「あ、兵藤君! 今月のお給料振り込んでおいたから!」
「ありがとうございます」
バイト先の店長から給料の振込されたのを聞き、
お礼を言ってから店から出ると既に空は真っ暗だった。
でも、おかしくはない。時間は既に高校生が出回っていい時間帯を大きく超え、
普通の人たちはベッドで寝ている時間帯だ。
普段なら俺は朝、昼、晩の全ての時間帯に四時間から五時間ほどのバイトを組み込んでおり、
朝に家を出てから帰ってくるのは大体、日付が変わる数分前だ。
今日は早めに終わったが……また、職質されると鬱陶しいから帰るか。
「貴方が兵藤一誠ね」
店の前に置いておいた自転車に乗ろうとしたとき、不意に後ろから女の声が聞こえた。
振り返ってみるとそこにはかなり露出度が高い……警察官に見つかれば、
即声をかけられそうなくらいの服装をしている女が立っていた。
「……何か用か」
「本当に感情のない表情ね。怖がっているのかもわかりゃしないわ。
ま、こっちとしてはそっちの方が都合がいいけどね。少し、お話をしましょ」
刹那、バサッ! と鳥が羽ばたくときの音が聞こえ、辺りにヒラヒラと羽根が数枚、落ちた。
俺は目の前の光景と似たような光景に数時間前に出会っていた。
あいつらの翼とは少し、形状も色も違う……こいつは……天使か、悪魔か。
「そうね。あっちに公園があるみたいだからそこに行きましょ」
云われるがままに俺は自転車をこぎ、近くにある公園に入って自転車を木に、
立てかけて止めると、上から先ほどの女が降りてきた。
「改めて。こんばんわ、兵藤一誠。私は堕天使、レイナーレ。
貴方をこちら側にスカウトしに来たの」
……どういうことだ。リアス・グレモリーどもは堕天使が、
俺を殺しに来ているというお花畑要素満載のことを言っていたのに、
俺の命を狙っている肝心の堕天使が俺をスカウト?
「他の奴らは貴方に宿っている者が危険だって言うけど、
私は貴方の中にある魔力の量が危険だと思っているの。
最初は伝聞情報だけで疑念があったけど、近くで貴方を感じてそれは確信に変わった。
確かにあなたは危険だわ。でも、逆にそれがこちら側に有利に働くこともある」
「……それがスカウトか」
「そう。その莫大な魔力を私達のために使ってもらいたいの。
屑で汚らしい悪魔を滅ぼすために。私はね、悪魔は汚らしいけど人間は、
綺麗なものと考えているわ。人間は二種類いる。悪魔に魅入られて魂が穢れるか、
もしくは天使に魅入られて魂がさらに浄化されるか。いわば、
人間の魂はなんの穢れもない美しい状態」
「俺がそっちに入った時のメリットは」
「貴方が望む物を。富み、女、力。いずれ、
あなたはそれら全てを掌握することのできる存在へとなりうるポテンシャルを持っている。
これは予想じゃない。予知よ」
「デメリットは」
「貴方がこちら側に入らなければ殺すだけ。ね?
どっちが正しい選択かは優秀な貴方なら一瞬で分かるはず」
拒絶すれば死が、受け入れれば全てが手に入る……か。
「まるで雲をつかむような話だな。その魔力とやらはどうやって証明する」
「もうすでにあなた自身が証明しているわ」
そう言い、女がパチン! と指を鳴らすとどこかからか、
バチッ! バチッ! という放電時に聞こえる音が耳に入ってきた。
「実はね。この公園には強力な結界を張ってあったの。人間なんて絶対に、
入ることができない、それこそ触れた瞬間に丸焦げになる結界をね。
でも、あなたはそれをやすやすと破って見せた。
悪魔ならまだしも人間の貴方が。これは異常なことよ。
いくら、セイグリッドギアを宿した人間でもその魔力量は微々たるもの。
とてもじゃないけど結界を破ることのできる量じゃないわ。生まれつきか、
はたまた宿しているセイグリッドギアが強力なのか。それは分からないけど貴方は、
最強の魔術師になれる。さあ、私と一緒にこの世界を、グレゴリの幹部様達に」
レイナーレが手をさしのばして俺に近づこうとした瞬間、
サクッ! と目の前に刀が突き刺さった。
「悪いけど、彼に近づかないでくれるかな?」
上から声が聞こえ、顔を上げてみると俺の頭上に翼を生やした木場が少々、
怒りを含めた表情をしつつ、刀らしきものを両手に持ってレイナーレを見ていた。
「悪魔風情が。随分と調子に乗るじゃない」
「それは貴方の方ではありませんの?」
―――――刹那。
俺の視界を潰すほどの光が発生したかと思った瞬間、耳を劈くほどの爆音が鳴り響き、
姿勢を崩してしまうほどの揺れが俺を襲った。
何なんだいったい……目の前で何が起こっている。
「一個人が組織に勧誘だなんて。いくらなんでも調子に乗り過ぎていますわ」
空から降り注ぐ声。上を向くと翼を生やしたポニーテールの女が宙に浮いていた。
「それにここはグレモリー領下ですの。
堕天使様が入ってきたなんか知れたら外交問題に発展しそうですわ」
「ふ~ん。貴方達も最初から兵藤一誠を監視していたわけ。まあ良いわ。
兵藤一誠、よく考えておいてね」
何処から聞こえているのかは分からなかったがその言葉を最後に、
レイナーレの声は聞こえなくなった。
「危機一髪でしたわね」
「……なるほど。おれを監視していたわけか」
「監視じゃないよ。警護って言ってほしいな」
その日は何も言われず、そのまま家まで送り届けられた。
翌日の放課後、俺は旧校舎のオカルト研究部にいた。
今日は母さんはリハビリの日なので、
お昼ごはんも晩御飯もリハビリステーションで済ましてくるし、
お風呂もお手伝いさんが介助してくれるというのでここにやってきた。
「今日はどういった要件かしら?」
「昨日、堕天使とやらに会った。スカウトしたいんだと」
そう言うと、リアス・グレモリーは驚いたような表情を浮かべた。
「俺が宿しているセイグリッドギアとやらではなく、
その魔力量に着目したらしくてな、こっちに来れば最強の魔術師になれるとまで云われた。
あんたらも俺をそんな感じで見てたのかと思ってな」
「それはないわ」
リアス・グレモリーは怒ったような表情で俺の言ったことをばっさりと切り捨てた。
「私は……いえ、私たちは貴方の命を心配しているの。
貴方を物としてなんか見ていないわ」
こちらを見る目は真剣そのもの。
周りの奴らの目も見てみるが、この部室にいる全員が全員、
目の前のリアス・グレモリーと同じような真剣な表情をしていた。
一点の曇りもない目だった。
「一つ聞きたい。俺が悪魔側に入った時のメリットは」
「貴方の身の回りの安全を保証するわ。それだけじゃない。
貴方の大切なものを自らの力で守ることのできる力が手に入る……誰かの悲しみを消し去り、
誰かの希望になることができる」
俺の大切なものを自らの手で守ることのできる力……誰かの悲しみを消し去り、
誰かの希望なることができる………………か。
「…………分かった。俺は悪魔側に入ろう」
「契約成立ね」
そう言い、リアス・グレモリーが制服のポケットから八つの赤い駒を取り出し、
俺に向けると駒が赤く輝きだし、俺の胸に飛んできてそのまま中に入ってしまった。
「まさか、八つ全てを消費してしまうなんて」
「少し失礼しますわ」
そう言い、ポニーテールの女が指先に魔法陣らしきものを出して俺の胸に当てると、
その魔法陣が一瞬にして消え去った。
そのよく分からない光景に戸惑っているのは俺だけで、
他の奴らはあり得ないといった様子の面持ちを浮かべて俺を見てきた。
「凄いですわ。魔力量だけでいえば私や部長を遥かに……いえ。
私たちでは比べ物にならないほどの量ですわ」
「魔法陣が消えたので分かるのか」
「消えたんじゃないよ。外、見てみなよ」
木場にそう言われ、窓の外を見てみると学校の真っ暗な地面に紅色に輝いている線が、
グラウンドを出て外にまでずーっと伸びていた。
「さっき、副部長……朱乃先輩は魔力量を測ったんだ。指先にあった魔法陣は、
魔力量によってその大きさを変えていく。大きければ魔力量が多いんだ。
この中でいちばん多いのは部長だった。それでも旧校舎を囲むほどだったのに」
「ふふ。イッセー、これからよろしくね」
笑みを浮かべながらリアス・グレモリーは俺の手を握ってきた。
こんばんわ