はぐれ悪魔討伐任務を終えた俺は自宅に向かって歩いていた。
本当ならコネクトで行っても良かったんだが何んとなく歩きたかった気分だったので、
魔法は使わずに自分の足で家に向かって歩いていた。
「貴様が兵藤一誠か」
上から声を掛けられ、返事の代わりに後ろを向くと空中に月をバックに翼を生やした女が、
宙に浮いた状態で俺のことを見ていた。
「そうだ。何か用か」
「……その様子だと悪魔側に入ったと見る」
「だったらどうする」
「殺す!」
女の手に光が集まっていき、やがてその光は一本の長細い光輝く棒となって、女に握られた。
その光輝く棒から放たれるオーラは数メートル離れている俺の肌をチクチクと刺してくる。
……この感じだとあの塊は悪魔の弱点か。
「はぁ!」
『ディフェンド。プリーズ』
無意識のうちに投げられら槍を防ぐ壁を頭の中で思い浮かべ、
手を翳すと空中に円形の魔法陣が展開され、
それに槍が直撃すると両方とも同時に砕け散って消滅した。
「ちっ! だから最初から殺しておけと言ったんだ!」
女は更に槍を作り出して俺に投げてくるが全て、
俺が展開した魔法陣にぶつかり俺に当たる前に砕け散って消滅していく。
でも、今のままじゃいつかは破られてしまう。
攻撃の魔法を……王道中の王道で行きますか。
『フレイム・プリーズ。ヒーヒー、ヒーヒーヒー!』
すると、突然俺の腕を包み込むようにして炎が生まれたかと思うと一瞬にして消え去り、
腕に真っ赤な籠手が装着された。
さっきまで使っていたものとの差異はほとんどない。
「また妙な魔法を!」
女は憎たらしげにそう呟き、
光の槍を投げてくるがその槍は籠手から発生した炎によって飲み込まれ、焼失した。
なるほど、炎を自由に操れるのか。
手のひらに魔力を集めると、そこから炎が生まれ、徐々に球状に形をなしていく。
「っ! そんな魔法見たことがない!」
そう言い、女は翼を羽ばたかせて夜の空へと消えようとする。
「逃がすか」
バスケットボールサイズにまで大きくなった炎の球を女に向かって投げつけた。
「くそぉぉぉぉぉ!」
女の断末魔は炎に飲み込まれたことにより、俺の耳には一瞬だけしか聞こえなかった。
「ざまあみろ」
そう言い残し、俺は自宅へと歩を進めた。
翌日の朝、いつもの癖でかなり早く起きてしまった俺は、
自分の部屋で思いつく限りの魔法を開発していった。
その結果、思いのほか集中してしまいかなりの数の魔法が作れたが、
気がつくともう朝の九時前だった。
「そろそろ起きるかな」
時計を見てころあいだと思った俺は母さんの寝室へと向かうとちょうど、
今起きたのか目をあけて、じーっと天井を見つめている母さんがいた。
「あら、おはよう。イッセー」
「ああ、おはよ。トイレはどうする?」
「ん~。今は大丈夫。さ、朝ごはんにしましょ」
いつものように母さんを車いすに乗せ、台所まで降り、
母さんが朝ごはんを作ってくれるまでの間、郵便受けに入っている朝刊に目を通すと、
大きく一面に『爆発事故か。多数の住人が爆発音を聞いた』との見出しが出ていた。
……確実に俺だな。少し、自粛するとしよう。
「イッセー! できたから持っていって~」
母さんのその声を聞き、台所に置かれている出来上がった料理を
テーブルへと持っていき、母さんがテーブルに到着するのを待ち、一緒に食べ始めた。
「イッセー。今日、お昼寝したいからお昼は出かけてもいいわよ」
「ああ、そうする」
その後もいくつか談笑をし、朝飯を食べ終わった俺は皿を片づけ、
母さんを二階の寝室へと連れていった後に近くの公園まで散歩に出かけた。
既に時間帯は授業が始まっている時間なので学生は誰ひとりとして歩いていないし、
サラリーマンも歩いていない。
強いて言えば日課の散歩をしている老夫婦ぐらいしか外にはいなかった。
「バフッ!」
妙な音が聞こえ、後ろを振り返ると顔面から地面に激突し、
倒れ込んでいる金髪の少女がいた。
「イタタタ……あ」
顔をあげ、鼻を摩りながら俺を見ると、何やら絶望している中、
ようやく見つけた希望! といった感じの表情を浮かべた。
「あ、あの! ここらへんに教会はありませんか?」
教会……あることはあるんだがあまり、良いうわさを聞かない教会だ。
なんでも信者を洗脳しているとか、どこかから誘拐してきた小さな子を洗脳して、
無理やり信者に仕立て上げるとか、はたまた抜けたいと言ってきた奴を悪魔憑きだとかいって、
拷問にかけた後々、どこかの茂みの中へとそれを捨てるとか。
「あまり良い噂は聞かないが」
「そんな事ありません。教会は神が迷える子羊を救ってくださる場所です」
どうやらこいつも、何かしらの宗教の熱狂的な信者……というよりも心の底から、
宗教を信じきっている純粋ちゃんか。
「分かった。教会まで連れて行ってやる」
「ありがとうございます! あ、私はアーシア・アルジェントと申します」
「兵藤一誠だ」
その後、アーシアといくつか会話を交わしながら、
約五分ほどかけて教会の近くにまで送り届けてやった。
アーシアは中でお茶でもと言ってくれたが、
悪魔の俺が教会に入りでもすればそれこそまた、
過去に匹敵するほどの巨大な戦争が起こるらしい。
本当は教会関係者と一緒にいるだけでもだめらしい。
『チチチチチッ』
「あ?」
アーシアを教会まで送り届けた後、家に向かっているとチチチチッと、
何かの動物の鳴き声が聞こえ、上を向くと紅色のコウモリが俺の頭上で滞空していた。
コウモリはなにやら小さなメモ用紙サイズの紙を口に咥えており、
それを俺に渡すとそのまま、飛び去った。
コウモリから渡された紙を広げてみると、
走り書きで『今夜、部室に来るように』と書かれていた。
母さんが眠りについた真夜中、
俺はコネクトで部室へと空間を繋いで魔法陣を潜り抜けると、
ムスっと怒ったような表情を浮かべたリアス・グレモリーが腕を組んで睨みつけてきた。
「イッセー。どうして今日、呼び出されたか分かってるわよね?」
「教会関係者と一緒にいたからその説教」
「……あなたって喋り方も顔にも感情が希薄だから反省しているのか怒っているのか、
拗ねているのかよく分からないわ。まあ、それであっているわ」
「次回からは気をつけます」
「だから」
リアス・グレモリーが立ち上がろうとした瞬間、床に魔法陣が現れ、
依頼者が俺を呼んでいることを知らせた。
床に現れた魔法陣に手を触れ、目を瞑ると頭の中に依頼者の微々たる魔力が流れ込んできて、
いったん目を開けてから外へ意識を集中させると同じ魔力を見つけた。
「はぁ。お説教はまた後ほど。依頼者のもとへ行ってらっしゃい」
「月額五十万。お忘れなきよう」
実は俺は今、部長からお金をもらって悪魔稼業の研修と、部長のお手伝いをしている。
悪魔稼業での条件は一月に十人以上の依頼者の欲望の達成、
部長のお手伝いは部長の裁量によって点数がきめられ、
上限五十万、下限二十五万のお仕事だ。
「ええ、分かっているわ。頑張ってね、イッセー」
『コネクト。プリーズ』
先ほどの怒った表情はどこへ行ったのやら、
笑みを浮かべて優しい声音で魔法陣を潜り抜ける俺に声をかけた。
魔法陣を潜り抜けた先は依頼者の家の玄関だった。
電気は一切付いておらず真っ暗で、床さえハッキリとは見えず、
月明かりでなんとか歩けている状況だ。
「照らすか」
『ライト。プリーズ』
腕に装着された籠手に埋め込まれている宝玉が弱めに光輝き、
電気がついている状態と何ら変わりないほどの視界が出来た。
「すみません。グレモリーのあく」
そこで思わず言葉が出なくなった……いや、どちらかというと、
言葉を出せなくなったと言った方が正しい表現だ。
居間へとつながるドアを開けたとたん、目の前に手のひらにくぎか何かを打ち込まれて、
壁に貼り付け状態にされている依頼者らしき男性がいた。
腹には大きな切り傷があり、そこからドバドバと血が流れたのか、
床は真っ赤に染め上げられていた。
『ディフェンド。プリーズ』
「うぬぅ!?」
横から殺気を感じ、迷わずに魔法陣の壁を作り出すとそこに、
刀身が光り輝いている刀が躊躇なく思いっきりぶつけられた。
位置的には俺の首を刎ねる位置か。
「誰だ」
「それはこっちのセリフだっちょ! な~んでこんなところに、
悪魔キュン♥がいるのきゃな? きゃなきゃな!?」
やけにハイテンションな白髪にコート、そして右手には拳銃らしきものを、
左手にはさっき降るわれた光輝く刀身の刀が握られていた。
「お前はなんだ? サイコキラーか?」
「サイコキラー? ノンノンノン! わっちはどこからどう見ても神父様だぜ!?
SINPUSAMAダゼ!」
『ディフェンド。プリーズ』
奴が銃口をこちらに向けた瞬間に魔法陣の壁を出現させると、
銃声もなく魔法陣に弾丸がぶつかった。
銃声がならないように改造された拳銃か……面倒くさいな。
「んんん!? また妙な魔法を使いまするな!」
「よく言われるよ」
「キャァァァァァァァ!」
軽口をたたいていると女の甲高い叫びが聞こえ、そちらの方へ視線を向けると今朝、
教会まで送り届けたアーシア・アルジェントが床に座り込んで、
カタカタと全身を震わせていた。
ども