翌日、以前からの謎だったアーシア以外のもう一人のビショップについて、
部長の兄から大丈夫だろうという判断を貰い、俺たちに対面させることになったらしい。
部長の口から聞いたのは初めてだが、薄々とは気づいていた。
彼女の手に残っているイーヴィルピースはルーク一つのみ。
駒はそれぞれ、ポーンが八つ、ナイト、ルーク、ビショップが二つずつ、
クイーンが一つの計十六個の駒があるんだが、ビショップのイーヴィルピースを部長が、
持っているのをアーシア以外に見たことがない。
その謎が今日、明かされるわけだが。
「ここですか」
「ええ、もう一人のビショップが封印されている場所よ」
目の前にあるのは幾重にもテープで頑丈に固定され、
幾つもの呪術らしきもので封印を行っている扉だった。
どちらかというとこの呪術は誰かを出られないように封印するというより、
魔力が外に漏れ出ないようにするもの、そしてよっぽど封印しているものが危険なのか、
ある時間になると更新されるようにも設定されている。
「イッセー。今のあなたならこの程度の呪術は解呪できるわ」
部長に言われ、扉に手を置くと呪術の情報が頭の中に入ってくる。
もちろん、解除の方法も。
その方法に従うとものの数秒で封印が解け、扉がキィっと少しだけ開いた。
「気をつけて欲しいのは中にいる子はとてつもなく引きこもりでね。
人に会うだけで拒絶反応をおこしちゃうような子だから」
部長は苦笑いをしながら中へと入っていき、俺達もそれに続いて中へ入ろうとした瞬間―――――。
「イヤァァァァァァァァァァ!」
耳をつんざくような悲鳴が聞こえ、思わず耳を塞いでしまった。
部屋の中は綺麗に装飾されており、部屋の中央には何故か棺桶、そして段ボール箱、
その棺桶の中に金髪の少女が涙を流しながらフルフル震えていた。
「お外に出れますのよ?」
「出たくないぃぃぃぃぃ! お外は危険いっぱいぃぃぃぃぃ!
太陽の光は痛いし、ガーリックはあるし、怖い人たちだらけですぅぅぅぅぅ!」
そう言い、棺桶に入って扉を閉め、中から鍵を閉めてしまった。
「ちょっとギャスパー! 開けなさい!」
『絶対に! ぜっっっっっっっっったいに開けません!』
これは筋金入りの引きこもりだ。
お手上げといった様子で部長が俺の方を向き、俺も仕方なく、目を瞑り、
棺桶の中に入っているギャスパーと呼ばれた少女の魔力を感知し、
棺桶の中からこちらへ転移させるように魔法陣を展開する。
『テレポート、プリーズ』
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ! どうして僕が外にぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
「逃げるなよ」
今にも逃げようとするギャスパーと呼ばれた少女の腕をつかんだ瞬間、
俺の全身を何かが駆け巡った。
なんだ…………この感覚……一瞬、時間が遅くなったような。
俺は全身を駆け巡った感覚に少年は何かあり得ない物を見たような様子で戸惑っていた。
「イッセー君。その子は興奮すると視界に映った全てのものの
時間を一時的に停止させてしまうセイグリッドギアを宿していますの。
格上の相手には通じないようですが」
時間を一時的に止めるセイグリッドギアか……だから、
さっき時間が遅くなったような感覚を感じたのか。
「うぅ。な、なんで効かないんですかぁ?」
涙ながらに訴えてくる少女の問いに俺は答えられなかった。
「この子の名前はギャスパー・ヴラディ。ビショップで転生前は人間と吸血鬼のハーフ。
駆王学園の一年生で……れっきとした男の子よ」
「…………男……だと」
「……はい」
部屋の中に妙な空気が流れた。
その後、五分ほどかけてギャスパーを部屋から連れ出し、部室へと戻ってくることが出来た。
時計は五分だが、実際の時間的には五分以上経過している。
その理由はすぐにギャスパーがセイグリッドギアを発動し、
俺以外の奴らの時間を止め、俺の時間も普段よりも遅くしたため。
今は段ボール箱の中でお茶をちびちび飲みながら落ち着いている。
「とにかく私と朱乃、そして祐斗は少し出かけるからその間のギャスパーの教育はお願いね」
どうやら三組織の会談の準備諸々を手伝う必要があるらしく、部長と副部長、
木場の三人は出かけてしまった。
部室には俺、アーシア、ゼノヴィア、塔城、そしてギャスパーの五人が残った。
「教育といっても何をすればいいんでしょう」
「とりあえず、ニンニクを段ボール箱に詰めるか」
「ガーリックらめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
「冗談だ」
俺の冗談を真に受けたギャスパーは眼から涙を流しながら、
段ボール箱から出て逃げようとしたため、バインドで軽く拘束しておいた。
さて、困ったものだ。こうまでも泣き虫な、
性格のギャスパーをどういう風に教育してやればいいものか。
「よし! 私に任せてもらおう。ヴァチカン時代に吸血鬼とも戦ったことがあるんでね。
行くぞ、ギャスパー! 今こそスーパー吸血鬼になるのだ!」
「びえぇぇぇぇぇぇぇぇん!」
段ボール箱にひもをくくりつけたゼノヴィアはそのままズルズルと、
段ボール箱を引きずって外へと行ってしまった。
別に今は生徒もいないから良いんだが……何か不安だ。
俺以外にも不安を覚えているやつはいたらしく、
俺が立ち上がったと同時に全員が立ち上がり、外へと向かった。
「うわぁぁぁぁぁん!」
外に出た瞬間、ギャスパーの凄まじい叫びが聞こえ、その声の方向を向いてみた。
ブゥゥゥゥン! って言ってるぅぅぅぅぅ!」
ゼノヴィアはデュランダルをブンブン振りまわしながら、
泣きじゃくっているギャスパーを追いかけ回していた。
……恐らくだがゼノヴィアは怖いものは慣れるが勝ち! という考え方の持ち主であり、
それを悪魔の弱点である聖なるオーラを弱くしたものを放ちながら追いかけまわすという、
形で実践しているということか。
たぶん部長が期待している教育って言うのはそういう弱点克服、
みたいなんじゃないと思うんだが。
「先輩助けてぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
『バインド、プリーズ』
「むぅ? ダメか?」
「ダメだ」
半強制的にゼノヴィアの教育と称した鬼ごっこは終わらせた。
「先輩。お任せ下さい」
妙に自信ありげの表情で塔城が俺の傍にやってきた。
…………まあ、こいつならゼノヴィアみたいなはっちゃけた考えを持っている様子もないし、
こいつになら任せても大なり小なり、結果は出るか。
「わかった、任せる」
俺がそう言ったとたん、塔城はポケットに手を突っ込んでギャスパーを追いかけはじめた。
ギャスパーも何故、追いかけられているのか分からない様子だったが彼女が、
ポケットから出したものを見た瞬間、顔を絶望の色一色に変えた。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ! ガ――――――リックらめぇぇぇぇぇぇぇ!」
「ガーリック食べれば口は臭くなる……でも、健康になる」
塔城に任せた俺がバカだった。
だから、部長が教育してねって言っていたのは弱点克服じゃねえよ。
ていうか吸血鬼の弱点克服はほとんど遺伝子に刻み込まれてるレベルの話で、
俺達が解決できるレベルの問題じゃねえだろ。
「たずけでぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
『バインド、プリーズ』
「むぅ」
「終わりだ」
ギャスパーが両眼から大粒の涙を流し、鼻から鼻水をダラダラ流しながら、
俺の足もとに抱きついてきた時点で強制的に、
教育という名のガーリック追いかけっこは終わった。
「俺が思うにこいつのセイグリッドギアを
制御できるように教育しろって言う意味だろ」
そう言うと、二人ともはっ! としたような表情を浮かべた。
マジであんなのが期待されている教育だと思ったのか……まあ良い。
『ウォーター・プリーズ。スイースイースイー』
籠手の色を青色の変化させ、手のひらに小さな水の塊を準備した。
「ギャスパー、今から俺が投げる水玉を停止させてみろ」
「は、はい」
軽く上に放り投げ、ギャスパーは目に力を入れて水玉を見てみるが水玉は止まらずにそのまま、
ギャスパーの顔面に当たって破裂した。
…………前途多難とはこういうことか。
「うぅ、ビチョビチョです」
「もう一回」
もう一度、同じようにして見るが今度は何故か水玉の上半分だけが止まり、
下半分は止まらずにそのまま地面に落ちた。
「…………お前、殺人鬼になれるぞ」
「うぅ、そんなの嫌ですぅ」
それから数時間ほど、ギャスパーとともに教育という名の鍛錬を続けた。
おはようございまあす!