アスカロンで切られた先生はそのまま血をあふれ出し、
地面に倒れ伏して動かなくなってしまった。
まだ、先生の魔力は感じられるから死んではいないだろうけど、
それでも危険な状態には変わりなかった。
さらにイッセー君は先生の息の根を止めようと首元にアスカロンを降ろしていく。
「貴様ぁぁぁぁぁぁぁ!」
先生を斬られて激高したヴァーリが籠手の先から凄まじい大きさの魔力弾を生成しながら、
高速でイッセー君へと突っ込んでいく!
それに対抗してイッセー君は先ほどの破壊の魔力弾を生成し、
ヴァーリに向けて放った!
「はぁぁぁ!」
ヴァーリがそのすさまじい大きさの魔力弾をイッセー君が放ったものにぶつけようとした瞬間!
彼の破壊の魔力弾の先とヴァーリの上空に魔法陣が展開され、
そこを通過した魔力弾がヴァーリの上空から放出された!
「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
不意に破壊の魔力弾を直撃したヴァーリは地面にめり込み、
鎧が光の粒子となって消失し、動かなくなった。
ヴァーリが動かなくなったのを確認したイッセー君は再び、
先生の喉元にアスカロンを降ろしていく。
「もう良いんだ」
僕はイッセー君に近づき、その腕を掴んでアスカロンを止めようとするけど、
あまりの力にそのスピードを遅くするだけにとどまった。
くっ! 凄い力だ。
「イッセー君。もうアーシアちゃんを傷つけるものは何もないんだ。
もうやめよう…………帰ろうよ」
だが、イッセー君はアスカロンを先生の首元へと降ろすのをやめない。
「今、君が殺そうとしているのは先生なんだ! もう良いんだよ!
これ以上、すれば君は戻ってこれなくなる!」
大声で叫び散らしてもイッセー君は見向きすらしない。
完全に彼の意識はないっていうことなのか。
「聞こえてるのか! イッセー君!」
突然、僕の身体が後ろに引っ張られるような感じがした。
視界の下の方にアスカロンの持ち手が見え、イッセー君の手が僕の方に向いて、
血も飛び散っているのが見えた。
「がっ!」
切り立った岩にぶつかってようやく、
僕は自分の腹にアスカロンが突き刺されたことに気づいた。
ドラゴンスレイヤーといえどもアスカロンも聖剣。
放たれる聖なるオーラが僕の身体を突き刺した部分から焼き焦がしていく。
「もうやめてイッセー! あなたがこれ以上誰かを傷つけるところなんて見たくない!」
横から部長が僕に向かって歩いてくるイッセー君を止めようと腕に抱きつく。
「あっがぁ!」
「部長、ぐっ!」
イッセー君は腕に抱きついてきた部長の首を掴んで、無理やり腕から離し、
二本の角の間から先ほどの全てを破壊する血の色をした魔力の塊が溜められていった。
「イッセー君! もうやめてください!」
朱乃さんが、部員の皆がイッセー君に叫ぶけど彼はやめようとせず、
魔力を球状にして溜めていく。
溜めが完全に終わり、いまにも部長めがけて放たれようとした瞬間!
突然、彼の後ろに誰かが抱きついた。
「ごめんね」
そう呟きが聞こえたかと思うと、徐々にピキピキとイッセー君が凍りついていく。
この場で氷を使うのはレヴィアタン様しかいない。
数秒も経たないうちにイッセー君の全身が凍りついて、大きな氷の彫刻となった。
部長はレヴィアタン様に助けられ、怪我はなかったみたい……だけど、
重症なのは僕の方かな?
どうにかしてアスカロンを引き抜いたのは良いけど、
流血した量が多かったのかさっきから意識が朦朧としてくる。
今はアーシアちゃんに傷は治してもらっているものの血液の量は回復することはなく、
完全な復調は数日くらいかかると思う。
「大丈夫かリアス!」
「は、はい」
部長は目に涙をため、手を小さく震わしながらサーゼクス様に抱かれていた。
無理もない。あんな目の前で魔力の塊を放たれると思ったら僕だって、
恐怖のあまり体を震わす。
「今は魔法使い君は仮死状態だけどそう、この状態は続かない」
「ああ、分かっている。セラフォルーの効力が続く……セラフォルー!」
サーゼクス様がレヴィアタン様の名を叫んだ瞬間、氷の彫刻が砕け、
そこから腕が飛び出し、振り向いたレヴィアタン様の顔を鷲掴みにした。
氷が砕かれ、姿があらわになっていくごとに、
僕達を押しつぶそうとする凄まじい圧力がその強さを増していく。
『…………ケル…………タス…………アー………を』
ボソボソと彼の口から紡がれる言葉は僕たちには理解ができなかったけど、
アーシアさんには理解できたのか突然、
彼女が眼からポロポロと涙を流しながら地面に膝をついた。
「私のせいです…………私がイッセーさんに助けてって言ったから!
イッセーさんから卒業するって言ったのに!」
やがて、その圧はすべてを破壊する魔力の塊へと変化し、先ほど、
部長に放たれかけたものの大きさよりも倍は大きいものが生成されていく。
「もうやめてくださいイッセーさん! 私は大丈夫ですから!
私なら大丈夫ですからもうやめてください!」
それでも、イッセー君はやめない―――――全てを破壊する行動を。
アーシアさんの涙の叫びも今の彼には届かないのか!
「セラフォルー!」
サーゼクス様がイッセー君に近づこうとした瞬間!
「っ! アザゼル!」
イッセー君の背後に金色の鎧を身に纏った先生が現れ、極太の光の槍を全力で振り下ろした。
それにより、イッセー君の仮面のこめかみの部分から生えていた一本の角が綺麗に切断され、
彼の魔力が大きく乱れ始めた!
「全員伏せろ!」
先生がレヴィアタン様を抱きかかえ、地面に伏せてそう叫び、
僕たちも急いでそれに従った瞬間!
先ほど、集められていた魔力弾が爆発し、辺りに凄まじい爆風が吹き荒れた!
凄まじい爆風で地面に飛ばされないようにしがみついていても今にも吹き飛ばされそうだ!
「イッセーさん!」
爆風がやみ、先ほどの仮面が音をたてて砕け散り、
イッセー君の顔を久しぶりに見たアーシアさんは誰よりも早く、
倒れた彼のもとへと走りはじめた。
あの姿になった影響なのか、シャルバに開けられた胸の穴はすでに治っていた。
「イッセーさん! イッセーさん!」
「くぅっ……はっ……はっ」
苦しそうな声をあげ、小さな呼吸を何度か繰り返してようやく、
僕たちの知っているイッセー君が意識を覚ました。
アーシアさんに肩を借りて、
立ち上がったイッセー君は今の現状に驚きを露わにしていた。
「ア……アザゼル」
「なんだ」
「お前を斬ったのは……俺か」
「違う」
先生はイッセー君の問いに真っ向から否定をした。
「木場を傷つけたのは……俺か」
「……違うよ。これは敵に」
「嘘つくなよ!」
辺りにイッセー君の怒鳴り声が響いた。
彼がオカルト研究部の部員になってから初めて、
彼の感情のこもった声を聞いたような気がする。
「お前の腹から! アザゼルの傷からアスカロンのオーラを感じる!
アスカロンが使えるのは俺だけだ! だから……俺が…………みん……なを」
「イッセーさん!」
喋っている途中でイッセー君は意識を失ってその場に倒れた。
…………僕は正直、彼が意識を失ったことに一安心していた。
彼が意識を意識を取り戻したことは分かっている……でも、
またあの全てを破壊しようとする姿に戻れば……今の、
この状況じゃアーシアさん以外、全員無残に殺されてしまう。
そんな恐怖が心の奥底にあった。
その後、サーゼクス様の伝令を受けてやってきた援軍に僕たちは救助された。
この戦いは魔王派との戦いに終止符を打ち、
そして僕たちの心に僅かばかりの恐怖を植え付けたものとなった。
「ふふん♪」
今、人間界の都心部から遠く離れ、人が全く寄り付かない場所に占いなどで使う水晶を持ち、
大きな槍を壁に立て掛けた少年が水晶から表示される映像を鼻歌を歌いながら見ていた。
「またその画像? さっきから何回見てるのよ。“曹操”」
曹操と呼ばれた少年は画像を消し、振り向いた。
「良いじゃないか。ジャンヌ、あぁ、早くこの姿の彼と戦いたいよ」
「あんたもヴァーリと変わらないバトルマニアだと思うけど」
「良いじゃないか。戦いを求めるのは英雄の性質ともいえる」
彼が手にしている水晶にはあの姿のイッセーが映し出されていた。
うにゃ~