエルどもは俺を、
異端者として断罪し、追放した! これがその因子を集め、
結晶化したものだがこんなものなどいらん。
環境さえあれば量産など簡単だ。貴様にくれてやろう」
そう言い、バルパーは地面に結晶を転がし、祐斗の足もとへと転がした。
祐斗は涙を流しながら、その結晶を手に取り抱きしめた。
彼がその結晶をもって抱きしめた途端に結晶が光り輝き始め、
結晶から光の集まりがいくつも出てきて、彼の周囲を回り始めた。
その輝きはエクスカリバーのものとは違い私たちに恐怖ではなく、
安心を与えてくれている気がする。
その光景に私たちもバルパーもコカビエルも驚いていた。
「バカな……何故だ! 研究の際はこのような現象は起こらなかったはずだ!
その結晶に何があるというのだ! ただのゴミ同然の奴らの因子だぞ!」
その光の集まりはやがて彼の中へと入り込み、直後、
彼の体全体が淡く輝き始め、徐々に魔力が上がっていくのを感じた。
「ゴミじゃない……人間だ。バランスブレイク」
その一言を発した直後、夜空を切り裂くように上空から光が彼の前に落ち、
やがてその光は一本の刀へと変わっていく。
その刀には悪魔の魔力、そして聖なる力が感じられた。
彼がその刀を手に取ると、輝きは消え去った。
「バランスブレイカー。この剣は皆の思いが詰まった最高の刀、
聖と魔が宿った剣。双覇の聖魔剣(ソードオブビトレイヤー)」
その瞬間は彼がバランスブレイクへと至った瞬間だった。
「行くぞ! フリード!」
僕はナイトの特性である速さで高速移動してフリードに斬りかかった。
フリードは四本のエクスカリバーを統合した刀で防ごうと構え、
互いの刀がぶつかりあった直後、金属音を鳴り響かせた。
しかしその直後に今まで相手の刀から強く……それこそ、
僕達を殺すくらいに発せられたオーラが一瞬にして弱弱しくなった。
「おいおいおいおい! 本家本元の刀がそんな駄剣に負けるのかよ!」
フリードは舌打ちをし、僕を睨みつけながら一旦距離を取り、僕に刀の切っ先を向けた。
「伸びろぉぉぉ!」
彼のエクスカリバーが意思をもったかのようにウネウネと動き出し何本も枝分かれして、
神速でこっちに向かってきた。
刀身を伸ばすエクスカリバー・ミミックの力と対象に、
凄まじい速度を付加するエクスカリバー・ラピッドリの効力……そう言えば、
四つのエクスカリバーの欠片が集まったのがフリードが持っている刀だったね。
「はぁ!」
横薙ぎに聖魔剣を振るうと強いオーラが放たれてさっきまで見えなかった彼のエクスカリバーが、
刀身に無数のヒビをつけた無残な姿でその姿を現した。
最初の時の強いオーラは面影をなくし、今では僕が普段創造して使っている普通の魔剣の方が、
はるかに強いオーラを発しているんじゃないかと思うくらいに弱くなった。
いける……みんなの思いが詰まったこの刀で!
「おいおいおいおいおい! 本気を出せよ本気をぉぉぉぉぉぉぉ!」
不意に彼の刀の刀身が消え去った。
姿を消す能力を持つのはエクスカリバー・トランスペアレンシーのみ……でも、
そんなに刀に殺気を乗せていたらせっかくのエクスカリバーの能力も意味がなくなる。
僕は心の中で笑みを浮かべながら殺気を感じる部分に刀を全力で叩きつけると、
金属音を響かせながらフリードのもとへと戻っていった。
……あと一回、ぶつけられたら砕けたんだけどな。
「私も参戦しようか」
横殴りにゼノヴィアが入ってきた。
でも彼女が握っているものは明らかに僕のよりも強いオーラを放っていた。
「デュランダル、こいつを使うのは久方ぶりだ」
デュランダル!? エクスカリバーに並ぶ伝説の剣じゃないか!
そうか、彼女は人口の聖剣使いじゃなくて天然の使い手なのか。
だから二つもの伝説級の刀を使えるんだ。
その光景にバルパーもコカビエルも驚いていた。
「お前もお前もうざったいんですけどぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
彼の刀身が消え去り、殺気がこちらへと向かってくる。
ゼノヴィアは軽くデュランダルを横に振るうとバキィィンン! というガラスが、
砕けた際に聞く音を発しながら、砕け散った無残な姿でエクスカリバーが姿を現した。
「エクスカリバーがどれほど強くても使用者が弱くては意味がないな。
宝の持ち腐れ、豚に真珠だな……止めは貴様に渡そう」
「ありがとう」
彼女に礼を言い、僕は全速力でフリードに近付くと彼は砕け散ったエクスカリバーで、
僕の振り下ろす刀を防ごうとする―――――脆い!
「はあぁぁぁぁぁぁ!」
刀を全力で振り下ろした直後、ガラスが砕けるような音と肉を切り裂く音が聞こえるとともに、
辺りに鮮血をまき散らしながらフリードは地面に倒れふした。
「やったよみんな」
僕は刀を握り締め、天を仰いだ。
「そ、そんな……有り得ない……反発し合うものが合わさるなど」
フリードが倒されたのを見ていたひどく狼狽した初老の堕天使の姿が見えた。
そうだ、まだこいつがいた。
「そうか! 分かったぞ!
先の大戦で聖と魔のバランスが崩れているならば説明がつく! 魔王だけではなく神も――――!」
直後、僕たちの視界に鮮血が舞った。
その鮮血を散らしているのはバルパーだった。
腹部に太い光の槍を受け、口から血を流し、宙に浮いているコカビエルを一度、
見た後に地面に倒れ伏し、動かなくなった。
近くに行かなくても分かった……即死だった。
「バルパー、お前は優秀だったよ。優秀だったが故にその結論に至ってしまった。
貴様がいなくてもこの計画は進んでいたのだよ」
彼が地面に足をつけた瞬間、僕達を押しつぶすほどの重い重圧が掛けられた。
っ! これが古の戦いを生き残った堕天使の幹部のプレッシャー!
剣を握っている手はカタカタ震え、額から冷や汗が流れおちた。
「貴様らは使える主を失ってもよく戦う」
主を? ……いったいどういう。
「どういう意味だ!」
コカビエルの言葉に一番早く反応したのはゼノヴィアだった。
「教えてやろう。魔王も神も先の大戦で死んだ!」
衝撃の内容だった。
先の大戦で魔王様が戦死したというのは聞いていた。だから今の四代魔王制がつくられ、
今の平和な冥界ができた……あの大戦で、
死んだのは魔王だけじゃなくて神までも死んでいたのか!
「嘘だ……嘘だ」
「わ、私たちはいったい……何を信じて」
神を崇め、信じていた二人の口から信じられないといった言葉が漏れ、
見ていられないくらいに狼狽し、地面に膝をついた。
「そろそろキマイラも奴の死体を持って帰ってくるだろう」
そうだ……さっきからイッセー君の姿が見当たらない。
最初からこの場にいた部長たちは知っているだろうけど、
途中から来た僕は彼がどこで何をしているかは分からない。
直後、コカビエルの背後に魔法陣が現れた。
おはようございます!