気づけば俺は和室にいた。
外からは鳥のさえずりが聞こえ、カコーンという竹がぶつかる音が聞こえる。
辺りを見渡してみると晴れ着姿の部員達、
そして眼前には改まった座り方の白無垢姿のアーシアがいた。
「イッセーさん。今まで本当にっ……お世話になりましたっ!」
アーシアは言葉の途中で詰まりながらも挨拶をする。
「アーシアちゃん! 綺麗よ!」
車いすに座った母さんが涙を流しながらアーシアに手を振る。
他の部員達も目に涙を浮かべて白無垢姿のアーシアの晴れの日をお祝いしていた。
ど、どうなっている。お、俺はアーシアの結婚なんか聞いてないぞ。
すると、勢いよくふすまが開かれ、そこからイケメンの男が現れた。
「お兄さん。今までアーシアを育ててくれて感謝します。
貴方のおかげで私はアーシアという一生の女性に出会えました」
お、おいおいおいおい! お、俺はアーシアの結婚を許したわけじゃない!
そ、それにア、アーシアからも結婚するって聞いてない!
そんなことを思っていると二人は手を取り合い、ふすまから外へと出ていった。
「イッセーさん?」
……心配そうな表情でパジャマ姿のアーシアが俺を覗き込んでいた。
どうやら、さっきのは夢らしい。
ハァ……ドラゴンに食われる夢なんかよりも何百倍も応えた。
「にゃ~」
足もとから声が聞こえ、
慌てて布団をはぐと俺に脚に抱きついて小猫が猫フル装備の状態で眠っていた。
さっきから足に嫌な汗をかくと思ったらお前のせいか。
「夢か」
「夢にしたいわね」
ドサッという音とともに不機嫌面の部長がピンクやら綺麗な色をした封筒の数々を置いて、
ベッドに座りこんだ。
試しに一通とって開けてみると、その中には手紙と二枚のチケットが入っており、
文面を読んでみた。
『愛するアーシアへ』
『フレイム・ドラゴン。ボー! ボー! ボーボーボー!』
『チョーイイネ! スペシャル! サイコー!』
「バ、バカ! こんなところでドラゴンズマジック使ったらこの部屋が火事になるでしょうが!
この手紙なら私が私が消すから!」
そう言い、部長は手のひらに滅びの力を終結させ、
小さな球体を出現させて手紙にぶつけると俺が持っていた手紙が消滅した。
消滅したのを見て俺は鎧を解除した。
「送り主はディアドロ・アスタロト。手紙はラブレターでチケットやら食事のお誘いやら。
玄関にはおくりものだってあるわ」
そう、ここ数日ディアドラ・アスタロトとかいう俺達の同期の若手悪魔からアーシアに向けて、
痛烈なまでのラブコールが送られ続けている。
最初の方は俺も無視し続けてきたんだがだんだん、
イライラしてきて最近ではスペシャルで消したりしている。
「はぁ」
部長はため息をつきながら呆れていた。
絶対にアーシアは渡さん!
二学期が始まり、俺は学校へある目的のために来ていた。
「…………お前、教師の前で堂々と盗撮するなよ」
アザゼルの呆れ声が聞こえてくるが俺はそれを無視して、
ガルーダから送られてくる映像に目を光らせていた。
いつ、どんな時にディアドラ・アスタロトがアーシアに襲いかかってくるか分からないので、
二十四時間、ガルーダ、ユニコーン、クラーケンにアーシアを見張らせていた。
……ん。問題なしだな。
「リアス。どうにかしろよ」
「無理ね。どうにか出来たらもうしているわ」
何やら外野が話しているが俺はそれを無視し、ひたすら映像に目を向けていた。
授業が終わり、アーシアは機嫌がいいのか鼻歌を歌いながらスキップも交えつつ、
一人で旧校舎の部室まで来ていた。
あぁもう! 木場はどうした! 一人で歩いていたらまた面倒な奴らに絡まれるだろ!
「百十一回目」
「二百五十五回目」
何やら小猫とゼノヴィアが両手に数を図る機械を持ち、
ひたすら数をカウントしていた。
「こんにちわ~」
アーシアの声が部室に響き渡り、俺はようやくそこで一息つけた。
「貧乏ゆすり、百五十一回」
「足を組んだ回数、二百五十九回」
「まあ良いわ。アーシア、少し頼まれてくれるかしら?」
「はい!」
部長から書類を教師に渡されるようにお願いされたから、
俺は付いていこうとするとアーシアに『私一人で大丈夫です』と言われ、
無理やり気味に部員にイスに座らされた。
……アーシアが職員室に行く途中で絡まれたりしないか……。
「まだか」
「まだ三十秒しか経ってませんわ。イッセー君」
く、くそ! 今までの三十秒が一時間にも二時間にも長く感じられる!
「お、遅くありませんか?」
「まだ一分よ」
「はぁ」
俺はため息をつきながらソファの背もたれにもたれかかった。
「アーシアがイッセーからの卒業を宣言してから二週間とちょっと。
依存していたのはイッセーの方かもな」
アザゼルの言葉を聞き、俺は反論したくなったが扉が開く音が聞こえ、
そっちを向くとアーシアが帰ってきた。
「アーシア。だ、大丈夫か?」
「何がですか?」
「い、いや、だから変な奴に絡まれたり」
「もう、イッセーさん! 私だって断るときは断れます!」
「絡まれたのか?」
「もう!」
アーシアは怒ったように頬を膨らませながら俺の隣ではなく、
俺から離れた位置にあるソファに座った。
その光景に部員の全員がニヤニヤと笑みを浮かべて俺を見てきた。
「ほんと、イッセー君ってアーシアちゃんに依存してるわね」
「…………イリナ」
後ろから聞き覚えのある声が聞こえ、振り返ると後ろには頭に天使の輪を浮かべ、
純白の翼を生やしたイリナが立っていた。
その表情は少し、怒っているようにも見える。
「さっきからずっといたのに。イッセー君たらいけずね」
そう言いながら笑みを浮かべて俺に抱きついてきた。
「言い忘れてたがイリナは転生天使だ。
ミカエル達がイーヴィルピースを元に天使Verを作ったんだとよ。第一号がイリナだ」
イリナは満面の笑みを浮かべて俺に抱きつきながら首を縦に振った。
ここに来ているということは神の消失を知っているのか……となると、
今のこいつの中の主はミカエルさまか。
「紫藤イリナさん。私たちは歓迎するわ」
その一言からイリナの歓迎パーティーが行われた。
翌日の朝、俺は学校へ行く部長から運動会というものがあるということを聞かされた。
母さんからもたまには参加してみたら? と言われ、
アーシアからも一緒に参加して下さいと言われ、少し時間を貰い、考えた結果、
今の状況を楽しむために俺は高校で初めての運動会に参加することにした。
「イッセーさん!」
珍しく制服を着たまま教室に入るとアーシアが俺に気づき、
声をかけるがすぐにハッとしたような顔をして、黒板の方を向いた。
なるほど、今の状況から考えるにアーシアが出る二人三脚の相手を、
男子どもがジャンケン合戦しているのか。
「俺も参加させろ」
「イッセーさん! 絶対に勝って下さいね!」
クラスの奴は渋々と言った表情を浮かべながらも俺を輪の中に入れた。
どうもアーシアと一緒に出るこの競技を希望したのはこのクラスの男子全員らしく、
総勢十名近いじゃんけん大会となった。
結果は―――――珍しく俺がひとり勝ちした。
……な、何かこの後最悪なことでも起きるんじゃないのか。
「よろしくお願いしますね。イッセーさん」
「………ああ」
教室の雰囲気に馴染めず、俺はすぐに旧校舎の部室へと向かった。
放課後、部員全員が集まったところで部長が大事な話があると言い、
全員を集めた。
「私たちの次の相手が決まったわ」
若手悪魔同士で行われるレーティングゲームの次の相手が決まったか。
「相手は……ディオドラ・アスタロトよ」
その一言に全員、何も言わなかった。
このタイミングをちょうど良いとみるか、
それとも最悪のタイミングと捉えるかで価値は違ってくる。
もう、この物語の書きため凄いことになってるよ。