私―――アーシア・アルジェントの前に大量の血飛沫が舞った。
私を拘束していた器具も外れ、眼前にいるイッセーさんに抱きついて部長や、
副部長さん達に少し怒られて一緒に帰る……そう思っていたのに。
「イッセェェェェェェェェェェェェェ!」
今、神殿の中に響いているのは悲しみに満ちた叫び声だけでした。
眼前にはいつものように仏頂面のイッセーさん……ではなく、
神殿の石造りの床を真っ赤な血で汚したイッセーさんがいました。
すぐに、私はイッセーさんの近くに駆け寄って、
彼に触れて傷を癒そうとした……だけど――――――。
「どうしたの!? 早くしないとイッセーが!」
「出ないんです……いつもの光が」
いつもの感じで願ったのに……両手から光が溢れてこなかった。
こんなこと今まで生きてきた中で一度もなかったのに。
その時、ふと視界に誰かが奥から歩いてくるのが見えた。
軽鎧を身にまとい、マントを羽織っている男性だった。
目の前の人がこちらへと一歩、
近づくたびに私達を押しつぶさんとする重圧のようなものが徐々に強くなっていく。
「誰?」
「お初にお目にかかる。偽物の王の妹君よ。私の名前はシャルバ・ベルゼブブ。
旧ベルゼブブの血を受け継ぐ真の魔王だ。ディオドラ。貴様はやはり使えなかったな。
最後は貴族の誇りを捨ててまで命乞いをするとは……貴様はいらん」
刹那、シャルバさんが私たちへと拳を向けたかと思うとそこから一瞬、
パッ! と光が発せられた。
何かを放ったわけでもなく、ただたんに一瞬だけ光っただけ……そう思ったのもつかの間、
突然、ディオドラさんが倒れ伏してしまいました。
「ディオドラさん?」
彼の体に触れようとした瞬間、塵となって消滅した。
さっきの消え方はまだ、私が教会にいたころに何度か見たことがあった。
邪悪な存在の悪魔が聖なる力を受けた際にその身を塵と化して、
完全に消滅する――――その時の光景と似ていました。
「ここへ何の用かしら」
「私はある計画を推し進めているのだが……どうも、そこのガキが障害になっていてね。
障害は小さいうちに取り除くに限る」
直後、シャルバさんが消え去ったかと思うと目の前に聖魔剣を握りしめた木場さんが現れ、
光の槍と剣がぶつかり合った。
「ほぅ。聖魔剣の少年、私の動きを見切ったか」
「アーシアちゃん! イッセー君を!」
木場さんはシャルバさんを押し込み、私から少し離した。
それを期に皆さんが一斉に、シャルバさんに向けて攻撃を開始した。
それを見計らって私は血だらけのイッセ―さんを抱えて戦いの影響を受けない場所まで引きずり、
傷を治そうと思っても光は一向にでないまま。
「なんで……どうして光が」
「教えてやろうか」
向こうから声が聞こえ、顔をあげると皆さんに囲まれながらも余裕の表情を、
浮かべているシャルバさんがこちらを見ていました。
「貴様が持つセイグリッドギア、トワイライトヒーリングは確かに絶大な癒しを与え、
その傷を治す……だが、それは生きているものに限ってだ。
死しているものを回復しても意味がない。
貴様がその魔法使いのガキを癒すことができないということは……セイグリッドギアは、
そいつを死しているものと判断」
直後、それ以上の言葉を言わせないと言わんばかりに上空から神殿の屋根を突き破って、
シャルバさんめがけて落雷が降り注ぎますがそれは相手の翼によって全て弾かれてしまった。
「……イッセーさん。ねえ、イッセーさん」
動かないイッセーさんを何度も揺さぶって名前を呼んでも一向にいつもの、
不機嫌そうな声は聞こえてこなかった。
「わ、私イッセーさんの魔法覚えてるんですよ。いつもイッセーさん、
音を出して使うから。ビッグとかスリープとかフレイムとか、ウォーターとか」
今喋っている私の声が押しつぶされるくらいに爆音が鳴り響いているのにイッセーさんは一切、
動かず目を閉じて眠っていた。
「イッ」
その時、ブゥン! という空間が震えるような音が聞こえ、
私とイッセーさんの上に影が覆いかぶさったので顔を上げてみるとそこには皆さんと、
戦っていたはずのシャルバさんが立っていた。
「あ………ぁ」
「邪魔だ」
「きゃぁ!」
顔に痛みが走り、
そのまま強い勢いを与えられた私はいとも簡単にイッセーさんから遠ざけられた。
「シャルバぁ!」
痛みを我慢して顔をあげると木場さんが握り締めていた聖魔剣をシャルバさんめがけて、
投げつけたけど、それはいとも簡単に悪魔の翼で砕かれてしまった。
木場さんも相当強いのに……相手にならないなんて。
シャルバさんは血だらけのイッセーさんの首を掴み、片腕で持ち上げ、
翼を羽ばたかせて数メートルほどの高さまで浮かび上がった。
「さあ、その目に焼き付けろ! 貴様たちが頼った男の最後を!」
右腕に魔力を集め、五本の指をすべて鋭利な鍵爪のようにして纏わせ、
肘を後ろへともっていった。
「止めてください! それ以上したらイッセーさんが!」
私が神殿内に響く音量でそう叫んだ直後、神殿内に聞きたくない深い音が鳴り響き、
ポタポタと数メートル上から赤いしずくが垂れてきた。
シャルバさんの腕は手首の辺りまでイッセーさんの胸に深く沈んでいた。
「ア…………ァ」
「フハハハハハハハハハハハハハハハハ!」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
上から落ちてくるイッセーさんにこれ以上、苦しみを与えまいと涙で曇る視界のなか、
必死に走ってイッセーさんのもとへ行こうとしたとき、突然、目の前に障害物が現れ、
私は止まらざるを得なかった。
直後、ドシャッと嫌な音が響いた。
「やめておけ。もうあいつは助からん」
「そ、そんなことわかりません!」
「いいや、奴は死んだ! 胸を貫かれて生きる悪魔などおらん!
ついでだ。貴様も奴がいる場所へ」
「
突如、上空に木場さんが現れ、魔法陣が一つ展開されたかと思うとそこから、
大量の聖魔剣が放出され、その全てがシャルバさんめがけて落とされていく。
「アーシアちゃん! イッセー君を!」
木場さんに言われ、すぐさまイッセーさんのもとへ行くと既に、
イッセーさんの肌の色が白くなりかけていた。
触れてみると今までの温かさが嘘のように消え、
もう温かみはほとんどなく、あるのはまるで死人のように冷たい温度だけ。
「がぁ!」
「木場さん!」
血だらけになって飛んできた木場さんの傷を癒そうとするけど、
木場さんは笑みを浮かべて私を静止させた。
「僕は大丈夫。だからイッセー君を!」
どうしよう――――――これ以上、皆さんが傷つくのは見てられない――――でも、
私にはどうすることもできない。
ふと、イッセーさんが以前に言っていたことが頭の中で再生された。
『もし、お前がどうしようも出来ないことに出くわしたら俺を呼べ。
どんな所からでもお前の所に行って助けてやる』
「イッセーさん…………助けて! イッセーさぁぁぁぁん!」
その時、私の背後でまがまがしい莫大な魔力を感じた。
呼ん………………でる。
『助けて! イッセーさぁぁぁん!』
あいつが……アーシアが呼んでる。
呼んでるんだ……助けに行かなきゃ……ならないんだ。
立て……立て……立て立て立て立て立て!
アーシアを傷つけるものは全て―――――――――――。
――――――――――――――殺す!
あぁぁぁぁぁぁ! 夏休みが終わるぅぅぅぅ!