「256回目」
「やっ!」
その日の晩、集合の時間が来るまで俺とギャスパーは鍛錬をしていた。
と言っても俺はただ単にテニスボールを投げるだけであって、
ギャスパーが力を使うといった簡単なものだけど。
256回行って成功した回数が95回ほど、そのうちボール全体の
時間を止められた回数は75回。大体三割後半行くか行かないかの瀬戸際か。
最初のころよりかは成功確率はだいぶ上がってはいるが……まだだま、
不安が残る確率だな。
「休憩にしよう」
「ふぅぅぅ~。疲れましたぁ」
セイグリッドギアを一回発動するくらいでは大した疲労はない、
でもそれが三桁の回数にもなるとその疲労は大きくなる。
まあ、実践中に二百回も時間を止める機会はそうないとは思うがな。
「イッセー先輩は行くんですよね?」
そう。ギャスパーを除いた俺達オカルト研究部員達は、
コカビエル関連の事件の核心に関係しているため、その報告の為に会談に呼ばれている。
無論、話すのは部長だろうが……アザゼルのことだ。俺にも話を聞きに来るだろう。
「俺がいない間も自分でやっておけよ」
「はい。皆さんの邪魔にならないように……僕って邪魔ですよね」
元来、こいつの性格がネガティブかは知らないがこの性格のせいで時折、
ネガティブ思考に一期に突入してしまうことがある。
それさえなければ鍛錬も捗るんだがな。
「取り敢えず、今のお前に学校全体の時間を止める力はない。
まあ、外部的に暴走させられれば話は別だがな……それにここに来るのは組織のトップたちだ。
お前程度の力で止められるような弱い奴らじゃない」
「じゃ、じゃあ……も、もしも僕が暴走した時は」
「俺達が助ける。お前もグレモリー卷族の一人だからな」
「……うぅ、頑張って鍛錬します」
「そうしろ……時間か。俺はもう行く、じゃあな」
『テレポート、プリーズ』
そう言い、ギャスパーから離れた位置に部長のもとへと、
転位先を設定した魔法陣を展開し、転移すると部長の傍に転移した。
「来たわね。じゃ、行きましょうか」
その一言で卷族全員が会談の会場へと向かった。
会談の会場となった部屋は新校舎にある職員会議室。
普段は駆王学園の教師達が会議をするために使われる質素な部屋だが今日に限っては違った。
豪華けんらんな装飾に、それぞれの陣営の護衛達がズラーっと横一列に並び、
会議室の中央には三組織のトップがそれぞれの顔が見えるような形で座っていた。
その時、俺の肩を軽く叩かれ、振り返るとそこには白の鎧の男がいた。
「やあ、兵藤一誠。今回で三度目の邂逅だね」
「そんな大したものじゃないだろ。邂逅ではなく再会と言った方が正しい」
「ま、そんなことは良いさ。後でゆっくり話そう。”全てが終わったら”ね」
そう言い、白い鎧の男はスタスタと歩いていき、
アザゼルが座っている背後に用意されている座席に着席した。
……全てが終わったら……か。何を考えている。
奴の発言に一抹の不安を抱えながらも、俺はサーゼクス様の背後に用意されている座席に着席し、
会談が始まるのを待った。
そして、サーゼクス様が会場を見渡し一言。
「始めようか」
その一言で会談は始まり、
次々と俺たち下の地位にある奴らには聞いたこともない単語が飛びだしていく。
今は亡き神が生み出した信奉する者に幸福を与えるシステム、
アザゼルのセイグリッドギアに関する研究の成果と今後、
起きるであろうイレギュラーな事態。
「以上のように我々天使は―――――――」
「悪魔としても―――――――」
「俺はどっちでも良いぜ」
ミカエル様、サーゼクス様の発言につき、
アザゼルの何気ない一言でこの場の空気が一瞬にして凍り付いたこともあったが、
堕天使陣営は既に頭のそんな発言に慣れっこなのかスルーして、真顔でいた。
トップがあんなおチャラケな奴だとしたの奴らはしっかり者に変わるんだな。
「アザゼル、何故近頃セイグリッドギア……中でも強力なロンギヌスを集めている」
「そちらが白龍皇を手に入れた時は強く警戒しました」
「おいおい、俺の信頼度はマイナスかよ」
「無論」
「もちろん」
「もちろんよ☆」
若干、この場にはふさわしくない声音の人もいたがそこはスルーしておこう。
アザゼルはそれぞれの陣営の頭からの言葉に苦笑いを浮かべながらも、
その奥底ではどこかその状況を楽しんでいるように思えた。
「俺が集めていた理由はセイグリッドギアの研究だ。俺はもともと、
武闘派というよりも研究派なんだよ。組織の下の連中には人間界の政治に手を出すなと、
強く厳命しているし、悪魔、天使と遭遇しても無駄な戦いは避けろと言ってきた……まあ、
若干名の堕天使がそこの魔法使いにスカウトを持ちかけたらしいがな。なあ、兵藤一誠」
俺の名を呼ばれ、会場にいるほぼ全員の視線が俺に集中した。
チラッと左右を確認してみるが、どいつも同じような目をしていたので俺は立ち上がった。
「確かに、レイナーレとかいう堕天使の女にスカウトを持ちかけられたのは事実。
だが、雲をつかむような話で現実味がなかったがな」
「そうか。内容は聞かねえがそれは俺の監督責任だ」
「個人がやったことだ。アザゼル……総督の責任じゃない」
「言うじゃねえか……まあ、そんな話よりも俺は今、あるロンギヌスを追っていてな」
俺の目を見ながらアザゼルは淡々と話していく。
「また、コレクターの血が騒いだのか?」
「最初はそうさ……でもな、まったく見つからないんだよ。手がかりなし」
「グリゴリの追跡能力を持ってしてもですか?」
ミカエルさまの静かな問いにアザゼルはただ、首を縦に振って肯定した。
「別に自慢じゃねえんだがグリゴリはそういう系のことは得意な方なんだよ。
でもな、一切の手がかりも見つからないんだよ」
「そのロンギヌスの名は」
サーゼクス様の問いにアザゼルは目を瞑り、
少し間隔をあけてグリゴリの追跡能力を持ってしても所在が、
判明していないロンギヌスの名を呟いた。
「後ろにいるヴァーリとは対極の存在であるウェルシュドラゴン―――ドライグの魂が、
封印された所有者の魔力を十秒ごとに倍増させていくロンギヌス。
ブーステッドギア……それが今探しているものだ」
そのセイグリッドギアの名が部屋に響いた時、所々からあのセイグリッドギアが、
みたいな内容のつぶやきが出てくるが、すぐに消え去り、再び会談の会場は静寂に包まれた。
「ヴァーリ君でも分からないのか?」
「さあな。本人は分かっているようだが教えてくれなくてよ」
正直、俺は会談の内容は半分ほどしか聞いていなかった。
確かに会談の内容も面白そうなのだがそれ以上のものがあり、
俺はそちらに意識を集中していた。
「…………滑稽な話だ」
「あ? 何がだ?」
アザゼルが俺の呟きに反応し、他の連中も反応した。
「この会談がそんなに魅力的か……侵入者」
俺は椅子から立ち上がり、二歩三歩歩いたところで物にかかっている布でも、
剥ぎ取るような感じで何もないところを掴み、
腕を下に降ろすと今まで何もなかった場所にある存在が現れ、会場内は騒然となった。
俺がはぎ取った場所から出てきたのは……血だらけで既に絶命している天使だった。
「っ! こ、これは!」
ミカエルは自らの部下の惨状に驚いていた。
俺は床に倒れ伏した天使の翼を弄っていると何か機械質のものにあたり、
その部分の羽根をちぎってよく見ると、盗聴器らしき小さな機械が取り付けられていた。
「なるほど。既に絶命した奴に魔力は存在しない。俺たちでも感知は出来ない。
そいつを魔術で姿を消した状態で盗聴器をつけて隠した……なるほど。よく出来たもんだ」
アザゼルは感心した様子で俺が持っている盗聴器を眺めていた。
だが、それは俺とアザゼルの反応であって他の奴らの反応は俺達とは大きく違っていた。
「貴方は誰ですか」
ミカエルは静かな怒りのオーラを全身に纏わせながら今、
床に倒れ伏している奴と同じ顔の天使へ、問いただした。
同じ顔をしている天使は諦めたように部屋の中央へとゆっくり、歩きだした。
「どうやって気づいたんだ?」
「簡単さ。何もないところから微弱な魔力を感じた。おそらく、魔術を発動した際の残りカスだ」
「まったく……てめえにはお手上げだ。兵藤一誠」
直後、嫌な笑みを浮かべている天使の全身から炎があふれ出し、
その炎は徐々に天使を覆っていく。
会談は混乱の極みへと向かって進み続ける。
初めてのオリキャラ投入でした。